ヘリの機内に蛍光灯なんて贅沢なものはありはしない。ハッチを閉じたなら、機内を照らすのは窓から差し込む光だけ。でも、今日はあいにくの曇りだ。だから、機内は仄暗い。隣の奴の姿を確認して、その奥は寝てるのか起きてるのかもわからない有様だ。
隣の奴の肩の部隊章はかろうじて見える。ドクロと410の文字、それを消すような4本の白線。暗闇の中でもほんのりと見えた。我らが410小隊の部隊章。囚人服の代わりだ。
森林用迷彩服にケブラーの防弾チョッキとヘルメット。鉄血人形相手に申し訳程度の防具だ。ぶっちゃけ、防弾チョッキ要らないんじゃないかと思ったことは一度どころではない。ヘルメットはヘリの機内でぶつけても平気なように被るけど。
「小隊長……プロセッサー49! LZまで5分!」
隣に座っていた小隊陸曹が耳元で怒鳴る。ローター音がやかましいから、腹の底から声を出しても聞こえるのがやっとというくらいだ。
だから、準備いいかの合図は拳のぶつけ合いと俺の小隊は決めてある。拳の小指側同士を隣の奴と打ち付け合い、反対側まで到達したらまた戻すという、伝言ゲームだ。
拳はすぐに戻ってきた。手元の小銃を一度確認し、次に傍らの狙撃銃を確認する。大丈夫。行けるね。
ヘリ後部のランプドアが開く。後部乗員が目視で着陸地点を確認しながら、ヘリは旋回して着陸地点へと接近する。もうすぐだ。
次の瞬間、ヘリが大きく揺れた。地上からはいくつもの光。鉄血人形が対空射撃を始めたのだ。だから空挺降下にしようと言ったのに、あのクソッタレ上層部め。懲罰部隊だからって無茶苦茶しやがる。
「小隊、降下用意! 立て! 環掛け! 手袋はめ! 装具点検報告!」
身振り手振りとともに号令を出すと、小隊員たちは手早くロープにカラビナをかけ、降下用の分厚いグローブを嵌める。だが、鉄血人形はそれを許そうとしない。
激しい銃撃のうち、一発が後部乗員を捉えた。落下防止のためにスリングを掛けていた彼は、体の半分を吹き飛ばされ、下半身だけがランプドアから落ちずにそこにあった。
「落ちるぞ!」
ヘリが急激に回転を始める。オートローテーションだ。嗚呼、墜落は免れないな。
「掴まれ!」
トルーパーシートやロープ、その辺の取っ手と、掴まれるところに誰もが掴まり、運命の時を待つ。見えていた青空と草原が消え、目の前を暗闇が覆った。
※
声にならない悲鳴をあげた。目の前はまだ暗い、日の出前の部屋だ。またあの夢を見ていたらしい。本当に寝覚めが悪い。
腕時計を見ようとすれば、左腕が動かない。右腕もだ。動作確認の結果、動かないのは腕だけ。ならば、原因は大体予想がつく。まずは、首を左に向けてみる。
「……指揮官? 怖い夢でも見たの?」
「……45か。まあ……ヘリが落っこちる夢さ。何度見ても酷い話だったよ」
茶鼠色の髪をサイドテールにまとめた少女、UMP45はゆっくりと目を開けて訊いてきた。左腕は彼女に抱き枕にされ、動かさなかったのだ。撫でてやりたい衝動に駆られるが、どっちの腕も動かないから仕方ない。
そう思っていたら、UMP45の方から頭を撫でてきた。まるで、子供をあやすかのように。
「大丈夫よ。私と
右に目をやると、茶髪をツインテールにまとめたUMP45にそっくりの少女、UMP9も頭を撫でていた。にしし、と笑いながら。
「大丈夫だよ、指揮官」
——私たちがいるから!
あの時と同じ、その言葉にどれだけ救われただろう。縋りたいと思っただろう。生きては帰れないと知っていながら、俺だけその救いに縋ってしまった罪悪感が拭えない。
だから、それを忘れたくて、抱きつく2人を一度振り払い、自ら抱き寄せた。寝ぼけていたという事にして、この温もりに、優しさに、好意に、甘えてしまおう。
2人も、少し驚いた後に笑って抱きついてくる。細やかな幸せを感じ、もう一度眠りにつこうか。今度は、きっといい夢が見れるはずだから。
両耳から聞こえる少女の寝息は、まるでオルゴールのように、子守唄のように、心拍を、心を穏やかにして眠りに誘ってくれる。
ん、と声を漏らしてUMP45は姿勢を変える。足りない、とでも言いたげに頭を包み込むように抱きしめてきた。だけど、鼓動は聴こえない。当然か。
少し残念に思っていたら、何故かトクン、トクンという規則正しい鼓動の音に、振動まで伝わってきた。UMP45の胸は正直言って仕舞えば貧相の部類ではあるが、鼓動は直接伝わりやすい。
勝手に変なオプション付けたな? こんな事やらかす共犯者なんて、ペルシカさんくらいかと、白衣に何故か猫耳のついた研究員の顔を思い浮かべる。まあ、今度ばかりはグッジョブと心の中で賞賛しておこうか。
「しきか〜ん……ゆっくりお休み〜」
絶対起きてるだろ。そんな野暮ったい言葉、言えるわけもない。甘えると決めたのだ。存分に甘えさせてもらおうか。
起きてからUMP9がヤキモチを焼いた事については、また別の話だ。