突っ走るBTR。俺の心も何もを置き去りにするかのように速度を増していく。一気呵成に突入、展開を狙っているのだろう。体を動かそうにも動かない。まるで、勝手に動いているかのように。
この時を生きた黒坂零士の体に、精神だけ取り替えたようだ。夢なのだ、仕方ない。
「冗談じゃねえ、BTRで突っ込むのかよ!?」
ふざけるのも大概にしてもらいたい。こんなので突入するなんて、棺桶に入れられて火葬場にぶち込まれるようなものだ。対戦車榴弾でも食らえばあの世行きだぞ。
ほら、なんか嫌な音が響き始めた。大口径砲の音で、どんどん近くなる。BTRのガンナーも搭載している砲で応戦しているが、どうなることやら。兵員待機室にだけは当たらないでくれよ。
そんな願いはなかなか通じるものではない。いきなり前方が爆発し、爆煙が兵員待機室を襲う。何が起きた、それを理解するには時間がかかった。空が見えたのだ。
丸ごと車体前面が吹き飛んでいる。テロリストがこんな大火力持っているとはどう言うことだ。とは言え、早い所逃げなければ。こんなの鉄屑、ただの棺桶だ。
ハッチを開け、叫び声が響く。吹っ飛んだ前面から出ようとすれば、まだ狙っているであろう敵に粉微塵にされる危険があるのだ。ハッチから出る方がまだ安全だ。
ハッチが開いた、同時に砲塔が吹き飛び、爆風で外に放り出される。雪の上に叩きつけられて転がり、咳き込む。目の前では慶一郎がなんとか受け身をとって体を起こして射撃姿勢を取るが、驚愕に目を白黒させていた。
「嘘だろう……」
その視線の先には、鉄血の四脚無人歩行戦車"マンティコア"が鎮座していた。BTRの頭をまるごと吹き飛ばして、今度は降りてきた歩兵を狙うつもりか。
今手持ちの武器では対応しきれない。逃げるしかなかった。起き上がって一目散に建物の陰に逃れる。BTRの残骸が今度こそスクラップにされ、中に隠れていようなんてバカな考えをした数人が血煙に成り果てる。
「誰かRPG持ってないか!?」
勝手に叫んでいるのは、これが記憶だからだろう。小銃なんかでマンティコアは倒せない。対戦車火器がいる。
「デミトリの野郎が持ってた!」
だが、当のデミトリはさっきBTRの中にいてまとめて吹っ飛ばされた哀れな奴の1人だ。つまり、対戦車火器も丸ごと吹っ飛んだわけだ。
「使えねえな! テロリスト相手だって聞いてたのに!」
最悪なのは、マンティコアの火力支援の下、歩兵型のまで出てきたことだ。マンティコアを潰さなければおちおち反撃もできない。
背中のライフルケースを下ろし、M24を取り出す。狙撃銃だからといってマンティコアを撃破できるわけではない。それでも、潰すことはできる。
狙うは前方センサー。アレを破壊すれば照準を狂わせられる。狙撃銃を使うまでもない近距離。それでも、精密射撃ならこれを使うのが一番だ。
「距離75m、風速西から1m! やっちまえ!」
慶一郎の観測を元に照準を調整。射撃。
その感触も、心拍も何もかも、今まさに戦闘が繰り広げられているかのように感じられる。針穴に糸を通すかのような精密射撃。それは見事にセンサー部に命中し、破片が飛び散るのが見えた。
即座にボルトを引いて次弾装填。もう1発、今度はレーザー測距装置を狙って1発くれてやる。これも命中。奴はまともに照準できまい。
「奴の目を潰した! 雑魚を狩れ!」
慶一郎が叫ぶと、隠れていた隊員たちが周りの歩兵へ射撃を始める。普段からELIDを相手にしている特殊部隊員にとって、鉄血のアンドロイド如き話にならない。装備さえ整っているのであれば。
今あるのは小銃と機関銃くらいで、数少ない対戦車火器は失い、後続のBMPも次々撃破されている。あまりに不利。テロリストではなく鉄血の戦闘アンドロイド相手となれば、装備も作戦も見直す必要がある。
『総員、敵を振り切って施設に突入せよ!』
あのクソ指揮官、何もわかっちゃいない。思わず無線機を投げ捨てようかと思った。この初手をミスしてなお突撃しろだと?
安全なところから見てるからってふざけやがって。とはいえ中の研究員の救出をしなければならない。なんとか鉄血人形の目を盗んで建物に取り付く。
こんな時にAR小隊や404小隊がいてくれたなら、そう思っても無駄だ。まだこの時には結成すらされていないのだ。
「黒坂、こっちは俺たちだけか?」
施設に取り付けたのは自分と慶一郎だけ。他はどこかで交戦してるか、やられたのだろうか。
「他の隊は?」
「別のとこに勇吾の隊がいると思うぜ。俺たちゃ狙撃班にでもなるか?」
「そうだな。引っ掻き回してやろう」
慶一郎のアサルトバッグから壁破壊用の爆薬を取り出してセット。扉でもなんでもない壁を破壊して突入する。よもやそんなところから来ると思わなかったのか、側面を晒していた鉄血人形を小銃射撃で仕留める。
この時、まだ知らなかった。既に中は地獄と化して、手遅れに近い状況だったこと。今頃アルファを投入したところでどうこうなる問題では無かったのだと。