転生したら人類の敵側になってしまった   作:クォーツ

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プロローグ

 転生したら、カルデアに居た。

 正確には、それまでに歩んできた人生があったのだが駄文にしかならないような人生だったので軽く流す程度に触れていこう。

 

 前世ではまだ大学生だった私は、気が付いたら死んでいて気が付いたら転生していた。

 転生の時に『神』と呼ばれるような存在に遭った覚えはないし、望んで転生したわけではない。

 だが、心のどこかで死にたくないという思いがあったことは確かだ。

 

 転生した私は、それなりの魔術の家庭に生まれた。

 700年程度続いている家ではあるのだが、未だに主だった成果をあげられることはできない上に長いとは言い切れない歴史の浅さも相まって、とても大御所といえるわけもなく二流の魔術の家だった。

 

 特別な力に恵まれたわけではなかったが、『魔術』という前世ではなかったファンタジー満載のそれに心が惹かれて無心で打ち込んでいた。

 この時に、この世界が『Fate』世界だってことに気づいた。

 

 気づいたのだが、上には兄がいて私はあくまでスペアとしか見られていなかった。

 魔術属性は『水』。特性は『操作』。

 これは、我が家の家系の人間の殆どが当てはまるらしい。父も母も兄もみんな同じだった。

 しかし、私自身の魔力回路が貧弱なのか私が転生者だからなのかは知らないが、できる魔術は基本的に自分の血液を操作することのみだ。

 

 血液を固めて、剣を作る。

 血液の流れを加速して、身体能力の向上を図る。

 前者はともかく、後者は体への負担が大きいので殆ど使い物にならない。

 

 兄も大した魔力回路ではなかったが、私よりも『水』そのものの操作が上手だったのが決定的だった。

 また、人には見せることが出来ないものも多かったのが私がスペアになった理由なのだろう。

 血液から赤血球を抜いて体外に液体のみを排出し透明な液体で相手の体を削り飛ばすとか、血液そのものに上向きの力を与えて体を浮かすとか、体への負担が馬鹿にならない上にグロかったり実用的ではないものが多すぎた。浮く方に関しては、長時間浮いていると足が壊死する上に前に進むだけでも身体全身が破裂しそうなぐらい痛くなる始末だ。

 しかも、私が『水』の操作をできないと割り切っていたせいで『血液』の操作にばかり夢中になってしまったことで、家からは完全に要らない人扱いになっている。

 

 そんな時だった、カルデアからの使者が私をスカウトしに来た。

 『レイシフト適正』と『マスター適正』が高かったこと、スペアではあるもののそれなりの魔術の家で魔術回路自体は次期当主になる兄と遜色なかったことが理由だと言われた。

 拒否する気はなかったが、そもそも拒否権自体がなかった。

 

 その日のうちにカルデアに行くことになり、自分の部屋に有った魔術の資料などを持って家を出た。

 家族全員が喜んで私を家から追い出した。だが、私は家族自身そこまで好きになれなかったので、どうでもよかった。

 そんな些細なことよりも、これからのことに思い馳せていたのだ。『主人公』にはなれないと理解していながらも、どこかワクワクした気分を抑えきれずにいた。

 人生がつまらなかったわけではなかったが、『Fate』世界転生したのに何の話にも関わらないで死んでいくモブキャラになるのが嫌だったのだろう。

 今考えたら、そのまま死んでおけば楽だったのかもしれないと思うが、当時の私は前世の子供の頃のワクワクを思い出してしまっていた。

 

 どこぞのキモイルカよろしくだ。

 

 名前は十代ではないけど、ワクワクを思い出してそれに思いを馳せていたことに間違いはない。

 『FGO』と呼ばれるソーシャルゲームは、生前かなりやっていた。

 やり始めた原因ともなるのは『清姫』の存在だったが、周回が面倒だったこととガチャの排出率と戦闘の仕様に不満があった程度で出たキャラは一通り育てている程度にはやりこんでいた。

 

 小さい頃から祖母の影響で妖怪が大好きだった私は、妖怪の本を穴が開くかのように読み込んでいた。

 その中で『清姫』の項目を読んだ時に、こんなに異性に思われるんならさぞかし幸せになれるだろうにと思っていたものだ。結末は残念極まりないものだが、安珍が悪いと断言することもお門違いなことを子供ながらに理解していたので、やるせない悶々とした思いを抱えていた。

 その心を誰にも漏らすことなく死んでいったことが幸運だったのかはわからない。

 挿絵は、百鬼夜行絵巻のようなものに近づけていたのでお世辞にも可愛いとは思えなかった。

 

 だからこそ、『FGO』の清姫を見た時には腰を抜かしそうになったものだ。

 『刑部姫』も挿絵の方に慣れ親しんでいたせいで、実装当時は「誰だお前!?」と絶叫したのを覚えている。『長壁姫』の方で慣れ親しんでたいせいで、最初は誰だか分らなかったが、イベントを進めていくにつれて違和感を感じ、『刑部姫』は『長壁姫』と同一だったことに気づいた時の魂の叫びだった。

 今思えば、あの挿絵で実装されていたら地獄絵図になること間違いなしだ。

 

 

 そんな、画面でしか見れなかった『英霊』を一目見ることが出来るかもしれないと内心テンション高く飛行機に乗っていた。

 窓からの景色を見ることすら許されなかった移動ではあったが、そんな中でも暇だとは思っていなかった。

 カルデアで起こる日々を考えるだけでも楽しみだったし、前世ではまだ二部の途中ではあったがAチームの彼らと会話をすることも楽しみにしていた。

 人理が焼却されるが、『主人公』がいるならばなんとかなるだろう思っていたし、その『主人公』にも会って話でもしてみたいと思っていた。

 

 

 

 

 最初に着いたときに、シミュレーションを行った。

 しかし、待てど待てどサーヴァントは現れず、仕方なしに自力で何とかすることにした。

 持って来た、()()()()()()()()()()()()()()()を勢いよくゴーレムに叩きつける。

 体外から出した後、1週間程度ならば問題なく操作できることはこれまでの実験からわかっていた。

 拳大ほどの血液を叩きつけられて怯んでいるゴーレム相手に、150CCの血液を1μの細さにして無数に分裂。全方位から一気に串刺しにした。

 串刺しにして、ゴーレムの外殻を突き破ったことを確認してから貫いた部分の血液で中身をミキサーのように掻き回す。

 そんな単純な作業で、ゴーレムたちは全て塵と化した。

 

 とても人間には使えない、極悪非道の必殺技である。

 ゴーレムの外殻を突き破ったことからもわかる通り、1μの細さにまで圧縮された血液は先端が槍状に尖っており、殺傷能力が非常に高い。

 岩どころか、鉄ですら貫ける勢いだ。

 それが束になって体を貫くが、体の深部に達している必要はない。

 貫いた部分の血液を操作して体の中身を掻き回せば、耐えられる者は僅かだろう。

 欠点としては、魔術的な防御をされると弾かれる可能性が高いことと、高温の場所だと上手く圧縮できないため威力がガタ落ちしてしまうこと、弾が血液なので無駄打ちしすぎると自分が死にかねないことだ。

 

 一汗掻いた所で、カルデアに入ってすぐの入り口に立っていたことに気づいた。

 そこに走ってやってきた、所長やロマンを見てテンションを上げつつも両方とも顔を蒼白にしていたことで気持ちを落ち着かせていた。

 

 曰く、こちらの不都合でサーヴァントを用いたシミュレーションができなかったことの謝罪だった。

 それについては自力で乗り切ったので問題はなかったのだが、問題は私のシミュレーションでの行いを見てしまったことだったらしい。

 

 予定ではBチームに配属される予定だったが、自分の血液しか操作できない欠点を克服するような活用の仕方を見て評価を改めたそうだ。

 また、カタログスペック上ではサーヴァントでないと倒せない設定のゴーレム()体を、単騎で怪我も負わずに倒してしまったことがまずかったらしい。

 カルデアのスタッフ内では私のことを『怪物』と呼称している人間もいるそうだ。誠に遺憾である。

 私としては、Bチームのままの方が良かったのではないかと思いながらもAチームに所属することが確定してしまった。

 

 そして、自室になる部屋に案内されてベッドに横になって冷静に考えをまとめているうちに頭が痛くなってきた。

 

 私はさっきのシミュレーションの時に何としてでも戦うことを避けるべきだったし、さっきの話でもAチームをかたくなに拒む必要があったことに気づいたのだ。

 

 

 

 そう、私は第二部で異聞帯(ロストベルト)を作るAチーム所属になってしまったのだ。

 嫌な予感はしていた。

 間違いなくレフの起こす事故によって一度死ぬことも理解していた。

 だが、それを知ったところでどうしようもないことに気づいた。

 カルデアの中枢に入り込んでいるレフ・ライノールを止める手段を持ち合わせておらず、魔術の家としても二流でしかない。

 Aチームのメンバーは性格に難がある人物が何人か紛れ込んでいることは理解しているし、マシュを救うのが私ではないことも理解している。

 

 だが、このままでは人類の敵になってしまうのだろう。

 

 それは何とかして阻止したい。

 味方として登場するのではなく、敵として『主人公』に敵対することはできれば避けたいと思っている。

 しかも、『大令呪(シリウスライト)』とかいう、使うと死ぬ強力な令呪なんて厄種にしかならないものも押し付けられるのだ。

 

 はっきり言っていらない。

 

 転生してまで私が思うことは死にたくないということだけだ。

 

 『Fate』…『型月』世界だと自覚してから、死なないために力をつけてきた。

 ファンタジー染みた『魔術』だったからという理由だけで、ここまで頑張れてきたわけではない。

 『物語』に関わりたいと思いつつも、関わったら死ぬのではないかと思っていた。

 

 『型月』で物語に関わるということは高確率で『死』を表す。

 確定ではないものの、主要人物でもあっさり死ぬような世界だ。

 関わらないように立ち振る舞っても、それが原因で死ぬことすらあり得る世界だ。

 

 それならば、『魔術』を自分なりにものにしておいた方がまだいいだろうと思っていた。

 一流の魔術師ならば死亡フラグだが、二流でしかない私ならば確定死亡フラグにはならないだろうと思っていたこともある。

 

 でもAチームはまずいってば。

 

 死ぬ死なない以前に、()()()()()()()()()()ということ自体がまずい。

 『異星の神』に使いつぶされることが前提で、そのために今からAチームで頑張れとかやる気が起きるわけもない。

 あーだのうーだの言ってベッドで唸ることしかできない自分が、とても矮小な存在だと今更気づかされた。

 Aチームの彼らを救うには力不足で、彼らの助けになることすら『魔術刻印』を受け継いでいない自分には難しい。

 どうすればいいのか頭を悩ませながら、時間は残酷に過ぎていった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 カルデアに来てそれなりに時間が経った。

 Aチームの人たちは思ったよりもいい人たちだった。

 

 キリシュタリアは、名家の生まれであることもあったのでヴォーダイムさんと呼んでいたのだが名前でいいし呼び捨てで良いと言ってくれて魔術について意見を交わした。

 二流の家でしかない私の意見なんかが役に立つとは思えなかったのだが、ゴーレムをグチャグチャにした映像を見たらしく、その発想力は好ましいものだと言ってくれたのが純粋に嬉しかった。

 

 ファムルソローネさん…オフェリアさんは名字で呼ばれることを嫌がっていたのでさん付けで呼ぶことにしていた。キリシュタリアと同じように、名家出身なのにこちらを見下すような態度を取ってこない上に、生真面目な性格はとても好ましい印象を受ける人だった。

 特殊な魔眼を持っているらしく、片目を常に眼帯で封印しているのが印象的な彼女だが、名家の出身であった彼女からも色々と魔術に関して話し合った。

 私の意見はだいぶ魔術師のそれとは異なっているらしく、「…なんでそんなことを考え付くのかしら?」と呆れられてしまった。

 

 カドックは自虐が過ぎるところがあるが、魔術に関わっているにもかかわらず思いやりと気遣いができるという印象が強かった。

 年が近いこともあり、魔術師としては平凡だった彼と二流の家出身のスペアの私は、良くも悪くもお互いに打ち解ける原因になっていた。名家にはわからないような苦悩とかを吐き出しあっている様は、傷の舐め合いと言われればそれまでなのだろうが、私にとっては今までになかった経験で気持ちがだいぶ楽になっていた。

 お互いに魔力量がないことを気にしていたため、二人で効率のいい魔力の使い方について話し合った。

 

 ペペロンチーノは非常に面倒見がいい人間だ。

 途中配属された私に真っ先に声をかけてくれたのが彼(彼女の方が良いのか?)だった。

 発想がぶっ飛んでいると言われたこともあるが、それでも魔術の練習と称してシミュレーションをする時に気がついたら付いてきてシミュレーションをいつでも止められるようにしてくれていたことを覚えている。

 

 芥さんは読書家だ。

 ペペロンチーノとは違い不愛想で、読書は好きだけど無気力で他のことには興味がないのではないかとすら思える。

 読書の邪魔をするのは申し訳ないと思っていたので、あまり話すことはできなかったが、ある件の話し合いの時の彼女を見て、自分の意思を貫くときには貫く人だと知った。

 

 ベリルは殺人鬼らしい。

 話してみると悪い人物にはあまり見えないのだが、確かに言動がヤクザか何かを彷彿させるものがある。

 ゴーレムを壊したときの映像を見て、それを人間にやってみたら面白いと思わないか? と言われたときは流石の私も口を噤んだ。

 その後すぐにケロッとして、冗談冗談、と言いながら去っていったのだが、アレで同意していたらどうなっていたのかを想像すると少し怖いなと感じた。

 でも、普段は悪い人じゃないことを知っていたし、自分の楽しみを優先しつつも他の人に気を配ることもできる人だった。

 

 デイビットは口数の少ない寡黙な男だ。

 だが、意思がない男ではない。

 頭が良いというよりは、直感が非常に良いという羨ましいような能力とも言えるものを持っている。

 理屈抜きに直感に頼るという様は、理解しがたいものではあれ凄まじいものだ。

 自分を信じ切っているように見える彼の姿は、私からすれば眩しいものに見えていた。

 

 

 最後に、原作とも言える『FGO』のメインヒロインになるマシュだ。

 話は事務的で、生命活動を最低限に行っているとしか思えない節がある彼女だが、Aチームの何人かは彼女を気にかけている。

 私は最低限は関わるというスタンスだが、『主人公』がいるのであれば何とかしてくれるだろう。

 少なくとも、私には彼女が変わる様をイメージできない。

 

 彼女がここからどのように変わっていくのか、ゲームで知っているはずなのに()()()()()()()()()()のだ。

 

 画面越しに知っているはずのことなのに、実際に目の前にいる彼女を見るととても変われるとは思えない奇妙な何かを感じる。

 それは、彼女が『デミサーヴァント計画』のために作られた試験管ベビーであることを知っているからかもしれない。

 ()()()()()()()()()()()()()()という強迫にも似た何かが彼女を目の前にすると呼び起された。

 

 恐らく、彼女は救われるだろう。

 だが、それは私の役目ではない。

 

 それを理解してしまったからこそ、私は彼女と距離を置いて接していた。

 申し訳なさと、やるせなさが入り混じった感情を彼女に…いや、Aチームのメンバーには知られたくなかった。

 

 

 

 

 私はこの僅かな期間に足掻き続けた。

 彼らを死なせたくはなかった。

 彼ら以外のマスター候補の皆からは『怪物』と呼ばれて避けられてしまっていたので、あまりかかわる機会を持てなかったが、死んでほしいと思ったことはなかった。

 スタッフの人には迷惑をかけたり、シミュレーションに籠って実験をしている時には心配をかけたりもしてしまった。

 特にロマンには何回説教されたか覚えていない。

 

 彼らを死なせたくはないし、彼らを悲しませたくもなかった。

 だが、レフ・ライノールという男…魔神柱の一体はこちらが何か行動を起こそうとするたびに見張るかのように先回りしていた。

 恐らく、彼は既に計画が私にばれていることを察しているのだろう。

 今私が始末されていないのは、どうせ殺すのだから構わないという自信の表れなのだ。

 

 

 現に私は今日がレイシフトする当日なのに具体的な対策をまるでできていなかった。

 露骨に爆破対策をすることは、他のAチームの人には一発でばれてしまう。

 それについて問い詰められようものなら、レフがカルデアの職員を正真正銘皆殺しにして回るかもしれない。

 そうなったら詰みだ。

 『主人公』も含めて、全員死んでしまったら人理焼却が為されてしまう。

 スタッフが『FGO』の時から1人減るだけでも負担はとてつもなく増えるのはわかり切っている。

 

 だから、私は『未来(正史)』を知っているにも関わらず、爆破を止められるのは私だけだという事実を理解しているのに、何もできないままコフィン(棺桶)の中に入った。

 

 

 

 そして、運命(Fate)の刻は訪れる。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Lostbelt No.0 ■百■■行■■

 

 A.D. 500 異聞深度:A-

 

 『■黒■■の■■る時』

 

 

 




 オリジナルサーヴァントの登場はもう少し後になる予定です。
 主人公は強いように見えますが、サーヴァントと対面した場合には速度で圧倒的に後れを取ることと対魔力を持っている相手だと身体の中に、魔力を込めた血液を送り込むことが難しくなるため十中八九死にます。
 また、主人公の主観で物語を進めているので事実とは異なる描写を挟む場合もございます。

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