硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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昨日が土曜日だと思ってた…


第15話

 ヘリのローター音が響き渡る中、零士は寝転がり、空を見上げた。大型ヘリの救助が来たのだ。404小隊がやってくれたのだ。

 

「愛してるぞ404!お前たち最高だ!」

 

 込み上げてくる笑いとともに叫ぶと、なにやら不満そうなAR-15に蹴られた。それに関しては少々不服だが、助かった。

 

「プロセッサー49から404、誰か聞こえるか? ジャマー破壊を確認した」

 

『こちら416、目が覚めたの!?』

 

「ぶん投げられたからな。撤退できる?」

 

『デストロイヤーに足止めされてるわ!』

 

「援護する」

 

 建物の窓を狙う。416たちが走っているのが良く見える。それを追いかけるデストロイヤーの姿もスコープに映った。時村をやった、あの時と同じ容姿だ。

 

 発砲。だが、手応えがない。引き金の重みとは違う、当たったという確信がない。スコープの向こうでは、狙ったところとは違う窓が割れていた。

 

「……おかしいな」

 

 外した。当たったはずなのに。もう一回。レティクルにデストロイヤーを捉え、もう一度。耳をつんざく銃声が、視界の先で砕ける窓ガラスが、遠い。

 

「指揮官、外れてるわ! しかも大きく!」

 

「ごめん……」

 

 振り向けば、止血したはずの足から出血が止まっていなかった。そこには、血溜まりができている。

 

「膝下で止まらない……もうちょい上に……」

 

 血管は切断されると弾力で引っ込むことがある。そのせいで止血が不十分になることもあり、傷口から10cm離して止血帯を巻くようになっている。

 

 少し足りなかった。もう一本の止血帯を巻こうとするが、思うように動けない。失血で思考も鈍り始めたのか。視界が、霞んでいく。

 

 アドレナリンも切れた。痛みがないのは、脳がエンドルフィンを放出しているからだろうか。そこにあるはずの足から出血している。

 

 AR-15の呼び声も、無線からのカリーナの叫び声も、ヘリの音も。何もかもが遠く、遠く——

 

 ——少しだけ、寒いね

 

 ※

 

 砕け散る窓ガラス。あの人の銃声。それなのに、どうして当たっていないのか。416は疑問に思っていた。彼が狙撃を外したところなんて見たことない。

 

「ねえ! なんでさっきから指揮官の狙撃外れてるの!?」

 

「分からない! 9、ちょっと無線で連絡してみて!」

 

 この間にもデストロイヤーの攻撃は止まない。高笑いで制圧射撃を繰り出してくるのが、狂気を感じさせる。

 

「もう死んじゃってるよ! 一緒のところに送ってあげる!」

 

「うるさい! 指揮官が死ぬわけないじゃない! ゴキよりしぶといんだから!」

 

 もう少し他の例えがあるだろうとG11が抗議するが無視。応戦しながらも、UMP9はしきりに指揮官を呼ぶが応答がない。

 

『こちらAR-15! プロセッサーのバイタル低下! これより収容します!』

 

 その報告は、あまりにもショッキングだった。傷を、痛みをこらえてまで狙撃で支援してくれたのに、とうとう限界だと言うのか。

 

「ほら、これでどう?」

 

 デストロイヤーの言葉に、底知れぬ嫌な予感がする。止めろ、416は身を乗り出してグレネードランチャーをデストロイヤーへと発射する。

 

 それは間に合わず、デストロイヤーはグレネード弾を数発発射していた。300m先、丘に着陸しようとしていたヘリコプターへと。

 

 止めろ、そんな416の悲鳴は爆音にかき消された。二つのメインローターのうち、一つを破壊されたヘリコプターは火の手が上がっていた。

 

 ※

 

 やっと、助かると思ったのに。AR-15は森の中に身を隠していた。ヘリに乗っていたカリーナもなんとか脱出し、AR-15と共に身を潜めている。M4たちが向かってきているが、それまで見つからないで済むだろうか。

 

「指揮官さま……なんていたわしい……」

 

 カリーナは持ってきていた救急キットで指揮官へ手当を施す。止血をやり直し、断面を包帯で巻いて輸血をしてなんとかバイタルを安定させる。

 

 横たわる指揮官は未だ目覚めない。気絶してすぐにヘリが来たのだが、デストロイヤーの攻撃で破壊されてしまった。

 

 クレーターのようなくぼみの残る森の中は、まるで古戦場。戦いが、昔あったようだ。

 

「……名前、わかりましたよ。元同僚を保護して、教えてもらいました」

 

「元同僚……?」

 

「時村勇吾。スピア9の弟で、コードネームスピア10。指揮官が410小隊に送られる前に一緒に戦った仲だそうです。指揮官の名は、黒坂零士」

 

Rage(憤怒)……それが、指揮官さまの名前……ようやく、取り戻しましたよ……」

 

 ——だから、また生きて

 

 そんな願いも言葉にできず、カリーナは零士の手を取り、その胸に顔を寄せる。泣いているのだろうか。無理もないことだ。

 

「カリーナさん!」

 

 木々の間から出てきたM4たちは指揮官を見て言葉を失う。まるで、昼寝をしているかのようだ。落ち葉の積もる地面で、木漏れ日を浴びて。輸血の管が繋がっていなければ、片足が、なくなっていなければ。

 

「……アレ、不吉なものがあるな」

 

 M16が何かに気付いたようで、木の向こうを指差す。そこにあるのは、銃剣で地面に突き立てられた89式小銃。イチョウの落ち葉の中、ヒャクニチソウで作られた花冠が掛けられた、バトルフィールド・クロス(名も無き兵士の墓標)

 

 誰のものだろうか。分からない。まるで、指揮官の死を暗示するかのようなそれは、不吉にも思える。

 

 3本線が刻まれた89式小銃にくくりつけられているのは、3本の罪線を全て染めた410のエンブレム。

 

「そう、ここが……」

 

 カリーナは思い出す。416から聞いた、零士との出会いの話。ここで散った、彼の相棒。ここにたどり着いたのは、運命か。

 

 ——お願い、まだ指揮官さまを連れて行かないで……!

 

 祈るように、カリーナは零士の手を握る。その手が握り返されたのは、勘違いだろうか。それとも……

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