硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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第7話

 404小隊を乗せたヘリはある場所へ向かっていた。今回は敵施設に潜入し、データを回収する任務。そして、どうやらクライアントのヘリアンが強力な助っ人を用意してくれたらしい。

 

 どうやら重要なデータらしく、高い機密保持能力と狙撃能力を持ち合わせた人材を投入すると言う。それも正規軍に賄賂を渡して、そんな人物を貸してもらったのだとか。果たして信用できるのか、416は疑問に思っていた。

 

「45姉、助っ人ってどんな人なの?」

 

「ヘリアンは亡霊としか言ってなかったわね。そろそろ通信に出るかな」

 

 UMP45は無線周波数を合わせ、呼び出してみる。人形だろうか、416は少しだけ興味を持っていた。

 

「こちら45、聞こえるかしら?」

 

『プロセッサー49より45、スピア9と共にランデブーポイントにて待機中』

 

 無線から聞こえたのは男の声。プロセッサー49とスピア9、それが助っ人のコードネームのようだ。男性型の人形なんて、聞いたことはない。

 

「了解、もうすぐ着くから準備して」

 

『了解。おいスピア、鉄血とやりあえるからって興奮すんな』

 

 本当に大丈夫だろうか。そんな不安がよぎる。頭がおかしそうな奴が来るというのだけはよくわかった。ハズレくじを引いたようだ。慣れっこだけど。

 

 ヘリはどこかの駐屯地のヘリパッドに着陸した。正規軍駐屯地にしては、地図にも記されていない。秘密基地とでも言うのだろうか。

 

 ヘリのドアを開けると、2人の男が乗り込んできた。顔をドクロのバラクラバで隠した男で、狙撃銃を背中にかけた男と、観測用の単眼デバイスを持った男の2人1組だ。

 

「あんたらが雇い主?」

 

 狙撃手の方が45に声をかける。2人は防弾チョッキを着ていない。チェストリグだけの身軽な姿だ。人間は脆弱だと言うのに、なけなしの防具すら捨てて、身軽さを取ったのだろうか。

 

 肩の部隊章はドクロに410の文字。それを消すかのように白線が引かれていた。狙撃手の方は白の5本線、スポッターは3本のうち2本が赤黒く染められていた。

 

「そうよ。よろしくね」

 

「ああ、任務内容は?」

 

「私たちはこれから鉄血の拠点を攻撃する。あなたたちは見えた敵を片っ端から狙撃する。簡単でしょ?」

 

「余裕すぎる任務だな。行き先は?」

 

「少し黙りなさい。行き先を聞いて何ができるの?」

 

 あれこれ聞き出そうとする狙撃手をにらみつけ、黙らせようとする。機密を引っ張り出そうとでもしてるのか。よく口の動く狙撃手だ。

 

「何ができる? 戦争が出来るぜ」

 

「それもスクラップと肉片しか残らねえ地獄みたいなのだな」

 

 プロセッサーもスピアも、そんなことを平然と言い放って笑っている。おおよそ、今まで見た人間の行動パターンとは大きくかけ離れた行動だ。なんでヘリアンはこんなイかれた狙撃手を送って寄越したのだろうか。

 

「45、なんでこんな奴と任務なのよ。狙撃なら11にやらせた方がまだマシに思えてきたわ」

 

「腕を見る前から? あの2人、送ってきたのはヘリアンだけど、グリフィンじゃないわ」

 

「どう言うこと?」

 

 グリフィンのヘリアンがよこした人員だと言うのに、グリフィンの人間じゃない。それならどこの所属だと言うのだろうか。

 

「正規軍の特殊部隊。懲罰部隊の方があってるかな」

 

「懲罰部隊? なにやらかしたの」

 

「分かったら苦労しないわ。まあ、腕は効くんじゃない? 金積んで引き抜いたんだろうし」

 

 やっぱり不安だ。何をやらかしたかわからない奴を狙撃手として配置するなんて。大方、敵前逃亡でもしたのだろう。それにしては、覚悟が決まりすぎているような言葉だ。

 

 なんなんだろう、この人間は。

 

 ※

 

 施設の破壊とデータの回収は何とか完了した。プロセッサーとスピアは45が適当な山の中に下ろして狙撃させている。施設から逃げ出したら鉄血がお待ちかねと思ったものの、綺麗に掃除されていたのだ。

 

 それもすべて頭部。データリンクで狙撃されていることや位置を共有されないよう、中枢部を狙い撃ちにしたのだろう。500mはある距離だというのに、鮮やかなものだ。G11より正確な腕前ではないか。

 

『45、スピアだ。入り口付近はクリア。追いかけてくるの狙撃するから当たるなよ』

 

「了解、ちゃんと当ててよね」

 

 追いかけてくるのは鉄血のハイエンドモデル、デストロイヤー。その名に恥じず、二丁のグレネードランチャーを装備した、幼い見た目に合わない破壊力を持つタイプだ。データは奪って、施設も壊したから面目丸つぶれで怒っている。

 

『プロセッサー、あの入り口に照準合わせて待機。距離目測で500』

 

『オーケー』

 

 私たちは施設の出口を飛び出す。でも、昇順補助用のレーザーどころか、スポッターの距離測定用レーザーすら感知できない。レーザー測遠機無しでどうやってこんなに正確に狙撃しているのだろう。

 

 僅かに遅れて、デストロイヤーが飛び出して来た。風切り音が響き、鈍い金属音が遅れて響いた。デストロイヤーは狙撃を予想していたのか、手に持った武器で弾丸を弾いたのだ。この時も、一瞬だけ使うと思ったレーザーは全く使っていなかった。

 

『野郎、防ぎやがった!』

 

『目測バッチリだったのによ! プロセッサー、次弾諸元そのまま、頭がダメなら胴体に撃て!』

 

 もう1発、頭がダメならと胴体狙い。今度は命中したようだが、傷が浅い。

 

 スピアの悪態の中から得られた情報だと、レーザーを使わずにスコープや単眼鏡のレティクルを使って距離を計算していたようだ。旧世代的なローテク。だけどもレーザーを使わないから鉄血に感知されることもない。

 

 デストロイヤーが狙いを変えた。目の前の私たちではなく、明後日の方向にグレネードランチャーを向けて、その顔には凶暴な笑みを貼り付けていた。

 

『やばい、こっち向いた! 逃げるぞスピア!』

 

『45、スピアとプロセッサーは移動する!』

 

「そのまま合流地点に、3分で来なさい!」

 

『訓練の方がマシだな! スピアアウト!』

 

 逃げる私たちを尻目に、デストロイヤーは2人のいる位置にグレネードを撃ち込む。装備にあたって押されたのか、マイクが時々オンになるが、聞こえてくるのは爆音と悪態ばかりだ。

 

 なんとか回収地点にたどり着くが、2人の姿はない。遅刻したのだろうか。そんな時、無線からまた声が聞こえて来た。

 

『45、こちらプロセッサー49。もういい、置いて行ってくれ』

 

 あまりにも弱々しい声。まるで、全てを諦めたかのような。咳き込む声が混じり、呼吸音もおかしい。デストロイヤーに追いつかれたのだろう。

 

「45姉、今なら間に合うよ!」

 

「待ちなさい、本気?」

 

 UMP9が助けに行こうとばかりに急かす。正直間に合うとは思えないが、命じられたのは完璧な任務遂行。もし放置して帰ったとなれば、それに傷がつきそうで嫌な気もする。

 

「仕方ないわね。迷子を探しに行くわよ」

 

 UMP45の鶴の一声で、私は眠いと騒ぐG11の襟首をつかんで引きずることになってしまった。

 

 ※

 

 木々の生い茂る道無き道を突き進む間も、2人の無線が状況を教えてくれる。聞こえる銃声は抵抗を示し、まだ生きていると教えてくれた。

 

『スピア……お前この負傷で3本目か……?』

 

『そういうこった……つまり、罪を赦されてあの世で自由になれるのか……あながち噂は間違いじゃねえや』

 

 意味のわからない会話。何が3本目で、罪が赦されるとはどういうことか。何かの暗号だろうか。今はよそう。あとで問い詰めればいい話なのだ。

 

『プロセッサー、デストロイヤーがそっち行ったぞ……』

 

『天使のお迎えってわけだな……』

 

 無線が途切れた。捕捉されたのだ。会話からしてみれば、おそらくプロセッサーはダメだとしてもスピアはまだ助けられるかもしれない。そんな打算的な事を考えていたら、また無線が聞こえて来た。

 

『結婚しようぜデストロイヤーちゃん!』

 

『ちょ、何言ってるのよ!?』

 

『おいスピア!』

 

 何を言っているんだ。そして、聞こえる雑音は鉄血が群がる音だろうか。何が起きているのかわからない。誰もが首を傾げていた。

 

『もちろん、あの世でな!』

 

『あんた、まさか……!?』

 

『スピア! スピア……! 時村ァァァァァァァ!』

 

 それを遮るように爆音が響いた。煙が見える。そして、無線から聞こえる爆音が聴覚を破壊しようとするかのように響き、咄嗟にインカムを外した。恐らく、スピアのマイクスイッチが何かに当たって聞こえていたのだろう。

 

「45姉、これって……」

 

「自爆……? 急ぐわよ」

 

 スピアの最後の抵抗は狼煙のように煙を上げ、位置がよくわかる。もう迷うことはないだろう。一直線にそこに向かえば、鉄血人形と倒れたまま銃を向けあう男の姿が見えた。バラクラバをしていない、その素顔を晒して。

 

 咄嗟に銃を構え、鉄血人形の頭を撃つ。1発だけでなく、次から次へと射撃を浴びせて確実にその動きを止めてやる。

 

 倒れる鉄血人形を呆然と見る男は左足を殆ど失っていた。負傷であちこち血だらけで、足の断面からの出血がひどい。止血帯でも上手く止血できていない。

 

「……何勝手に死のうとしてるのよ」

 

「……おいて行けって言ったはずだ。スピアは逝った。俺も、漸く赦されたようだしな」

 

 その声はプロセッサーだった。顔は青白く、出血の多さを物語っている。目は虚ろで、死へのカウントダウンが始まっているかのようにも思える。

 

 力の入らない指先で傷口の血を掬い取り、部隊章の白線を一本、血で染める。スピアの赤線はこうやって血で染めたものなのだろう。一体なんの儀式だというのか。

 

「何言ってるか分からないけど、これ以上勝手に死なせないわよ」

 

 悔しかった。完璧な任務遂行のはずが、戦死者1名。さらにもう1人は死にかけている。とんだ番狂わせだ。だから、これ以上恥の上塗りをしたくない。それだけだ。

 

 それだけで、私はプロセッサーを担いでいたのだ。そんなプライドだけで、彼をヘリまで運んだのだ。全く、どうしてしまったことだろう。

 

 置いていけとうるさいこの男を無理矢理運ぶなんて、どうにかしてしまったとしか思えない。とりあえず部隊に引き渡せば治療はしてもらえるだろう。まあ、足はどうにもならないけど。

 

 ヘリは私たちを乗せて離脱する。その間45は何処へやら連絡を取っていた。

 

「足の切断です。ええ……はい。では彼をテストケースに?」

 

 どこへの無線かはわからない。いつもとは別の周波数なのだろう。連絡が終わると、45は注射器を取り出し、プロセッサーの千切れた足にモルヒネを注射した。

 

 プロセッサーはゆっくりと目を閉じるように意識を失い、倒れこんできた。膝に頭を乗せるなんて、G11のようなことをされたが、とりあえず今はこうさせてやろう。そんな気持ちになっていた。

 

「待ってて、迎えに行くから」

 

 45は意味深にそう告げると、プロセッサーの傷口に止血剤を塗り、包帯を巻く。死なせられない理由ができたようだ。

 

 痛みが緩和されたのか、少しずつ表情が穏やかになりつつ彼の頭を、私はなぜかそっと撫でていた。

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