雪国の涼しさが羨ましい物です。では、12話となります。
予想されて然るべき事では有った。茸を探すなら一個ずつ採取するよりも
群生地で纏まった数を採った方が効率が良い。となれば、ネウロイだって
広大な戦場跡地を駆け回るよりも物資集積所を襲撃した方が楽だと考える。
あるいは物資を山積みにした車両を狙うだろう。
「だからって態々こっちを狙わないで貰いたいんだけどね」
顰め面を隠そうともせずにルフィナが悪態を吐いた。常人では感知できない
僅かな振動。されど彼女ならばソナーさながらに感じ取る事が出来る。
使い魔が土竜なだけあって音や振動に関しては一日の長が有るのだ。
「早速アタシの出番って訳だ」
初弾を装填しつつユニットに足を突っ込む西沢。魔道エンジンが咆哮を轟かせる。
「トラックはアタイが守る。上から援護と奴らの配置を伝えて」
チャーチルMk.IIIユニットに足を突っ込み、ルフィナも戦闘準備を整えた。
「さて、こっちも片付けないとね。」
ルフィナは荷台の上で山積みにされた武器の中から時限爆弾を選び、地面に置いた。
ついでに余った鉄兜や地雷を山盛りにして設置。そしてトラックに乗り込んだ。
「勿体無いけど、餌にされるよりはマシだからね」
周囲には回収し損ねた砲弾類が散乱している。時限爆弾が作動すれば
一機に誘爆して即席のキルゾーンに早変わり。致命傷にはならずとも、
集まったネウロイの脚を砕いて転倒させれば時間稼ぎになるだろう。
「そっちも気を付けてな!」
トラックのエンジンも唸りを上げた。異変を感じてか、荷車を曳かせていた驢馬も
後を追う様にして逃げ出している。直に交戦距離までネウロイがやって来るだろう。
「一つ人の生き血を啜り──」
まずは空中戦に備えて高度を稼ぐ。制空権の確保は死活問題であるが故に。
「二つ不埒な悪行三昧──」
ユニットの調子を確かめる様に周囲を旋回。弾薬を詰め込んだ鞄の紐を締め直す。
「三つ醜い浮世のネウロイ──」
空にも敵影。優先すべきは機動力に優れる飛行型。ならば成すべき事は単純だ。
「退治してくれよう! 西沢義子見参ってね!」
迫り来るネウロイの群れがをトラックを見つける前に囮となって注意を逸らす。
そして事が済んだら美味い食事を御馳走して貰うのだ。
「敵は二方向から来てる。北北西、距離6000。南東、距離1500」
「ちぇっ、全然時間が足りないね」
襲撃を察知できただけマシな方ではあるが、位置取りが悪すぎる。
このままでは挟撃されかねない。
「陸の方は引き受ける! さぁ野郎共、切り札の使い時だよ!」
「あいよぉ!」
今は迷う時間すら惜しい。離れた方の足止めをして貰っている内に近い連中を
始末せねば挟撃される。手短に指示を出し、連れて来た仲間達に許可を出す。
ルフィナの仲間達は仄かに光を纏う弾丸を銃に込めた。
「トラップ網に誘い込んでやって! クラッカーで歓迎だよ!」
伊達や酔狂で危険地帯に飛び込んでいる訳では無い。襲撃に備えて逃走経路の
策定、ブービートラップの設置も抜かりなく準備している。迂闊にネウロイが
踏み込めば、汚い花火を浴びる事になるだろう。
「終わったらアタシも歓迎して欲しいねぇ」
軽口交じりに銃を構え、敵陣へと一人踊り込む西沢であった。
「空に敵影無し。対地装備だけで問題無さそうだ」
レールガンの照準越しに見える景色に異常は無い。居たとしても
今は木々より高く飛んでいる事は無い。居たら502基地の方で
連絡の一つは来るだろう。
「となると、こっちの方が役立ちそうね」
グラップルの報告を受けて対物ロケット砲たるアーチャーを背中に背負い直し、
クレーバーを手にしたスティム。14・5mmの大口径弾を使用し、この時代に於いて
互換性のある弾薬を流用できる狙撃銃。これなら小型程度は撃退できるだろう。
「んじゃ、こっちは援護に回った方が良さそうね」
イオンに乗り込み、肩のレーザーを構えるパルス。誤射の危険性を考えれば
迂闊に爆発物を使う訳にも行かない。ならば高精度の光学兵器の方が安全だ。
「流石に全員で行く訳には行かないからな。パルス、クローク、
グラップルは援護に向かってくれ。残りは撤収補助に回るぞ」
「「「「「Roger!」」」」」
援護組はタイタンと共に先行した航空ウィッチの後を追い、
残りは陸戦ウィッチと共に周囲の警戒へと移った。
「炙り出せ!」
「了解!」
最低限の言葉だけで意図は伝わる。放物線を描いて放たれた探知機がX線を放った。
パルスソナーの地形や障害物をも通り抜ける不可視の光が戦場を貫く。
「コア持ちが居るな・・・おい、嬢ちゃん達! 俺達はコアの位置に
印を付ける。トドメは任せて良いか? 戦果は共同扱いで良けりゃだが!」
「どうぞ!」
アンプの呼びかけに即答する魔女一同。物資が不足している現状で無駄弾を
使おうものならサーシャの怒りに触れる。それだけは避けねばならない。
「よーし、耳塞げ!」
プレデターキャノンの砲身が空転し始める。近くにいた歩兵達が慌てて耳を塞ぐ。
耳を劈く轟音と共に空薬莢の雨が降り注いだ。木々を巻き込んで一直線に放たれた
無数の弾丸は、過たずネウロイの側面を抉り抜く
「足止め!」
「応!」
そして怯んだ隙にモナークの左肩から青い電撃が迸る。感電したネウロイの
移動速度が目に見えて鈍くなった。
「いただきっ!」
その隙を逃すヘマはしない。ウィッチ達の集中砲火が破損個所へと浴びせられる。
交戦開始から僅か十数秒と経たずに一機撃破であった。
「え~と、トドメは誰が刺したの?」
曳光弾やら榴弾やらで着弾の瞬間は見えた物ではない。ニパ自身ですら
自分の弾が何処に命中したか把握できていなかった。
「分析中・・・・・・左翼より7.92mm弾が命中」
無機質な機械音声で告げられる報告。口径からしてMG42の弾だ。
つまり、ヴァルトルートかニパのどちらかしか適合しない。
そして位置取りを考えれば逆算も容易。
「じゃあ僕だね」
ヴァルトルートが口の端を歪めて喜んだ。人の目と違って機械の記録ならば
照合も容易。嘘の報告の可能性も当然あるが、それなら自身の利益に通ずる
報告をする筈。ならば一先ず信用できると思っておこう。
「まぁ、流石に気付きますよね~・・・」
何を狙っていたのかは知らないが、横から殴り込む形となったので初弾は難なく
命中した。が、流石に向こうも馬鹿では無い。向きを変えて反撃のビームを
飛ばしてきている。ジョゼは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「けど、こっちが制空権を握ってるなら大した脅威じゃないわ」
上空には航空ウィッチ。地面には砲兵とタイタン。一方を攻撃すれば
隙を突いて他方が攻める。まして、イニシアチブを握っているのだ。
早々負ける事は無い。弾薬が節約できそうで安堵するサーシャだった。
「・・・ん?」
後詰めとして待機していたスティムが反射的にスコープを覗き込む。
白いセーラー服を着たウィッチが接近して来ている。502基地では
見かけない顔だ。
「こちらスティム。東から航空ウィッチの接近を確認。基地のメンバーじゃない」
「そいつか、獲物を横取りした奴は! おい、何処のどいつだ!?」
管野の怒鳴り声が割り込む。
「あっ!? 西沢さんじゃないですか!」
「何ですって?」
下原とエディ-タが反応する。向こうも気付いたのだろう。
片手を上げて笑みを浮かべていた。
「いやぁ、助かった。弾切らしちゃってさ。悪いけど少し分けてくれないかい?」
赤熱した銃身から煙を吹かせながら近寄る西沢。吊り下げている鞄は風に煽られ
不規則に揺れ動いていた。中身は空の様だ。
「知り合いなの? 先生も知ってるみたいだけど」
ヴァルトルートが下原に訊ねる。反応からしてエディータも知る人物であるらしい。
「一時期リバウで有った事が有るんですよ。お久しぶりです!」
思いも寄らぬ場所での再開。懐かしい記憶が脳裏をよぎる。
「あ? おー・・・どちらさまでしたっけ?」
が、西沢は全く以って覚えていなかった。
「下原定子ですっ! 坂本少佐の下で一緒に飛んでたじゃないですか!」
「そうだっけ? どうも人の顔を覚えるのは苦手でさ・・・」
申し訳なさそうに頭を掻きながら苦笑いを浮かべる西沢だった。
「ま、細かい事は後。こっから南南西でネウロイに追われてる人が居てね。
飛行型を撃ち落とすのに精一杯で正直手が足りない。手を貸してくれないかな?」
「え? レーダーには反応が無い筈・・・」
「あー、原因判明。奴ら、体に炭を貼り付けてるわよ」
会話の途中でクロークが口を挟んだ。
ステルス機にはフェライト鉄や炭素材が含まれている塗料を使用する。波長が
短い電波ならば反射を防ぐ事が出来るので、低空飛行かつ簡易的でもレーダー
対策を整えていたなら発見が遅れた理由にはなるだろう。尤も、この時代では
それを知る者は皆無であったが。
「奴らには飛べる奴は居ないんだろう? なら、此処は任せて行きな!」
アウロラがサムズアップで応える。傭兵達のマーキングも有って普段とは
桁違いに効率的な狩りを行えている。一人くらいは残して欲しいが、戦力を
惜しんで要救助者が死んだら本末転倒だ。
「くっちゃべってる暇が有ったら始末してくれ。ゴキブリ退治は面倒なんでな」
テザートラップを撒きながら進路妨害を主軸に立ち回るグラップル。
六十トンにも及ぶ重装甲のタイタンすら拘束できる電磁石の罠。
掛かればネウロイとて地面に釘付けだ。
「はい、ただ今!」
近場に居たジョゼは拘束を解かんと暴れるネウロイへ鉛の雨を叩き込む。
胴体が削れた所に電磁石の爆発。残った体をコア諸共吹き飛ばすのであった。
「魔法力ね・・・確かに奴ら相手なら有効らしいみたいね」
精々ライフル弾程度の威力なのに易々と黒い装甲を削り砕くウィッチの攻撃。
対物火器を撃ち込んで漸く痛痒と成り得る傭兵達の攻撃に等しい威力を出せるとは
驚嘆に値する。
「暇が有れば是非とも調べさせてもらいたいわ」
飛び散る弾丸を尻目に援護射撃を叩き込むスティムの独り言が銃声に飲み込まれた。
「やれやれ、折角良い物見つけたと思ったんだけどね」
弾薬箱の中で微かに淡い光を放つ弾丸。それは込められた
魔法力が放つ輝きである。そんじょそこらの通常弾と異なり、
一般的な男性兵士でもネウロイに痛打を与えられる魔導弾だ。
トラックに据え付けられた長大なライフルの銃口からカバーが外される。
象撃ち銃ことラティm/39。本体だけでも重量にして50キロ近い対物火器。
その弾倉へ淡く輝く弾丸が押し込まれた。ボルトが反時計回りに回され、
射撃体勢が整う。
「全員手榴弾用意! まずは転ばせてやれ!」
ルフィナは唸りを上げるエンジンの音に負けない様に張り上げた。
悪路を走行中のトラックから高速で動くネウロイを撃ち抜くのは
魔女であっても困難。なので、最初は動きを止める。
「まだだ、もうちょい・・・今だ!」
合図と共に手榴弾が一斉に地面へと叩きつけられる。元よりネウロイ相手に
手榴弾は有効打にならない。だが、凍り付いた地面と雪を吹き飛ばして泥を
作り出す事は可能だ。爆風と熱で即席の泥濘が出来上がった。
細長いネウロイの足は地面に多大な負荷を掛ける。硬い氷なら踏み砕いて
進む事も出来るだろうが、中途半端に水気を帯びた氷の上では逆効果だ。
ずるりと横滑りを起こして転び、後続を巻き込んで団子状態となった。
「よし、撃ちまくれ! 姉御の仕事を奪ってやれ!」
男衆が銃を手に取り、縺れ込んだネウロイの集団へ弾丸を叩き込む。
揺れる車の上からでは照準もブレるが、手数に任せた面での攻撃なら
少なからず命中する。被弾した小型ネウロイが弾けて沈黙していった。
「いいぞ、そのまま踏ん張りな! もうすぐパーティ会場だかんね!」
反動だけで車体が浮かび上がりかねないラティの反動。20mmが空を切り裂いて
ネウロイに飛び込めば、コアの有無に関わらず触れる全てを貫く。巻き込んだ
樹木が支えを失い、軋みながら大地へ倒れ伏した。
「印が見えたぞ!」
運転席から怒鳴り声。雪と木が支配する地上で一際目立つ
真っ赤なペンキを塗りたくられた看板が視界の端を流れて消えた。
地雷原の警告表示だ。
「分かった、場所を変わりな。アタイが誘導する」
銃座を離れて運転席の上に陣取り、生えた尻尾を一直線に伸ばして耳を澄ます。
研ぎ澄まされた耳からは地面から反射する音を余さず捉えていた。
「左、左、直進、左! 氷河を越えたら右に切れ!」
矢継ぎ早にルフィナが指示を出し、林道を突っ切るトラック集団。
幾多に分かれた道をネウロイが異なる進路で追跡するも、大半が
地雷を踏んで吹っ飛んでいる。
地雷と言えど、種類も用途も色々。此処オラーシャでは振り積もる雪と木々が
中型ネウロイの進行を妨げるので、戦車級と称される陸上型より小回りの利く
小型対策がメインである。その代表格たる跳躍地雷は地面から少しだけ針金が
地面から出ている。彼女は針金からの反射音で位置を把握しているのだ。
「だーっ! しつこいのは油汚れだけで充分だっての!」
撃てども爆破しても追って来るネウロイ。男連中が悪態を
吐く間にも増援が次々と迫ってくる。このままではジリ貧。
そんな事はルフィナとて承知の上だ。
「安心しな。手は打ってあるんだからね」
わざわざ貴重な物資に爆弾を仕掛けたり、地雷原を突っ切るような真似を
何の計算も無く行った訳では無い。例え広大なオラーシャの大地であれど、
派手な狼煙が見えればどうなるか。
「居たぞ! ぶちのめせ!」
上から重く低い音が降り注ぐ。一拍遅れて金属同士が弾ける衝撃が木々を揺らした。
枝葉に絡みついた残雪は、振動に耐えかね地に落ちる。茶色く汚された轍の痕跡が
再び白く染め直された。
「ほーら、壊し屋共が到着だ」
出撃の度に何かしら壊していく悪名高き三人。ブレイクウィッチーズの到着だ。
「後は向こうで始末してくれる。とっとと尻尾を巻いて逃げるんだよ」
文字通りに自身の長い尻尾を丸め、ルフィナは鮫の如く笑みを浮かべたのであった。