硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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意外と人気のあったスピア9こと時村慶一郎。その最期が、ようやく明らかに


第16話

「ここが、兄貴の墓か」

 

 遅れて現れた時村はバトルフィールドクロスに歩み寄り、跪く。兄は、ここに眠っているのだ。零士を守って。

 

 遺体の回収を許されない410は、その地に眠る他はない。零士によって建てられたバトルフィールドクロスの他に、彼を弔うものはありはしない。

 

「スピア……それは、あなたのお兄さんの……」

 

 M4が問いかけると、時村は縦に頷いた。時村慶一郎、零士と共に410へと消えた兄の消息が、ここにある。

 

「兄貴の死に際を見たのは黒坂だけだ。410に送られる前に会ったきりだから、死に際はまだ聞けてない。だから、死んでもらっちゃ困る」

 

「……まだ死なねえよ。勝手に殺すな」

 

 弱々しい声。それでも、零士の声だ。覚醒したのだと、その場にいた全員が駆け寄る。カリーナの手当てが功を奏したのだ。

 

「教えてくれ、黒坂。兄貴はどうやって死んだ?」

 

 ※

 

 零士と共に慶一郎、スピア9は森の中を疾走していた。デストロイヤーに狙撃を防がれ、居場所を特定されたのだ。鉄血人形が追いかけてくる。

 

 あの戦術人形——UMP45に3分で回収地点に来いと言われたが、そりゃ無理な話だ。脆弱な人の身であるから、たかだか100mの疾走でも体は悲鳴をあげて息は切れる。

 

 お互い援護射撃しながら後退しても、鉄血の追撃は止まない。木に身を隠して呼吸を整え、落ち着く。こうなれば数を減らすまでだ。

 

 半身を物陰からだし、小銃を構える。それと同時に、1発のグレネード弾が飛んできた。それはスローモーションのように見え、左足へと命中。炸裂と共に爆風で体が吹き飛ばされる。

 

 激しい痛み、息苦しさ。脳を警報が埋め尽くす。飛び散る肉片と骨片は足のものか、何であんな遠くにブーツがあるんだ? 俺のブーツ、変な方向に曲がってやがる……

 

 その間にも、周囲にグレネードが降り注ぎ、スピアの悲鳴も聞こえる。奴もやられたか。

 

「スピア……お前この負傷で3本目か……?」

 

「そういうこった……つまり、罪を赦されてあの世で自由になれるのか……あながち噂は間違いじゃねえや」

 

 スピアは傷口から血をすくい、白線を染める。一回の負傷ごとに罪線を血で染め、全て染まった時罪が許される。そんな言い伝えだ。

 

「プロセッサー、デストロイヤーがそっち行ったぞ……」

 

「天使のお迎えってわけだな……」

 

 失血で意識が薄れる。歩いてくるデストロイヤーは笑っている。まるで、死神が迎えにきたかのようだ。漸く、このクソ溜めのような世界から、救い出してくれるというのだろうか?

 

「人間にしてはやるじゃない。でも、これで終わりね」

 

 やるならさっさとやればいい。機銃がゆっくりとこっちを向くのが、わざと恐怖を抱かせるためにやっているとわかるが、あいにく恐怖なんてものは忘れてしまった。見ているしかできない。

 

 そんな時、デストロイヤーの体から火花が散る。何か命中したのか。なら、聞こえる爆音は銃声か。そんなことをするのは、スピカしかいない。

 

「ああもう! ウザい!」

 

「振り向いてくれたな! 結婚しようぜデストロイヤー ちゃん!」

 

「おいスピア!」

 

 そんなバカなことを叫びながら突進したスピアは、デストロイヤーに正面から抱きつくように、しがみついた。武装を全て封じ込めるように。

 

「アンタ、何言って……!」

 

「もちろん、あの世でな!」

 

 覚悟を決めたスピアはもはや笑っていた。その手には起爆スイッチが握られている。プレートキャリアの中に抗弾プレートではなく、爆薬を仕込んでいたようだ。

 

「まさか……!? 離れろ変態!」

 

「アディオスアミーゴ!」

 

「スピア! スピア……! 時村ァァァァァァァ!」

 

 ——先、行くぜ

 

 晴れやかな笑い顔。響く爆音と、眼前を覆う爆炎。一瞬意識を失い、次に目が覚めた時には血の雨が降っていた。跡形も無くなってしまったスピア。落ちていた89式小銃を地面に突き立てるのが、やっとだった。

 

 じきに、俺も逝くだろう。先に待っててくれ、時村。

 

 その近くの木にもたれると、爆風を食らってボロボロの鉄血人形が立ち上がり、歩み寄ってきた。射撃管制システムを損傷し、近寄って攻撃するつもりなのだろう。

 

 むけられる銃口を、ぼんやりと眺めていた。実感の湧かない死がやって来た。漸く、眠れるようだ。

 

 銃声がこだまする。安らかな眠りを妨げた少女の姿が、霞む視界の先に見える。なんと、美しいのだろう。

 

「何勝手に死のうとしてるのよ」

 

 ※

 

 助けに来た416の姿が、今も目から離れない。どうやら、今となってはそれが恋慕というに等しい感情になりつつあるくらいだ。

 

「そうか。兄貴は赦されて自由になったのか……」

 

「ああ。勇敢だった。俺を囮に逃げればいいものを……」

 

 その死を覚えているものは自分のみ。ここで死んだとしたら、自分の中にいるあいつも消えてしまうのだろうか。それでこそ、410Goneの通りだ。

 

 胸が、苦しい。俺もこうして消滅していくのだろうか。自己存在が、消えていく。

 

「みんな、俺が死んで次の指揮官が来たら、忘れちゃうんだろうなぁ……」

 

 追加要員なんていくらでもいる。俺は、元より使い捨て。身分も何もが分からない怪しい人物。死んだところで、ヘリアンかクルーガーの机の書類の山に埋もれるばかり。

 

『バカなこと言わないで!』

 

 無線から416の怒鳴り声が聞こえてくる。聞いていたというのか。404は戦闘中なのに、どうしてわざわざ。

 

『そいつらは忘れるかもしれないわよ。でも、私が! 私たち404が忘れるとでも思うの!?』

 

「416……」

 

『私たちは泣くわよ。零士、あなたとの任務は楽しかったわ。あんなの知ったら、あなた無しでクソみたいな任務に戻れるわけないじゃない!』

 

 手放しかけた意識が徐々に覚醒する。泣いているのか?416は、まだ待っているというのか。

 

『私が戦績も何も用意してあげるし、片脚にだってなってやるわ。でも、まだあなたの過去を取り戻していない。それに、私たちに必要な人だから……だから、生きて!』

 

 無線を聞いていたカリーナは何も言わずに注射器を取り出し、それを零士へと打つ。

 

「アドレナリンです。少しなら戦えると思いますが、どうされますか?」

 

 カリーナはM24を差し出す。ヘリで持って来ていたのだ。これがあれば、あそこから404を援護出来るかもしれない。

 

 今度こそ、上手くやってやる。仕返しだ。

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