またまたネタが出たんで早めに投稿します!
暖かい日差しに目が覚めて、気がつくとセリューはナイトレイドの精鋭たるシェーレとマインと激戦を繰り広げた広場で目を覚ましていた。
「生きてる、生きて帰ってこれたんだよね。」
セリューがこんな呟きを漏らすのも無理のないことであった。なにせヨマワリさんに攫われてから、短い時間ではあったものの謎の男との会話で絶望から一気に希望へと引き上げられ、新たな自身の正義を見つけ、セリューは今まるで生まれ変わったような気分であった。
「あんなことが起こっていたなんて、まるで夢見たい。」
夢であったのかもしれない。だが今のセリューにとっては夢であろうがなかろうがどうでも良かった。あの時の男との出会いは一生忘れない事だと同時に自分にとって大切なものであったと確信を持って言えるとセリューは感じていたし、もう一度やり直そうと感じていた。
その後、見回りをしていた警備隊に発見されたセリューは腕の怪我もまだ治っていなかったことにより病院へとすぐさま搬送することになった。
そして、ヨマワリさんの情報も帝国に知れ渡った。
だが、反応はナイトレイドの時ほどではなく、新発見の厄介な危険種程度の認識であった。
事前に警備隊に発見されそこから得た大まかな情報もあったことも評価の低さにあった。たしかに生物型帝具であるコロを圧倒するほどの強さには目を見張るものがあるものの、世の中にはそんな生物はごまんといるもので危険ではないかと言われれば確かに危険ではあるものの、セリューが失踪して以降その危険種に襲われたという報告が全く無く最初は本当にそんな生物が存在するのかどうか疑われたほどである。
そしていざ、調査を開始するも危険種にとって良いエサであるはずの人が多い時間帯である昼間にも現れず、それどころか住処と思われる痕跡すらなかった。
住処はともかくとして、では夜行性なのかと考えて日が完全に沈んだ夜に調査を再度開始した部隊は帝都中にその危険種を発見するための監視網を敷いた。
膨大な人員を費やした作戦に成果は上がった。確かに対象の危険種は夜に活動しているのは分かったものの、特に人を襲って食べるようなことはせずに帝都の夜をなにかを求めるようにさまよっているだけでしかなかった。このことからこの危険種の事をヨマワリと名付けられるようになった。
人を襲わずたださまようだけのこの奇妙なヨマワリの生態にますます訳が分からなくなった調査部隊そして研究部隊ではあるものの新たに出現した危険種ということもあって更なる調査を続行しようとするものの、ここでスポンサーであり調査を命じた帝国からストップがかけられた。
襲わなければ大丈夫ということもあり、危険性が皆無の危険種にこれ以上金も時間も掛けられないと中止が言い渡されたのであった。帝国にはそれ以上の悩みの種である革命軍がまだいるのである。さらに言えばナイトレイドもまだ夜に活動していることから上手くいけば危険種とナイトレイドの共倒れを狙える計算もあった。
さらに貴重な調査部隊ならびに研究部隊を訳の分からない危険種のために与える時間も金も帝国には無かった。また今度新たに作られるエスデス率いる治安維持部隊にいざとなれば討伐を任せられるという意見もあり中止となったのである。
だが、これは一部の人間に大臣派の人にとっては大きな間違いであった。
記録されている帝国の犯罪統計では殺人等の件数は依然として変わらないものの行方不明の件数は少しづつ上がってきているのである。
確かに人を食べるなどの襲う事をしなかった件の危険種ではあるが、人の目を盗んで攫ってはいたのである。しかも大臣派の人ばかりでも主に人を人とも思えない所業を犯すものを狙って攫っては後日に生気が抜けたように発見され、これをみた警備隊や病院の関係者、たまたま発見した市民の人々は死よりも恐ろしいものを感じるようになる。
人々はこの危険種の事を夜に現れ殺人などの悪い事をやっている人達を攫うために夜の街をさまよっていることから畏怖を込めてこう呼んだ
ヨマワリさんと。
話を元に戻そう。
後日、治療を施されたセリューはDr.スタイリッシュによって両腕に武器を施された義手を取り付けられた。大半が凶悪な武器であったが、その義手の中にはセリューの要望で暴徒鎮圧用のスタンガンであったりゴム弾を装弾しているマシンガンなど非殺傷の武器も取り付けられた。
この要望には、Dr.スタイリッシュから装備できる武器の数が減り義手本来の性能が低下すると苦言が寄せられたがセリューは頑としてこの装備の追加を希望して譲らなかった。
今までのような小さな悪でも即断罪するような気性の荒いことはなくなりセリューはまるで人が変わったかのように、帝都の悪人達を無闇矢鱈に殺すことなく先程にも述べた非殺傷の武器で鎮圧したりとセリューの殺人は激減した。
だがその分割を食ったのが、麻薬や殺人を行った人などでそういった人に対しては容赦のない暴行を加えた。
次第にセリューの活動する区域では治安が急速に直り、セリューは今まで人々からその躊躇のない処刑に恐れられていたが、この日からまるでアイドルのように愛されていた。元々の容姿の良さや天真爛漫な性格も相まって一躍帝都の人気者になっていった。
だがしかし、セリューの幸運もここまでだったのかたまたま通りかかった裏路地で警備隊の新任の隊長が賄賂を貰っているところを目撃して激怒したセリューはその新任の隊長をボコボコに殴り倒したのだ。
結果から言えば後日セリューは降格された。
これは、大臣派の役人達の策動で歪んだ正義感を持つセリューを第2のオーガ隊長のようにして美味い汁を吸おうとしていた役人達であったが、ある日を境に人が変わったセリューに自分達にとって都合の悪い人間を消させようとデマを吹き込んでも殺す事を拒否したり、それどころか治安が回復したことにより賄賂の数も減り、以前のように貧しい人を拷問する趣味も出来ない日々が続き鬱憤が溜まっていたのである。
そこに今回の隊長への暴行事件である。
そして目障りであったセリューの排除若しくはその動きに制限をかける事を目論んだのだ。
流石に貴重な帝具持ちであるセリューを処刑するまでにはいかなかったが最低限その動きに制限をかける故にこの処分であった。
そして、降格処分を受けたセリューは依然と違い悪を自由に処断できないことにしばらくの間悶々とした日々を過ごしていたがすぐに転機は訪れる。
帝具持ちで結成された、エスデス率いる帝国の治安維持部隊。
イェーガーズのメンバーとして召集をかけられたのであった。
「誰か、アタシと訓練しなさい!」
怪我が完治したマインは早速、怪我の治療のために休んでなまった体を元に戻すため、いやそれ以上にするために訓練をしようと訓練場に訪れていたが既にそこには先客が居た。
「よぉ、マイン」
「良かった、完治したか!」
先客である腕立てをしている途中のタツミとその手伝いのためタツミの上に乗っているアカメが返事をする。
その隣には、同じく腕立てをするラバックと手伝いをするレオーネ
「コイツ等、いつまでも鍛錬やってるから手伝いをな。」
若干タツミよりもきつそうな顔をして顔を引きつらせているラバックの上でレオーネは朗らかに笑いながらマインに言う。
ブラートがいた頃よりもなんだか汗臭いなぁと思いながら聞くマインに次に今度はタツミが口を開く。
「装備してみて分かったけどインクルシオは凄え勢いで体力を消耗する。兄貴みたいに長時間つけられるように体を作らないと、今のままじゃ透明化だって一瞬で終わっちまう。」
ブラート
彼は前の竜船での三獣士との戦いでその1人であるリヴァの奥の手の血刀殺で命を落としていた。
今は亡きブラートの想いを引き継いで、必死になって強くなろうとするタツミの姿にマインは一瞬心が揺れるの感じながらタツミの顔を見る。
コイツ、こんな顔もできるんだ。
一瞬タツミにときめくのを感じたマインは慌ててラバックに質問をぶつける。
「ラバの汗まみれは珍しいわね」
「男の子が2人だけになっちまったからな流石の俺も頑張らなきゃと思ったわけよ。」
そんな真剣な顔をするラバックにマインはコイツもちゃんと考えてるんだなぁと若干失礼な事を考えていた。
「カッコつけてるけど腕立て回数タツミの半分以下だからな。」
日頃風呂場を覗こうとするラバックに仕返しをしようとしているのかレオーネはラバックをからかった。
「それは仕方ない」
先程まで静かであったアカメが言ってしまった。
「私とレオーネでは体重に大きな差がある。」
アカメと以外の三人の空気が一瞬にして固まる
女性に言ってはいけない、ことのほかレオーネに言ってはいけない事をアカメは普通に言ってしまったのだ。
直後に怒ったレオーネはアカメに鉄拳制裁を加える。
ゴン!
大きな音を出しながら繰り出された拳はアカメの脳天に見事に命中してアカメは頭にタンコブを作りながら、レオーネ以外の三人になんで?と涙目になりながら目で尋ねる。
三人は思わずアカメから目を逸らしてしまい、居心地の悪い沈黙が流れる。
そんな沈黙も長くは続かずアカメを含む四人に声をかけるものが現れる。
「みなさん、鍛錬お疲れ様です。」
「お、お疲れ様です。」
車椅子に座り穏やかな笑みを浮かべながらこちらに来るシェーレと一人の少女。
場の空気を壊すことに定評のあるシェーレだが、今回ばかりは良い方に作用したようで先程までなんとも言えなかった空気が良くなる。
マインはそんなシェーレに声をかける。
「シェーレ!もう横になってなくて大丈夫なの?」
「はい、私もマインと同じく怪我はもう大丈夫ですよ。」
あの絶体絶命の戦いからマインと共に運良く逃げ出すことができたシェーレ。しかしながら無傷とまではいかずに背中を強く打ちつけた際にシェーレの下半身は麻痺し、暗殺の仕事をするのに重大な障害をおってしまった。
そして怪我が完治するまでの間、療養に集中するようにとナジェンダから言われていた。
「アンタもシェーレの療養の手伝いありがとね。」
「ううん、シェーレお姉ちゃんと一緒に絵本読むのもお散歩するのもとっても楽しかった。」
にこやかに笑いながら言う少女はその外見にふさわしい笑顔を見せる。
この少女、実はナイトレイドのアジトの付近の山間部をさまよっていたところ保護されたのである。
最初こそラバックの糸の帝具の反応からして相手が一人ということも相まってアカメとレオーネが出撃したものの、相手が衰弱している無害の少女と分かりすぐさまアカメは撤退し、しかし警戒は怠らず獣並みの嗅覚を持ちもし逃げられても直ぐに追いかけ殺すことができるレオーネが少女の見張りとして残った。
伝令としてアジトに戻ったアカメはナジェンダに詳細を報告する。数秒ほど思案したナジェンダは無為に死なせることはできないとして保護を決定した。
連絡を受けたレオーネはすぐさま少女を連れ帰り簡単な応急手当を行い、栄養補給を行わせた結果、無事少女は快方へとむかっていった。
回復した少女は、暫くの間はアジトで軟禁することになっていたが、この監視役に名乗りを上げたのが療養中のシェーレで、対象の無害な少女であるのなら大丈夫だろうとナジェンダもそれを了承した。
暇を持て余していたシェーレは、何気なく監視役に名乗っていたが少女といる生活はとても楽しく過ごせていた。今までのシェーレの人生の中でこれ以上ないくらいに幸せであった。
シェーレと少女が仲睦まじげに楽しげに会話しているのをアカメやマイン、タツミ、それにラバックはそれを嬉しそうに見続けている。
「揃ってるな。」
そんな和やかな雰囲気にナジェンダも入ってくるが、格好からして何処かに遠出するような格好をしていた。
「革命軍本部まで遠出?」
「三獣士から奪取した3つの帝具を届けるんだ、あとシェーレには悪いがシェーレも一緒に連れて行く。」
それを聞いたシェーレと少女が残念そうな表情をする
「お姉ちゃん…行っちゃうの?」
泣きそうになりながらシェーレに尋ねる少女
「ごめんね、でもアカメちゃん達もみんな好きでしょう?それにいつかきっとまた会えるから。」
「…うん」
ションボリしながら頷く少女はまだ悲しそうであった
「大丈夫なんですかシェーレよりもその子の方が優先するべきだとは思いますが。」
「道中、危険な目に合わせるかもしれない。アジトの方が安全だ。」
ナジェンダのその言葉に少し思うところはあるものの、ボスの言うことであるのでそれ以上はタツミは聞くことはしなかった。しかしもう一つ気になることがあるタツミは二つ目の質問をナジェンダに聞く。
「あとその斧めちゃくちゃ重いですよ。大丈夫ですか?」
「あぁこれ位なら、ほれ武器として使うのは無理だが運搬はできるさ。ほれ」
そう言って超重量級の帝具であるベルヴァーグを軽々しく片手で持つナジェンダ。
それに驚きの表情で見るタツミ
「もしかしてボスも凄い人?」
「当たり前だろ元将軍だぜ。」
ヒソヒソ声で話すタツミとラバックだがバッチリとナジェンダには聞かれており、嬉しそうな顔をしながらベルヴァーグを見せつけるように掲げるナジェンダ。
しかし直ぐに顔を引き締めナジェンダはアカメに
「留守は頼むぞアカメ。作戦はみんながんばれだ!」
「だいたい分かった。」
「おいっ、アバウトだな大丈夫か!」
あまりにもあんまりな作戦内容に思わず突っ込むタツミ
「アレできっちり役割こなすから問題ないって」
笑いながら問題ないとラバックは言う
「本部へ行く目的はメンバーの補充も兼ねている。即戦力でこちらに回せる人材となると期待は薄いがな。」
「ごめんよ…俺が弱かったばっかりに」
ブラートの最後を思い出し辛そうな申し訳ない表情をするタツミ。それを見たナジェンダは真剣な表情でタツミに言う。
「お前が戦った三獣士は帝国最強の攻撃力を持つエスデス軍の中軸だ。そいつらを撃破してかつ帝具を3つ奪取してきた。いくらエスデスが無双でもこれで軍の弱体は確実だ。革命実行時の大きな懸念がごっそり和らいだのだぞ。船の人間達だけでなく帝国と戦うことになる革命軍数万人の兵士達も結果的に救ったんだ。」
「お前は強いし良くやっているさ。」
普段は誰よりも厳しいナジェンダからのこの言葉に歯を食いしばり泣きそうな表情になるタツミ。
ナジェンダの言葉に重ねるようにレオーネはタツミに
「調子に乗らせないように黙ってたけど、ブラートが言ってたよ。『タツミはまだ青いけどありゃあマジで強くなるぜ。厳しく鍛えていきゃあそれこそ俺を超える男になるかもしれねえ、楽しみだぜ。』ってね。」
「兄貴…!」
我慢できずに思わず涙ぐむタツミ
「自分を誇れタツミ!そして生き延びて、ブラートが見込んだような男になってみろ!!」
静かにそう言ってナジェンダとシェーレは革命軍本部へと行く。タツミは無言で持って、決意を込めた眼差しで応えるため無言でもってそれを見送った。
そしてナジェンダとシェーレが無言で去っていくのを見送るのはタツミだけではなかった。少女もまたナジェンダ達を正確にはシェーレを見送っていた。
「また、私の大切なものが私から離れていく。」
瞳から光の消えた目で少女は最後まで見えなくなるまでナジェンダ達を見送り続けた。
重ね重ね沢山のUAとお気に入り、そしてご感想ありがとうございます!