基地のヘリポートは動きが慌ただしい。とうとう医療施設の奪還作戦が決行されることとなり、AR小隊と404小隊、そしてプロセッサーが出撃用意を整えていたのだ。
ブーツの紐を締めるプロセッサーにAR-15が近寄る。それに気付いたプロセッサーは顔を上げ、AR-15に声を掛けた。
「コルト、どうした?」
「指揮官の武器、もしかして……」
プロセッサーの装備はいつも通り、マルチカム迷彩のコンバットパンツとチェストリグに、袖をまくった黒のコンバットシャツとニット帽。
持っている武器は89式小銃と、今日に限って持っていたライフルはAR-15だったのだ。いつもはボルトアクション式のM24を使っているというのに、なんの心境の変化だろうか。
「至近戦になりそうだし、セミオート式のライフルにしたんだ。民生用だから予備部品が手に入りやすいし、なんだかんだ使いやすくてね」
どうやら、見かけることが少ないだけで昔から使ってはいるようだ。黒いレシーバーに描かれた5本の
自分と同じ銃。それに、AR-15は少しだけ嬉しさを感じていた。認めてもらえているのだと感じたのだ。もちろん、銃の方だが。
「いい銃ですね」
「コルトのヤツ、シルバーのレシーバーの方がかっこいい気がするがな。俺のは罪線入りだぞ?」
「なら、その罪線を私に分けてもらえますか?」
「お前にはまだ早い」
そう言って薄く笑みを浮かべるプロセッサーを見ていると、なんとなく安心感を覚える。プロセッサーとこれだけ話せているのを、UMP姉妹どころかM4A1までもが羨ましそうに見ていた。
「指揮官さま! ヘリが間も無く到着します!」
「よし、全員行くぞ。カリン、留守は頼んだ」
「お任せください!」
プロセッサーはその手でカリーナの頭をわしゃわしゃと撫で回す。カリーナは嬉しそうに目を細めていた。
ミステリアスな指揮官。それでも、なんとなく好感が持てる。生存を重視した戦術、その戦闘能力の高さ。それ以外にも見え隠れする素の魅力。
右肩にグリフィンの部隊章、左肩に404の部隊章。そして、胸のアドミンポーチのベルクロに貼り付けられた410の部隊章。5本の罪線を胸に抱き、また彼は戦地へと還っていく。
振り返らずにヘリに乗り込んでいくプロセッサーを、カリーナはヘリが飛び去るまで見守り続けた。いつが最期になるかわからない綱渡りを繰り返すプロセッサーの姿を、後悔なきようにとこうして見送った回数は幾たびか。
「……さて、調べなきゃ。スピア9、時村が手掛かりね」
もしかしたら、名前が判明した彼ならば何かプロセッサーに繋がるものがあるかもしれない。カリーナは自らの任務を果たそうと、データセンターへと駆け込んだ。
旧式PCに向き合い、まずは判明している情報を整理する。
判明しているプロセッサーの出自として、人種はモンゴロイド系、日本人である可能性が高いことだ。ペルシカによる義足の搭載手術の際に採取したDNAサンプルと、会話可能な言語からそう結論づけられている。
そして410小隊がどこの軍に所属していたのか。これは根気よく情報を集めるしかなかった。各国正規軍の作戦記録になんとかアクセスして解析。その結果、ロシア軍の作戦報告に不符合がいくつも見つかったのだ。
そして、ヘリアンが人材派遣要請をして、賄賂を渡した相手。ロシア軍の士官。そこから410所属のプロセッサーとスピアが送られて来たことから、ロシア軍の隷下と見るのが妥当だ。
「でも、わからないなぁ……」
ならばなぜ日本人の2人がロシア軍にいるのか、そこが不可解なのだ。推測するならば、第三次世界大戦で核攻撃を受けた都市から難民としてロシアへ流れた日本人の元に生まれたというところだろうか。これは推測の域を出ない。
だから、あの手この手を使って手がかりを探して、漸く新しい手掛かりにたどり着いたのだ。
どこかに綻びがあるはずだ。ただでさえ第三次世界大戦の影響で国家が衰退しているのだ。そして、汚染地域だらけとはいえ広大な国土を持つロシア、EMPで破壊された既存の通信網。どこかに綻びがある。カリーナはそう信じていた。
スピア9、時村、この単語から何がなんでも手繰り寄せてみせる。もう、ヘリアンの頼みなんてどうでもよかった。名前を取り返して、罪から解き放ってやりたい。そんな想いが、カリーナを突き動かす。
「うん、これって……?」
カリーナの見つめる画面。従軍記録の中には、2人の時村が候補として表示されていた。似た顔の2人で、どっちがスピア9なのか。カリーナにはわからない。
時村慶一郎と時村勇吾。どちらが目的の人物か。カリーナはコーヒーに口をつけ、一度落ち着こうとする。やっと手掛かりを見つけたのだ。カリーナは一歩を踏み出すかのように、2人のデータを閲覧することにした。