「流石は雪国。冷却効率が段違いだな」
銃口から吹き上がる白煙。強烈な熱気で陽炎が見える。
的の代わりに使っている装甲板には大きな穴が開いていた。
「う~む・・・弾速が遅すぎるな」
ラルはL-STARを構えつつ感想を述べた。
「開発経緯からして接近戦用の武装なんでね。特性上遠距離にも
使えるから分類が軽機関銃になってるだけだ。遠距離戦は期待できんよ」
ある程度距離が開いていれば発射を見てから弾を避けられる程度の弾速である。
止まっている相手でなければ逃げられるのが関の山だ。
「とはいえ、無反動で精度も良い。弾自体も大きくて当てやすい。
制圧射撃には使えそうか?」
低重力、あるいは無重力圏でも使える完全な無反動兵器。これならば
例え魔力を失ってもリコイルコントロールに悩まされる事は無いだろう。
魔法力の補助無しの片手撃ちでも、余裕で的を狙えるのだ。
「電磁シールドや高密度素材の破壊には持って来いだからな。
あのネウロイとやらが金属と同化するんなら、こいつは有効だろう。
味方に誤射するとああなるから注意だが」
フェーズは的の後ろに設置していた木材を引っ張り出した。
「生物に当たれば水分が蒸発。弾け飛んで死体すら残らん。くれぐれも気を付ける事だ」
固定具の代わりに使っていた木材は、内側から爆発したかのように弾け飛んでいる。
鼻を突く焦げた臭いが熱量の多さを物語っていた。
「薪割りの手間が省けそうだな。で、そっちは?」
ラルは別の武器を試射するエディータに話し掛けた。
「確かに扱い易いですね。煙越しでも良く見えます」
単射でコインを撃ち抜くエディータ。彼女の前には焚き火をしているドラム缶が
置いてあった。煙が出る様に生木をくべているので、もうもうと黒い煙が出ている。
「しっかし、スレットスコープも無いとは。魔法とやらで何とかならんのかねぇ」
「赤外線を使った暗視装置なら開発中だが、実戦配備されるほど出回ってはいない。
夜間視を持つ者も居る事はいる。問題はどこでも引く手あまたで中々配属されん」
焚き火に砕けた木材を投げ込みつつラルは答えた。
「対人用だけあって威力は物足りませんが、それを差し引いて尚
余り有る精度ですね。訓練用に一丁欲しい位です」
煙で視界が塞がれている状態にも関わらず、正確に的の中心を撃ち抜く。
銃に取り付けられたスコープには、標的の輪郭が強調表示されていた。
「当然とは言え、規格が合わないからなぁ・・・どうにか弾だけでも
調達したい所だが、金もコネも無い以上無理か」
腕を組みつつ唸るフェーズ。直前の仕事で受け取った前金も、
こちらの世界では何の役にも立たない。
「で、偵察はいつやるんで?」
「修理が済み次第行う。まぁ、明後日ぐらいには行うだろうな」
指折り数えてラルが答える。
「そうか・・・なら、暇な間に挨拶回りだけでも済ませたいんだが、出来るか?」
「ふむ・・・」
しばし沈黙。その間に試射を終えたエディータが戻ってきた。
「こちらも終わりましたが、どうしましたか?」
「顔繋ぎをしたいそうだが、どうするべきかと思ってな」
戦闘を終えたばかりでユニットの整備も途中。基地内を無暗に歩き回らせるのは
問題だが、外で勝手に出歩かせるのも宜しくない。
「なら、一つ手伝って貰いましょうか。丁度手が足りてない所でしたし」
「何をしろと?」
「マスコミ対策です」
借りた武器を返しつつ、エディータは答えるのであった。
「取材ねぇ・・・」
困った様子でフェーズがぼやいた。
「たかだか二百ちょっと仕留めた位で騒ぐ事はないだろうに」
「ウィッチなら問題にはならなかったんですけどね」
扉を叩くと、中から声がした。
「どうぞ」
セーターにスラックス姿の女性が部屋の中で座っていた。
「失礼します」
「ちょいと失礼」
エディータに続き、フェーズが入った。
「初めまして。リベリオンのグラフ誌で契約社員として
取材に来ている、デビー・シーモアと申します」
「あー・・・フェーズだ。任務中につき本名は言えないが、理解してくれ」
デビーは懐からメモを取り出した。
「それでは早速取材を始めたいのですが」
「待て、その前に言っておく。これは契約に含んでない事だ。
どうしても応じろってんなら話を詰めさせてもらうぞ」
フェーズはエディータに向き直った。
「ええ。我々との契約には含まれていません。
ですので、彼女と契約を結んで頂ければと思いまして」
「そうか。で、具体的な契約内容は?」
「差支えの無い範囲での情報提供を。それと、取材時の護衛予約を」
デビーは荷物から新聞記事を差し出した。
「つい最近まではネウロイの拠点が近くに有りましてね。壊滅後も未だに襲撃が
起こっているので、中々取材に出向けないんですよ。そこで一つ安全を買いたいと
思いまして。日程の方はまだ未定なので予約だけしておこうかと」
「成程。そっちは詳細が分かってから話を詰めるとしよう。で、報酬は?」
腕を組み直してフェーズは訊ねた。
「こちらの相場が分からないのでは金銭での支払いは揉めそうですし、
代わりに現物の調達と宣伝を引き受けると言うのはどうでしょう?
衣料品や生活用品はお持ちでないそうですし」
「ふむ、ある程度こっちの事情を知っているようだな」
全身機械の姿を見て驚かなかった辺り、情報は最低限持っているようだ。
「皆さんは傭兵なのでしょう? 私共が新聞に活躍を載せれば、それだけ
支援も集めやすくなります。雇い主も増えるでしょうし、支援する企業と
しても武器を安く売り込んでくれるでしょうから、お互いの為になるかと」
「自分で言うのも何だが、この見た目で信用されるのか?」
ただでさえ全身機械の見た目と言うだけで驚かれているのである。
この程度で銃を向けられたりするようでは、民間人に会った所で
マトモな反応が返ってくるとは思えない。他のメンバーなら何とか
なるだろうが・・・。
「難しいですね。でも、貴方達の活躍は多くの兵士が目にしております。
箝口令を敷いたとしても完全には情報を封じる事は出来ないでしょう」
デビーは幾つか写真を出した。ピンボケや光量不足でマトモに被写体が
写ってはいないが、それでも戦火の中を動く人影やネウロイが撮られている。
「ウィッチの手を借りずとも脅威に抗える。それだけでも手を借りたがる所は
幾らでも有ります。それが非合法な存在であっても」
「ああ、ならず者か。そんな所と繋がってると話して大丈夫なのか?」
デビーの狙いが読めた。裏社会の組織との橋渡しをするつもりなのだ。
「御安心を。此処の司令に比べれば可愛い物ですから」
フェーズが視線を向けると、目を反らすエディータであった。
どうやら司令殿は喰えない人物のようだ。
「まぁ、ちゃんと報酬さえ払ってくれれば特に言う事は無い。予約の件は承ろう」
「それででは取材の前金としてこちらを」
デビーは大きな酒瓶をテーブルの上に置いた。
「友好を深めるなり、交渉の材料にするなり、お好きなようにどうぞ」
「物々交換ね・・・よっぽど追い詰められてるんだな」
顔が有れば苦々しく笑っていたであろう様子で、フェーズは瓶を受け取った。
「そう言えば、スティムに話を持ち掛けなかったのか?」
「断られました。代わりに貴方へ話すようにと言われましたので」
「あんにゃろう、逃げたな。それで、何を話せばいい?」
小声で毒づくフェーズであった。
「こちらの質問に答えて頂くだけで結構です。まずは戦闘した場所から何ですが・・・」
エディータの立会いの下、デビーとフェーズの対談が始まるのであった。
「ま、ざっとこんな様子だったな」
時を同じくして、別の部屋ではアウロラとサーシャがデブリーフィングを行っていた。
「その時は全身機械の二人も見えなかった。大方輸送機にでも居たんだろうな」
「つまり、生身の四人で第一波を凌いだと? 化け物ね・・・」
苦虫を噛み潰したような表情でサーシャは唸った。
「背中に旧式ストライカーの発動機みたいな物を背負っていただろう?
あの道具で木の幹を走り、空に留まり・・・尋常でない動きをしていたよ。
てっきり航空ウィッチが林の中を飛び回っているのかと思った程だ」
アウロラは、ぬるくなってしまった紅茶を一息に飲み干した。
「で、奴らが仕留めそこなった連中を片付けている内に中型ネウロイが出てきた。
退路が狭まる前に戦線を下げようとしたら、炎の波だ。巨人の中に火攻めを
やってたのが居ただろう? 奴が森ごとネウロイを焼き払ったんだろうな」
御代わりを注ごうとポットを傾けるも、中身は既に無くなっていた。
「煙と火の壁で二人が取り残され、私達は下がるしかなかった。
後は知っての通りだ。援軍が来るまで湖面の側で足止めしつつ、
撤退の援護をしていた」
仕方なくポットを置き、背もたれに身を預けるアウロラであった。
「彼らが敵でなくて本当に良かったわ」
疲れた様子でサーシャ溜め息をついた。
巨人達ですら理不尽な強さを持っていたのに、中身の兵士すら規格外だ。
完全初見でネウロイを撃退。しかも話を聞く限り疑似的に空中戦を行える
装備や、下手な大砲より強力な携行火器があるらしい。
「それで、どうする? 戦力としては申し分ないが、奴らには追手が
居るんだろう? 下手に置いておけば巻き添えを食う羽目に陥りかねないぞ」
「だけど、あれだけ派手に目立った後だと隠しきれない。
間違いなく担ぎ上げる動きが出て来るわ」
サーシャは窓の外へと目を向けた。
無線に割り込んで通信をしていた以上現場の通信兵は当然として、基地の通信班にも
会話内容は聞かれているだろう。しかも、ウィッチを知らないと言い切っているのだ。
何かしらの調査は来るだろうし、空薬莢などの痕跡を調べられれば存在を隠しきるのは
不可能だ。まして、ウィッチでない人間がやったとなれば・・・。
「出来る事なら遠ざけたいけど、あんなのを野放しにするのもね・・・」
二人して黙り込み、沈黙が部屋を包んだ。
幾多の人間が殺し合い、屍となって横たわっていた映像は衝撃的だった。
如何に戦い慣れたウィッチと言えど、殺人の経験なんて物は積んでいない。
そして彼らはミリシアに追われていると言っていた。万が一彼らと敵対すれば
どうなる事か・・・下手をすれば精神的な影響で一気に魔法力を失う事にも
繋がりかねない。
「リスクを抱えるだけの価値はあるんだろうが、
人となりが分からん事には下手に動けないな」
アウロラは一枚の紙切れをサーシャに差し出した。
「と、言う訳で少々融通を聞かせて貰いたいんだが」
「・・・・・・食料品の捻出? 何をするつもり?」
内容を見て問い返すサーシャ。紙には宴会でも開こうかと思われる量の
食料品の使用許可申請が綴られていた。
「ああ。どの道肩を並べる事になりそうだからな。約束の酌をするついでに、
色々と踏み込んでみようと思う。扶桑で言う同じ釜の飯が何たらって奴だ」
アウロラが大きく伸びをすると、関節から鈍い音が鳴った。
「この時勢で苦しいのは分かっているが、あれ程の実力者を敵に回したくは無い。
どうにかして協力を取り付けて貰いたい。そちらからも頼んでもらえないか?」
「やれるだけやってみましょう」
キリキリと痛む胃を抑えつつサーシャは答える。
ブラウシュテルマーを破壊したと言う事は、巣の近くで戦闘をしたという事。
そこから生還しただけでも実力の目安にはなる。魔法力無しに瘴気の只中で
戦い抜いた方法も、可能であれば知りたい所だ。
「ですが、どさくさに紛れてヴィーナの量を増やすのは
認められません。お酒を呑みたいなら自腹で購入してください」
「チッ、バレたか」
アウロラは付き返された申請書を残念そうに受け取るのであった。