UMP45が時間稼ぎに炊いた煙幕が通路を覆い尽くす。スプリンクラーなんてとうの昔に壊れているから、今更反応なんてしない。
しばらくデストロイヤーは狙いを定められないだろう。この間に指揮官を救出すべく、戦術人形たちは瓦礫に集まり、掘り起こし始めた。
着弾したグレネードは壁を崩した上に、天井の崩落まで起こしたらしい。鉄筋が見える。指揮官は生きているだろうか。そんな不安がよぎる。
「指揮官……嫌だよ、死んじゃって……」
「こら11! 縁起でもないこと言わないで掘り起こしなさい!」
416は叱りつけながらも必死に瓦礫を動かす。1番大きい瓦礫で、1人ではどうにも持ち上がらない。この下に指揮官がいる。なんとしてでもどかさなければ。
「手伝います!」
「合図で動かすぞ!」
そこに、M4とM16が手助けする。普段あまり仲の良くない相手ではあるが、指揮官を助けるためだ。断るわけにはいかない。416は頷く。
「せーの!」
瓦礫が動く。その下に、他の瓦礫がいい具合に積み上がって空間ができていた。指揮官は動かない。
「見つけた、早くどかして!」
「わかってる! AR-15は基地に連絡して救援ヘリを呼べ!」
「ええ、HQ、こちらAR-15。プロセッサー重傷、至急救援を要請します!」
無線からの応答はない。そう言えば来る時も指揮官からの無線にカリーナが反応しなかった。余所見しているのかと思っていたが、違ったのだろうか。
「無線が通じない!」
「どこかにジャマーでもあるんじゃないの!?」
416は瓦礫をどかしながらやけっぱちになって叫ぶ。それに反応したのはスピアだった。
「そうだ、この病院の最上階にジャマーが設置されてる。俺らはそれをぶち壊しに来たんだ。病院内で短波無線使う分には問題ねえけど、外はダメだ。通じねえぞ」
「早く言いなさいよ! つまり、それを壊せばいいのね?」
「少なくともそうすりゃ通じるはずだぜ! 先に黒坂を掘り出してやれ!」
「それか、名前?」
416は必死に瓦礫をどかしながら聞き返す。何言ってるんだこいつは、そういう顔で時村は416を見た。
「名前、知らないんだったな。こいつは黒坂零士。それが名前だよ……!」
「レイジ……」
瓦礫をある程度払いのけ、G11は零士の頬を叩く。だが、なんの反応もない。まさか、嫌な予感がした。チェストリグを外し、胸に耳を当てるが、なんの音も、鼓動も感じられない。心停止だ。
「416、指揮官の心臓動いてないよ……」
「嘘でしょ!?」
416は零士に飛びつき、鼓動を聞こうとする。だが、何も聞こえない。何も伝わらない。本当に止まっているのだ。
救出は一時中断し、蘇生を優先する。幸い、硬い床の上だから胸骨圧迫の効果は高まる。416は即座に胸骨圧迫を開始し、M4は気道を確保、人工呼吸を始める。
「起きなさい! 何勝手に死のうとしてるのよ!」
「指揮官……! 起きて! 嫌……嫌!」
その間にも他の戦術人形たちは瓦礫の撤去を続ける。だが、そろそろUMP姉妹だけでデストロイヤーを相手するのも限界だろう。爆音が響き、援護していた特殊部隊員たちも次々と蹴散らされている。
「クソ、こっちは全滅かよ!」
「スピア、お前はここにいてくれ。SOP! AR-15! 出番だ!」
「うん!」
「ええ……M4、指揮官をお願い!」
M16は銃を取り、2人を引き連れてUMP姉妹と交代に向かう。2人には404小隊で屋上のジャマーを破壊してもらうのだから、こんなところで消耗されては困る。
その間にも416は蘇生を試みる。迫る死を遠ざけるように、必死に胸骨圧迫を続けるが、なかなか目を覚まさない。
「なんで、なんで起きないのよ! やり方は完璧なのに……!」
「諦めないで! 指揮官はまだ死んでいないわ!」
「わかってるわよ!」
「416、これ使えない?」
そんな中でG11が見つけたのは、グレネードで破壊された天井から垂れる配線。電力供給用のケーブルが2本垂れていた。コンソールの電力を供給していたのだろう。もしかしたら、電気ショックに使えるかもしれない。
「よく見つけたわね。離れなさい、試すわ!」
M4は指揮官の体から離れる。G11が服を脱がせ、416は胸と脇腹にケーブルを当て、電気ショックを与える。指揮官の体が海老反りになり、電気は心臓に届いた筈だ。
胸に耳を当てる。それでも、まだ動いていない。早く、早く戻ってきてくれ。416は祈るように、もう一度ケーブルを構える。
「漸く、名前を取り戻したの。あなたを罪から解き放ってあげられるのに……こんな終わりは許さないわよ!」
再度、電気ショック。それでも、まだ心臓は動かない。M4とG11の悲鳴が、嘆きが聞こえるが、416はまだ諦めない。この男は、また立ち上がる。
存在を、名前を、居場所を奪われ、戦場を彷徨う亡霊。不遇な404小隊との出会いは、傷の舐め合いだったのかもしれない。
それでも、いつだって一緒だった。グリフィンの前線指揮官という表の顔とともに、404小隊長という裏の顔。任務に出る時は、いつしか彼が一緒にいることが当たり前となった。
「戦績も評価も、何もかも……居場所も、名前でさえも、私が、私たちが用意してあげる。だから、だから……」
——私たちのために生きて!
タトゥーではない、涙が落ちる。祈るように、3度目の電気ショックを与える。この残酷な世界に、もし神がいるのだとしたら……この先何があってもいい。彼となら乗り越えられる。だから……どうか連れていかないで。
刹那、閉じていた目が開いた。電気ショックに遅れて見開かれた目。そして、激しい咳。それは、蘇生を意味した。
「4……16……?」
咳き込みながら名前を呼ぶレイジを、416は涙を流しながら抱きしめていた。