次こそは遅くなるかと思います。
では第5話どうぞ
「ここは…何処?」
暗い闇の中、手探りで脱出場所を探る者は気がつくとどこか暗い箱の様な場所にいた。そして数分の間格闘するも中々出られないでいた。
「くそ、せめて腕が使えれば。」
そう彼女ことセリューはあれからどのくらい時間が経っているかはわからないものの未だに腕を切断されたままであったのだ。
だがそんな彼女の暗闇での悪戦苦闘も彼女が目覚めてすぐに終わった。
ぎぎ、ぎぎ
金属の軋む音と同時に月明かりが暗闇にセリューに差し込み、暗闇からのその眩しさに思わず目を閉じかけるセリューだがやっと暗闇以外のものが見えてきたのだセリューにとってはまさに希望の光であった。だがそれも完全に開ききる前に止まった。
月明かりが僅かにセリューの顔に差し込むだけでそれ以上の光が来ない。
暗闇の空間でやっと差した一筋の光が、途中で止まる。これは今のセリューにとっては耐え難い苦痛であり、拷問にも等しい行為であった。
「おい!ふざけるな!さっさとここから出せ!!」
我慢できなくなったセリューは暗い鉄の箱でまた暫くの間格闘するも、かなり頑丈にできているのか、腕の使えないセリューが力不足なだけなせいか、ビクともしなかった。
そして、段々と不安がセリューの心に重なっていきそれは次第に恐怖へと変わっていく。
「誰か…誰か居るんだろう?そこに、お願いだ、開けてくれ頼む。」
恐怖が長い間続けばそれは絶望へと変わりセリューの心を少しずつゆっくりとしかし確実にセリューの心を蝕んでゆく。
どれほど長い時が経ったであろうか、牢獄の様な場所で1分が1時間にも感じるような、それでいて何日も過ぎているような感覚に感じたセリューは自分はもうここで誰にも看取られることなく死んで、朽ちていくのだと思うようになっていた。
「もっと悪を倒したかったなぁ、せめてみんなにコロに会いたかったなぁ。」
セリューの脳裏に浮かんでいくのは今までの思い出、走馬灯が見えていた。
初めて悪を断罪した日は達成感と何物にも変え難い達成感があった。オーガ隊長との辛く厳しい訓練の日々も自分が日々強くなっていくのを感じたやりがいのある日々、そしてコロという自分の生涯にとって唯一無二の戦友に会い、強敵ナイトレイドを追い詰めたあの瞬間。
だがそれでもまだ足りない、まだまだセリューにはやり残したことが、やりたいことがたくさんあった。
だがそれもこれまでだとセリューは感じた。
「なんだか絶望に浸ってるとこ悪いけど、大丈夫かい?」
唐突によく通る滑舌の良い若い男性の声が聞こえた。セリューはその声に一筋の希望が見えた。否、見出した。
「!?誰か居るのか、頼むここから出してくれ!」
そして必死にその声にここから助けてくれるようにすがる。
「まあまあ、落ち着きなよ。ちゃんと出してやるから。でも訳あってアンタを今ここから出すわけにはいかないんだ。」
「なにぃ!ふざけるな!早くここから出せ!!」
激昂し、すかさず怒りの声を外にいる男にぶつけるセリュー。
だが、男は努めて冷静に興奮したセリューを落ち着けるように言葉を語りかけた。
「だから落ち着きなって、そう興奮しなさんな一つお願いを聞いてもらうだけだから。」
相手の落ち着いた口調に幾分か冷静さを取り戻したセリューは相手のお願いをまずは聞くことにした。条件次第では相手を断罪することを心のうちで留めておきながら
「なにお願いって言っても簡単さ少しの間私とおしゃべりしてくれれば良いんだ。」
そんな簡単なこと?
相手を疑いつつもセリューはそんな簡単な条件に内心拍子抜けしつつも相手の気が変わらないうちに話を進めるため、それを了承する。
「それは良かった。いやぁ嬉しいね、ここ最近あまり人と喋ってなかったから嬉しいよ。」
それから男は饒舌に上機嫌にこの帝都のことや、自らの休日の過ごし方や、嫌な上司の愚痴などを話した。
セリューは適当に話を聞こうと、話が早く終わらせるように最初は適当に相槌を打つセリューであったが、時にジョークや冗談を交える話にセリューはいつのまにかツッコンだり、それは違うと反論したりするようになっていた。そう少しづつセリューは男に心を開いてくようになっていた。
だが、それと同時に喉の奥に小魚の骨が刺さるような、何処かで聞いたことあるような、なんとなく引っかかるようなものを、男の話に奇妙な違和感を感じながら、それが分からずにセリューは男の望むように話を続けていた。
「それで、その上司がムカつくんだよ。疲れてんのに俺にばかり仕事を回してさぁ。今思い出してもムカついてきた。あぁームカつく!」
「あはは、でもそれってあなたが仕事が上手いって信頼されてるから任せてもらえるんですよ。なんだか羨ましいです。」
「そういうわけじゃないと思うけどなぁ、それよりなんで羨ましいんだい?君もこんな良い子なのに?」
男が心底不思議だと言わんばかりにセリューにそう聞き返す。
「私の上司、オーガ隊長って言うんですけれどね訓練とかには付き合ってもらったり、色々と助言も頂いてはいるんですけれど、中々オーガ隊長の仕事には手伝わせてもらえないんですよ。いつも助けてもらっているから私も何か手伝えられないかなと思って、お仕事手伝いますって!言ってはいるんですけど、絶対にダメだと言われてついに最後まで手伝ってあげられなかったんですよ。」
会話の途中で心酔するオーガのことを思い出し、涙が出そうになるセリュー、そんな彼女の感情を読み取ったのか、悲しそうなセリューに男はしまったと感じてたじろぐのが箱の中にいるセリューにでも分かり、優しい人なんだなとセリューは思った。
「ごめんね、なんだか辛い事を思い出させちゃったみたいだね。」
「いえ、いいんです。オーガ隊長は最後まで立派な人でしたから。」
元気を取り戻したセリューに男は安心したのか、ある提案をすることにした。
「じゃあさ、そのオーガ隊長って人の仕事見せてあげようか?」
男は上機嫌にそう言った。
「なに言ってるんですか?その冗談面白くないですよ。」
セリューが見えない相手にジト目で反応するのが分かってないのか、男はさも自信たっぷりに言う。
「本当だって、よし分かった!俺のこの能力の真の力をお嬢さんに見せてやろう。」
「いや別にいいですよ、そんなことできるわけないじゃないですか。」
心酔するオーガのことをなんだか馬鹿にされてるような気がしてセリューは内心で男の評価を1段階下げつつ、興味をそそるような話ではないためそろそろこの話で終わりにしようかと考え始めていた。
「大丈夫だって本当だから、ちょっと目を瞑るだけだから。終わったらお嬢さんを出してあげるから。」
と男は尚もセリューに食い下がる。
「分かりました、ちょっとだけですからね。」
譲れないものがあるのか、しつこく迫る男に、根負けしてセリューはまた目を閉じる。
そして1分くらいであろうかいつまで経っても変化は訪れずにいた。
「まだですか、全然見えませんよ?」
しかし男からの返事は一切ない、それどころかいつのまにか気配すらも感じなくなっていた。
まさか何処かに勝手に行ってしまったのかと思い、目を開けるとそこには
オーガが居た。
「た、隊長!?どうしてここに、あなたは死んでしまったはずじゃ!?」
信じられないことにセリューの目の前には自分の心酔するオーガ隊長がいたのだ。涙ぐむセリューを無視してオーガはセリューの元に歩いてくる。
そしてセリューをすり抜けていく。
「え?」
驚くセリューをそのままに通り過ぎていき、オーガは歩いていく。血まみれの剣を持って。
歩き向かっていく先には胴体を切られて身体中血まみれになっている1人の壮年の男が居た。
セリューには見覚えがあった、オーガがまだ存命の頃にナイトレイドに暗殺されたと報告書には記載された無実の人。この時はそうだと思っていたがオーガのあの血塗れの剣を見てセリューはまさかと思った。
血まみれの男は息も絶え絶えにオーガに訴える。
「まっ待ってくれ!あんたへの上納金は来月きちんと2ヶ月分払う!だから命だけは。」
「今月も払えてねぇ嘘つきは、来月も払わねぇに決まってんだろ。何よりセリューの相手してイライラが溜まって俺はイラついてんだよ!だからテメェのこと殺すんだよ。テメェの代わりはいくらでもいるしな!」
セリューが今まで見たことも無いような醜悪な顔でオーガは男にそう話す。
「そ、そんな」
絶望に顔を歪めた男の顔を見て、オーガはそんな男の絶望しきった表情に満足したのか笑いながら男を斬殺した。
セリューが今まで信じていたオーガのイメージがヒビが入る。
「な、なにこれ?なんでオーガ隊長?」
そして唐突にセリューは思い出す。
「じゃあさ、そのオーガ隊長って人の仕事見せてあげようか?」
思い出すと同時にセリューは愕然とする。
これがオーガ隊長の真の姿なの
そしてここからがセリューにとって地獄のような光景の連続であり、オーガの犯した罪をセリューは1人見続けた。
ある者は恋人を目の前で殺してから女を死ぬまで犯し続け、ある者は無実の罪の人を難癖をつけて胴体を真っ二つにして殺し、またある者は新調した剣の試し斬りといい殺された者もいた。
そんな地獄のような光景をセリューは延々と見せつけられ、悲鳴を聞かされ続けた。
まるでセリューの敵とする悪を体現したものがオーガそのものであった。
「いやいやもう見たくない、もう覚めて。」
そんな憔悴しきったセリューの願いは通じたのか、目の前の光景を見たくないと目を閉じていたセリューは唐突に周りが静かになったのを感じ目を開けた。
忘れられない、尊敬していた父の最後の場所であった
怪我をして片膝をつく父を前に剣を構えるオーガ
「嘘、や、やめて」
今までの回想からその凄惨な最期を分かってしまったセリューはオーガの凶行を止めるため走り出す。
だが、これは男が見せたオーガの過去の回想であり決して変えられるものではなかった。
オーガの凶刃は止まることなくセリューの最愛の父の首を跳ね飛ばした。
「イヤァァァァァァァァァァァァ!!」
「これがオーガ隊長の真の姿だよ。」
次にセリューが目を覚ますと月明かりがセリューの体を照らし出していた。
箱は完全に開ききっており、すぐにセリューが抜け出せる状態であった。
月明かりが影になっていて、男の顔は分からなかったものの箱の上から男は黙ってこちらを見ているような気がした。
「君の正義は私から見れば非常に歪んでいて、今までの君はきっと沢山の無実の人をオーガの命令で殺してしまったと思うよ。でも今の君なら、正義の心を本当に持ちたいと願い悪に屈しない強い精神を持つ君ならきっと今までの殺してしまった人の償いはできなくてもこれから助けられる人ならまだ沢山いるはずだ。」
「私に…私にはそんなこと」
これから背負う罪に恐ろしくなり、つい逃げ腰になり言葉尻が弱くなるセリュー。だが男はセリューに勇気を出させるように
「できる!できるさきっと君なら。それに私が出来ずに後悔したことを君にはさせたくないんだ。」
そう言い、男はセリューを引っ張り上げる。
立ち上がれないセリューを見て、男は苦笑しつつも穏やかに告げる。
「さて、私のお喋りは終わり。私を救ってくれた小さな少女が君を迎えにそろそろ来たしこれでお別れだ元気でね。」
そう言って後ろを振り返るも誰も迎えには来てはおらず、セリューは男にはなにが見えているのか分からずにいたが特に気にも止めなかった。それよりも男に聞きたいことがセリューにはあった。
「あ、あの最後に名前を聞いても良いですか?」
男から見て、そう言ったセリューの顔は強い決意をし気高く生きようとする顔をしていた。
男はそれを見て満足したように頷きながら
「そういえば私の名前を言ってなかったね。」
その刹那、セリューの意識は暗転した。
背後から気づかれないように近づいていたヨマワリさんがセリューを袋に入れたからだ。そのままヨマワリさんは夜の森の暗闇に消えていった。
「私の名前はザンク。帝都で一番のお喋りさ。」
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