魔女達は鋼の巨人と共に抗う様です   作:voros

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第五話 腕試し

「こうして並ぶと壮観だねぇ・・・」

 一列に並ぶ7人の巨人。そのいずれもが10mに達する巨体であり、

 削れた装甲や塗装が威圧感を放っていた。遠巻きに観察していても、

 ついつい身構えてしまいそうになる。

 

「う~む、一体どうやって飛んでたんだか。さっぱり分からん」

「このクッソ寒い中パンツ丸出しで飛べる時点で常識何て役に立たないわよ」

「何で動物の耳やら尻尾が出てるんだ?」

 そんなウィッチ達を観察する傭兵一行。頭を悩ませる者、面白がる者、反応は様々だ。

 

「さて、これから情報交換を兼ねた模擬戦をするようなんだが・・・」

 アンプは陸戦ウィッチに視線を向けた。

「酔っぱらって大丈夫か?」

「大丈夫。この程度でヘマをする程じゃない」

 陸戦ウィッチからは酒精の臭いが漂っていた。

 

「おいおい、この後はタイタンともやり合うんだろ? こんなんで大丈夫なのか?」

「問題無い。いつもの事だ」

 アウロラも赤ら顔で傭兵の問いに応える。

 

「世界が違ってもロシアではどいつも飲んだくれてるのか・・・」

「この寒い中、飲まなかったら凍えてしまうからな。一杯どうだ?」

「口も無いのに飲める訳無いだろうが」

「なら、酒じゃなくて機械油を奢ってやるか」

「いらんわ、そんなもん」

 

 軽口を叩き合うアウロラとフェーズ。おっさん臭い言葉の応酬が

 途切れる事無く続いていた。

 

「何やってんだかねぇ」

 呆れた様子で借りた武器の点検をするクローク。流石に実弾武器を訓練で

 使う訳にはいかないので、基地の備品からペイント弾や武器を借りていた。

 

「これまた面倒な・・・」

 ぶつくさ言いながらもPPSh41・・・ペーペーシャのドラムマガジンに弾を込めていた。

 ゼンマイを巻いた後に弾を込める必要があるので、向きを揃えて装填するのが

 難しいのである。

 

「ところで、対ネウロイ用の訓練って何をするの?」

 PPS43を組み立てながらパルスが訊ねた。

「えーと・・・あくまでも航空ウィッチの場合なんですが」

 声を掛けられ、ひかりは緊張気味に答えた。

 

「座学だと語学や航空工学を勉強します。実技だと地上演習脚で使い魔の魔力や

 ユニットの制御方法を練習します。体力作りに走り込みとか剣術訓練もしますね」

「ほ~・・・あんなの相手に斬りかかるんだ」

「昔は武器の威力不足から危険を承知でやってたそうですけど、今は危険なので

 滅多にしないそうです。固有魔法次第では行える人もいるそうですけど」

 

 以前はユニットの魔法力増幅効果が乏しい事も有り、20mmの弾丸でもネウロイを

 倒しきれなかった事もしばしばあったらしい。今使っている13mmや7.92mmでも

 充分な威力を発揮できる事を考えれば、技術の進歩が窺える。

 

「固有魔法? 何それ」

「魔法力をそのまま扱うんじゃなくて別の形で使える場合、その特性を固有魔法と

 名付けるんです。傷を治したり、遠くの物を見たり、種類は色々ですけど」

 ひかりも九九式に使うペイント弾を弾倉へ装填しつつ答えた。

 

「羨ましいもんだね。空飛んだり、盾を出したり出来るだけでも凄いもんだけど」

 弾倉を取り付け、セレクターをフルオートに合わせる。パルスは的へ向かって

 一気に弾をばら撒いた。瞬く間に弾倉が空になり、薬室が解放状態で止まる。

 

「よし、こいつを借りようかな」

「じゃあ場所を代わって」

 漸く弾を込め終えたクロークがレンジに入る。

 単発射撃で弾道を確認すると、セレクターを切り替えた。

 

「ジャムらないでよ!」

 ミシンの様に規則正しい連射音と共に空薬莢が石畳を跳ねる甲高い音が続く。

 数秒と経たずに弾が切れる。にも拘らず、立てられた的に付着した点は一個だけだ。

 

「あー・・・寒い。指が悴みそうだ」

 入れ替わりに入ったグラップルは、MG42を構えた。

「早いとこ衣服を調達したいな!」

 半ばキレ気味に引き金を引くグラップル。横に並んだ複数の的を

 薙ぎ払うように狙いを定めて撃ち抜いた。

 

「これは驚いたなぁ・・・」

 舌を巻いて呟くヴァルトルート。傭兵達が撃った全ての弾は、的の中心から

 10cmと離れずに着弾していたのだ。周囲から感嘆の声が湧きあがる。

「糞! 寒くてまともに狙えやしねぇ」

 が、当の本人達は不満げに舌打ちをしていた。

 

「お前ら何を言ってるんだ。これだけ当てられりゃ充分だろ」

 呆れたように管野が呟いた。

「あんたらは良いかもしれんが、俺達に取っちゃ落第点なのさ」

 モシンナガンを手にしつつ、フェーズが話しかけた。

 

「あれで? 一体どんな基準で訓練してんだ」

「普段だったら20㎞走り込んでからやる。的から25m離れて、短機関銃で中心から

 10cm以内に全弾叩き込めて合格だ。失敗したら勿論やり直しだ」

「頭おかしいんじゃねぇの」

 無茶苦茶な訓練内容にドン引きする管野であった。

 

「諸君、準備は済んだか?」

 珍しく武装した状態でラルがやって来た。

「はっ! 模擬標的並びに気球も準備済みです!」

「では、模擬戦に取り掛かろう。そちらは?」

 ラルは傭兵達に話しかけた。

 

「まぁ、一通りは」

「それではこちらへ」

 エディータの先導の下、訓練場へと移動する一行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶっといロープに繋がれ、ゆらゆらと風に流されている風船。

 見た目はネウロイを模している辺り、あれが標的の代わりなのだろう。

 地上にもキルハウス宜しくハリボテの建造物等が設置されている。

 

「これより訓練を開始する。最初は誰から始めるのかな?」

「それじゃあ、俺から始めよう」

 アンプがSVT-40を担ぎつつ、前に進み出た。

 

「では、手順の説明に移ります。順路に沿って移動しつつ、配置された

 標的を射撃。一周までに掛かった時間と命中した有効弾数、その際の

 傾向を元に今度の任務における配置を決定します。何か質問は?」

 サーシャの問いに、アンプが手を挙げた。

 

「そっちの一般兵みたく地面だけを歩いた方が良いか?

 自由にやって良いなら、俺達のやり方で進めるが」

「・・・・・・とりあえず、一週目は我々と同じように御願いします。

 陸戦兵用の訓練場で空を飛ばれたら訓練にならないので」

 サーシャは空砲を構えて耳を塞いだ。

 

「では、始め!」

 発砲音が轟くや否や、アンプの顔から笑みが消えた。

 同時に伏せられていた的が次々と立てられる。

 

「ッ!」

 息を止め、端から一つずつ狙いを定めるアンプ。ほんの十分程度しか

 手にしていない銃であるにも関わらず、易々と標的を撃ち抜いてみせた。

 

「前進!」

 的を全て撃ち終えるまで僅か十数秒。リロードをしながら

 次の模擬陣地まで駆けるアンプ。まだ初弾の空薬莢は白煙を上げていた。

 

「第二波、始め!」

 次は市街を模した陣地であった。民家や塔などの窓から少しだけネウロイの的が

 顔を覗かせている。まだ避難していない人が残っていると言う想定なのだろう。

 市民が描かれた的も混ざっていた。

 

「チッ、スコープ付けりゃ良かったな」

 舌打ちを交えながらも同様に狙い撃つアンプ。先程よりは遅いが、

 殆ど等間隔で銃声を響かせている。

 

「速い・・・!」

 不正やミスの有無を確認すべく上空から観察しているウィッチ達も驚きを隠せない。

 魔法力で弾道を操作したり、超感覚を使っている訳でも無い。なのに自分達でも

 出せるか怪しい記録を打ち立てているのだ。

 

「ボヤボヤするな! 配置に付け!」

 ラルの一喝で各々が得物を構えた。

「第三波、始め!」

 風船の陰に隠れつつ、陣地に踏み込むアンプに狙いを定める。

 

「撃ち方始め!」

 最後の陣地は塹壕の上に飛行タイプのネウロイ型風船が浮かんでいた。

 本来なら気球を浮かべて的代わりに配置し、籠の部分から着弾を確認したり

 反撃を行うのが基本だ。が、今回はウィッチがいるので観測や反撃を代行している。

 

「おいおい、盾を出すのは勘弁してくれよ!?」

 遮蔽物に飛び込みつつ叫ぶアンプ。訓練の為に態々基地司令まで

 出張っているのである。大盤振る舞いも良い所だ。

 

「大丈夫! そこまではしませんから!」

「そりゃどうも! 嬉しくて涙が出そうだよ!」

 流石に全員から集中砲火を受ける様な理不尽配置や難易度ではない。

 それでも『魔女の大鍋』とも称される激戦地オラーシャで生き延びた

 精鋭達である。射撃精度は誰もが高い。

 

「なら、こっちも一つ歓迎してやるよ!」

 アンプは卵型の手榴弾を空中へ高々と放り投げた。訓練用なので爆発はしないが・・・

「バーカ、当たる訳ねぇだろ!」

「馬鹿は手前だよ」

 アンプが塹壕から飛び出して発砲した。

 

「中尉、少佐、ユニットに被弾!」

 サーシャの声が飛んできた。

「何っ!?」

「え!?」

 同時に下を向く二人。そこには塗料が付着したユニットが有った。

 

「撃ったのは一回だけですよ!? 何で一緒に・・・」

 ふと、ひかりの視界に青い何かが落ちていくのが見えた。さっきの手榴弾だ。

「あんにゃろう、空中で手榴弾を撃ち抜いたのか!?」

 どうやら飛び散った塗料を浴びたらしい。此処まで来ると変態の領域である。

 

「この程度で驚かれちゃ困るぞ。俺より腕が良い奴がいるんだからな」

「やってくれるねぇ・・・」

 続けざまに風船へ二発。文句の付けようがない撃墜判定にヴァルトルートが歯噛む。

 

「予想通り対人戦は甘いな、嬢ちゃん!」

 フェイントを仕掛け、時には離れた遮蔽物へ滑り込み、隠れながらも

 残るメンバーの攻撃を掻い潜り、目標を仕留める。ネウロイとは勝手の

 違う動きをするアンプに、ウィッチ達は翻弄されていた。

 

「そこまで!」

 遂に最後の的が撃ち抜かれ、空砲が連続して響いた。

「お疲れさん。いやぁ、良い物を見せて貰った」

 訓練場を抜け出し、悠々とウィッチ達を見上げるアンプ。

 目の保養と言わんばかりにウィッチのズボンを鑑賞していた。

 

「ここまで凄いとは思いませんでした、これが未来だと当たり前なんですか?」

 化け物染みた腕前に畏怖の念すら覚えながら下原が訊ねた。

「まさか。此処まで出来るのは全体の2%程度。これぐらいの腕が無いと

 戦闘用タイタンに乗れないのさ。出来ない奴は死ぬだけだ」

 二人の会話にフェーズが割り込んだ。

 

「とりあえず、あれ位の成績なら合格かい?」

「ええ・・・合格、です」

 無茶苦茶過ぎる結果に面食らいながら答えるサーシャ。

 

「あんなのが追手って・・・頭が痛くなりそう」

「安心しろ。此処にいるのは腕っこきばかりだ。

 報酬さえきっちり払ってくれりゃ、片付けてやるよ」

 胃痛の種が増えて苦しむサーシャの肩を叩きつつ、フェーズが慰めた。

 

「さて、二週目は本気を出しても構わないみたいなんだが・・・

 やった方が良いかい? 下手したら泣かせるかもしれないけど」

 ちらりとヴァルトルートに視線を投げかけるアンプ。

 

「中尉を泣かせる分には構いませんので、遠慮なくやっちゃってください」

「ちょっと、それはないよ~・・・」

 バッサリ言い切るサーシャにヴァルトルートは曇らせた表情を浮かべた。

 

「んじゃ、二週目まで休ませて貰おうかね」

 ヘルメットを外し、冷たい風で火照りを冷ますアンプであった。

 

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