AIBO   作:モアニン

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ヌッ!フッ!フッ!



はぁ″ぁ″あ″あ″あ″あ″ぁ″ぁ″ぁ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″ぁ″ぁ″ぁ″ぁ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″

ピタッ



○追記
おまけ追加しました


(音が聞こえない) + extra

桜は(とう)うに散り、しかし蝉は未だに大人しい。強い湿気に混じって揮発性の若葉の香りが感じ取れる、初夏の季節。

 

サクラと私はリンの家に来ていた。

「オルタ…さっきからどうしたの?」

 

「…助兵衛(スケベ)です、以前此所らで会敵しました」

 

桜が首を傾げる。

理解できないのも仕方ない。

視るだけで自分という存在の秘部や恥部が(つまび)らかにされるのだ。

頭の中に留めてさえいれば良いのに、少し待たせる間に片付けると言うに無遠慮に部屋に押し入っては黙々と観察され、男児諸君であればメディア媒体の履歴から性癖の赴くままに閲覧したデータの子細を目の届く所で堂々と()られる気分になるだろう。

つまり私が過去に演じてきた失態、総じて墓場まで持っていきたい過去も公にされる恐れがある訳で……

私の醸す剣呑な空気に何時とはなしに桜が脅えていた。

「ちょっと恐いです」

 

「…彼は総毛立(そうけだ)つ様な視姦(しかん)魔なのですよ」

 

「でもオルタが不審者みたいで…」

 

愛すべき天使から真っ直ぐに放たれた矢がハートにクリーンヒット。

ぐっさりである。

心が痛い。

 

「承知しました、致し方ありません」

 

とは言えこの国にはある(ことわざ)がある。

人の口に戸は立てられぬ、と。

教えてくれたのは行き付けの店主や同い年、年下の友人等々…

ふと思った。

私の秘密、軽くね?

でも、しかしだ。

悩みの類いの秘密は打ち明ければ縁の結びを固くする。

ポジティブなだけの関係よりもネガティブを混ぜた方が互いの絆を強く感じさせるものなのだ。

よって方針は以後も変わらじ、以上。

 

「…サクラは私の秘密を触れ回らないで下さいね」

 

「えっ?……えー、あはは…」

 

サクラは正直、何て()い娘なのでしょう。

分かりますとも。他人と話す時、話題に困るとネタにしたくなりますよね。

秘密だからと念押しされるからでしょうか。

 

「ううう、サクラぁああ~~」

 

「…ごめんね、オルタ」

 

よよよとサクラに撓垂(しなだ)れ掛かり、いいえと答える。

 

「サクラがごめんなさいを言える娘に育って私は嬉しい。さぞや言いづらかった事でしょう、私は嬉しい!」

 

「家の前で何やってんのよアンタ達…」

 

「…あはは」

友人に家族劇場を目撃されて面映(おもは)ゆいだろうサクラは私を突き放さない。

やはりサクラは情け深い。

「ほら、入って」

 

 

「行こう」

 

「ええ」

 

入館を促すサクラから離れて共に

敷居をまたぐ

 

 

 

瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

―――――サクラ!!」

 

 

 

私達の死角、頭上から鎖を連れて幾本もの(くさび)が飛来する。

ロンの槍を振り払い様に手中に()び出す。

初撃の後は馬上槍の特徴であるその円錐の様な形状で只管(ひたすら)に逸らし続ける。

噛み砕かんと降り下ろされた牙が獲物の余りの硬さに()れ落ち、地に突き立てられる。

咲き乱れる火花。

耳障りでけたたましい擦過音(さっかおん)と轟音、相応に視界を塞ぐ程の粉塵。

 

「――――っぐ」

 

 

私の用いる武器に選択肢があったとすればコレは間違いなく悪手だ。

室内でこれだけの長得物(ながえもの)は取り回しに支障が生じる。

加えて足下にはサクラがいる。

楔に穿(うが)たれでもしたら頭蓋でも吹き飛ぶだろう。

 

「なに!?なに?なんなのよ」

 

そうだ、リンは無事か。

視界が阻まれて無傷かどうか判別出来ないものの疳高(かんだか)な声が聞こえる。

良かった、元気そうだ。

 

視界の端で(きら)めきがチラついた。

 

意識の隙を突かれたと悟った時には既に遅かった。

渦を描いて数多に浮き漂う鎖が私に絡み付き縛り上げた。

 

 

「リン!サクラ!隠れて」

 

 

 

「「!」」

 

 

好ましくないが神威(しんい)を叩き付けて彼女達を従わせる。

「がっ」

 

すると錯覚か、巨大な(かいな)が私を絞め殺さんと力を籠めた、気がした。

角を曲がって姿が見えなくなると静かに声を荒げた。

 

無沙汰(ぶさた)だったな、暴君」

 

何処からともなく声がする。

 

「では、問おう。雲の上人(くものうえびと)が地に満ち這う(ケダモノ)を訪ねる道理とは何だ」

 

 

「……貴様の器量は零細規模なのだな」

 

自尊心があるのは結構な事だ。無ければ(かえ)って本人が困るというものだが、このヒトは気位が(いささ)か以上に高い。

大方その欠点を補って余りある敏腕っぷりだったのだろう。

 

ところでこのヒトは理由がないと人と話さないのだろうか。

そう(かんが)えていると眉間に皺を寄せた男が外套を剥いで自らを曝け出した。

俗に言う透明マントをお持ちらしい。

 

「ちょっとぉ!?ギルガメッシュ!アンタ何してくれてんの」

 

 

家の惨状に悲鳴を上げ、真っ青になった顔を鬼の赤に染め上げて暴君に突っ掛かるリン。

 

 

微動だにしないが彼に本気で殴りかかる様は、時代が時代なら庶民を(さぞ)かし奮わせた事だろう。

かく言う私も涙が零れそうな程に心震わせている。

リン!そこです!いけー!

 

「…愛する父母の遺品を損じ、息女を眼前に感ずる所はないのか、悪鬼め」

 

「問題などあるまい」

 

「大アリよッ!!」

 

間髪入れずにリンが怒鳴り散らし、双手(もろて)を振り上げては怒りを叩き付ける。

 

「桜が来るからっ、ずっとっ、準備、してきたのにッ、アンタのせいでっ!桜がっ、桜にッ……ぅあ″あ″あ″あ″あ″~」

 

 

「……」

 

くしゃくしゃの泣き顔に大粒の涙をぽろぽろと流すリンに、痛ましげな表情のサクラがそっと寄り添う。

 

リンの(なお)も泣きじゃくり蹲る、何時にもない姿にショックを受けたサクラは毅然と仕立て人を睨み付けた。

 

「あなたみたいなヒト、嫌いです。姉さんの前から消えてください」

 

 

「……」

 

 

「消えて!」

 

 

リンに感化されたのか、体を突き動かす激情が薄れて恐怖が先立ち始めたか。

私としてはハラハラモノだ。私ではなく彼女等が生きた心地がしない。

彼が気を取られてか、(ゆる)んだ鎖の拘束を破る。

ソレに気付いた彼は露骨に舌打ちした。

 

「……興が削がれた、此度(こたび)は此処までとする」

 

 

蝶番(ちょうつがい)から外れた戸、(れき)(ちり)が散乱し、見る影もない玄関へと去る際の彼が指を鳴らした。

とたん、家屋全体が揺れ始める。

 

「な、なに…」

 

「……」

 

「サクラ!リン」

 

不安げに戸惑うリンを緊張した面持ちで抱き寄せるサクラ。

二人に被せる風王結界(インビジブル・エア)の準備を急ぎ駆け寄る。

 

 

 

震えが収まっていくと全てが元通りになっていた。

物を見る目はないので判然としないが修復された部分が心なしか良くなっている…気がする。

具体的には新品ぽいぐらいとしか分からない。調和が保たれているせいか際立つ事がないのだ。

 

 

 

(やしき)の隅々から金色(こんじき)の粒子が浮かび上がり、男の隣の虚空へと波紋を立てて姿を消していく。

 

 

 

外に出た彼は此方を振り返って太虚(たいきょ)を掴み、引き下ろした。

どうも家を包んでいたらしい金色の膜を取り払ったようだ。

彼に付き添い漂う鎖がソレを(まと)めて(くる)み、例に漏れず消える。

 

 

「貴様宛に幕引きの贈呈品だ、向後(きょうご)(つと)めよ」

 

 

「え、私」

 

 

珍事に次ぐ珍事に茫然とする私達。

豪奢に包装された、ご多分に漏れず金色の手提げケーキバッグがぽんとリンの差し出した両の手の平に置かれる。

 

 

「其れは我が蔵に()って今一度納める。(きよ)らに()するのだぞ」

 

 

 

返事も聞かず彼は悠然と立ち去った。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!待ちなさいアンタ」

 

「何だ、小娘」

 

 

勢いのまま家を飛び出たリンが男を呼び止める。

 

「アンタが私達の為に色々と尽くしてくれたのは分かったわ。だから…その…」

 

羞恥に汗顔(かんがん)する彼女は思い切ったのだろう。

顔に表れた通りに決然と彼に宣告した。

 

 

「……謝りたいの!後パーティーに参加しなさい!功労者を(ないがし)ろにしては遠坂の名が廃るわ」

 

紅潮した頬、腫れた目元に(めもと)

寧ろその為に若干16の若当主はとても、とても貴く見えた。

 

 

過ぎた不遜、不尊に彼は伏し目になり、そして―――――

 

 

 

「……ククク

 

 

「…」

 

 

「フフフ…」

 

「……?」

 

 

「ハァッーーッハッハッハッハ!!」

 

 

「うわっ」

 

 

これ以上に愉快、痛快なことがあるだろうか。

爽快に笑う彼はボディランゲージを交えて高らかに喚声を上げる。

 

(まなこ)におが屑が詰まっていたのは(オレ)の方だったか!良い、良いぞ、小娘。その殊勝な気構(きがまえ)に我が宝物を以て(むく)いようではないか」

 

 

「!」

 

 

相好(そうごう)を崩して喜色を隠そうともしないリンにサクラと私は顔を見合わせ、眉根を下げて破顔した。

 

「……と行きたい所だが」

 

「……」

 

折悪(おりあ)しくも我は忙中(ぼうちゅう)の身でな」

 

肩を落として急転直下の心情を(あらわ)にしたリンに、慈しみを多分に含ませて男は語りかけた。

 

「そう項垂(うなだ)れるな、我は再び(まみ)える時節(じせつ)(こいねが)っているぞ」

 

「じゃ、じゃあ」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無念…!」

 

 

「もう、ダメです…」

 

 

 

「あの性悪金ぴかぁ…!」

 

 

リンの部屋、小さな食卓を囲むように突っ伏した三名各々の手元。

断面から煮沸(しゃふつ)するマグマを滴らせた中華まんがあったという。

 

挿されたチョコプレートには可愛らしいロザリオの意匠が施され、「復縁おめでとう」とチョコペンで記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハハハハ!!」

 

 

 

「ふははははは」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

○おまけ:Another round table

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19XX年、紛争地帯にて

 

間隔の短い発砲音。

エコーを残す破裂音、爆撃だろう。

抵抗する兵士は残念にも召されてしまったのか。

思い違いだったのか銃撃が再開される。

しかし先程と比べると豆鉄砲のような弱々しさを感じる。

設置された機銃から逃げ出しては涙ぐましい特攻に生き急いだか。

悉く睡魔を粉砕する悪魔共の貢献により意識の断絶の縁をさ迷う俺、間桐雁夜はにっくきあの臓硯に積まされた金に目が眩み、遂には此処まで来てしまった。

金の誘惑に負けた?いや、違う。いや、違わないが俺はソコまで卑しい男ではない。

単純にアレだけの金を費やすほどに、あの外道老獪間桐臓硯が個人に対して価値を見出だしたというのが大いに好奇心を煽ったのだ。

決してライター生活が苦しかった訳じゃないぞ、あんなトコいるよかマシだ。

 

話を戻そう。

俺は臓硯からの情報を元に南アジア、某国へと足を運び、文明の残り香を臭わせるコンクリートジャングルを行き交う銃弾の中、ようやっと彼女の元へ辿り着いたと言うわけだ。

初対面はダットサイト越しだった。

極小の死神が飛び交う中で命の危機に固まる俺はさぞや間抜けに写っただろう。

瞬きした後には彼女の顔が視界一杯に映り、サイレンが響かすドップラー効果の様な背中の痛みに、俺は押し倒されたのだと理解した。

第一印象は『きっと美人なのだろう』だった。当たり前だがここは先進国ではなく、また衣食住と平穏を大多数が享受出来る国ではない。

満足に食事は取れず、体は清潔に保てず、微かな音に飛び起きれば倦怠と苦痛に哀哭する全身を推して生存を全てに代わり優先させなければならないのだ。

肌は女性と言えど荒れ、埃を被って縒れた髪は脂ぎって頬に貼り付き、臭いは据えた汗、老廃物の混じった油に脂、血、砂塵、硝煙、糞尿、全てが雑ぜられていた。

しかし女を魅惑的に見せる香りだけは別にしたのだから女性という生き物は不思議である。

千年の恋も冷めると言うが、正に此れが当てはまる。

臓硯が俺を寄越したのはまさか彼女に幻滅したくなかったから…ではないだろう。

 

 

長期に渡って甚大に過ぎる精神的、身体的負荷に晒される兵卒未満たる彼らの苦労は如何ほどだろう。

そんな中、仲間と集う時彼女は時折くしゃりと笑う。

優雅でも美しくも洗練されてもいないが、暗く罅割れた心に沁み入り爽やかな風を窓口から呼び込む、皆が皆周りを照らす発端となる笑顔だ。

 

ある時同行して契機を伺い続ける俺に危うさを覚えたのだろう。

こんな所まで命を張って来たのだ。

ルポライターとしての魂に火がついてしまったのだ。

 

国境紛争が小康状態を迎えるのを狙い、彼女は私のインタビューに答えてくれた。

 

彼女が前にポツリと俺にこぼした、空を馳せ回った事があったのだと。

その舞台は未だ嘗て、これからも歴史に綴られる事のない国境を巡った大戦争―――――

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

私は手始めに、椅子に深く背を曲げ座り、狙撃銃を抱いた彼女の話に出てきた彼について訊いた。

お喋りな彼女はその後もするすると語りだした。

 

Uh, him?

 

Yeah, I know him.

 

It's going to take a while.

 

It happened years ago.

 

 

塵埃すら幻想的に照らす光の指す窓越しに(たたず)む、名も知れぬ女神像を彼女は肩越しに見詰める。

昔を懐かしむといつもこうだ。

彼女が籍を置いていたという空軍が属する国と関係があったのだろうか。

 

 

 

Did you know? There are three kinds of aces.

 

数々のエースと相対し、相棒と盡くを墜としてきた彼女は省みて彼らを三つに大別する。

 

Those who seek strength.

 

彼女は横に親指を立てる。

 

Those who live for pride.

 

次に人指し指を。

 

Those who can read the tide of battle.

 

最後に中指を。

 

Those are the three.

 

And her?

 

照れ臭そうにはにかみを見せた彼女は決して私に言わんとした己の異名を口にした。

 

She was a fighter pilot they called '' sorrow wing pixy ''

 

This girl was his buddy.

 

誇らしげに、されど自嘲する様に語る彼女は胸元のポケットから写真を取り出した。

比翼の鳥の様に飛翔する一対の戦闘機を、操縦席から撮ったモノクロのソレは切り取られたフィルムを思わせた。

 

He is the man I seek.

 

It was a cold and snowy day.

 

 

彼女が再び戦火に身を投じる所以の一つになった彼、円卓の鬼神と謳われしその人。

彼とのランデヴーに至るフライトの数々が、廻転し、色彩を鮮明に取り戻して蘇る。

 

そう、あれは雪の降る寒い日だった――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「因みに今申し上げた事は虚偽だ」





「へぇっ?」






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