硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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第6話

 その日。AR小隊は野戦救護テントの前で待機命令を受け、ペルシカからの連絡を待っていた。拍手を合図にテントに突入し、"プロセッサー49"を回収しろとの指示だ。

 

 ペルシカが興味を示すのなんて戦術人形くらいだ。どんなエリート人形のコードネームなのだろうか。M4A1は待機しつつ、思案を巡らせる。

 

 渡された抗生物質と鎮痛剤の自動注射器を眺めて思う。プロセッサー49は本当に人形なのだろうか。人形なら、運ばれるべきは野戦救護テントではなく修理施設のはずだし、痛覚をシャットアウトできるから鎮痛剤も要らない。アンドロイドだから、抗生物質も必要ないはずなのに。

 

「M16姉さん、目標って何者なの?」

 

「多分人間だろうけど……ペルシカさんが興味を示すのは珍しいな。モルモットにでもされるんじゃないか?」

 

 姉であるM16A1はそう答える。それにしても正規軍の野戦救護テントで、正規軍の兵士を引き抜こうとでも言うのか。

 

 AR-15は退屈そうに佇み、SOPMODⅡに至っては戦利品である鉄血の部品を弄って遊んでいる。ただテント前で張り込みをして、人をさらってくるだけなんてAR小隊の仕事なのだろうか。

 

『へえ、君か……損傷具合もちょうどいいし、君に決めた』

 

 端末に映るペルシカと、話し相手であろう人物の顔も映し出される。男性だが、顔色がかなり悪い。損傷とペルシカが言っていたが、負傷兵だろうか。何がともあれ、鎮痛剤と抗生物質には合点がいった。

 

『君は見捨てられたわけで、このままだと死ぬ。私に協力してくれるなら君の事を助けるよ。どうかな?』

 

『……モルモットにでもするつもりだろ? わざわざ死体漁りをしているくらいなんだからな。使うなら使え。どうせ俺はもう用済みなのさ』

 

 吐き捨てる言葉には棘がある。自らを死体として、用済みとまで言い放つ。何もかもを諦めたかのような態度と目。何を考えているのか。これが、プロセッサー49なのか。

 

『その覚悟にはくしゅ〜……』

 

 合図だ。行こうぜ、とM16A1が顎をしゃくったのを合図にテントに突入する。並ぶ簡易ベッドを見回すが、あの男の姿はない。

 

 ここにいるはずなのに。ふと、M4A1はテントの隅に目をやると、適当な敷布の上に転がされている男が見えた。

 

 左足は大腿部より下がなく、止血帯で縛られ、断面を包帯で覆われているのみ。恐らく、患部は壊死を始めている。顔は痛みに歪んでいて、満足な治療すら受けられていないように見える。

 

 周りの負傷兵たちは、ちゃんと救護を受けているのになぜこの男だけが……

 

「M4、運ぶ前に止血剤と抗生物質を打ってやれ」

 

「は、はい!」

 

 M16の声で我に返ったM4は2本の注射を打ってから、右肩を担ぐ。M16が左肩を担ぎ、2人がかりで立たせた。右足しかないから、上手く立ち上がれないのだ。

 

 その時に見えた。右肩の部隊章が。ドクロと410の文字を、5本の白線が消していた。まるで、その存在をなかったことにするかのように。

 

 ※

 

「聞きしに勝る悲惨な状況ね……」

 

 カリーナは流石に表情を曇らせる。それはおおよそ人間に対する扱いではない。治療も受けられずに転がされているだけなんて、懲罰部隊としてもあまりにも酷いではないか。

 

「本当なら、戦場に置き去りにされるはずだったらしいです。それが、戦術人形に救出されて運ばれたらしいのですが……」

 

「結果は変わらなかったんだ……でも、運んだのって誰なんだろう……知ってる人かな?」

 

 少しずつ、点と点が繋がり始めた気がする。その指揮官を助けた戦術人形がどこの誰なのか。それは、指揮官が片足を吹き飛ばされる羽目になった原因を探らねばならないだろう。

 

 あの口の硬い指揮官が喋るとは思えない。410小隊のことだから、作戦記録なんて残っているわけもない。その先が、どうしても見えない。そんな時思い出したのは、ペルシカの言葉だ。

 

 この前の通信で言っていた。置き去りにされるはずだったところを404小隊に救われた。何か、分かるかもしれない。

 

 カリーナは勢いのままに食堂を飛び出していた。少しだけ、希望が持てる気がしたのだ。それにすがるしか、カリーナにはなかった。

 

 見当なしに飛び出しても、人形たちの集まる場所なんて自ずと限られてくる。まず見るべきは宿舎だ。宿舎は支給された家具で、カフェ風に改造されている。そこは集まる人形も多い。だから、いるとすればそこだ。

 

 ドアを開けてみれば、特徴的な水色のロングヘアに、ダークブルーのベレー帽や服装の、色白の少女がいた。ちょうどいいところに、カリーナにはそう思えた。

 

「ちょっといい?」

 

「カリーナ? 珍しいわね。何の用?」

 

「指揮官さまのこと、何か知ってるって聞いたから。教えてくれないかな、何者かを」

 

 416は表情を曇らせた。どこでそれを知ったとばかりの鋭い目つきでカリーナを睨むが、カリーナは動じることはない。

 

「……なにも知らない」

 

「本当に?」

 

「なんで自分が懲罰部隊に入れられてるかもわからない男よ? それを私が知ってると思う?」

 

 あまりの苦しさで過去を忘れ去ったほどなのだ。本人ですら何も知らないのに、どうして彼女が過去を知っているだろうか。それは、致し方ないことだ。

 

「それならそれでいいよ。だから、知っていることを教えて」

 

「……相当狂ってる。それだけなら知ってるわ。まるで死に急ぐようで、自らの生存もあっさり諦めちゃうような大馬鹿野郎の話ならばね」

 

 根負けした416は、知る限りのことを話し始めた。




止血帯は血が止まるほど巻くとマジで痛いです、肉を巻き込んだ日には悲鳴あげます(体験談)
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