AIBO   作:モアニン

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自分語りは生きる上で必須。
国外で心理学を修めた人が言ってた。

だから皆もしよう、ね?(同調圧力)
人とも仲良くなれるんだ、悪いことじゃあない(暗示)


嘘つきハリセンボン

「それで?この前は見逃したけど結局貴女何者なのよ」

 

「……リンも私を辱しめるのですか」

 

リンがすっとんきょうな声を上げる。

 

「はぁ…それで、貴女は私と桜の間にしこりを残したいのね」

 

「い、いえ、言います」

 

確認するかのような口調。

その言い方はズルいと思う。

ときにコレはサクラにも言っていなかったか。

 

「私は女神です、世界を流浪する身にて―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――は?」

 

 

「リン、コレは虚辞ではないのです、どうか傾聴して頂きたい」

 

 

「ふぅん…じゃあ聞かせて貰おうかしら」

 

 

「えぇ、では――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は女神、人造の女神。

人間の手による被造物としてこの世に産み落とされた物。

現代ではクローンと(たと)えられる。

定められた用途、存在意義の遂行の為私は急速に成長し、自然と短命になるよう設計された。

当時私が帰属していた国家は民草をも戦火へと()り出す様な、修羅の国でした。

けして絶えぬ侵襲。

得るのは生傷だけの賭場に命を賭する日々。

月が昇れば飢えを誤魔化す為に床に沈む。

昨日の友は(ささ)やかながらも私達を(ぬく)めた笑顔を怨念にゆがませ、怨讐(おんしゅう)の果てに命を散らしては今日の友が悲哀と怨恨という疫病(えきびょう)に冒される。

勇気を振り絞り打ち解けた新しい朋友(ほうゆう)達は、出来た側から洟垂(はなた)れに(もてあそ)ばれる小さな命のように死んでいく。

 

あるのは掛け値無しの地獄。

 

 

友朋(ゆうほう)も極限を迎えていたのだろう。

だが私も限界だったのだ。

私は力を欲した。誰にも犯すことの出来ない程の絶対的な力を。

心の平安が欲しかったのだ。

私の出自故に何等か特徴的な魂に利用価値を見出だした魔術師、私の母胎代わりとなった彼女が返礼を条件に協力してくれた。

私の故国は最後の神代。神代が収束する地、故に最果てはソコにあった。

無神論者だった私はしかし、目と鼻の先で神秘的に屹立(きつりつ)する塔に救いを見出だした。

涙を滂沱(ぼうだ)の如く流しては祈った。

ただでさえ日常の苦難に心身を磨り減らされていたのだ、旅を経て磨り切れ、自ずと必死に、無心に(おも)っていた。

どうも私は信者第一号だったらしい。

私の祈念(きねん)によって生まれた神としての彼女は、私がそうあれかしと願ったからこそ慈悲深い性格を持ち得たらしい。

彼女は私を依代にし、私の内側から御前の力を注ぐ事で死の淵にいた私を御手で救い上げてくれた。

急速に神に近付いた私は肉を持ちながらも現代の法則に抗う事が出来るようになったのだ。

奇跡の報答(ほうとう)として、私は彼女の責務、その一助となることを宣誓した。

祖国に帰還し力を振るい、兄と共に机に齧り付いた。

しかし状況は悪化の一途を辿った。

何も変わらなかった。

強いて言えば変わったのは私がいた事で救えたかもしれない彼等が指の隙間から溢れ落ちただけ。

卑しき王に打ち()った。

蛮族を絶滅させた。

そうして外敵がいなくなれば敵は内から湧いた。

爆発する程の不満は共感できた。

良くぞ今まで耐えてくれたと思った。

殺したくなかった。

違う、もう親しい人すら死んで涙するのはもうイヤだった。

 

だから割れた二つの一方を私は(にな)った。

喚き叫んだ、隠していた血縁を錦の御旗として。

最愛の妹、彼女の完璧だった王政を侮辱した、反乱分子を全て纏め上げる為に。

積み上げてきた屍、兄に手解きを受けて培った政治手腕、草の根運動と対話で育んできた民衆と騎士の信頼と温情。

全て利用した。

私について来てくれた大事な人達を信用させる(騙す)ために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しく、惨たらしく、ありもしないユメ(栄光)

業火めいた誘蛾灯に皆が縋り付く様に手を伸ばしては身を投げ入れていく。

 

 

戦争があるから争いが絶えないのだ。

 

騎士なんて偶像があるから…

 

 

故にこそ暴虐として君臨した。

街中を散策すれば人っ子一人外に残らず窓を閉めるよう民衆を教育した。

 

憧憬を浮かべ走り寄る幼児(おさなご)を初めて蹴りつけた記憶は、烙印の様に今も目蓋の裏に焼き付いている。

 

騎士には強さだけを絶対的な価値として、王となったその日から体に徹底的に叩き込んだ。

 

刃向かう者がいれば恐怖を刷り込んだ。

団結して反抗する者がいれば独りで蹴散らし舌を抜いた。

力を誇示しようとする魂胆が見え隠れした輩は自負心を手折(たお)り親指を切り落とした。

毒を盛った者は魔術で特定し、彼等の側にいた人間の畏れを煽った。

獣欲を昂らせて飛び掛かる者は椅子に縛り付け、(あぶ)った一物を良く噛んで(のど)を通らせた。

政治で私に抗する程能が有るものがいないのは幸いだった。識字率が極めて低く、誰も彼もが見て見ぬフリをしていたのだから自明であるが。

 

いずれの悪虐も私に罪悪を抱かせたのは最初の数度だった。

 

 

そんなある日、(かつ)て打ち倒した竜の生まれ変わりだと見なされ、『卑王』、そう呼ばれているのを知った。

 

 

 

私は暗君ではなかったが、騎士王ですら『ああ』だったのだ。塞き止められた濁流に堰が切れるのも問題だった。

 

 

だからあの日、槍を愛しい人に向けたあの時、二重発動した宝具で猫も杓子も欺いた。

そして大地に穿ち立てた塔で私の国を最果ての地とし、神代に跳ばすことに成功した。

 

 

後処理を終えた私は現代に慮外(りょがい)にも残ってしまった幻想種を導く手伝いを続け、その都合で国々を周り今に至る――――――――――

 

 

 

 

 

――――――という訳です」

 

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

二人とも黙ったままだ。

こんな話をされても反応に困るだろうに。

 

「ハァ…」

 

辟易した様な表情のリンが溜め息を吐く。

 

 

 

 

「アンタ、アタシ達に哀れんで欲しいの?辛かったねって」

 

 

慚愧(ざんき)に顔が沸騰する。

気恥ずかしさの余り口が窄んで顔は茹で蛸だろうに青息吐息である。

 

 

そ…そうです…構って……欲しかったんです…

 

 

「……」

 

 

顔も見れずに足下に視線を固定した私を誰かがそっと抱いてくれた。

 

「はいはい、辛かったわねー…どう?これで満足した」

 

随分とおざなりだったがソレが有り難かった。

胸のつっかえが取れた気がしたのだ。

離れるリンに目を合わせると照れ臭そうにそっぽを向いた。

 

「コレはあの時のお礼よ。…後、アンタ実はあんま気にしてないでしょ」

 

その通りだ、1500年も経てば記憶も薄れるほどには癒えている。

頬が緩み、目尻が勝手に下がり、口角は上がる。

 

「フフ、バレてましたか?話したくて堪らなかったのです」

 

安堵と呆れが綯い交ぜになった態度でリンは大きく息を吐き出した。

 

「誰彼も大なり小なり悩みを抱えているものよ。その中でもアンタは悲劇のヒロインタイプね」

 

「…自覚はしていましたが…」

 

耳にしたくない程胸に突き刺さる言葉だ。背が冷える。

負け惜しみの様だが誰かに言われると大層堪えるものだ。

 

「それで、アンタは噂の槍は持ってるワケ」

目を輝かして尋ねてくるリン。

少々申し訳無いが嬉しくも案じてくれたサクラもこの時ばかりは好奇心が見え隠れしていた。

 

「サクラもこちらへ」

今や魂と殆ど一体化したロンの槍を、()まったパズルのピースの様に取り外す。

私と言う鞘の胸元から光の柱の柄を掴み、引き抜いた。

一目でこの世の物ではないと納得させる光景に彼女達は食い入る様に見詰めた。

 

「あの時は一瞬しか見れなかったけど…アンタの話、嘘じゃなかったのね」

 

「信じて無かったのですか」

 

唖然とする。そんな気はしていたけれども

 

「綺麗…」

 

飾らないサクラの賛辞に恥じらうも得意満面の笑みになってしまった私は得意気に語る。

 

「一昔前までは私もこの方とブイブイ言わせていたものです」

 

「ブイブイ……?神体、でしょ、ソレ」

 

「いいえ、まぁ子機の様なモノですが……あの御仁そのものです」

 

もう何も言うまいという表情のリンに対し、サクラは純粋に思った事を口にしてきた。

 

「良いんですか?大事なヒト…?、なんですよね」

 

「……まぁ、私達は一心同体ですから」

 

リンの言いたかった事はそれかと今更ながらに勘付き彼女から目線を外した。

15、6の子女が呆れ果てるという事実に目下私の心は針の(むしろ)である。

 

 

 

 




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