それにしても、まさか秋葉原駅コラボキャンペーン当たるとは…
銃撃戦が始まった。404小隊は音でそれに気付く。聞こえる銃声の中にあの7.62mm弾の音はない。零士が狙撃せずに小銃を使っているだけか、失神したままなのか、死んでいるのか。少なくとも、誰か生きているのだけはわかった。
「11、誰がこんがりジューシーって?」
「うう、本当にそうだと思ったんだもん。指揮官、悪運強いけど人間だよ?」
416に睨みつけられたG11は即座に降伏宣言する。UMP姉妹はどこか安堵したかのような表情だ。わかっている。404を率いたあの指揮官なら、きっと生きている。
「真正面から加勢するより、横合いから殴る方が良さそうね。行くわよ」
UMP45は即座に指示を出す。絡まった糸を解くにも、喧嘩の加勢をするにも闇雲に力を入れればいいというものではない。搦め手を使うのが肝心なのだ。横合いからの一撃が時に戦況をひっくり返すのだから。
404Not Found、見つからないページの名を冠した自分たちならばきっとやれる。相手の知らないジョーカー、一撃で役をひっくり返す切り札。
「45姉、行こうよ! 家族を助けに!」
指揮官は、私たちを家族と思っていてくれるのだろうか。大丈夫。例え仲間に死なれ、寂しさの末に縋った先がこの404だったとしても、きっと今なら、そういうのを抜きに想っていてくれるはず。
※
その頃。防衛戦を展開するAR小隊は少しずつ追い詰められていた。弾薬を消費する一方なのに、敵は減らない。戦力も何も足りないのだ。
「クソが、イェーガーが出てきやがったぞ! 頭を上げるな!」
叫ぶ時村のヘルメットが吹き飛んだ。衝撃で転倒した時村は頭から血を流していた。
「スピアがやられたぞ!」
「勝手に殺すなよ姐御! 掠っただけだ!」
勝手に死んだと思われた時村はM16に文句を言いつつ身を起こす。ヘルメット表面を掠ったらしく、ヘルメットが吹き飛んで、貫通した弾丸に頭皮を切られた程度のようだ。
「ならいいや、AR-15! イェーガーを狙えるか!?」
「木の隙間から撃ってきてる、どれがどれだか……!」
AR-15は高倍率スコープを搭載して狙撃仕様にはしているが、本来の分類はアサルトライフル。本当の狙撃銃相手には分が悪い。木々の隙間を、針穴を通すような隙間を撃ってくる敵を正確に狙撃する事はできるが、一撃で仕留めるのは難しい。
零士のM24を使おうにも、戦術人形はコードネームと同じ銃を使った際にその真価を発揮する。ASSTは本当に融通が利かない。
人形と銃に特別なつながりを持たせることでその強力な戦闘能力を引き出す反面、設定された銃にしか効果がない。
こういう時、人間の歩兵は強い。脆弱でありながら訓練次第ではどんな銃にもその適応性を持つ。零士とて、狙撃兵でありながら小銃手としても類い稀な戦闘能力を誇る。ただ、1発の銃弾で戦闘不能になってしまうのがやはり大きく劣る点か。
文句を垂れても仕方ない。AR-15はイェーガーを相手にカウンタースナイプする。木々の向こうとはいえ、大した距離じゃない。森の中は木が邪魔で、狙えても50mがいいところだ。木の隙間から狙うとしても、それが限界だろう。
問題なのは、一撃で仕留めるには威力が足りず、移動されてしまうことだ。零士のM24なら一撃なのに。
もどかしさを感じながらも、AR-15は狙撃をやめない。移動させるだけでもその間は射撃が止まる。問題は、その移動先を早く見つけなければやられるということだ。
木漏れ日の中、キラリと光る何かが、そこにいると教えてくれる。照準を合わせる暇がない。伏せるしかできない。
「カリーナさん、伏せて!」
カリーナは咄嗟に手当て中の零士を押し倒すようにしてその場に伏せる。遅れて木の幹が弾け飛び、木片を散らした。狙われていたのだ。
地面に思い切り倒れた零士はまだ動かない。それどころか、側頭部が少し抉れて出血していた。被弾したのだ。頭蓋骨の一部が持っていかれて、脳が見えるのではないかと思える。
カリーナが庇わなければ間違いなく眉間を撃たれていた。それでも、重傷には変わらず、カリーナは伏せたまま応急処置にかかる。
「指揮官さま! しっかり! 指揮官さま!」
誰が呼びかけても、届かない。意識のないまま、血液だけを零している。
※
夢を見ていたのだろうか。そうだ、これは夢だ。そうじゃなきゃ死んだはずの相棒がここにいるわけがない。
頭がぼんやりして、霞がかったかのようだ。眠いのかもしれない。そんな俺の方を慶一郎は掴み、強めに揺すった。
「おい相棒、まだ寝るのか?」
「暫く寝かせろ」
「残念だがもう時間だよ」
車高の低い装甲車の中は薄暗く、相棒の顔を見るのがやっとだ。俺は、どこへ向かうと言うのだろう。作戦の詳細を知らないままだ。
「あのクソ指揮官め、車両内で命令下達って抜かしてどれだけ経ったよ。俺たちに何をさせるつもりだ?」
「さあな、俺にもわからん」
ここに記憶が眠っているのだろうか。この行き着く先が、俺の410にいた理由なのだろうか。まだ俺も相棒も
BTRの中で時間だけがすぎていく。運命とも言える、その時間を目指して。回る時計の針が、カウントダウンを示すかのようだ。
『総員聞け。3時間前、鉄血工造の製造工場でテロ事件が発生、内部にて戦闘が展開されている。監視システム、通信は全てシャットダウン。これより鎮圧作戦を実行に移す。人間の歩兵が役に立つことを証明する機会だ。心してかかれ』
鉄血工造、テロ事件。一つだけ思い浮かぶ記憶があった。アーカイブで読んだ、あの事件。
鉄血工造の戦術人形が暴走、人類の殺戮を開始した運命の分かれ道、蝶事件。零士はまさにその最中の記憶を追体験していたのだ。