逃走を続けるAR小隊だが、建物から出た途端に敵に捕捉されてしまった。窓から銃撃が降り注ぎ、適当な塀に身を隠して応戦している。
時村も零士を地面に転がして応戦するが、敵が多い。この馬鹿野郎が起きていれば狙撃で片付けて貰えたのに。そう悪態づきながら必死の応戦をする。
「おいM4! 2班に分けて、相互に援護しつつ後退するぞ!」
「了解! SOPとAR-15はスピアと組んで!」
M4の素早い指示で2班に分かれる。零士は担いで運ぶ以上目標となりやすい。素早く移動しつつ、火力支援が必要だ。
「行くぞ!」
時村は零士を担ぎ、走り出す。SOPとAR-15は後ろ向きに走り、撃ちながら後退。頼む、当たらないでくれ。そう願うばかりだ。
だが、願いは早々届かない。時村は足に被弾してしまい、転倒した。投げ出された零士は地面を転がる。
このままではまずい、匍匐で逃げようにも遮蔽物まで少し距離がある。死んだ、そう確信した時村だが、SOPが襟首を掴んで引きずり、なんとか物陰に隠してくれた。
「指揮官のこと知ってる人なんだから、まだ死なないでよ!」
「悪い、しくじった!」
なんとか応急処置を施しつつ、零士を見るが、既にそこにはいない。AR-15によって物陰に運ばれたようだ。
さあ次の手は? そう思ったところに、軽い銃声が響く。
AR-15の銃と同じ、大型のサウンドサプレッサーと高倍率スコープ。だが、レシーバーに刻まれた5本の白線がよく目立つ。罪の跡を表すかのような、5本の爪痕。零士の銃だ。
「クソが、そっと下ろせよな」
「うるせえ、いつまで寝てんだ馬鹿野郎」
「416に絞め落とされたんだよ。デカめの胸で窒息死とか」
そこまで言った零士の頭をAR-15が思い切り引っ叩き、パチンといい音が響く。410にいた頃並みに口が悪くなっているが、ちゃんと目覚めたようだ。
「いって!」
「指揮官、女性の前で下品なことは……!」
「わかったわかった、状況を」
これ以上痛む頭を叩かれたらたまらないと即座に降伏宣言しつつ、状況把握に努める。なんで404小隊がいないのかがわからないのだ。
「屋上のジャマーを壊しに行っています」
「カリンが応答しないのはそのせいか。居眠りかと思ってた」
「多分、両方では?」
「あとでお仕置きだな」
零士は立ち上がろうとして盛大に転ぶ。右足がなくなったのを忘れていたのだ。まだ、そこに足があるような感覚があるというのに。
「……幻肢感ってやつか」
ため息をつき、しゃがんだ姿勢で狙撃を始める。その間に、M4とM16も後退してきた。
「指揮官……! 目が覚めたんですね!」
「どこぞの阿呆に放り投げられたからな。頼みがある。着陸地点近くの丘に連れて行ってくれ。404を援護する」
「相変わらず無茶するねぇ。M4、行くかい?」
「はい、AR-15は指揮官を連れて丘に。残りは着陸地点に離脱します」
「ええ、行くわよ、指揮官」
AR-15は零士を担ぎ上げ、走り出す。M4は大丈夫と自分に言い聞かせ、着陸地点へと急行する。大丈夫、指揮官ならなんとかしてくれる。そう思っていた。
※
404小隊は追いついてきたデストロイヤーと交戦する羽目になっていた。相手の火力は圧倒的だが、屋上への階段を塞がれた以上、倒す他ない。
「っ! やっとここまで来たのに!」
「急いでよ416、指揮官のお膝が壊死しちゃうから……」
「じゃあアンタも戦いなさいこの寝ズミ!」
「榴弾がポンポン飛んで来てるのに?」
全く豪勢なものだ。UMP姉妹も制圧されて手も足も出ない。やれることと言えば、煙幕で狙いをつけられなくすることくらい。あと一つ上だというのに。
「9、ザイル持ってる?」
「うん、持ってるけどどうするの?」
どうやら、UMP45がいつも通り打開策を見つけたらしい。フック付きのザイルでやることと言えば一つしか考えつかない。
「煙幕が効いてるうちに、そこの窓からザイル投げて上に上がれる?」
「やってみる!」
UMP9は窓を開けると、屋上へとザイルを投げる。上手く手すりに巻きつき、フックが引っかかって固定された。
「9と11は上に上がってジャマーを壊して!」
「うん! 行ってくるね!」
「高いところ怖いけどお膝のため、指揮官のお膝のため、お膝でお昼寝……」
UMP9はスイスイと登り始め、G11は何やら念仏を唱えながら登り始めた。聞かなかったことにしよう。いつものようにビビって擬似人格を出してないだけまだマシだ。
でも、膝に一番乗りするのは私だと、416は心の中で対抗心を燃やしていた。
UMP9が屋上に上がってみると、そこは破壊された鉄血人形がそこかしこに転がっている。どれも、頭に小さな穴が空いている。狙撃だ。データリンクで位置を知られないように、コンピューターの中枢がある頭部を正確に狙い撃っていた。
「これって……!」
思い浮かぶのはあの丘。目をやると、キラリと光って見えた。スコープの反射光。それで、モールス信号を送っていたのだ。
「アンシン……シロ、マモッテル……」
G11が読み解いた内容を呟く。やはり零士だ。生きているのだ。そして、狙撃で守ってくれている。
UMP9は込み上げてくる涙をぬぐい、手を振る。目視出来ないが、きっと振り返してくれているだろう。ならば、やることを済ませるばかりだ。
「手伝って!」
「うん……!」
2人で爆薬の設置を始める。背後から物音がしても無視して。その度に聞こえる銃声が安心させてくれる。ちゃんと、守っていてくれているのだ。
ずっと見てきた、正確無比な狙撃能力。足がなくなっても、それは色褪せない。いつも、どこかから守ってくれる。亡霊の名にふさわしい、そんな心強い味方。
ジャミング装置にようやく爆薬を仕掛け終えて振り返ると、破壊された鉄血が増えていた。ありがとう、そう心の中で呟き、ザイルを伝って下に戻る。あとは、起爆すればいい。
——ありがとう、指揮官
UMP9はそう呟くと、起爆スイッチを押した。遅れて響く爆音とともに、ノイズしか聞こえなかった無線が急にクリアになり、声が聞こえた。
『こちらHQ、聞こえますか!? 救援ヘリを向かわせています!』
カリーナの声。それと共に聞こえるヘリのローター音が、まるで天使の声にも聞こえていた。