そう思っていた時に出会ったのがTitanfallシリーズ。
『この動き、陸戦ウィッチなら出来んじゃね?』
そう思って筆を執ってみました。陸戦ウィッチの活躍が主体ですが、
航空ウィッチも多数出ます。ご意見感想、お待ちしております。
「私はデザートを賭ける!」
「言ったな? なら、こいつ賭ける」
ドスンと大きな音を立て、テーブルの上に荒っぽく瓶が置かれた。
「扶桑から届いた銘酒だっけ? これは俄然やる気が出るね」
ニヤリと笑みを浮かべるクルピンスキー。あの三人は明日も変わらず
戦果争いをするつもりらしい。
「ねーねー、ひかりちゃんは誰が勝つと思う?」
「え~と・・・」
ヴァルトルートの問いかけに返す言葉が浮かばない。
ひかりは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「そりゃ勿論、全員墜落でノーゲームでしょ」
「おい誰だ! 今喋った奴は!?」
整備班の誰かが飛ばした野次に噛み付く直枝。
ひかりは思わず吹き出してしまうのであった。
「あはは・・・でも、こうして冗談が言える位には平和になったんですよね」
ひかりの呟きに周りが頷く。ネウロイの巣を撃破した御蔭だろう。最近は
ウィッチや隊員が死亡した等の訃報が聞かれなくなってきた。
「つっても、残党がどっかに残ってるだろうし、まだまだ気は抜けないな」
ふと、ストライカーユニットの方へ視線を向ける直枝。フレイヤー作戦で
破損したユニットも、すっかり本来の姿を取り戻している。傍らには
大きく歪んだリベレーターが吊るされていた。
「何度も死ぬかと思ったからね。少しは平和になって貰わないと──」
ヴァルトルートの返事は、喧しい警報の音によって掻き消された。
「総員、持ち場へ戻れ!」
「おっしゃ、出撃するぞ!」
「入口を開けるぞ!」
「お先に失礼!」
格納庫の中が騒がしくなり始める。ある者は武器を手に、
ある者は工具を手に。己が成すべき事をする為に動いた。
「ネウロイ出現! ブロークンアロー!」
耳に付けたインカムから叫び声が響く。
「こちら第502統合戦闘航空団所属、下原定子です! 至急援護に向かいます!」
哨戒に出ていた下原が応答に出たらしい。雑音に混ざって彼女の声が聞こえる。
「現在、────交戦・・・支援を・・・」
「くそっ、碌に聞こえやしねぇ!」
舌打ちをしながらもテキパキと発進準備を整える管野。
夜明け前だけあって何とか飛行は出来そうだった。
「了解、直ちに向かいます」
どうやら位置が近かったのだろう。下原は内容を聞き取れたらしい。
「おい、オレ達も今からそっちに向かう。場所は何処だ!」
格納庫の入り口が開くや否や、飛び立ちながらも管野は怒鳴った。
「きゃあっ!」
しかし、帰って来たのは悲鳴だった。戦闘が始まったのだろう。
雑音の他に爆発音が混ざりつつあった。
「大丈夫ですか!? すぐに向かいま──」
ひかりの言葉を遮って下原が金切り声で叫んだ。
「ノブゴロド方面監視所周辺で新種の人型ネウロイがネウロイと交戦中!
人型の数は七・・・」
雑音が酷くなり、遂には途切れた。今は耳障りな音しか聞こえない。
「は? マジかよ!?」
問いかけに返事は帰ってこない。が、ハッとしたように管野は
ひかりの方へと顔を向けた。
「ひかり、今の聞いちまったか!?」
「あの、人型ネウロイって・・・」
「ひかりちゃん!」
ヴァルトルートが真剣な眼差しで手を伸ばし、口を塞ぐように掌を広げた。
「いいかい? 今聞こえた事は他人には絶対喋っちゃ駄目。本当は
聞いただけでも禁固刑は確実なんだ。出来なければ除隊だけじゃ
済まないよ!」
普段の陽気な雰囲気が消え、鋭い目つきをしていた。
視線を横に向ければニパも直枝も険しい表情をしている。
「どうする? 誤認じゃなかったら手が足らないよ」
「見える位置まで近づいちまってるんだ! 援護に行かなきゃ下原が死ぬぞ!?」
「けど、他の皆が来るまでには時間が・・・」
ちらりとヴァルトルートは地平線に目を向けた。
まだ空は暗く、雲が出ている為に視界は御世辞にも良いとは言えない。
不幸中の幸いは夜明けが近いのでナイトウィッチでは無くても飛べる
ギリギリの明るさである事。自主練の為に起きていた雁淵や、早番で
待機していた自分達なら即座に救援に迎える事だった。だが・・・
「人型が七機・・・かぁ」
かつて相対した二機の人型ネウロイですら、散々手を焼かされたのだ。
近寄れば意識を狂わされ、動きを真似される。しかも仲間同士で情報を
共有できるらしく、危険度は通常のネウロイとは別格だ。
「下手すると全員歩きで帰る事になるかもな」
「それで済めばマシな方でしょ」
「ひかりちゃん、撤退前提で動くよ。いいね?」
闘争心が高い三人ですら撤退前提で語り合う姿に、
ひかりは並々ならぬ事態であると察するのであった。
地上には炎の花が咲き乱れ、空は空で赤い光が迸り、闇夜を照らしている。
本来ならば、ネウロイと戦う時は当然の様に広がる光景だ。しかし・・・
「どうしてネウロイがネウロイに撃ち落とされているの?」
眼下に広がる光景は、下原が知る常識から随分と掛け離れていた。
燃え盛る炎を前に立つ巨大な影が複数。煙が邪魔で正確には見えないが、
それらは人の様な輪郭であった。煙越しに複数の赤い光が地上から空へ
放たれており、飛んでいるネウロイが薙ぎ払われている。
「撃て、撃て! 撤退までの時間を稼ぐんだ!」
その圧倒的な火力から逃げる様に走る地上のネウロイ達が、
ノブゴロド方面の監視をしていた部隊と衝突していた。
陸戦ウィッチとの挟み撃ちで次々と数が減っているものの、
元の数が多すぎる。徐々に戦線は押し込まれ始めていた。
「お待たせしました! これより航空支援に入ります!」
指を咥えて高みの見物をしている暇は無い。有効射程に入るや否や、
引き金を引き搾る下原。13mmの弾丸は飛行速度と合わさり、充分な
威力となって眼下の敵に吸い込まれた。
「援軍が来たぞ!」
「ありがとなー!」
口々に兵士達が感謝の言葉を叫びつつ笑顔を浮かべている。
「何とか間に合った・・・!」
迫り来るネウロイの脚を撃ち抜き、あるいは胴へ風穴を開けて
動きを止める。下原の存在に気が付いて対空砲火を始めようと
するネウロイ。その隙に陸戦ウィッチが砲撃でカバーする。
戦線の崩壊は押し留められそうだ。
「よう! 元気は有り余っているか!?」
雑音が酷いが、聞き覚えのある声がインカムから響いた。
「ええ。元気ですよ、アウロラさん!」
炸裂音や地鳴りの音に負けじと叫ぶ下原だった。
「そいつは良かった!」
75mm対ネウロイ砲を振り回すようにして照準を合わせ、動きを止めた敵を
吹き飛ばすアウロラ。相変わらず豪快な戦いぶりをしているようだ。
「飛んで来たなら一体どんな状況か分かるか!? ネウロイが
同士討ちをしているなんて、今まで実際に見た事が無くてな!」
「私もです! 10時から来ます!」
旋回して反撃を避けつつ、下原は弾丸の雨を振りまいた。
火力に劣る航空ウィッチでは、どうしても撃破に時間が掛かる。増して、
広域の哨戒用に軽装備かつ機動力を優先したセッティングではシールドの
耐久力も不安だった。夜勤終了間際でもあり、多少疲労も溜まっている。
「3時から二機! 釣り出します!」
故に暗がりに紛れて接近するネウロイに曳光弾を撃ち込み、
時にシールドでビームを受け止め火点を露わにさせ・・・
位置だけを示して反撃は地上のウィッチ達に任せていた。
「空の方は良いんですか!?」
「放って置いても向こうが落としてくれます。それに、
空からも攻撃されたらこっちの手が足りなくなります!」
未だに戦線を保てている理由の一つが航空支援の有無であった。
ウィッチである自分達よりも仲間割れをしたネウロイを優先的に狙っているらしく、
空からの攻撃が殆ど来ないのだ。尤も、攻撃するよりも先に撃墜されているから
なのかもしれない。遣り取りをしている間にも、空中からネウロイの残骸が
雨あられと降っているのだから。
「お・・・もはら・・・きこ・・・かい!?」
切れ切れではあるが、ヴァルトルートの声が無線に混ざり始めた。
「他の・・・も、援護・・・ぞ!」
今度は直枝の声。かなり近い位置まで来ているようだ。
「ねーちゃ・・・無事・・・よ!」
そしてニパの声。ブレイクウィッチーズの集合である。
「この程度でやられるような私じゃないぞ!」
手榴弾のピンを引き抜きつつも、アウロラはニパの呼びかけに答えた。
「来て早々で悪いが、部下の救出を頼む! 炎で仲間が分断されてるんだ!」
「どこにいるの!?」
今度はインカムでは無く、直接耳に声が届いた。
見上げれば本人が目に映る位置に居た。
「湖面の向かい側! 二人いるが、見えるか!?」
アウロラが指を差した方向を見るも、壁の様に広がった
黒い煙が邪魔で向こうの様子は不明だ。
「煙が酷過ぎて無理。それに、ああも撃たれてたら近付けないよ!」
地上からでは木々が視界を塞いでいるから分からないだろうが、
ビームの他に実弾が混ざって飛んできている。日が昇り始めているから
弾道が分かるが、暗闇だったら防ぐ前に被弾しかねなかった。
「くそったれ! この数じゃ近寄る前に叩き落されるぞ!?」
シールドを張りながら接近を試みるも、弾幕に押し返されて
後退する管野。早くもシールドは赤熱し始めていた。
「中尉! お前なら行けるか!?」
「数を減らさないと駄目だね!」
撤退する兵士達をシールドで守りつつ叫び返したヴァルトルート。
障害物が何も無い湖面をノコノコ飛べば、良い的になるだけだ。
「悠長に待っていられるか! 何なら私一人で──」
「その必要は有りません! 私達は無事です!」
痺れを切らして突撃を敢行する寸前、クリアな音声が届いた。
「ハロネン、無事だったか! ニパ、どこにいるか分かるか!?」
「いや、此処からじゃ見えない!」
太陽は半分以上地平線から顔を出して明るくなっている。
だが、辺りを見渡しても人影らしき物は見えない。
「もうすぐそちらに到着します! これから来る巨人は
絶対に撃たないでください。味方です!」
「何だって?」
巨人とは何だ? そう訊き返す前に、聞き慣れない声が通信に割り込んだ。
「林の中を突っ切る。しっかり掴まれ!」
「ソードコア、起動」
一つは低い男の声。もう一つは感情を感じられない無機質な声だ。
「居ました! 9時方向、距離600!」
下原の声に到着していた502メンバーが一斉に注意を向けた。
そこに一つ目の巨人が居た。体の節々が発光しており、金属と思しき
見た目をしている。木々の高さと比較して約6、7mは有るだろう。
「そこをどけ!」
ひょろりとした外見と裏腹に、力強く巨大な剣を構えたまま林の中を
駆け抜け、すれ違いざまにネウロイを叩き斬る。そして
地面を掬い上げる様に腕を振るう度、白い閃光が地を這った。
「凄い、一撃で倒してる!」
文字通りの一刀両断。再生能力が有るネウロイでも、回復しきる前に
粉砕されるか刻まれて塵と化している。暴れ回る巨人が近づくに連れ、
巨人の肩に誰かが乗っている事が見えて来た。
「繋がった! 皆さん、無事ですか!?」
ひかりの声が無線から届いた。
「来るのが遅いよ!」
「ごめんなさい! 撤退していた兵士の皆さんの治療に回ってました!」
ジョゼの声が追加で届く。更にサーシャの声が続いた。
「状況は!?」
「現在多数の地上型ネウロイを掃討中! 要救助者一名が湖の向こうに居る!」
「サーシャさん、あの巨人達は味方です。彼らの援護に回って下さい」
ヴァルトルートの声と同時に下原の指示も届く。
「味方って・・・ビームを撃ってますよね? ネウロイじゃないんですか?」
「少なくとも今は敵じゃない。奴らからは一発も撃たれちゃいないだろ?」
ひかりの問いかけに直枝が答えた。
日が昇り、夜間視を持たないウィッチ達でも戦場が見渡せるようになっていた。
ネウロイ達が戦っていたのは奇怪な姿をした巨人達だった。以前戦った人型の
ネウロイはウィッチにそっくりな外見だった。だが、今回は違う。いずれも
人間の頭に当たる部分が見当たらず、機械の部品が所々に見えるのだ。
「おい、道を開けてくれ。到着するぞ!」
男の声が再度通信に割り込んだ。
「こちらからも見えた。総員、砲撃支援開始!」
アウロラの指示と共にウィッチ達の魔力を込めた砲弾が放たれた。
「私達も援護します!」
続けて空からの機銃掃射。接近してくる巨人と、その肩に掴まる
ウィッチを阻む障害は瞬く間に爆ぜて無くなった。
「ソードコア、オフライン」
無機質な声が無線から響き、一拍遅れて巨人が構えを解いた。
そしてアウロラの前で立ち止まり、肩に掴まったウィッチが
地上へと飛び降りた。
「ハロネン、無事か?」
「はい!」
「なら、戦え」
一言だけの短い遣り取り。それが彼女達の練度の高さを物語っていた。
士気は充分。増援も来た。状況はウィッチ達が有利になりつつあった。
「で、あんたは何者だ?」
アウロラはハロネンを送り届けた巨人に訊ねると、
背中に剣を仕舞いながら巨人が答えた。
「所謂傭兵って奴だ。いきなりで悪いが、あの黒い連中とアンタらとは
敵対してるようだな? そこで一つ頼みだ。俺達に攻撃しないと
保障してくれ。そしたら奴らの始末を手伝おう。乗るか?」
「乗った!」
アウロラは攻撃が止んだ隙に弾薬を再装填しながら返事をした。
「ついでに一つ訊きたい。テッポと言う銀髪で小柄な兵士を見かけてないか?」
「もしかして、こいつか?」
巨人の目玉と思われる場所が輝き、空中にホログラムが浮かび上がる。
「へぇ、そんな事もできるんだ」
「感心してる場合じゃないよ! 得体のしれない相手に安請け合いなんて!」
口笛を吹かせるヴァルトルート。一方ニパはアウロラを咎めた。今の発言から
この巨人はネウロイの存在を知らないのだ。幾ら何でも怪しすぎる。
「だが、腕は確かだぞ。助力を得られるなら、それに越した事は無い」
地上の方は大体片付いた。おかげで周りの状況も落ち着いて把握できる。
アウロラは監視所の管制塔に飛び移り、湖面の方を眺めた。
完全に太陽が姿を現した今、湖面の向かい側は誰もが見える状態だ。
水辺に有った筈の木々は焼き払われ、灰と化して空き地を形成していた。
三体の巨人がそこに陣取り、巨大な銃器を手に空へ向かって攻撃している。
複数見えた赤いビームの正体は、一つを除いて曳光弾の連射であった。
「もしかして、あれはシールド!?」
最も水辺に近い巨人は左手から円盾の様に光を放っていた。
扶桑の様な漢字や梵字でもなく、欧州の様なギリシャ文字も無い。
しかし、飛んでくる弾丸や光はしっかりと防がれている。
「まさか、あれはウィッチなの?」
サーシャは驚きのあまり目を丸く見開いていた。歴史上ウィッチ以外でシールドを
出せた記録は無い。どう見ても生物ではない巨人がシールドを出せるとは・・・。
「ウィッチだか何だか知らんが、あれが仲間だ。
さっきの嬢ちゃんはあいつらが守ってるぞ」
目の前の巨人が指を差した方向を見ると、先程の三人から少し離れた場所に
別の巨人が三人居た。一人は地面を焼き払い、もう一人は火の壁を越えて来た
ネウロイを迎撃している。
「テッポが居ました! あの巨人の肩に乗っています!」
恐らくは遊撃要員だろう。踏み荒らされて穴だらけになった地面を機敏に動き回り、
手にした機関銃で撃ち返す白銀の体を持った巨人。その肩にはシールドを張って
ビームを防ぐウィッチの姿が有った。
「援護に向かいましょう!」
弾倉を交換しながらジョゼが言った。
「ジョゼさん、大丈夫なんですか? 治療で消耗してる筈ですし」
リロードの隙を庇う為、シールドの陰へジョゼを隠すように
ひかりはポジションを移した。
「大丈夫。まだ行けます! 皆さんは怪我をしてませんか?」
ぐるりと周りを見渡すが、重篤な負傷をしている者はいない。
既に一般兵は退避が終わり、残るはウィッチだけだ。
「私達は空の方を受け持ちます。誤射しないように伝えてくれますか?」
「応。こちらローニン。現地武装勢力と接触。支援要請を取り付けた。
増援の航空戦力がそちらに向かう。誤射すんなよ!」
サーシャの言葉に、ローニンと名乗った巨人がサムズアップで応えた。
「こちらトーン、心得た。こっちに来るのは少し待て」
湖面の向かいで薄い光の壁に隠れて銃を乱射していた巨人の両肩から、
フリーガ―ハマーを連想させる長方形の箱が突き出た。
「サルヴォコア、起動!」
連続した発射音と共に凄まじい数のロケット弾が発射された。
ざっと数えても四、五十発は一度に飛んでいる。それが空の
ネウロイ達へ一直線に飛んで行った。
「凄い・・・あんな神業めいた事が出来るなんて・・・」
映像記憶の魔法が使えるサーシャは、目の前に起きた
一瞬の出来事が事細かに見えていた。
「神業?」
「あの巨人、ロケット弾を全部ネウロイに直撃させていたわ」
その言葉に、居合わせた全員が息を呑んだ。
フリーガーハマーを始めとして、ロケット弾は弾速が遅い上に空気抵抗を
受けやすい。その為に命中精度が低いので直撃狙いではなく、近接信管を
用いて空間を吹き飛ばして攻撃する事が多いのだ。それを全弾直撃。
噂に名高いアフリカの星なら、やってのけられるのかもしれないが・・・。
「ちぇっ、あれ以上は無理か」
小型のネウロイ・・・言わゆるフライング・ゴブレットを始めとした小物は
一掃されたが、高高度を飛ぶ中型は健在だ。
「そっちで飛んでる御嬢さん方、申し訳無いけど残りは頼めます?」
「お、譲ってくれるの?」
「正直、これ以上ロハで働きたくないんで」
無線から女性の嫌そうな声が流れてくる。それに呼応するかのように
周りの巨人達が数回屈伸した。
「全くだよ。やっと仕事が終わって帰れると思いきや、
ミリシアに追われてドンパチだ。さっさと風呂に入りたいね」
「隣に同じ。あんたらは戦果争いで黒いのとやりあってるんだろ?
ちっこいのは粗方始末したから、後は好きにやって頂戴」
次々と知らない相手からの通信が入る。どこか気だるそうなのに、
余裕たっぷりにネウロイを蹴散らしている所で実力の高さが伺える。
「御膳立てされた様で癪だけど、いらねぇってんなら貰って行くぜ!」
「あ~っ! 抜け駆けはずるいよ!」
魔道エンジンを全開にして上昇を始める管野。慌ててニパが後を追う。
そして続々と上がる502メンバーが上空で戦闘を開始した。
「おーおー、若い子は元気だねぇ。ところで、こっちに銃口を向けるのは
止めてくれないか。色々と怪しいし、疑う気持ちは分かる。だが、こんな
状況で喧嘩を売るつもりはないぞ?」
ローニンとやらが肩をすくめるような動作をしながら喋った。
「申し訳ないのですが、これも仕事です。所属不明の戦闘部隊が自分の管轄区域で
何の通達も無しに戦闘行為をしていたら、黙って見ている訳にはいきませんよね?」
一人だけ地上に残っていたエディータ。手にしたフリーガーハマーは
ネウロイでは無くローニンへと向けられていた。
「そりゃあ、ごもっともな意見だが、今だけは共同戦線を張ってくれないかい?
あんたらは向こうの御嬢さんを助けたい。俺達も生き残りたい。勿論、詳しい話は
後でする。雇ってくれるなら報酬分はきっちり働こう。それじゃ駄目か?」
その問いかけに手を挙げながらアウロラが答えた
「支払いは現金以外じゃ駄目か? 生憎持ち合わせが無いんだ」
「なっ、何を言い出すんですか!?」
エディータは顔を引き攣らせてアウロラの方を見た。
「じゃあ、今回は奴らの始末は示威行為って事でロハで引き受ける。
今後は最低でも食事と住居はそっち持ち。武器弾薬は要相談。
細かい話は後で詰める。それで良いかい? 隊長さんよ」
「構わんが、何なら酌でもしてやろうか? 声からして
お前は男の様だし、綺麗所は欲しいだろう?」
どこから持って来たのやら。アウロラは酒瓶を手に、グビリと中身を呷っていた。
「そいつは嬉しいねぇ。さてと、隊長さんの許可も下りたようだし、もう一仕事かね」
彼は背負っていた銃身が三つも有る銃器を手にしながら、楽しそうに言葉を返した。
「おーい、あんたらを手伝う事になったから宜しくな」
地面を踏み鳴らしながら陸戦ウィッチ達の元へと駆け寄ると、手にした銃を乱射して
援護を始めるローニン。どうやら手にしている武器は散弾銃の類だったらしく、
炸裂音と共にネウロイが蜂の巣となって爆散していく。
「いやぁ、流石にアレは肝を冷やしたな」
「ユーティライネン中尉、一体何を考えているのですか!?」
冷や汗を拭うアウロラに、エディータは噛み付かんばかりの勢いで怒鳴った。
「決まっている。皆を守る最善の判断をしただけだ」
アウロラは真面目な口調でエディータに向き直った。
「奴らは下原が来る前から暗闇で一方的にネウロイを狩っていた。
魔法力を使わず、航空戦力も無しにだ。奴らは全員ナイトウィッチ並みの
索敵能力と、急降下爆撃ウィッチ並みの火力を備えていると言っても良い。
奴らを野放しにするのは危険過ぎる。敵かどうかの見極めは必要だ」
酒を飲み干し、空になった瓶を投げ捨ててアウロラは続ける。
「それに、あれ程の火力を持っているんだ。周りの連中は喉から手が
出る程欲しがるだろうさ。軍事力としても、政治の手札としてもな」
正体不明で胡散臭い部分は有る。だが、戦力としては申し分無いのは
今しがた証明してみせた。衣食住を要求した事から、中に人が乗っていると
考えられる。ならば首輪として繋ぎ留める手段としても使える筈だ。
そこを突いて良からぬ事を企む者がいないとは限らないのだ。
「なんにせよ、今は安全の確保が先だ。私達も行くぞ」
一息ついて活を入れ直したアウロラは、残敵を討つべく
戦火の只中へ飛び込んで行った。
これが最初の邂逅であった。後に彼女達は知る事となる。
別の世界で起きた事故、この世界で起きた事故がきっかけで
有り得たかもしれない未来と繋がってしまった事を。