硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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第11話

 医療施設内部へ突入した一行は内部を慎重に進んでいた。今のところ何も聞こえない。銃声ひとつ、響いてこないのだ。

 

 先頭を行くUMP姉妹は警戒を解かないが、何も出てこない。全て死に絶えたかのように。静寂がその場を支配する。

 

「左側方、クリア」

 

 曲がり角を確認した指揮官はそう伝え、前進を促す。単暗視装置の向こうに、鉄血一体いない。それが逆に不気味でたまらなかった。

 

「前方、サーバールーム確認。指揮官、あれが目標よ」

 

「早く確保して、早くおさらばしよう」

 

 416の報告にM16が軽口を付け加える。キッと睨む416の頭をそっと撫でて、その場をなんとか収める。よしよし、あとで可愛がってやるから。

 

「指揮官……なんか怖いよ……」

 

「おいおい11、暗い病院とかホラーとかダメなタイプ?」

 

「もうやだ、帰りたい……」

 

「じゃ、さっさと終わらせて帰ろうか」

 

 指揮官は今度はG11の頭を撫でてやり、なんとか落ち着かせる。G11はメンタルをやられ易い。指揮官が404の指揮をするようになってからというものの、指揮官と書いて精神安定剤と読まれている。

 

「ドア破るから9、閃光弾頼む。AR小隊は後方警戒、行くぞ」

 

 指揮官はドアノブに手をかけ、UMP9は閃光手榴弾のピンを抜き、構える。いつでも突入可能だ。

 

 さあ、行こう。指揮官がドアノブを回して扉を蹴り、UMP9が閃光手榴弾を投げ込む。響く爆音を合図に416とUMP45が突入。遅れて指揮官とUMP9が入り、G11は後方を警戒する。

 

「左、敵2つ!」

 

 416は目についた鉄血人形へ即座に射撃、先に撃破する。いつも通り完璧な腕前だ。

 

「ナイス」

 

「私は完璧よ」

 

 他に敵がいないことを確認し、指揮官はコンソールに向き合う。データを基地に送るのだ。何故かは知らないが、カリーナが必要としているらしい。

 

「よし、サーバールームを制圧したし、あとは転送を待って施設の掃討に」

 

 そこまで言ったところで、突然サーバールームに人影が侵入して来た。咄嗟に戦闘態勢を取るが、それは鉄血人形ではなかった。

 

「動くな!」

 

「こっちはグリフィンだ、銃を下ろせ!」

 

 目の前の武装集団には見覚えがある。それでも、油断すれば撃たれるのだ。プロセッサーは銃を構える。相手は、肩に双頭の鷲のエンブレムを貼り付けていた。

 

 ロシア正規軍特殊作戦コマンド。410小隊ではない、存在する正規軍だ。それも特殊部隊。まさに一触即発。お互い閉所戦で気が立ってるところにこれだ。

 

「……銃を下ろせ、味方だ」

 

「よし、下ろせ」

 

 指揮官がゆっくり銃を下ろすよう合図すると、相手もゆっくり銃を下ろした。ここでやり合うつもりはないのはお互い様と言うことだ。

 

「ここはグリフィンの担当のはずだ。正規軍がどうしてここに?」

 

「ELIDの目撃報告があった。グリフィンの手に余るだろう?」

 

「ELIDが?」

 

 正規軍側の指揮官から得た情報は、予想の斜め上を行く。

 

 かつて、地球上で相次いで発見された遺跡。そこに残されていたコーラップス崩壊液と呼ばれる物質。

 

 そして、2030年に起きた北蘭島事件。埋め立てられたはずの北蘭島遺跡にて大規模なコーラップスの流出が発生。破滅的な大爆発を起こした上、成層圏まで舞い上がったコーラップスはジェット気流に乗り、世界へ広まる。

 

 高濃度のコーラップスに感染した者は即座に死に至る。だが、低濃度の場合は即死には至らず、変異を起こし、俗に言うゾンビのようなものに変貌してしまう。この広域性低濃度放射感染症こそが、E.L.I.Dであり、この汚染による生存圏の減少が第三次世界大戦のトリガーとなった。

 

 そして、衰退した国家と鉄血への対処を請け負い、台頭し始めたのがグリフィンをはじめとするPMCというわけだ。

 

「まだ弱いやつだ。お前らの武装でも対処できるが……先に突入した410は全滅したようだ。5本線」

 

 正規軍指揮官はプロセッサーの胸を見て5本線と呼んだ。何か知っているというのか。416は耳聡く反応した。

 

「……あんた、その5本線について何を知っているの?」

 

「本人から聞いたらどうだ?」

 

「記憶喪失なのよ」

 

「……元スペツナズ随一と呼ばれた狙撃手、後にも先にもこいつだけの5本線、それに……」

 

 ——3本線を背負って消された(410Gone)、兄貴のバディだった男だ

 

「待って、貴方は……」

 

 416だけではない。404小隊の全員の記憶が呼び起こされた。プロセッサーのバディ、デストロイヤーに挑み、死んでいったであろう男。あの姿が。

 

「コードネーム"スピア10"時村慶一郎の弟、時村勇吾。久しぶりですね、くろさ……」

 

 漸く、待ち望んだ名前を聞ける。筈だったのに、目の前を横切るこの金の弾体はなんだというのだろう。40mm榴弾が、プロセッサーとスピアの間を飛んで行く。

 

 ——指揮官!

 

 届かない、伸ばした手はプロセッサーに届くことはない。416も、9も、45も11も、AR小隊でさえも、その手は届かず、過ぎ去った榴弾は壁に命中、炸裂した。

 

 コンクリートの破片が飛び散る。爆風か、破片が襲ってくる。プロセッサーが、スピアが、正規軍兵士が吹き飛ばされる。人形たちも近くのものは吹き飛ばされ、床に打ち付けられた。

 

「クソッタレ!」

 

 スピアはヘルメットとプレートキャリアが破片を防ぎ、致命傷は免れた。だがプロセッサーはニット帽如きに頭を守れるわけもなく、防弾プレートのないチェストリグもやすやすと破片が突き抜けたようだ。

 

 頭部に当たったコンクリ片が意識を奪う。飛んで来た榴弾の破片が体に突き刺さる。そして、崩れた壁は、彼の上に降り注ぎ、埋めてしまう。

 

「指揮官!」

 

 悲鳴をあげたのは自分が、他の全員か。416は咄嗟にプロセッサーに駆け寄り、他の全員は榴弾の飛んで来た扉に銃口を向ける。スピアたちが出て来た扉だ。

 

「おいグレネード撃ったのどこの誰だ、味方だぞ!」

 

『誰も撃っていない、そのセクターに行ったのはスピアだけだ。待て、コンタクト!』

 

「ELIDか?」

 

『違う! 鉄血の襲撃だ!』

 

 無線から漏れ聞こえる悲鳴は、誤射ではないことと鉄血の襲撃を知らせる。そして、廊下の向こうに浮かび上がる幼いシルエットに不釣り合いなグレネードランチャー2挺を装備した姿、デストロイヤーが見え始めていた。

 

「よくも、指揮官を……!」

 

 珍しく怒りをあらわにするM4、全員が、怒りをあらわにしていた。

 

「まず指揮官さえ潰せばあとは雑兵ね。あの時のお返しよプロセッサー……」

 

 そして、デストロイヤーは驚愕の表情を浮かべた。視線の先にいたのはスピア10。時村勇吾だ。

 

「スピア……死んだはずなのにどうして!」

 

「……お前が、兄貴の仇か」

 

「……そう。なら、あんたも送ってあげるわ!」

 

「ここは私と45姉がやるから、みんな早く指揮官を掘り出して逃げて!」

 

 UMP9が叫ぶ。ここでグレネードランチャーを持った相手と戦うのは不利だ。だから、指揮官を救出して逃げるのが先決。M4も頷く。

 

「任せました!」

 

 UMP45が時間稼ぎに発煙手榴弾を投げる。それは、まるで狼煙のようだった。

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