硝煙の先にあるものは   作:Allenfort

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第8話

 話し終えた416はグラスを傾け、喉を湿らせる。カフェオレだろうか。カリーナはそれを見守るしかできない。言葉に出来ない。

 

 相棒の死、鉄血のハイエンドと生身で交戦して1人の命を犠牲に倒したなら結果的には圧倒的勝利ではあるが、1人の人間にとっては失ったものが大きすぎる。

 

 そして、目測と単眼鏡のレティクルを用いたミル計算式による距離測定、それを基にした精密射撃。あまりにも高い戦闘センス。いったい、なにが2人をそこまで高みに登らせたのだろうか。経歴がない以上、どうしようもない。

 

 プロセッサーは記憶もなく、スピアは戦死。何か使える情報はないか、考えたところで見つからない。

 

 そんな時、ドアが開いて指揮官——プロセッサー49がその姿を現した。まさに、話の中心人物たる男だ。

 

「416、ここにいたのか。カリンも一緒とは珍しいな」

 

「ちょっと用事があったので。指揮官さまは?」

 

「暇つぶしさ。適当になんか飲もうかなって」

 

 プロセッサーはそう言ってカリーナの隣のイスに腰掛ける。酒が飲めない体質なようで、飲むのはただのカフェオレだ。

 

「お酒もタバコも嗜まないんですね」

 

「どっちも体が受け付けねえ。M16に付き合わされたがビールジョッキ半分でノックアウト、タバコは咳き込むし居場所バレるから吸わねえ。どんなにキツくても逃げるな、目を背けるなってことかもな」

 

 自嘲的に笑うプロセッサーをカリーナは見ているしかなかった。416やM4から聞かされた悲惨な過去。片足を無くし、苦しみながら死んでいくはずだった彼を拾って、新しい足を与えてここに放り込んだペルシカは何を思ったのだろう。彼は、何を思っているのだろう。カリーナの疑問は絶えない。

 

「指揮官さま、辛くないですか……?」

 

 なんのことだ? とばかりにプロセッサーはポカンとした顔をする。

 

「別に、ここは居心地いいぞ。まるで楽園だよ。ヴァルハラにでも来ちまったかと思うレベルにな」

 

「もう、ヴァルハラじゃ死んでるじゃないですか」

 

「死んださ。死んだことにされたし、スピアの馬鹿野郎、俺を囮にとっとと逃げりゃよかったのによ……」

 

 ——そうすりゃ、今頃ヴァルハラにいたのは俺の方だ

 

 まるで、そう言いたかったかのようだ。それをごまかそうと、プロセッサーはカフェオレを飲む。416の話にも出て来たスピア。彼の相棒。そこの場面を思い出し、カリーナは何か引っかかるものを感じた。

 

 そういえば、スピアが自爆したであろう時に聞こえた無線で"時村"と呼んでいた。もしかして、スピアの名前を覚えているのだろうか。

 

「どうした、カリン」

 

「その……ですね……」

 

 あなたの過去を聞きました、そう切り出してしまおうか、一瞬迷う。意を決して言おうとしたまさにその時、416がカリーナを押しのけた。

 

「指揮官……にゃん」

 

 にゃん? そのおうむ返しはカリーナかプロセッサーか、はたまた同時だったのか。訳がわからない。思考が止まる。しかも、416の目が座っている。

 

「指揮官、いつもG11にばかり膝枕ずるい……私にもするべき……」

 

「待て416、ステイッ、ステイッ」

 

 プロセッサーは止めようとするが、416は全く聞かずに膝を占拠する。カウンター席で膝枕が無理と判断したのか、膝に腰かけたのだ。

 

 416は嬉しそうに足を振る。なんでこんなことになった、プロセッサーは困惑しつつも416を撫でている。こんなことになる理由は一つだ。

 

「カリン、酒飲ませた?」

 

「え? カフェオレしか飲んでなさそうでしたけど……まともに話していたし……」

 

「ちょっと貸して」

 

 プロセッサーはカリーナから416のグラスを受け取ると、一口口をつけた。間接キスかとカリーナが想像して顔を赤らめている横で、プロセッサーはそのカフェオレの味を吟味し、やっぱりかとため息をついた。

 

「カリン、こいつはカフェオレじゃない。酒だ。カルーアミルクだよ」

 

「カルーアミルクって……カクテルですか?」

 

「そう。コーヒーリキュールので、牛乳と混ぜると甘めのコーヒー牛乳風になるんだけど……間違えるわけがない。こいつ、自分で作ったな……?」

 

 プロセッサーはにゃあにゃあ鳴いて甘える416に目をやる。何がしたかったんだこいつはと思いながらも、求められるがままに甘やかすのは優しさか。

 

「肩の力を抜きたかったのかもしれませんね」

 

「かもな……カリンやみんなにはいつも世話になりっぱなしだし、息抜きくらい好きにさせてやりたいところなんだけどね……」

 

「じゃあ、息抜きさせてもらいます」

 

 カリーナはそう言うと、416が飲み残していたカルーアミルクを一気に飲み干す。プロセッサーが止める間もなく、カリーナは顔を赤く染め始めていた。

 

「えへへ、指揮官さま〜」

 

「まったく……」

 

 酒の勢いに任せて甘えてくるカリーナと416。プロセッサーはため息をつきながらも、2人の頭を撫でる。こんなことで安らぐというならそうさせてやろう。自分のようにならないよう、安心させられるならそれでいい。

 

 そんな可愛らしい2人は、今度は逆にプロセッサーの頭を撫で始めた。まるで子供をあやすかのような手つき。カリーナはいつも通りの笑顔を、416は珍しい笑顔で手を動かしていた。

 

「指揮官、私がいるのだから何もしないでゆっくりしていていいのよ」

 

「指揮官さまは頑張ったんですから、休んでください。ね?」

 

 まるで、心を甘く溶かそうとするかのような囁き。お前は十分戦った、赦されてもいいのだ。そう言われているかのようだ。

 

 まだ罪線を染め切れていないのに、赦されてもいいのか。そう躊躇うかのようなプロセッサーの頬に、柔らかく暖かい感触がした。左右からの同時攻撃だ。

 

 えへへ、と笑う2人を見たら、もうどうでもよくなっていた。今は、この2人に甘く溶かされてしまおう。きっと、明日にはまた立ち上がれる。そう信じて。

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