硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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第19話

 404小隊は墜落地点から最寄りの開けた場所にファストロープを使って降下する。ヘリはすぐに空域を離れ、給油して戻ってくるだろう。

 

 ここに来るまでにグリフィンに連絡はした。応援を寄越してくれるかは不明だが、今はやるしか無い。捜索救難活動。それが出来るのは、今のところ404だけなのだから。

 

「11、いつまで狼狽えてるの。行くわよ」

 

「だって、416も見たでしょ? 指揮官、今頃こんがりジューシーに焼かれちゃってるよ……」

 

「チキンみたいに言わない!」

 

 いつも狼狽えるG11を上手いこと宥めすかしてくれるなかなか便利な指揮官はいない。彼が来る前はやっていたことだ。それなのに、どうして何か足りない気がするのだろうか。

 

 早くしなければ鉄血も集まってくる。AR小隊はともかく、指揮官は奪還したい。あの悪運強い男は、きっと生きている。

 

 もし死んでいたとしたら、その時はこの手で弔ってあげたい。回収を禁じられ、遺棄されるしかなかった無数の410の死体の中に、彼を放り込みたくなかった。

 

 壮絶、としか言いようのない経歴。記憶を失うほどの凄惨な戦場へ送り込まれ、心をすり減らし、記憶すらも無くしてしまう。その失くした記憶は、パンドラの箱なのだろうか。

 

 それをどう判断するとしても、見つけなければ。生きていると信じて。鉄血どもが集まってくる前に。ミサイルを撃ってきたということは、どこかにいるということなのだから。

 

 森の中に足を踏み入れると、そこは鬱蒼と茂り、暗く、少し寒い。人が減って、居なくなった土地にはこうして新しい命が芽吹く。そのひとつが、この森なのだろう。

 

「何かある」

 

 45は銃を構えて、その何かに近寄る。戦闘服と錆だらけの小銃、白骨化した遺体がそこに落ちていた。頭蓋骨には穴が開き、肩には2本の白線を引かれた髑髏のワッペンが縫い付けられていた。

 

「かなり昔にここで死んだのね」

 

 416はその遺体の腰にあった銃剣を錆びた小銃に取り付け、地面に突き立てる。埋めてやる時間はない。骨はいつか風化して還っていく。だから、墓標だけ建てておく事にした。体は土に還っても、小銃は朽ち果ててなおここにあり続けるだろう。

 

 こいつは何をやらかしたのか。それは、今となってはわからない事だ。こうして、記憶は消えていく。サーバーにバッグアップすることも出来ない、脆弱性。

 

 どうして、それをサルベージしようとしているのか。どうして、あの指揮官に固執するのか。416には分からない。それでも、生きていて欲しいと願う。なんのバグだろうか。

 

 ※

 

 墜落地点では危機一髪、としか言えない状況になっていた。ヘリが横倒しになったのを幸いに、側面のドアを開けて脱出。零士をM4が、カリーナをM16が抱きかかえて飛び降り、時村は覚悟を決めて生身で飛び降りた。木がクッションとなってくれたおかげで爆発に巻き込まれずに済んだのだが、衛生兵とパイロットはダメだったのだ。

 

 衛生兵は飛び降りたはいいが、遅かったようで爆発に巻き込まれてしまった。木に引っかかって、回収は難しい。

 

「マズイなM4、鉄血が追いかけてくるかもしれないぞ」

 

「ええ、ですが指揮官を動かしていいのか……」

 

 零士は意識を喪失している。この状況下でよく寝ていられるものだと時村は悪態をついているが、状況は好転するわけでもない。

 

「仕方ねえ、ここを防衛しよう。ヘリが燃えて狼煙がわりになるから、味方が気付くだろ。敵もだけどな」

 

 戦術人形は指揮官なしに複雑な作戦の立案は不能だ。それが今ここでできるのは16Labの特殊な戦術人形であるM4と、特殊部隊員である時村、後方幕僚のカリーナの3名。

 

「指揮官さま、少しだけお借りしますね」

 

 カリーナは零士の89式小銃とチェストリグを取る。89式はあちこち塗装が剥げて銀色の下地が目立つ。歴戦の証のようにも思えた。

 

 彼の魂が宿っているかのような小銃。不思議と、それがあれば大丈夫だという気分になる。まるで、何か守り神がいるかのように。

 

「404小隊が回収部隊より先に来ると思います。それまで持ちこたえられれば……」

 

 だが、電波を探知される危険もある。ヘリの墜落で全滅したと思ってくれれば一番いいのだが、電波を出したら生存者がいるのは確実だと判断され、敵がくる。

 

「ほうら、おいでなすった。わんちゃんが来てるぜ!」

 

 時村が叫ぶ。ダイナーゲートという四足歩行型のアンドロイドが機銃をマウントした尻尾を振り上げ、群れをなして突っ込んで来ていた。すぐさまSOPがグレネードランチャーで榴弾を撃ち込み、一掃する。

 

 ダイナーゲートはたいして装甲はない。機動性に特化したのだろうか。その機動を生かされると厄介極まりない。平地ではどこから来るかわからないから、群れで来られると対処が厄介だ。

 

 だがここは森。木々によって指向されたこいつらは大規模な群れで突っ込むことができない。一度グレネードを撃ち込まれたら一気に殲滅できる。

 

 だから、ここでの脅威はダイナーゲートよりも、盾とサブマシンガンを装備した重装甲兵、ガードだ。そんな奴を見つけてしまった日には、一抹の不安がよぎる。

 

「ガードを集中狙いにして! 姉さん、フラッシュバンありますか!?」

 

「あるけど最後の1つだ!」

 

「構いません、ガードを止めてください!」

 

 M4は的確に指示をする。AR小隊の誰が何を装備して、何が得意で不得意か、全てを知り尽くしている。時村は余計なことは言わず、彼女たちの援護にいつの間にか回り始めていた。

 

 無言のうちに連携が生まれる。だから、カリーナは零士の救護に回ることができた。

 

「全く、チェスの駒にでもなった気分だぜ!」

 

「そういう事言っている間に撃ちなさい!」

 

 軽口を叩き、AR-15に窘められる時村。それでも、人の心は案外脆弱だ。こうして軽口一つ言っておかないと恐怖に飲まれる。それを防ぐために。

 

 来るかわからない援軍が来ると、信じながら。

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