硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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メインで書いてるオリジナルやら、大賞用に書いているやつやら数作同時並行の上にアーキテクトにイジメられていたので時間がかかりました…
とりあえずアーキテクトはそこへ直れ、お仕置きじゃ!


第22話

 何度目だろうか。血溜まりを踏んだのは。

 

 絶命した研究員から流れ出た血液があちこちに流れて川を作っていた。乾き始めたものや、まだ新しいもの。どうあれ、既に命は零れ落ちた。その事実が広がるばかりだった。

 

 何体の鉄血人形を仕留めただろうか。いくら探しても生存者は見つからない。ブーツの底についた血が、床に足跡を残していく。最早、思うことはなくなった。

 

「もう、さっさと引き上げて戦略爆撃機(ブラックジャック)にやらせた方が早いかもな」

 

「Tu-160? あんなもん第3次世界大戦で全滅したんじゃないか?」

 

「時代遅れのアナログだしな」

 

 軽口でも言っていないとやってられない。無線から聞こえるのは味方の悲鳴。救援を求める声に応じようと奮闘したが、地の利がある鉄血相手に苦戦して、合流も側面からの奇襲も阻まれてしまう。

 

 隔壁を使って閉じ込めたり、防衛設備を使ってきたり、なんとか切り抜けてきたがもうそろそろ自分たちの番が回ってくる頃だろうか。

 

 一際大きめの研究室に突入する。ルームクリア。あるのは、白衣を血に染めて倒れた研究員だけだ。血がなければ、疲れて座っているだけに見えるだろう。

 

 首筋に指を当てる。指先に伝わるかすかな鼓動。生きている。だがもう虫の息で、この出血量では助からない。残念だが、見捨てる他ない。

 

「……すまねえ、もう助けられねえ」

 

「……つた……えて……」

 

 彼女は微かな声で何かを伝えようとする。ヘッドセットを外して口元に耳を寄せる。彼女の最期の言葉を、聞き漏らさないためにも。それが、せめてしてやれる葬いだろうか。

 

「ペル……シカに……」

 

「……わかった」

 

 そう頷くと、彼女は安心したように表情を緩ませ、そのまま眠るように息絶えた。安堵して、そのまま逝ってしまったのだろう。

 

 血染めのネームタグには"リコリス"と記されている。ペルシカ、それが誰のことかは分からないが、会ったら伝えよう。何かしらの手段をもって。

 

「黒坂、行こう。もうここは陥ちた」

 

「そうだな」

 

『残存部隊、A-02地区へ集結せよ』

 

 無線のノイズに混じって聞こえた声はあのクソ指揮官ではない。慶一郎の弟、勇吾の声だ。残存部隊を集結させて再編成するのだろうか。

 

「勇吾だな」

 

「黒坂、あいつの言う通りに合流するか?」

 

「弟を信じてやれ。少なくともクソ指揮官よりマシだろ?」

 

「贔屓目に見てもな」

 

 文句を言っても始まらない。こんなところはさっさとおさらばしたい。そして、爆撃機が全てを吹き飛ばせば、全て終わるはずなのだ。

 

 次の瞬間、側面の壁が吹き飛んだ。IEDでも仕掛けられていたのか、破片と化した壁が飛び散り、俺は慶一郎と一緒に吹き飛ばされ、廊下を転がる。

 

 プレートキャリアに刺さった破片を引っこ抜いて忌々しいとばかりに投げ捨てる。ヘルメットを被っていないせいでぶつけた頭が痛い。視界が揺れている。土煙の向こうには人のシルエット。グレネードランチャーと長いツインテール。嗚呼、ここから因縁が始まったというのか。

 

 片足を、のちに両足を奪っていった、デストロイヤーとのファーストコンタクトだと言うのか。

 

 考える前に撃つ。考えていたらもう1発飛んでくる。そんな確信があったから、俺も慶一郎も無我夢中で撃ちまくった。弾幕を張って、その場から離脱を図る。

 

 あちこちに榴弾の雨が降り注ぐ。爆風に体を殴られながらも、走り続ける。足を止めるな、止まったら死ぬぞ。ここで死んでも、意味はない。

 

「あのロリっ子、なんて物騒なもの持ってやがる!」

 

「黙れ時村! さっさと走れ!」

 

 ロールアウトしたばかりでFCSの初期設定が出来ていないのか、榴弾はこれでもかとばかりに外れている。だが、当たらずとも破片が、崩れた壁が行く手を阻み、この体を傷つける。

 

 時折物陰に隠れては応戦するが、効いている様子がない。他の人形とは違う、ハイエンドモデルなのだろう。耐久性能も桁が違うようだ。このままでは倒すより先に一撃貰ってしまう。

 

 蜂の巣をつついたような騒ぎだ。幸運なのは、前方で味方が隔壁を閉めようとしている事。巨大な隔壁は閉まり切るまで時間がかかる。後方から降り注ぐ榴弾には目もくれず、2人で閉まりかけの隔壁の中へ飛び込み、デストロイヤーを閉じ込めた。

 

 呆気ない終わりだ。少なくともこの場では。この武装でやりあえる相手ではないし、少し先の未来、こいつに苦しめられることになる。それを知っていると、やはり複雑なものはある。

 

「おい、あんたの弟の無線聞いたか? エントランスに集合だとよ。あのクソッタレ指揮官に比べたらマトモそうだな」

 

 隔壁を閉めた隊員たちはあちこち負傷していた。鉄血相手に苦戦していたのだろう。対人用装備だから、装甲付きの相手に遭遇したのかもしれない。

 

「俺の弟だぞ? でも、勇吾が再編成してどうにかするつもりだろう」

 

「小隊長だし、なんか策でもあるんだろう。またはあのクソッタレ司令官が戦死して指揮を引き継いだとかな」

 

「だったらいいんだがな……」

 

 隔壁から爆音が響く。デストロイヤーがグレネードを撃ち込んでいるのだろう。いつまで持つかわからない。逃げるなら今だ。

 

「先行け! 俺と時村で後衛やってやる!」

 

「すまねえ、任せた!」

 

 逃げる味方を守るように、2人で隔壁の前に立ち塞がる。だが、音はパタリと止んでしまった。弾切れだろうか。どの道助かった。早く合流しなければ。

 

『聞こえてるやつはいるか? ここから撤退する。ここで死んでも意味はない。生きて、この先の反撃に活かせ』

 

 無線から勇吾の声が聞こえてくる。部隊を集めて、ここから撤退するのだ。むしろ判断が遅すぎた。指揮官の間抜けがここの奪還にこだわり続けたのだ。そいつが死んだか負傷して、勇吾が指揮を引き継いだのだろうか。

 

『認められない! 戦闘を継続しろ!』

 

 あの指揮官、まだ生きていたのか。勇吾はクソッタレの指揮官を無視して部隊を指揮しようとしていたのだ。もはや泥沼と化した戦場から、部隊を逃す。明日に繋ぐために。その為に軍法会議を覚悟して撤退の指示を出したのだ。

 

『ここで死んでも意味はない。生きて、この戦いで得たものを明日に活かせ。アルファ、撤退!』

 

『貴様!』

 

「黒坂、あれ!」

 

 慶一郎の指差す先。この直線の通路の向こうで、無線機を握る勇吾とそれに拳銃を向ける指揮官の姿があった。抗命で射殺するつもりか。

 

 咄嗟に89式小銃を構えていた。迷いが生じる。ここで撃てば勇吾は助かる。だが、上官殺しで自分も銃殺は免れまい。親友の弟を助けて、自分の命を捨てられるか。

 

 この照準器の向こう、引き金を引けばいつも通りに相手が倒れる。それだけのはず。それでも、指が重い。

 

 そこへ、天井を破って鉄血人形が降りてきた。ナイフを装備した近接戦闘型「プルート」だ。指揮官狙いだろう。

 

 慶一郎も小銃を構える。お互いセレクターは3に合わせた。敵が照準へ入れば指が軽くなる。トリガーを引くのに躊躇いはなかった。

 

 発砲はほぼ2人同時。1発目の反動で照準がブレ、やや左へずれた。それを右へ修正しようとする間に2発目が銃口を飛び出す。プルートと触れ合う距離にいた指揮官の顔が照準器の中にあった。

 

 3発目は無駄になった。そこにターゲットはもうなかったから。1発目はプルートを、2発目は指揮官を撃ち抜いていた。どっちの弾かはわからない。2人で撃った。それだけだ。

 

 飛び散った血液はダットサイトの赤い光点と重なってわからなかった。嗚呼、やってしまったのか。少なくとも事故だと言い訳は立つ。見ていたであろう仲間たちは狼狽えているように見える。

 

 上官殺しをしたのだ。間違い無く、この手でやった。

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