これは夢だろう。なんで夢ってわかるかって?
隣に死んだはずの相棒がいるから。それだけで全ては事足りる。この薄暗い不気味な施設でも、こいつが、時村がいてくれれば怖くはなかった。
——零士、こりゃヤバいぜ
——鉄血人形め、装甲持ちまで出してきやがった
鉄血工造のマークがあちこちに描かれたこの施設は、工場だろうか。これは、俺の記憶? 埋もれている記憶の1つなのだろうか。
410のワッペンはない。ドクロのバラクラバもない。あるのは、使い慣れた89式小銃とM24、アルファ部隊のワッペン。
フロントヘビーな89式は構えてると左腕がキツイ。大体の銃はストックのあたりに重みが来るのに、こいつはハンドガードあたりにズシリとくる。おかげで反動は小さいが腕が持たない。
『こちらスピア10、奴らの抵抗激しく、損害甚大! 退却する!』
『認められない!』
『ふざけるな! 全員死んじまうぞ!』
無線から漏れ聞こえる声が危機を伝える。何がヤバいのか、思い出せない。俺たちはどうして、ここにいる? なんのために、ここに送られた?
思い出せ、ここがどこで、俺は何をしている。そして、聞こえてきた無線はなんのことだ。なんで、鉄血のマークが書いてある施設にいるのか。
『アルファの威信にかけて奪回しろ! 機械とテロリストごときに何を手間取っている!』
テロリスト、機械、鉄血。何か繋がりそうだ。点と点が揃い、線で繋がり始める。まるで星座のように、記憶が繋がり始める。
『敵前逃亡は許さん、仮にも小隊長の貴様が!』
「零士!」
いくつもの声が、選択肢が溢れかえる。この通路の向こうで拳銃を抜く男の姿が見える。そして、その拳銃の先にいるのは勇吾だった。
——撃て!
慶一郎の声が、なぜかはっきり耳に残っている。なぜ、視界に十字のレティクルが浮かんでいるのか。何を、撃てというのか。誰に、その十字を合わせているのか。
俺は、何をした……?
※
体が揺れている。誰かに担がれているのか。アドレナリンが切れて、倒れたのだろうか。ファイアーマンズキャリーと呼ばれる担ぎ方で、両肩で保持する担ぎ方だから、その横顔がよく見える。
「M4……」
「気が付きましたか?もうすぐヘリに着きます」
華奢な両肩。それでもやはり力強い。片足がないとはいえ、大の大人1人担ぎ上げてここまで運んできたのだから。届かない。やはり、人の身は脆弱だ。
カリーナが注射してれた鎮痛剤のおかげか、だいぶ時間が経っても阻血痛はない。でも、そろそろ神経周りに壊死が起きていてもおかしくはない。多分、膝から下は切除することになるだろう。
本当に嫌になる程弱い。それでも、様々な武器への対応が可能と言う利点はある。それだけだが。
2機のヘリは着陸して待機していた。周辺には、先にたどり着いた404小隊が散らばって警戒している。AR小隊は自分を担いで、人間のカリーナもいるから、行軍ペースが遅かったのだろう。
ヘリに乗せられ、トルーパーシートに寝かされる。乗っていた衛生兵が酸素マスクを顔に取り付け、生理食塩水の点滴を始める。
このまま運ばれて、緊急手術だろう。薄れ行く視界の中、404小隊のメンバーが隣のヘリに乗るのが見える。何か言っている。けど、もう聞こえない。416が、泣いているように見えたのはタトゥーのせいだろうか。
※
飛び立ったヘリの機内。404小隊は沈んでいるようだ。指揮官の負傷がよっぽどこたえたのだろうと思われ、敢えてそれに言及するものはいないが、真相は違った。
狙撃を受けて行動不能になったデストロイヤーが最期に発した言葉が、どうしても頭を離れない。何故知っているのか、何があって、そうなったのか。
眠る零士、失った記憶のかけら。それが、こんなところにあるとは思わなかった。しかし、それを知るのはあまりにも残酷すぎた。
——アイツ、懲罰部隊にいたでしょ? 私たちがそうしてやったのよ
——味方を撃った、その情報を鉄血だと気付かれないようにリークしてね
——あんたたちも、後ろから撃たれないよう気をつけなさい
そんな耳障りな言葉を黙らせるために放った最後の1発が忘れられない。マンティコアから一撃貰ったかのように、心は揺らいでいた。
G11も、少し怯えているのか、警戒しているのかよくわからない。45と9は、見た限り相変わらずだ。
時村は、何か知っているのだろうか。5本線の理由を、何か。
「RPG!」
けたたましい警報が鳴り響く。パイロットの叫び声は、ミサイル接近を意味する。森から登る白煙、ヘリがばらまくフレア。その直後、テールローターに対空ミサイルが命中。機体が安定を失い、回転し始めた。
あれは、指揮官の乗るヘリ。それは、回転しながら森に横倒しになって墜ち、機体が大破するのが見えた。遅れて、破損した燃料タンクから爆発が起きる。
全てを包み込む紅蓮の炎。AR小隊と指揮官が乗っていたヘリは、残骸になって燃えている。
嘘だ、これは夢だ。そう信じたい。G11が狼狽える。それをいつもは撫でるなり抱きしめるなりして落ち着かせていた指揮官はもういない。45と9の叫ぶ声が遠く聞こえる。
416は、燃える残骸をぼんやりと見つめていた。それは悪夢であると、信じたかったかのように。