「アルトリア・オルタになりたい」
僕という人間は磨り潰された。
表面的にしか物事を見なかったからだろう。
最初は細やかな望みだったかもしれない。
だが英雄たる彼らが最終的には如何な大望を懐き、その実現にどれ程の努力を費やしたのか、体験も出来なければ欠片も想像も共感も叶わない。
きっと原動力の一つであるその願いの重さを推し量れはせども体感、或いは実感することなぞ不可能だ。
そも衆人の羨望を集めるどころか他人が敬意を覚え、又は評価してくれる、それだけでもとてつもない事だというのに。
突っ走ってきただけかもしれない。余人の評価なんて副産物、いつの間にか付いてきた、その為に努力してきた訳じゃないかもしれないし、そういう人もいるだろう。
僕が憧れた人は他人の為に身を粉にする人だった。
卑近な例を上げれば卓球を僕を含めた四人が遊んでいた。一つしかない卓球台の隣で一人、手持ち無沙汰に、けれどやりたいという思いを滲ませて佇む子がいる。
きっと彼には懊悩たる思いがあったのだろう。コイツはこのコミュニティで幅を利かせている。嫌われ弾かれ一人になったらどうしよう、恐い。
皆と比べて運動音痴。自分の下手な所が浮き彫りになる、下手くそだと、そう思われるだろう。その瞬間を想像するだけで腰が引ける、恥ずかしい。
僕は愚物だ。だから共感出来た彼にその場を譲れた。
だが僕は愚物だ。それを幾度と重ねても彼らに沿った助言も出来ず、終いには抑えられなかった不機嫌を露にして空気を悪くした。
彼女だって人間関係で失敗はあったことだろう。でも群体である国のために人であることを止め、機構の一部として自らを捧げ続け、詰られ、謗られ、蔑まれ、報われぬ最後が訪れる事を実感を伴って予期出来る所に差し掛かってもその人は止めなかった。
僕が憧れた人は他者の為に己を殺し続けた人だった。
僕は努力した。
でもそれは僕なりにであって、名のある所に行った人達からすればどりょくのどの字にも満たない。
弱かった僕は片端から周りの物や人に依存して人生の多くを無駄にしてきた。
でもそんな僕だからこそコミュニケーション能力が上達した…と思いたい。僕よりも上手い人なんてざらにいたけれども。
けれど己と真摯に向き合って生きてきた人よりずっと浅薄な生き方をしてきた。
自制を拒んで目を逸らした、逃げてきたのだ。
これだけ文明に囲まれた社会の中でも温室的な空間に原始的ですらない堕落した獣がいる。
黎明に囲まれた凄惨とも言える過酷な環境下に英雄とすら謳われた理性の極致、人がいた。
近くにいるだけで自己嫌悪で腹が膨れる。
私の生き様の非道さをまざまざと見せつけられるようだった。
目に入れたくもない。
しかしだ。
曙光が瞼を刺せば只々鍛練に勤しみ、星をまぶした夜闇の帳が落ちれば夢魔と人の混血児から座学を叩き込まれ甘受し続ける。
アダルトチルドレンでさえ、だからこそだろうか、聞けば顔を真っ青にする幼少期だった。
そう、ひた向きであり続けた彼女の魂はむくむく、ぐんぐん、ずんずん、でかでかと規模を増大し続け、元々比肩する事すら烏滸がましかった彼女の魂は、目の前にすれば麓から朧げな山頂を覗こうとする登山家の気分にさせてくれる。
彼女に上から潰される前から、生きていく内に体躯に相応しく矮化させていった僕とは偉い違いだ。
新しい発見というのは何時でも晴れやかな気分にさせてくれるものだ。
僕を再構成してくれた彼には感謝しなければならないだろう。
「助かったよマーリン」
「礼には及ばないよ、赤子よりも小さい魂の修繕なんてチョチョイのチョイさ」
「マーリンせんせい、ここはどういう事です」
「はいはい?ここはねぇ…」
「…」
同じやり取りを繰り返してきたアルトリアがじとりと表情を変える。
「あっはっは、ごめんねぇ。私は文学には疎いんだ」
「単語の読み書きと意味意外さっぱりですね貴方は。人の心の理解にもう少し努めたら如何ですか」
マーリンの識字能力凄いのになぁ。
「これは手厳しいなぁ、手厳しい。痛いとこを突かれた」
「リアクションなんてどうでも良いですから早く」
「……最近冷たくない?」
「えっ、そうですか…?」
前は人並みに出来てた英語も5世紀のソレとあってはまるで役に立ってくれない。
現代文が読めるからといって古文が解読出来るのか、それと似たような事だ。
僕も貸し受けているがさっぱりだ。何時か読めるようになるだろうから出来るようになるまで読むだけの話だけれども。
僕がこうして毎日続けていられるのは隣の小さくて大きな女の子がとても努力家だからだろう。
小さな時から頑張っているのに僕はという意地がある。
そして一緒にいて自分一人だけ怠けるようでは僕は気を病む。
それにだ、彼女には年齢もあるかもしれないが意欲のある前向きな姿勢もあって躓くことはあってもめげず、水を撒いた砂浜の如く教えられたものを文字通り血肉にしていく。
目の前にすると月並みだが驚異的と言う他ない。
実際僕が要領悪く努力していようがしていなかろうが関係ないだろう。
只自分に恥じ入り彼女と話せなくなっては困るのだ。
人間は社会の中で生きる生物。所属欲然り、一言で表すのは面倒だが色々と他者との繋がりで得られる恩恵があるのだ。
勿論それによって被る害は避けられるよう鍛える必要がある。
関わる人物は選ばないが付き合う人間は選ぶ、それに必要な選人眼を磨く為に結局は人と付き合う、と言うように。
徒労に終わればそれで構わない。
いや、未練は多少残るだろうが必要な事態、窮地に追い込まれなければそれで良い、それが良いのだが、もしそんな時に役に立てたらなと僕はこの娘にしがみついており、しがみつかせて頂いているのだ。
「―――た、オルタ」
「んん、うん?なに」
「……」
アルトリアがまたじとりとねめつけた。
「聞いてなかったわ、ごめん」
「説明するからちゃんと聞いてくださいよ、自分の名前もお忘れですか」
「ごーめーん、ごめんて」
僕の名前は
縮めてオルタ、だ。
もう一人のボクにしたかった