無感動な少女と魔眼使いの少年 作:なるなる
ーしゅうたー
いろはちゃんと砂場の魔女の戦いは熾烈を極めるものだと思っていた。だが、そうではなかった。いろはちゃんは砂場の魔女に対して善戦していた、むしろいろはちゃんの方が若干だが押し勝っていた。けれどこれは、あくまで最初の話だ。戦いが始まって十分が過ぎた頃、いろはちゃんに異変が起きた。
「はぁ、はぁ、てやぁ!」
息が上がり始めていた、まだ十分されどいろはちゃんにとっては命懸けの十分だ。ソウルジェムを弄ってから一時間も経ってない、それに今回が初めての体験だ、単純に魔力の強化に
「そこを退いてくれ、やちよさん!このままじゃぁ、いろはちゃんが!」
「嫌よ!それにももこ、約束を忘れたの?あの子が決めたことに、あなたが割って入る資格は無い。」
「くっ!でも!」
「ももこ。その辺にしとけ。…大丈夫だ、もしもの時は責任を持って俺が助ける。」
「…分かったよ。」
少ししょぼくれるももこから視線を変え、いろはちゃんの方を見る。そこには、まだ目に闘志を燃やし戦い続ける一人の少女の姿があった。
ーいろはー
体は辛うじてまだ動く、目の前に居る魔女から視線を外してはいけない。そんなこととしたら一巻の終わりだ。魔女から出る竜巻攻撃を見切り、体制を立て直し武器の構えを取る。武器であるクロスボウに、魔力で作った矢をセットして撃つ。武器の欠点としては、剣や槍、鎌などの近接系武器に比べると、如何せん攻撃の際にタイムロスがあることだ。下手に魔力を貯めて攻撃をしようとすると、攻撃に対しての隙が出来やすくなってしまう。やちよさんの様に呼吸をするように、魔力を扱える人間はそう居ない。
「まだ!諦める…わけには…いかない!」
震える足に鞭を打つ、魔女とはお互いに消耗し合ってる。先程の竜巻攻撃に結構な体力を持っていかれてるらしい。
(ここで…決めなきゃ!)
呼吸を整え、もう一度クロスボウを構える。魔女も先程とは比べ物にならない程の竜巻を作っている。私も今残っている全てをかき集めて最後の一射を作る。
(未来への道を、この一射に!)
すると、自然と口から言葉が出できた。
「この一射が、未来への道となりますように。ストラーダ・フトゥーロ!」
そして、私の矢と魔女の竜巻が激突した。撃った矢は何本にもなり、雨の様に竜巻もろとも魔女を打ち消していた。
結界が解け、世界は元に戻っていく。私は少しボーっとしていた。そんな時、後ろからももこさんに声を掛けられる。
「やったな、いろはちゃん!」
ももこさんは凄く嬉しそうだ、その後ろにいたしゅうたさんも私に労うような言葉を掛けてくれる。
「お疲れさま!よくやったよ、いろはちゃん。やちよさんと戦って消耗していたとは言え、単独で砂場の魔女を倒すなんて!」
「はい、はい!やっちゃいました!」
私もさっきまでの疲れは何とやらと言う感じで飛び跳ねてしまう。
「どうだ、やちよさん。」
「どうしてももこが、得意気になってるんだが…。さぁ…。」
「なに、これ以上、難癖付けようっての?」
「まさか、実力は認めるわよ。最初から大丈夫だろうとは思っていたからね。」
「え、そ、そうなんですか…?」
やちよさんの言葉に驚きを隠せない。だったらなぜ、試すような事をしたのだろう。
「えぇ、何となくだけど、その人を見れば分かるわ。」
「なんだ…。だから、魔女を譲ってくれたり…。」
「相変わらず、ズレてるな~やちよさんは。」
しゅうたさんは、やちよさんの考えを見抜いてたんだろうか?
「しゅうたさんは、分かってたんですか?この事。」
「それなりにね、まぁ付き合いは長いから。…でも、約一名は違うけど。」
そう言われて、ももこさんの方を見ると。少しだが怒って、やちよさんを睨んでいる。
「いや、人を弄んだだけだ…。」
「別に弄んでなんかないわよ、目的のために導線を引いただけ。」
「導線…?」
「そう…。ちょっとイジメすぎたのかしらね。私の前に、このキュウべえは現れてくれないから…。」
「え…。」
首を傾げる、やちよさんはこの小さいキュウべえと会ったことがない?
「小さいキュウべえ…。今まで有り得なかったイレギュラー。気がついたら、神浜市からいつものキュウべえは消えていて、この子しか存在しない…。どう考えても、危険な因子にしか思えないのよ。」
「ヤバっ!?」
「はっ…。」
「「ももこ(さん)。」」
「しまった!」
「遅い!」
気付いたら小さいキュウべえは、ももこさんの腕からいなくなり。やちよさんが捕まえていた。
「ぐっ!」
「プギュっ‼」
「キュウべえ!」
「チビスケ!」
「ようやく消せるわ。」
「やめてーーーーー‼」
そして、私の叫び声が住宅街に木霊した。
ーしゅうたー
やちよさんがチビスケを抱えながら、いろはちゃんと対峙している。俺は何時なにがあってもいいよう、魔眼を直ぐに発動できるように準備する。
「あなたも分からず屋ね…。そのキュウべえに関わるとロクなことにならないわ。」
「この子が何をしたって言うんですか!」
いろはちゃんの怒声の声が響く。もっともな意見だと思う。
「これからするかもしれない。リスクは早めに排除するものよ。」
これも正論に近い、チビスケが友好的なのは今だけかもしれない。でも…。
「そんなことしたら、聞けなくなっちゃう!あの子は…あの子は…。私にとって、大切な子かもしれないのに‼」
その時、いろはちゃんが矢を引いた。だが、やちよさんに単純な攻撃が通じる筈もなく、軽々と躱されてしまう。
「ヤルの?あれだけの実力差があると分かってても?」
「やります、あの子は私にとって、大切な子かもしれないから!」
「そう、なら来なさい。どこまで耐えられるかしら!」
そこからの戦いは、まさに一方的な暴力に等しい。いろはちゃんは消耗してるので避ける事しかできない、最も魔力も尽きかけているためまともに矢すら作れないが。居ても立っても居られず先にももこが立ち上がろうとした。
「しゅうた行くぞ!いろはちゃんが危ない。」
「待て!行くな。」
「どうして!今行かないで何時!」
「一回待て、チビスケからテレパシーをもらった。」
「…どんな?」
「信じて待って、だそうだ。俺も信じていいかわからないだけど、この先アイツとやってくなら信じるっきゃない。」
「確かに…でも、もしもの時は…。」
「ああ、行っていいよ。それにもしもの時は俺も行く。」
そして、歯がゆい思いをしながら戦いを見送った。
ーいろはー
ももこさんとしゅうたさんは加勢に来てくれない。でも、あっちを見た時。確かにしゅうたさんは、こちらに信じる目を向けていた。だから…。ここで折れる訳には。
「ここまで耐えたのは褒めてあげるわ。だけど…ここまでよ!」
「だめぇ‼」
「キュ!」
私は抱えていた小さいキュウべえを守るように強く抱きしめる。
「そいつを離しなさいアナタまで串刺しになるわよ。」
「いやです!絶対に離しません!-っ!?」
(なに…意識が…)
「いろはちゃん‼」
「はぁ…だからいったでしょ…アナタの自己責任よ。」
「いろはちゃん!だあクソっ!信じたのは間違いじゃないけど、もっと良いやり方はないのか。」
しゅうたさんとももこさん、それにやちよさん。それぞれの声が聞こえた気がした。
……………
……
抱きしめたキュウべえから、何か…来る…
「お姉ちゃん!今日も来てくれたんだね!」
お姉ちゃん…?
「あーあ、早く元気になってお姉ちゃんと学校に行きたいなぁ。」
ずっと入院してるこの子…
私…どこかで…!
「お姉ちゃん…息が…はぁ…うぅ…。」
「ゆっくり体起こそうねっ!■■は強い子だから大丈夫だよ!」
私…知ってる…
あの子の苦しそうな顔も嬉しそうな顔も…
あの子、そう名前…なんだっけ…懐かしくて愛おしい、あの響き…
「お姉ちゃん、本当に私、退院できるの…?」
「そうだよ、うい!」
うい…?
うい…うい…
そう、ういだ!
私の妹…
ずっと入院していて身体が弱くてすぐに消えてしまいそうな
かけがえないのない私の大事な妹…
どうして私こんな大切なこと…
「お願い、妹の病気を治して…!ういを元気にしてあげて!そのためなら…私、何でもするから…‼」
願いと言うには少し違う。懇願だ、藁にも縋る勢いだった。
「環いろはそれが君の願いなんだね。」
ーしゅうたー
今は調整屋に居る。ここは中立地帯、戦闘はご法度だ。
「はっ………。」
「あらっ!ももこぉ、しゅうたくぅん、いろはちゃんが目を覚ましたわよっ!」
「え、ほんとに!?いろはちゃん、大丈夫!?」
「おいおい、ももこ。起きたばっかりなんだ、あんまり質問攻めすんな。」
俺だって今すぐにでも駆け寄って無事を確かめたいのだ。
「ももこさん…しゅうたさん…みたまさん…。」
「なに?どうしたの?どこか痛い?」
「えっ!痛いとこがあるのか直ぐに見せて!」
「私…思い出しました…。どうして魔法少女になったのか…。」
「え…。」
「はっ…。」
俺とももこが少し呆けている、多分チビスケのお陰なのだろう。
「私…妹のために…。あの子の病気を治すために魔法少女になったんです…?どうして忘れてたんだろう…こんな大切なこと。」
「忘れてたって…どういうこと…長い間、離れて暮らしてるとか。」
「いや、違うな。何かあるんだろういろはちゃん。」
「はい、そうです。…ずっと一緒でした…。この間まで、同じ屋根の下で一緒に寝て、ご飯も食べてました。でも、みんな消えてるんです…なかったことになってるんです…。あの子がこの世界に居たことが…。」
新手の魔法…それともキュウべえ似た奇跡を起こす何かか。上手くは分からないな。
「そんなことって…。」
「でも、実際にそうなんです。家に帰っても、ういが居ないのが普通になってて…。お父さんとお母さん三人でいつも通りに暮らしてた。私だって、さっきまで自分のこと一人っ子だって…。」
「つまりそれって、わたしが妹ちゃんに会っていたとしても、忘れてるかもってことぉ?」
「はい…きっと…。」
「…魔女の仕業かしらぁ?」
「長いこと魔女と戦ってるけど、そんな魔女がいるとは…。」
「それじゃあ、どうして…。」
「それか、キュウべえのように奇跡を起こせる存在が居るとかってところだな。」
「私が思い出せてないことが他に何かあるのかも…。」
みんなが少し考え込むとチビスケが鳴いた。
「モキュ。」
「キュウべえ…。もう、あなたに触っても何も思い出せないね。でも、あなたが、ういのことを思い出させてくれたんだよね?」
「キュ?」
「…きっとそうなんだよ。そんな気がする。…………。うん…決めた…。」
いろはちゃんは、あの時と同じように何かを決めた顔をしていた。そんないろはちゃんを、ももこが呼ぶ。
「いろはちゃん?」
「私、また来ます…。この神浜市に。」
「目的は果たせたんじゃないの?」
「今度はういを探さないといけませんから…。きっと、この神浜市のどこかに、手がかりがある気がするんです。ういが消えちゃった理由も、あの子が今、どこにいるのかも。ういのことを思い出させてくれた、この小さいキュウべえが居る町だから…。」
そう言った、いろはちゃんはとても清々しい顔をしていた。
「…その記憶が実はウソで何か理由があって植え付けられた、そんなことも考えられると思うんだけどぉ。」
「みたま先輩、後味良い感じで来てるんだから、あんまり壊さないでよ。」
「大丈夫ですよ、しゅうたさん。みたまさん。それでも私、この記憶を信じます。」
ういのことを考えるだけで愛おしく感じるから
鮮明になった思い出があの子がいたって実感を与えてくれるから
そして何より…
「今の私は…。環 羽衣って妹がいる環 彩羽だって思えるから…。」
「環 羽衣がいる環 彩羽…。その記憶を信じて妹ちゃんを探すんだね、この神浜市で。」
「はい!」
「うん、そっか、分かった…。アタシは大歓迎だよ。新しい仲間が増えるからね。」
「俺も歓迎するよ。新しく仲間ができるのは楽しいからね。」
「わたしもお客様が増えるし無理に止められないわぁ。」
みたま先輩らしい、発言にクスリと笑ってしまう。
「オマエなぁ…。」
「うっふふ。」
「まっ、それじゃあ次に来るまで、チビスケはアタシが預かるよ。どうも、この町からは出たがらないみたいだからさ。」
「あい、ありがとうございます。」
「それじゃあ、いろはちゃん。」
「はい。」
「この子に名前を付けてあげてくれる?」
「名前?」
「チビスケや小さいキュウべえなんてかわいそうだろ、そう言うことだよ。」
「そぉ、だから、なにか分かりやすい。新しい名前をって思って。」
いろはちゃんは、ばつが悪そうにしている。
「でも、私が…いいんですか?」
「えぇ、いろはちゃんにとってきっと、大事な存在だと思うから。」
「…それじゃあ、えっとキュウべえちゃん…。」
「あら、本当にそれでいいのぉ?」
「それじゃあえっと…。チィで、どうでしょうか?」
「ふふ、良いと思うわぁ。」
「モキュ‼」
チビスケ、改めチィは名前が気に入ったのか嬉しそうに鳴いている。
「チビスケも気に入ったみたいだしな。」
「これから頼むな、チィ。」
「チィこれから一緒にういを探してくれる?」
「モキュキュ!(うん!一緒に頑張ろう!)」
「ふふっ、これからよろしくね!」
そして、その日はお開きとなった。
家への帰り道で。
「はぁ~、疲れた。」
「でも、いろはちゃんを助けられて良かったな。」
「…ああ。っともう家か。じゃあ、チィのこと頼んだぞももこ。」
「任しといて。じゃあお休み、しゅうた。」
「お休み、ももこ。」
家の前でももこと別れ自分の家の柵を開け中に入る。
俺の家は昔ながらの瓦屋根の平屋だ。4LDKでリビングとダイニングとキッチンが一纏めになった大き目な部屋に加え、七畳程の和室と八畳の部屋が三つだ。そこそこでかい家なのだ。父親は俺が小学校に上がる前に殉職した、父さんは警察官だった。本当だったら今は母さんと住んでる筈なのだが、とうの母親は俺が中学に上がる際に海外に旅に出ると言いどこかに消えた。母さんからの仕送りがあるが、幸か不幸かひょんなことから今の仕事に付いている。その仕事とは父さんと同じ警察官で、そして公安に入った。所属している部署は神浜市ウワサ魔女特別対策班だ、咲良さんもそこの班だ。あともう一人いるのだが、その話はまた今度にしよう。
俺は自分の家の扉のドアノブに手を掛け思いっきり回し、ドアを開け中に入る。
「ただいま~。こころちゃん、まさら帰ったよ。」
トタトタと足音がする。俺が靴を脱ぎ終わり正面を見ると、そこにはエプロン姿のこころちゃんの姿があった。
「柊断さん、おかえりなさい。今日は遅かったですね、ご飯もお風呂も準備出来てますよ。」
「ありがと、こころちゃん。まさらは?」
「リビングで柊断さんのことゲームして待ってますよ。ご飯も食べずに、各いう私も食べてませんが。」
テヘっと笑うこころちゃんを見て癒されつつも、先程の答えを言う。
「じゃあ、ご飯にしようかな。」
「分かりました、早く中に入って下さい。」
中に入ると、ソファに深く座り込みゲームをしてるまさらが居た。
「おかえりなさい、柊断。遅かったわね、待ってたらお腹が空いたわ。」
「悪かったな、少し面倒ごとに首突っ込んでたんだよ。」
「知ってるわ、早く食べてしまいましょう。冷めてしまってはあの子に申し訳ないわ。」
「そうだな。こころちゃん早く食べよ。」
「はい、今お茶もって行きますから。」
全員が席に座ると誰かが揃えた訳でもないのに。三人が声を揃えて…
「「「いただきます。」」」
そう言っていた。こんな日常的な物に俺は喜びを感じていた。
こんな生活を送るようになったのは、一ヶ月前のことだ。