硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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第3話

 指揮官というものは多忙なものだ。基地の運営に作戦指揮、やることは盛りだくさん。前線指揮も役目なのだ。

 

 ヘリコプターに揺られ、開け放ったドアから外を見る。S09戦区分屯地に下った新たな命令、敵施設の破壊に駆り出されたのだ。

 

 UMP姉妹とG11、HK416の404小隊メンバーが同乗するヘリの中、タブレット端末で状況を整理する。俺たちはこれからヘリの着陸地点を確保、保持。M4A1を隊長とするAR小隊が巡航ミサイルを誘導するためのビーコンを設置し、離脱するプランだ。

 

 ヘリが着陸地点に到着し、素早く展開する。破壊されたトーチカに隠れて無線機を準備し、M4A1との連絡を試みた。

 

「M4、聞こえる?」

 

『感度良好、間も無くLZです』

 

「よろしい。降下したら手筈通り頼む。あと、その辺りは正規軍の亡霊たちが彷徨って、敵の位置を逐次データベースに上げてくれてる。有効に使ってくれ。呼び出す時は、多分プロセッサー50だ」

 

『了解です』

 

 左手にバンドで固定した端末には、地図とアップロードされた敵位置が表示されている。ドローンからの映像と併用して、これで前線のAR小隊と連絡を取るのだ。

 

「こっちもやるぞ。G11、今ばかりは集中して見張り頼んだ」

 

 G11は普段は寝てばかりだが、ここぞという時には驚異的な集中力を発揮する。特に、HK416の指示ならバリバリ働いてくれるのだ。

 

 何もなく終わればいいのだが、そうもいかないのが戦場だ。どこからでも来い、鉄血どもめ。

 

「指揮官、その亡霊とやらのコールサイン、どうしてわかるんです?」

 

 HK416が質問する。デバイスでM4A1たちの状況を見るのに気を取られていたので、反応に少し遅れてしまったが、そんな簡単な質問だったのか。

 

「俺が抜けたからね。小隊長はプロセッサー、49の俺が抜けたから、この数ヶ月で土に還ってなければ50のはずだ。つまり、俺の前に48人はいたわけだ」

 

 また情報が更新された。どうやら、まだ俺を知ってる奴が生きていて、データリンクに潜り込んできているのだろう。よくやるものだ。

 

「M4、その先敵と激突するぞ。近くの森に身を隠して、通り過ぎる瞬間横っ面ひっぱたいてやれ」

 

『確認しました、お任せください』

 

 M4A1なら大丈夫。16Labの自信作なのだ。ペルシカさんが太鼓判を押すくらいの性能なのだから、上手くやってくれるだろう。

 

「しきか〜ん、私達への指示は?」

 

「待機」

 

 暇を持て余したUMP45が絡んでくるが、それどころではない。全体の指揮に、現地点での見張り、やること盛りだくさんなのだ。

 

「指揮官! いいもの見つけたよ!」

 

 UMP9はどうやら偵察中にスクラップを拾って来たらしく、嬉しそうにしながらやって来た。資源が限られていることもあり、戦場に落ちているスクラップパーツは回収して有効活用しているのだ。

 

 もし、尻尾があったならブンブン振り回しているだろう。ただでは引き下がらなさそうだから、喉のあたりを撫でてやる。前の駐屯地(監獄)にいた猫は、これで喜んだはずだ。

 

「ゴロゴロゴロ〜……じゃなくて! 猫じゃないから!」

 

「猫っぽいだろ?」

 

 何か空気が重くなったのを感じ、少し視点をズラしてみれば、目から光の消えたUMP45がこちらを見ていた。ブルータスよ、お前もか。そんな言葉を心の中で呟きつつ、UMP45の喉も撫でてやる。

 

「ん……」

 

 何だかんだ嬉しそうにしているが、前線までこの具合なのは勘弁して欲しい。やる時はやってくれるが、手が回り切らない。

 

 愛用の狙撃銃は壁に立てかけているが、愛用の小銃——89式小銃だけは手元から離さない。気休めにしかならないとは思うが。

 

 可愛らしい猫を構っている間も敵は来る。デバイスに新たな敵のアイコンが表示されたのだ。同時にG11も敵を見つけたと言っている。

 

「さてお仕事だ。暴れてこい!」

 

 それだけ指示を出せば十分だ。UMP45と9は前衛を受け持ち、HK416がその後方で射撃しつつ指揮、G11も応戦しつつ、周辺の警戒。404小隊は何も言わずにそう役割分担している。そして俺は……狙撃による支援だ。

 

 鉄血人形は探知できた4人から、最適な戦闘距離、陣形を算出して進んでくる。密集隊形で、正面を切っての撃ち合いだ。

 

 待ち続ける。相手が射程に奥深く入ってくるまで。トーチカの銃眼から見える景色、スコープの先にいるのは機械のみ。破壊目標だ。

 

 ここだ。いい距離に来た。もう一度覗き込むスコープの先にいる鉄血人形へと、一撃を放つ。遠距離からの一撃。まさか離れたところに単独で潜んでいるとは思うまい。

 

 スコープの先で、火花を散らして倒れる鉄血人形が見える。狙撃されたと認識するまでのタイムラグ、スナイパーが何処かにいると気付くまでのタイムラグ、データリンクで情報を共有し、最適な陣形を算出、陣形を組み直すまでのタイムラグ。

 

 その積み重なったタイムラグの間に、UMP姉妹が猛然と突進、距離を詰めて激しい弾幕を浴びせかける。傷口を作ったら、さらにそこをえぐって広げて行く。HK416も援護射撃で、次々敵を撃破して行く。俺の役目はもうなさそうだ。誤射が怖い。

 

 あとでご褒美をあげないとな。何をあげたら、喜んでくれるだろうか。

 

 ※

 

 その頃、M4A1は目標の施設に到着して、ビーコンの設置を始めていた。これを設置さえすれば、味方のミサイルがこの施設を粉々にしてくれるだろう。

 

 あたりに敵の姿はなく、一安心していた。何処かの誰かがアップロードしてくれている偵察結果にも、敵の情報はない。一体どこの誰なのだろうか。

 

 設置作業に集中するM4A1を援護するように、他の3人は囲むように護っている。その中で、M4SOPMODⅡが何かに気付いたようだ。

 

「何かいるよ?」

 

「いるよ、じゃなくているんだよ」

 

 そんな声とともに、茂みから人が現れる。5人、全員ドクロのバラクラバで顔を隠した兵士だ。全くその気配を見せない。特殊部隊か、咄嗟にAR小隊の全員が構えた。

 

「おいおい、俺たちゃやり合おうってわけじゃない。プロセッサー49に頼まれてた書類持ってきただけだ」

 

 1人の男がそう言い、封筒を差し出してきた。プロセッサー49、指揮官のコードネームだと気付くには少し時間がかかったが。

 

「なんの書類です?」

 

「さあな、プロセッサーもその上から頼まれたらしいからなんとも。で、ビーコン設置しなくていいのかい?」

 

 そうだった、とM4A1はビーコンを設置する。その間も、書類の事が気になって仕方なかった。

 

 ※

 

「以上が作戦報告になります」

 

 後日、プロセッサー49は上官であるヘリアンに報告書を提出した。作戦の成功と410小隊による偵察支援。ヘリアンは報告書に目を通し、一瞬だけチラリとプロセッサー49に目をやった。

 

「……お納めください」

 

「ご苦労。よく持ち帰ってくれた」

 

「それにしても、知ってる元同僚紹介しろって……懲罰部隊ですよ?」

 

 プロセッサー49の渡した封筒は、ヘリアンの頼みで410小隊と受け渡しをしているものだ。

 

「罪を被せられただけか、軽微なものならいいだろう。散々酷い目にあったようだからな。うん、いい男だ」

 

 合コンの連敗記録が絶えないと噂されるヘリアンは最終手段とばかりにプロセッサー49に対し、410小隊の良さそうな奴を紹介しろと詰め寄ったのだ。

 

 多分、うまく行ったらそいつをグリフィンに引きずり込んでちゃんとした立場を与えるつもりなのだろう。飢えに飢えた410小隊の男どもにとっては、ヘリアンのような美人にアタックするチャンスなのだ。見返りに作戦の手伝いをしてくれたりもするが……プロセッサー49にとっては胃が痛い。

 

 多分、封筒の中の写真には知ってるやつもいるだろう。ちゃんと、自分の名前を覚えている奴らが。それが、少しだけ羨ましく思えた。

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