短編 扶城と扶桑と山城と
月乃の鎮守府への着任が決まった翌日、扶城が月乃から宛がわれた部屋にいると誰かに部屋の扉をノックされた。
「…?誰だ?」
扶城はそう部屋の扉をノックした人物に向け聞いた。
『…扶桑よ』
「!?(ふ、扶桑姉さん!?)い、今開けるよ!」イデッ
扶城はまさか扉の先に艦艇の頃の姉、扶桑が訪ねてきた事に驚き座っていたベットから転げ落ちてしまった。が、それでも落ちたときに打った場所を押さえつつ返事をし、部屋の扉を開けた。
「扶桑姉さん─と山城姉さん。久しぶりだね」
そこには扶桑と二番艦の山城がたっていた。すると急に二人が抱きついてきた。
「「扶城!!」」
「うわァッ!!」
────バフン
さすがの扶桑もいきなり抱きついてきた扶桑と山城の二人を支えることができずにこけてしまった。
「い、いきなりどうしたの!?扶桑姉さん!山城姉さん!!」
「私達より早く死に急いだからよ!」
「もう少しこうしてても良いでしょう?」
「…少しだよ」
──────────
「落ち着いた?二人とも」
扶城はしばらくしてから二人を放し、そう問い立てた。
「ええ「問題ないわ」」
それを聞いてから扶城は沸かせてあったお湯でコーヒーを自分と二人の分を作り、部屋のソファに座らせ、二人の前に置く。それか自分はコーヒーを持ちつつ自分も反対側のソファに座った。
「で、何だったの?」
「姉弟の中で早死にした弟に会いに来て何か悪いの?」
扶城が来た理由を聞くなり山城にそう返され、話す言葉を見失った。それから扶桑は重口を開き、話し出した。
「…私達がレイテに入りかかったときよ、貴方が沈んだ、って聞いたのは」
「姉様…」
「扶桑姉さん…」
「私達が貴方の帰りを待っているとね、私の司令の所に電文が届いたの。あの日ね、通信室を見ていたら通信士が急に慌て出したのよ」
「それからその通信士は電文の紙を掴んで私の艦橋に上がるなり司令に涙を見せつつこう叫んだのよ『西村司令!!れ、レイテで戦艦扶城が沈みました!!織斑司令が戦死なされました!!』…ってね。皆、泣いていたわ。特に西村司令がね、『長官!我々が仇をとります!靖国で見ていてください』とかも言っていたのよ?」
「…その晩、二人して泣いたわ。旗艦とか長官にもなって私達の自慢だった弟が死んだのよ?それは悲しかった」
扶桑の話が一息つくと今度は山城がそう言ってきた。
「あの時の喪失感は忘れないわ。だから、」
山城は話を区切り、扶桑と共に念押しした。
「「今度は死に急がないで(ね!!)よ!!扶城!!」」
「…ぁ…あ、…扶桑姉さん、山城姉さん!!ごめんなさい。今度は死に急ぎはしないよ!!」
そう言って扶城は二人にソファから立ち上がると歩み寄り、二人を抱き締めた。
「姉さん達、俺は姉さん達の弟でよかったよ」
扶城は二人に向けてそう言ったのだった。その傍ら扶城達三人の後ろに掛けられたカレンダーと時計は奇しくも扶城が沈んだレイテ沖海戦の日付と時間であった――