あのセリフは破壊力すごすぎるぜ……!
民間軍事会社グリフィン&クルーガー。素性の知れない俺の次の仕事場だ。第3次世界大戦以降、鉄血工造製の機械歩兵が暴走した際に徹底抗戦を続けたPMC。現在ではIOP社製の2世代型戦術人形、簡単に言えば戦闘用アンドロイドを運用し、鉄血と戦っている。
例えアンドロイドが進化しようとも、人間が指揮をとるのは変わらない。鉄血の二の舞を防ぐためだろうか。どうだっていい。正規軍じゃなかろうと、俺は戦場に居られるなら、それで十分なのだ。
「指揮官さま、お昼寝の後のお飲み物はいかが? 頭がスッキリしますわよ?」
そんな可愛らしい声に意識が覚醒する。どうやら昼休みは終わりらしい。一つ伸びをして、隣の副官カリーナに顔を向ける。茶髪をサイドテールに束ね、着崩した服からいろいろ見えそうになっていたりする。気をつけろ、狙撃兵にはなんでもお見通しなんだぞ。ディテールまでも。
「じゃ、コーヒーを頼む」
「はーい! ところで、お膝のG11は起こしますか?」
誰も使わない来客用ソファーで昼寝をした結果、いつのまにかG11に左膝を枕にされていた。
「いや。寝かせておいてやろう。今日は出撃なしだ。休めるときに休ませないと」
「指揮官さま〜、私もお休みが欲しいです!」
「カリンは俺と一緒に仕事だ。休みたいなら前日までに休暇申請を提出するように」
「そんな面倒なことしなくとも、ゆっくり休めますよ」
そう言ったかと思えば、カリーナは空いている右膝を枕に、ソファーに寝転がる。昼休みは終わったというのに、マイペースな副官だ。まあ、いいんだけど。
「指揮官さま〜、部下の健康管理もお仕事のうちですよね?」
「……たまにはいいか。休んでおけ。あとは俺がやっておくから。だからせめて、書類をこっちに持ってきてくれないか?」
「さすが指揮官さま!」
指揮官はため息を一つつくと、カリーナに必要な道具を持ってくるよう指示する。膝を占拠されて動けないのだ。このくらい頼んでもいいだろう。
カリーナはすぐに書類を持ってきてくれた。そして、それをテーブルに置くなり、おやすみなさいと膝に頭を乗せて目を閉じる。膝を子猫と子犬に占拠された。
「指揮官、G11を……やっぱりここ?」
HK416はG11の姿を見るなり、呆れたようにため息をつく。おまけに副官のカリーナまでこの有様だ。こうもなるだろう。
「寝かせておいてやろう。何かあった?」
「訓練」
「今日は整備の日にするぞ」
「もう……まあいいですけど。ところで、作戦報告書の作成ですか?」
「ああ」
戦闘記録を書類にすることで、人形たちがそれを読み取り、学習するらしい。そのための記録作成だ。記録データがあるなら、それをそのまま読み込めればいいのに。全くもって不便なものだ。アップデートの必要がある。
「どうして手書き?」
「機械が鉄血の襲撃で壊されたって。俺が着任する前だな」
着任前に基地が鉄血に襲撃されて、データセンターのプリンターが破損したため、手書きでやる羽目になったのだ。俺とカリーナの指にタコでも作る気か。早く修理をしてくれ。ぶっ壊れてから何ヶ月立ってると思っているんだ。ロストテクノロジーとか言われたら泣く。
「……懐かしいわね。プロセッサー49?」
「何のことだ」
「忘れないわよ。撃墜されたヘリから湧いて出てきたと思えば、生身で鉄血相手にあれだけ戦ってみせたんですから」
「……404小隊には及ばなかったけどな」
「これからは、生身の人間が人形に敵うと思わないこと。私たちが居合わせなかったら全滅していたんですよ」
「ある程度はやりあえるのに?」
生身で鉄血の人形どもを何度もスクラップにしてきたのだ。それだけは覚えている。戦果はもはや数えていないから、どれだけ壊したかもわからない。スコープの向こうで、何も知らずに崩れ落ちていく人形の姿が、目から離れない。
「それは無謀と言うの。どれだけ損害だしたの?」
「0。410小隊は初めから全員死んでるからな」
もう、とHK416は向かいに座る。仕事を手伝ってくれるようだ。とても助かる。自分がやるから指揮官はいい、というようにいつも仕事を取ろうとする。お飾りになるのはごめんだ。自分の存在価値が失われてしまう。
「資材在庫量、リストにまとめてくれるかい?」
「ええ。配給のレーションは有り余るほどあるのね」
「レーションか……冷え切ったのをそのまま食うのだけはやめとけ。酷い目にあった」
「脆弱な人間と一緒にしないで」
だろうな。寒冷地で冷え切ったレーションを食って、作戦後に生き残った奴全員が3日ほど酷い腹痛に苦しめられるのは人間程度のものだろう。二度と加熱材を忘れたりしない。そう誓ったくらいなのだから。
そんな他愛もない話をしながら書類作業を続けていても、さすがに集中が持たなくなってくる。眠気がやってくるのはもはや定めだろう。
「指揮官、わたしがいれば十分ですよ。少し休んでは?」
「部下に押し付けて昼寝って……そりゃちょっと気がひけるな。前線に出れないのに、この仕事まで取られたら俺の立つ瀬が無くなる」
「報告書を作ったことは?」
「記憶にはない。存在しない部隊だから、戦闘なんかしていないのさ。だから報告書もありはしない」
肩をすくめて苦笑いを浮かべる。HK416は冗談じゃないといったように眉をしかめた。使えるのかこの指揮官とでも思っているのだろうか。
「
「
俺たち
そんな部隊にいた。終わることのない無間地獄に囚われていた。そんな地獄で足掻く俺を引き上げたのが、G&Kと言うわけだ。俺のように身分のあやふやな奴もいる。だが、厳しい選抜試験を乗り越えられれば、晴れてお墨付きをもらって採用される。俺のような名無しですらも。
「私たちが幽霊だとしたら、指揮官はゾンビの群れかしら?」
「あながち間違ってないな。ゾンビにしたら頭がキレて物騒な連中だが。鉄血人形に欲情するやつまで現れる始末だぞ?」
「……世も末ね」
「そいつは愛しい鉄血人形と仲良く爆発したな。最後まで笑ってやがった。ネジ飛んでたのかも」
「私たちがネジ1本くらいじゃ壊れないのに、ネジ1本飛んで狂うなんて、人間はやっぱり脆弱ね」
よくカップルに向けられる爆発しろと言う怨嗟ではなく、文字通り爆発して道連れにしたのだ。HK416とて、あまりに壮絶な光景を思い浮かべれば顔色も青ざめると言うものだ。
「つまり、ここは天国のような場所ってわけさ。皮肉抜きにして」
「その膝も天国?」
「そろそろ地獄。痺れてきた」
顔がひきつる。カリーナとG11の頭部重量が大腿部を圧迫し、足の血流が悪くなったのだろう。起き上がろうもんなら、足が一気に痺れる。嗚呼、こりゃ天国から地獄に堕ちるのも時間の問題か。
そんな時、勢いよくドアが開いた。限界まで開き、壁に激突したドアは勢いそのままに跳ね返り——入室しようとしたUMP9の顔面を強襲した。
「痛っ!? もう……!」
「もう少し落ち着きなよ、
後ろのUMP45もやや苦笑いでそれをみている。なんて声をかけるべきかと迷っていたら、UMP9があーっ! と声を上げた。
「G11もカリーナさんもずるい! 私も膝枕されたいのに!」
「もう満員。というか散々布団に潜り込んでるのにまだ足りないの?」
「それとこれとは別! ね、45姉!」
「そうね。そろそろ交代するべきじゃない?」
ただでさえ足がスパークリングしかけているというのに、これ以上はヤバい。それだけは本能的にわかるが、まるで獲物を狙うかのようなUMP姉妹の目からは逃げられないだろう。
「んぅ……指揮官さま?」
「……うるさい」
騒ぎにカリーナとG11が目を覚まし、身を起こそうとする。止めようにも、もう無理そうだ。
「あ、待てまだ起きるな痛えっ!」
せき止められた血液が一気に足の先にまで流れ込む。まるで油にぶち込んだ天ぷらか何かのように、バチバチと足中で何かが弾ける。あまりの痛みに、足がピンと伸びるほどだ。
悲鳴をあげてのたうちまわる指揮官と、状況が読めないカリーナとG11、慌てて駆け寄るUMP姉妹に、呆れるHK416。そのあまりにもカオスな状況で、後方支援任務完了報告にやってきたM4A1がオロオロして、更に被害が拡大していく。
多分、何も知らずにそんなヘンテコな状況に巻き込まれたM4A1が一番の被害者なのではないか。
冷えたレーションを食ってるとどうなるか? 酷い腹下しになる(実話)