帝都廻。   作:玉砕兵士

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大変長らくお待たせしてしまいました。


最終更新日から2年も経ってしまいました。
本当に申し訳ありません。

そんでもって、こんな不定期な更新でも最後までやり遂げたいと思いますので気長に待ってくだされば嬉しいところになります。

あと、今回はかなり胸糞展開がありますのでご注意下さい。




9話

深夜  丑三つ時

 

帝都

 

 

 

 

「たくっ、あんなに苦労したのにこれっぽっちかよ。」

 

 

 

狭い建物と建物がひしめいてまるで迷路のようになっている暗い路地の中で、1人の男が手の中にある金貨を入れた袋をジャラジャラと弄びながら歩いている。

 

 

ここは帝都の中にあるいくつかあるうちの一つである貧民街

増設に増設を繰り返した違法建築が建ち並び、道や屋根に捨てられたゴミと非合法な薬品、鉄臭い血、死体が落ちているのも珍しくなく酷い時には腐臭すら漂っている。

 

 

 

日中の時間帯であっても日の光も、人の手も届かないような帝国の搾取される者たちと犯罪者達の住処

 

人身売買、殺人、強姦、違法薬物の売買、賄賂や機密情報の違法な取引、人肉すら取引されていた。

 

最後の人肉は飢えた貧民街に住んでいる人達にとっては手軽に入手ができる貴重な栄養源であった。

しかしそれが危険な病原体や薬品の温床であった場合には命はない。

 

 

 

表通りの華やかな雰囲気は悪魔でも帝都の仮面の姿であり、その裏に隠された顔は全くもって醜悪な真逆の顔を持っていた。

 

現在の帝国の本性がよく見える場所でもあった。

 

そして先程挙げた中でも、もう一つ付け加えるとするならば

 

 

暗殺組織(ナイトレイド)への依頼

実際ここは警備隊の鍛えられた人間ですら安易にこの貧民街に踏み込めば死亡率は高く敬遠されている場所である。

 

帝都においては警備隊の手が届かない珍しい治外法権のような状態になっていた。

 

 

そんな貧民街の計画性のない増築とそれによる薄暗い細い路地はまさに迷路であり、その貧民街の住人であったとしても迷うものがおり、その迷路の道案内で金を稼ぐものもいる。

 

帝都の多くいる犯罪組織の中でも貧民街に密接に関わる組織は必ずこの道案内を雇っており貧民街限定ではあるものの大金を得ることが出来る人気の職業である。

 

しかし、道を覚える時に殺されることも珍しくなく犯罪組織の抗争において最初に命を狙われるのも珍しくないものであった。

 

当初、革命軍総司令部の下部組織である諜報機関は身を隠しやすいという秘匿性と帝都の裏の情報が多く集まりやすいこの貧民街の中に作られる予定であったが金目当ての住民達の警備隊への密告や、潰しても潰しても湧いて出てくる犯罪組織との終わりの見えない抗争。

 

 

言うなれば、大量のトラップを仕掛けられた密林を進む革命軍にゲリラ戦を仕掛ける犯罪組織のような構図が出来上がっていた。

 

 

犯罪組織の大多数は数に任せた攻勢しか出来ない烏合の衆であり、軍から離れた元歴戦の兵と将軍を抱える革命軍の敵ではないが、そんな派手に動けば秘匿性も何も無くなり即座に帝国が貧民街ごと叩き潰すことが容易に想像できたためあえなく中止された。

 

 

ちなみにナイトレイドのアジトは当初貧民街に設置される事を予定したものの、こういった出来事によりアジトは人気のない森にある崖をくり抜いたものが使われた。

 

 

 

そんな帝国と革命軍のどちらもが手に負えない危険地帯であっても実力さえあれば、どんな身分のものもその行いはどうであれ人としての生活を送れる唯一の世界であった。

 

 

 

無論全ての貧民街が、このような弱肉強食の世界というわけではないが全ての貧民街に共通して奥へ、奥へと進めば進むほど命の危機に晒されるのだ。

 

言うなれば人の形をした怪物がいる帝都の中のダンジョンか、一歩一歩進むたびに自分の命を賭ける地雷原と言ったところか。

 

 

 

 

 

月明かりもさしてこないほどのそんな暗い貧民街の中を男はなんの迷いもなく自宅への帰途へついていた。

 

 

「あのガキを捕まえるのに、こちとらそこそこ金も使って人手を集めた挙句走り回ったってのに。これじゃあやってらんねぇよ」

 

男は闇夜に溶け込むような黒い服装で仕事への愚痴を溢しながら、汚臭のする通りを顔をしかめながら足早に通り過ぎてゆく。

 

男は人攫いで、その日生きる為の金を稼いでいた。

攫うのは容姿の整った女性から少女は勿論の事。珍しいものは少年にまで手を出そうというのもある。

 

拐われたもののその後は死ぬまで慰み者にされるならまだいい方だ。

酷い奴は悲鳴や死ぬ前の反応を見たいからといたぶられて死ぬか、男にはもう忘れ去られて記憶にないが兄弟や姉妹での殺し合いさせられたり等の陰惨なものある。

 

 

今日は数少ないお得意様の1人である貴族からカフェでウェイトレスをしていた愛らしい少女に一目惚れしてすぐにでも欲しいから拐ってきて欲しいとの事だった。

人目が無くなったのを機に誘拐しようとしたのだが、その少女が見た目に反して武術の使い手であり油断して鳩尾に肘を入れられて逃げられてしまった。

 

その後は酷いもので素早い身のこなしで貧民街の方に逃げられて、道案内や金を渡して協力させた人間を使い1時間の捜索でやっと捕まえることが出来た。

 

依頼は達成したものの、出費も多かった為に全く割に合わない仕事となってしまったのだ。

 

 

そんな男の前を突然タッタッタっと駆けていく小さな影が建物の影から出てきたと思ったら何かに躓いてしまったのか目の前で転んだ。

 

一瞬何が飛び出したのかヒヤッとしたが、無害(・・)そうな少女でホッとする。

 

しかも、傷を隠しているのか包帯や絆創膏がやや目立つもののなかなか可愛らしい見た目で長い髪の毛を後ろでポニーテールでしているのが印象的な幼い子供。

 

イテテッとソプラノの声が男の耳に心地よく響いていくのを感じて頭ではあの贅肉まみれの貴族が不快な汁を撒き散らしながら喜びそうだと思いながら男の少女を見る目は劣情抱くようなものではなく、古い懐かしいものを思い出して悲しんでいるような目であった。

 

悪夢のような帝都に男が来たのは、妹に何か食べさせてやりたかったからだ。

 

昔は貧しくとも食べて幸せに生きていけたのに

 

ある時から男は帝都へ出稼ぎに行った。妹のためにまたいつの日か一緒に食べられるささやかな幸せのために。

 

まだ出稼ぎに来て間もない頃だった。

最初の俺は仮初の親切心に騙されて危うく拷問されて殺されるところだったが、運良く逃げ出すことが出来た。

 

その後もめげずにまともな職についてはいたが、かい叩かれるような日銭では、妹はおろか自分も生きてはいけない。

 

 

そして人攫いになった。

男もその日から人の形をした怪物になった。故郷の妹のために。

 

そんな言い訳を心で唱えて。

 

 

そしてようやく仕事にも慣れてきた頃、依頼主は仕送りに出した子供を地獄の帝都から迎えに来たと言っていた。

初めての善行だと思った。

料金は受け取らず、絶対にここに連れてくるとその親に固く約束した。

 

人間まだまだ捨てたものではないと心から思った男はすぐに件の子供見つけ出すことが出来た。子供は妹と同じぐらいので、依頼主の親に久しぶりに会った少女は涙ぐみながらパパ、ママと言いながら駆け寄っていくのを見た時は感動したものだ。

少女からは心からの笑顔とありがとうのお礼を、そして少女の指に嵌められていた物とは色違いのおもちゃの指輪を貰った。

 

 

「あたしの宝物、故郷のお友達がくれたの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、別の仕事の帰りに人身売買の取引所に首だけのあの少女がいた。

既に心臓は止まっていた少女の目からはあの心からの笑顔は霞も見えなかった。

 

少女の最後の表情は眩しいほどの笑顔も希望のかけらもなく死に染まっていた。

 

 

 

人違いかと、何かの間違いと思った男は売買を取り仕切る男に子供の事を聞くと親から(・・・・)直接買ったと言った。

 

聞くとあの親は、女が孕んだ子供や養子として引き取ったりした子供を売っていたらしい。

 

今回は、容姿のいい子供だったからまた高く売ろうと考えていたらしい。

他にも子供を持つ親を騙して出稼ぎでいい場所を知っていると言って、連れて行った子供を売り飛ばしたこともあるらしい。

 

母親は売った金の半分を貰い。男はその半分と女を抱いた快楽を得る

 

さっきも言ったように容姿が整っている子供は特に高く売れる。上手くいって子供が働けば仕送りも貰える。

 

 

そんな帝都でも上位に入るほどの最低な人間だった。

人を食い物にする怪物にもなれない。自分はあの親を可哀想な人間だと思った。

 

 

 

 

少女は売られた翌日にどうやってかは分からないが、自殺防止の為の猿轡を外して自ら舌を噛み切って死んだらしい。

他にも(・・・)不可解な事があっらしいが、詳しいことまでは頭に入ることはなかった。

少しでも損失を補填するために売れ残った余り物を一応置いてはいるがそれ以外については食肉加工場(人肉解体所)や研究所に売り飛ばしたらしい。

 

 

 

 

取締りの男はあの親に不良品を買わされた。落とし前をつけに行くと言っていた。

 

その話を聞いた後、男は少女を取り締まりの男から買い。貰ったおもちゃの指輪を少女と一緒の棺に納めた。

 

自分(怪物)が持っているにはあまりにもそれは似つかわしくなかったから。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

思い出したくない過ぎ去った過去を幻視していた男は、ハッと我に帰ると心配するような眼差しで自分を見つめる少女の方へと振り向いた。

 

遠目で見てても分かってはいたが、やはり整った顔をしている少女は愛らしい容姿の中に傷だらけのその小さな体躯は何とも言えない庇護欲を掻き立てられるかのようだった。

 

 

「あ、あぁ、大丈夫だよ。…ちょっと、…………ちょっとぼーっとしてただけなんだ。」

 

 

我ながら、下手な言い訳だと感じながら少女の心配するような目から逃げるように顔を背ける。

 

 

「………そっか。」

 

「それよりもお嬢ちゃんはこんな所で何をしているんだい?」

 

「探してるの。」

 

「探してる?探してるって、一体何をだい??」

 

こんな夜中に出歩いてまで何を探しているのか見当もつかない男は少女に問い返す。

 

「分からない。分からないの。何を探してたのか分からなくなっちゃって、でもとっても大切なものなの。」

 

「…そうか。ならもし良ければだけど少しだけならお兄ちゃんも手伝おうか?」

要領を得ない少女の答えに、男は手掛かりも何も無い探し物に手を貸そうと思った。

 

きっとあの少女への贖罪だろうと心の何処かでは思いつつも。

 

 

 

 

 

少女のその小さな歩幅に歩調を合わせつつ、男は色々なものでごった返してる細い路地に目を通しながら夜の道を歩く。

 

少女もその小さな目で探し物を必死に探している。

 

こんな危険な帝都の一際夜の貧民街で何かを探す少女の大切なものとは一体何なのか?興味が無いわけではなかったが、聞き出そうとするつもりはなかった。

関われば少女を不幸にしてしまうのでは無いかとの危惧から聞かなかった。

 

 

 

怪物(自分には)の居場所はどこにも無いほうがいい。大切なものも(故郷の妹)不幸にしてしまうから。

 

 

 

「…ちゃん。お兄ちゃん!」

 

「!?。…なんだい?どうかしたのかい?」

 

「今日はもう家に帰ろうかと思うの。ありがとうございます。お兄ちゃん。」

 

「もうそんな時間か。」

 

 

いつの間にか貧民街を抜けていた。

 

男と少女は水平線の向こうから登る太陽が暗い世界に明るく差し込もうという時間帯まで少女といたらしい。

いつにも増して朝日が眩しいと男は感じた。

早く帰りたいと思った。

 

 

「お兄ちゃんは本当に優しいね。最後にお願いしてもいい?」

 

「?…あぁ、なんだい?」

 

少女は軽く折り曲げた右手の小指をこちらにそっと向けて若干緊張した様子で尋ねてきた。

 

「私とお友達になって欲しいんです。」

「私、お兄ちゃんと一緒に探してて大切なものがなんなのか分かったような気がするんです。」

 

「…」

 

「きっと私の探しているものって、隣で助けてくれる友達なんじゃないかって。私はきっと友達を探してたんです!」

 

約束しても2度と会うことはないだろう。

少女の探し物はもしかしたら辞めさせたほうが良いのかもしれない。知らない方が幸せということも特にこの帝都では多くあるのだ。

そして自分はともかくとして目の前の少女はこんな時間に毎日うろついていては殺してくれと言っているようなものなのだ。

 

何にせよ自分や少女もこの帝都で長生きすることはないだろう。

 

 

なら少しだけ、こんなささやかなものでもいいのなら少女の望みを叶えてあげよう。

 

 

「あぁ、約束しよう。」

そう言うと、男は少女の左手の小指と自分の左手の小指を絡めた。

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 

幻視した少女の笑顔と彼女の笑顔が男には重なったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっトいっシょだよ。」

 

 

 

「あっ、が、グアアアァァァァァァァァ!?!!。」

 

自分の左肘から先から大量の血が噴水のように飛び出していく。左腕を失った激痛と喪失感にバランスを崩した男はたまらずに地面に倒れ込む。

 

足元の地面が赤く、紅く染まっていく。

 

大量に失血して、身体中が寒さを感じるよりも早く男の体は冷たくなっていく。

冷たい地面と男の体温が同じになるにつれて、急速に鈍り始める感覚と目蓋が重くなって今にも2度と覚めない眠りにつくような恐ろしい感覚が体に走る。

 

必死に永遠の眠りに抗う男に、少女の様相は先程までの愛らしい少女ではなく顔の右半分の斜めに残った左半分とは不釣り合いな大きな目が自分が死ぬのを嬉々として待っているかのように凝視していた。

 

だがその声音は子守唄を歌う様な慈悲深いもので男に語りかけてきた。

 

 

「私はお兄ちゃんと会うずっと前から、友達を探してたんだよ。

ずっと自分が何をしているのか分からなかったけど、やっと自分の大切なものをお兄ちゃんのおかげで思い出せたの!

 

昔から私はその子とずっと一緒にいたの!一緒に手を繋いで、遊んだ一番最初の大切な大切な友達を!!

でも私ね最初はお兄ちゃんをお友達にするつもりはなかったの。でもお兄ちゃんは私をいっぱい助けてくれたから、私もお兄ちゃんの友達になってそれよりもいっぱい助けてあげたくなったの。

 

それに寂しく無いよ。お友達になってくれた人はいっぱいいるの!!」

 

 

 

そう言うと少女は背中のリュックサックから大量の腕を取り出して並べ始めた。

全て小さく細い腕で大きさから子供だと男には分かった。

 

 

 

「この子は初めて遊んでくれた黄色い髪が綺麗な私と同じ女の子で、この子は病気で遊び相手が欲しいって言ってきてくれて友達になって、この子達は私と同じぐらいなのにみんなで協力して仕事をしてたんだって、すごいよね!それでこの子は……」

 

 

 

あまりの光景に絶句した男が目に入らないのか、少女は夢中で(友達)を紹介していく。

 

 

 

「最後にこの子は、本当のお母さんとお父さんに合わせて欲しいって言って友達になったの。」

 

その腕の手には薬指に見覚えのあるおもちゃの指輪が嵌っていた。

 

 

 

 

「か、怪物。」

 

その言葉を口に出してすぐに男は内心で否定する。

 

怪物は最初から怪物などでは無い。

最初は何処にでもいるただの人間なのだ。

 

湖に小石を投げれば水面が波打つように小さくとも何か切っ掛けがあるのだ。

 

帝都の市民から恐れられていたオーガも、残酷な性癖を持つ貴族も、狂戦士(バーサーカー)のようなエスデス将軍も、帝都を地獄に変えた諸悪の根源たる大臣(オネスト)も。

 

 

 

だが目の前にいるのは欲求を満たすために人を食い物にするとかそんなモノではなく

ただ粛々と当然のように死を撒き散らす疫病か、厄災か、それよりももっとおぞましく、恐ろしい、無害な少女の形をした形容し難いナニ(怨霊)かしか男には分からなかった。

 

 

 

そしてその言葉を最後に(怪物は人間に)は永遠の眠りについた

 

 

 

「お兄ちゃんは大人の人だけど、優しいからきっと私とみんなの良いお兄ちゃんになれるよ。早くハルにみんなを紹介したいなぁ。…………あれ?私今なんて言ったんだっけ??」

 

 

 

少しの間思い出そうとするも、結局思い出すことはなかった。

 

ユイは男の腕を大切そうに拾うと他のも纏めてリュックサックに入れて日の光を避けるように路地の闇へと消えていった。

 

 

 




本当は今回の話は倍ぐらい長くなる予定だったんですが、1日でも早く投稿したいと考えて分割にしてしまいました。

次の次くらいの話はストーリーの都合上出来ているので、次回は2話まとめて更新できるかと思います。

それではまた次の投稿まで気長にお待ちくださればと思います。

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