転生したら人類の敵側になってしまった 作:クォーツ
今回、かなりの独自設定が入っているので、嫌な予感がする方はブラウザバックをした方がお互いのためになると思いますので、よろしくお願いします。
体が熱くて痛い。
私はどうしようもない無力感に苛まれながらも、出来ることはないかコフィンの中で模索した。
身体から流れ出ている血液を利用して、コフィンの外に出られないかと思ったが上に瓦礫が乗っているようでとても動かせない。
死ぬ直前に意識があったことを幸いと取るか、不幸と取るかは人それぞれだが、今の私を見て幸せだという人はいないだろう。
前世で死んだ理由はわからないが、痛みとかはまるっきりなかった。
今の状態とはまるで反対だ。
今の私は自分の身体が燃えている感覚を味わいながら、死んでいく苦痛に耐えて意識を残している。
直ぐに死ねない理由があるとするならば、私の魔術の性質のせいだろう。
少ない血液量を賄うために、循環効率を上げる魔術が自動的に発動している。
体の外に出た血液も、体に戻ってきている感覚もある。
だが、それで私が生き残ることはない。
主要な臓器全てが潰れている現状で、生き残れたとしても地獄のような苦しみが待っているだけだ。
それならば、意識を飛ばしてしまった方が楽になるのだろう。
結局、転生しただけの凡人にできることなんてたかが知れていたのだ。
外で何か聞こえているが、それが私に作用することはないだろう。
何せ、私は今すぐに死んでしまうのだから。
そうして、私の意識は闇の中に溶けて消えていった。
◆◇◆◇
私は死んだ…
死んでしまったはずの私はマシュ以外のAチームの面々と一緒に、『異星の神』に拾われた。
拾われたと言うと語弊があるかもしれないが、まあ使いつぶされるだけの駒にされたのだ。
大した違いはないだろう。
オフェリアさんとヴォーダイムの様子が少しおかしいことから、彼らの間には私が意識を取り戻す前に何かあったのだと推察した。
原作知識が正しければ、ヴォーダイムは私たちを生き返らせるために、私が増えた分と初回分を合わせると8回も試練を乗り越えたことになる。
その件について謝罪したいと思っているが、どうやってそれを知ったのかを問い詰められると答えようがないことを知っている。
その罪悪感から、私は無意識的に彼を避けるようになっていた。
ヴォーダイムの指揮の下で各々で担当する異聞帯決めた。
後で食い潰し合うことになることは半ば確定しているが、異議を出すものはいない。
私たちは『異星の神』に命を握られているも同然なのだ。反対できるはずもなかった。
話し合いの結果、私は日本の担当になった。
そんな小さい島国でいいのかとベリルに冷やかされたが、私は前世も今生も日本生まれの日本育ちなのだ。
他の国の歴史に詳しいわけでもないのに、担当地域にしようとは思えない。
そして、暫くAチームのメンバーで連絡を取る回数は減っていき、各々自分の異聞帯の空想樹を成長させることになった。
そして私は人類の敵になった。
嗚呼、だが悲劇はそれではない。
私が敵になった程度では『主人公』にとっては容易く打ち倒せるだろう。
問題は私が担当してしまった異聞帯だ。
私の作った…
こっちの話を素直に聞いてくれる『王』。
私のことを気に入ってくれて信頼関係を築いてきた『アルターエゴ』。
立派に根を張ってきた『空想樹』。
私の異聞帯特有の…個性豊かな『妖怪』たち。
そして、大量の『家畜』。
嗚呼、誰か私を止めてほしい。
私を止めてくれなければ、私の作った異聞帯は
悪戯感覚で、世界を壊しかねないのだ。
『王』の力は貧弱だが、周りにいる者たちの力は『王』を容易く超えている者も多い。
他の異聞帯ではまずありえない条件下で構成されている異聞帯だ。
『王』の言葉に逆らう者はいないが、『王』と正面対決をすれば勝つことが出来る者は多い。
嗚呼、なんで私は『妖怪』が生き残っている世界なんて望んでしまったのだろう?
前世で妖怪を一目見たかったという欲望があったことは確かだ。
だが、まさか
富士山を作った『だいだらぼっち』、殺生石になることのなかった『九尾の狐』、天候を操る龍神『一目連』、生物を死に誘う『死神』、退治しに来た者たち全てを喰い殺した『鵺』、生者を死者にして燃え尽す『火車』、嵐を操る『風神』、雷を呼ぶ『雷神』、須佐之男から生き延びていた『八岐大蛇』、国を燃やし尽くして迷い込んできた『禍』。
妖怪だけではなく、神話の生物が紛れ込んでいることも、『神』とされる者が紛れ込んでいることも、外国から紛れ込んできた妖怪がいることも、全てが想定外だった。
とても家に上がって飯を食うことしかできないような『ぬらりひょん』が勝てるとは思えない。
いや、彼自身も言っているように本来妖怪の総大将は彼
噂話が独り歩きしたような形で『妖怪の総大将』という肩書を持っている『ぬらりひょん』だが、彼の与えられた特性は
自分自身が家の主だという認識を植え付けることで、家に侵入し自由に振る舞う。
しかも、それでさえ当時の文献からの事実ではなく、後世の曲げられた解釈によって生じているに過ぎない。
本来のぬらりひょんとはその程度の妖怪でしかなく、説によっては『老人と間違えられて生まれた妖怪』とする説すらあるぐらいだ。
『ぬらりひょん』は、2018年現在こそ有名な『妖怪』だが、当時の人々からすれば『鬼』の方がよっぽど怖い『物の怪』だったのだろう。
そんな彼に全ての妖怪が従っている理由は、
妖怪とは、人々に『いる』と認識してもらうことから生まれる存在だ。
実際にいるかどうかはそこまで重要ではない。
人々が、「もしかしたら、さっきこう思ったのは妖怪のせいなのかもしれない」と思った瞬間にその『妖怪』が生まれ、認知度が増えていくほどに強大な存在として定着していく。
だから、様々な動物を合成した様な姿で、黒煙を出して飛ぶのことしかできない『鵺』が、なぜか知らないが『強い妖怪』として定着してしまっているのだ。
不気味な鳴き声に怯えて天皇の体調を崩させたと聞けば、凄まじいことをやったように思えるが、本来の『鵺』とは様々な動物を継接ぎにしたような『キメラ』でしかない。
現に、凡人類史では退治される時になったらあっさり退治されている。
姿を自由自在に変えるという話も聞くが、それは『鵺の声で鳴く得体の知れないもの』という『平家物語』からのフレーズが、転じて『掴みどころがない、得体のしれない人物』などという意味になって、そこから派生したモノだ。
最も、『平家物語』で出てくる怪物自体は『鵺の声で鳴く得体の知れないもの』であって、『鵺』だと明言されているわけではない。
だが、人々がそう思ったのならば『鵺』は姿を自在に変えることが出来る。
『妖怪』とはそういうものだ。
いいや、正確にはそういうものに
少なくとも神秘が薄れた現代では、妖怪を見ることはなかったから検証しようがない。
ただ一つ言えることは、この異聞帯での『妖怪』を普通のそれと思っていると直ぐに死ぬということだ。
この
鎌鼬に目をつけられるだけで死ぬ世界。
雪女に見つかったら魂ごと凍らされる世界。
釣瓶落としに遭遇したら、そのまま喰われる世界。
猫を虐めると化け猫になって殺される世界。
後世の曲げられた解釈によって『強化』どころではない、『妖怪』という種族全体に生き残るための『補正』が入ったとでも言うべきだろう。
妖怪にとっての天国、人間にとっての地獄を体現したこの世界は、生前の私がある意味で強く願った世界ではある。
しかし、今の私からすると
…それでも、未だに死にたくないと思っている上に、他の人が死のうが関係ないのではないかと思い始めてしまっている私は、既に手遅れなのかもしれない。
◆◇◆◇
「
まずは第一段階の終了を祝おう。これも諸君らの尽力によるものだと」
「そいつは大げさだ、キリシュタリア。
オレたちはまだ誰も、労われるようなコトはしちゃいない。
やったのは全部『異星の神』さまの偉業だからな。本番はここからだろう?」
「…分かっていないのねベリル。
キリシュタリア様は
あなたみたいな考えの甘いマスターのために」
「はいはい、二人とも喧嘩腰にならない。ベリルは頭がいいからそれぐらいわかってるんだし、オフェリアさんも言葉を選ばないと相手を怒らせるだけだよ?」
「
……第一オレはかつてないほど真剣だよ、お嬢さん。
一度死んでまで遊び気分でいられるほど大物じゃないんでな。二回も救われるとも思えない。
殺すのも奪うのも生きてこその喜びだ。
―――なあ。あんたもそう思うだろ? デイビット」
「同感だ。作業のような殺傷行為は、コフィンの中では体験できない感触だった。
オレの担当地域とお前の担当地域は原始的だからな。水輝のところは原始的ではないが、その性質上『力』を分かりやすく示す必要がある。
必然、その機会に恵まれる」
「そう、オレたちにその気がなくても向こうから殺されに来る。遊んでなんかいられねえよなぁ?
……水輝はどうだ?
「慣れるようなもんじゃないよあれは。
まあでも、私自身の懐が痛むわけでもないし、殺されに来たのなら殺してあげなければいけないってことぐらいはわかったよ。
だから、ぐちゃぐちゃに殺すことはしないけど、殺した後の処理の仕方を変えたんだ」
「ほう? どんな風にだ?」
「肉片一つ、血液一滴残らず私の仲間にあげることにしたのさ。
日本人特有の『もったいない精神』ってやつでね。ただただ殺されるよりも、殺されたことに意味があった方が彼らも救われるだろう?」
「ハハッ、違いねえ。ただ死ぬよりはその方がマシかもしれねえな」
「…そう、アナタたちの担当の
「……」
「あら、平常運転のベリルに比べて、元気がないんじゃないカドック?
目の隈とか最悪よ? 寝不足? それともストレスかしらね?」
「…それだけじゃないが両方だ。僕のことは放っておいてくれ。仕事はきっちりこなしているんだから」
「いやあ、カドック。ぺぺ相手にそれは無理だって。せめて取り繕う程度の笑顔を張り付けていないと」
「水輝の言う通りよカドック。放っておいてほしいなら、せめて笑顔でいなさいな。
友人が暗い顔をしていたら私だって暗くなる。当たり前のことでしょ?
私は私のためにアナタの心配をしちゃうのよ。アナタの事情とか気持ちとか関係なくね」
「ぺぺ、それ長くなる?」
「アナタはちょっと黙ってなさい。
ねえカドック、アナタ最近ストレスを発散してる? 貯めこんでいるだけじゃダメよ。何か楽しいことで発散しないと。
例えば、そうねえ…定番で悪いけど、お茶はどう?
こっちの
きっと皇女様も喜ぶわよ」
「……余計な気遣いだ。
こんな世界になってもアンタだけは変わらないな、ぺぺ」
「きゃー、褒められちゃったわー!
いいわ、殺し文句にしてはなかなかよカドック!」
「違う呆れているんだよ…(てっきりどっかの誰かみたいに全員変わると思っていたからな)」
「ぺぺ、そろそろ切り上げてよ。芥さんとかもう寝そうな感じだよ?」
「……寝そうになんてなってないわ。無駄話はそこまでにして。
キリシュタリア、用件は何?
こちらの
私の
この星の覇権とやらは貴方たちで競えばいい。そう連絡したわよね、私?」
「私も同じような連絡をしたはずなんだけど。君たちを殺してまで、生き残る気はないんだよ、私。
もう見捨てるのは嫌だからさ、生き残りたい人たちで頑張ってほしい。
ま、もったいないし、どうせなら私の
「……そんな言葉が信用できるものか。最終的に僕たちは一つの
水輝はともかく、芥、アンタはそれでいいのか?」
「……別に。私の
私はただ、今度こそ最後まであそこにいたいだけ。納得の問題よ。それが出来れば他のクリプターに従うわ」
「納得かあ、いい言葉だね。確かにそれが重要だ。『「納得」は全てに優先するぜッ!!』
結果なんて些細なことで、自分が満足できるかどうかこそが本当の問題だ。
他人にどう評価されようとも、自分の人生なんだから納得して満足できないと損だろう?」
「…水輝、アンタは納得しているのか?」
「
過程がどうだったとしてもね」
「……ああ、そういうことか…アンタの言いたいことはわかった」
「おしゃべりは済んだかいお二人さん?
まあ、オレたちが何を言ったところで結果は変わらないさ。オレたちは束になってもキリシュタリアには及ばない。
「人生なんてそんなもんさ。頑張ったから報われるとか、努力すれば報われるとか、死にたくないから生きることが出来たなんてほとんどないだろ?
素質があって、能力があって、運があって、勝ったからこそ勝者なんだ。そういう意味ではキリシュタリアが勝ち残るのは順当だし正しいものだろう。最も、彼の努力が生半可なものじゃないことは容易く想像できるけどね。私たちの想像を絶するようなことをしているんだと思うよ。
だからこそ、勝つのは彼であっても、私たちじゃあない」
「水輝の言葉通り、最終的に私が勝利することは自明の理だ。その事実だけは、どう言葉を使おうが変わることはない。
だが、私はここにいる全員に可能性があると信じている。私の
「さて、遠隔通信とはいえ、私が諸君を招集したのは
1時間ほど前、私のサーヴァントの一騎が『霊基グラフ』と『
◆◇◆◇
そうして舞台の幕は上がる。
本来は存在しないはずの
本来は存在しないはずの8人目のクリプター。
『
『主人公』に倒されることを期待しながらも、自分の望んでしまった世界に後悔を抱きながら空想樹を育てる。
普通の精神では耐えきれなかった、『死』に迫る感覚を忘れたいがために『
それでも、自分は生き残ることはできないだろうと予想して、人類の敵になってしまったことを悔やみながら、人類の敵としてカルデアに敵対する自分が昔呼ばれた『怪物』そのものにふさわしい存在だと自虐した。
その胸中を知る者はたった一人。
『アルターエゴ』のサーヴァントは、マスターの苦悩を知りながらもそれを何とかしようとすることはない。
彼女はマスターの苦悩さえも肴にしてしまう、正真正銘の悪性だ。
マスターのことを思いつつも、自分の楽しみを優先してしまう。
それが彼女達『妖怪』の業であり、宿命なのだろう。
であれば、彼らが繁栄する世界を願った彼も同じ業を背負っているのかもしれない。
感想の方で予想されていた方もいらっしゃいましたが、主人公の担当する地域は『日本』です。
正確には、『人の想像の産物が人を支配する日本』です。
『妖怪』に関しては、手っ取り早く『Wiki』に乗っている情報から出しているものが多いです。本から引用すると色々と問題が発生しますので、このような形にしています。