転生したら人類の敵側になってしまった   作:クォーツ

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 好き!(挨拶)


3話目

 清水水輝は動き始めた。

 

 まず、ぬらりひょんを通して『船幽霊』の二十五代目頭領である『水底』と、『海坊主』の二十三代目頭領『海念』に『虚数空間は広大な虚数()でできた世界()』だという認識に書き換えた。

 船を沈める逸話を持つ『船幽霊』によって、『虚数空間(海の上)にいるシャドウ・ボーダー(獲物)』を見つけ、海に現れて船を破壊する巨人『海坊主』によってシャドウ・ボーダーの守りをこじ開ける。

 

 そして、『大天狗』である『風雷』の瞬間移動(神隠し)に『九尾の狐』による『人間の負の側面』という『マイナス』のアプローチを用いた『呪術』によって『虚数空間』に瞬間移動するための糸口をつける。

 当初の予定では、『九尾の狐』なしでも行けるだろうと予想していたが、想像以上に虚数空間に潜るための糸口を見つけることが難しかったので急遽呼びつけたのだ。

 

 『マイナス』という指向性を持たせることに成功したが、最終的には『九尾の狐』の圧倒的魔力及び呪力によってかろうじてこじ開けられた。

 些か見通しが甘かったと、反省することになったが、結果として虚数空間に潜ること自体には問題がなかったので次に移ることになった。

 

 次に行うことは、虚数空間内での座標指定だ。

 これには、『虚数潜航()』である、シャドウ・ボーダーが虚数空間に潜っている場合、船を破壊する逸話を持つ『海坊主』と船を沈める逸話を持つ『船幽霊』ならば可能だろうと判断。

 念には念を入れ、試しに虚数空間内に魔術理論を無理やりに組み立てた防壁を巡らせた船を流してみてから、虚数空間内に二体の妖怪を侵入させて確認した。

 結果は、『虚数空間』を『海』と認識させられている彼らにとって、(獲物)を探すことはあまりにも容易なことだった。

 

 次に、虚数空間内で座標を指定して瞬間移動を試みる。

 多少のずれがあったものの、『大天狗』の十八番である瞬間移動は問題なく行えた。

 これで、彼らが虚数空間に逃げた時の対処法は万端になったと言える。

 

 次にするべきことは、彼らが地上にいる場合のケースだ。

 今の彼らは未だに虚数空間には潜っていない…ロシアが墜ちたのが数時間前の出来事だと考えれば当たり前かもしれない。

 急ピッチで進めてきたが、思ったよりも早く進んでしまったので彼らが虚数空間に潜る前に出迎えできる可能性が生まれた。

 

 まず、大まかな座標指定は、彼のサーヴァントである『アルターエゴ』の『クロ』による広範囲索敵によって成立している。

 マスターである彼ですら真名を知らない彼女だが、能力の一つに膨大な規模の『索敵』能力があげられる。

 それこそ、集中しなくてはいけないが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は容易いなことだった。

 虚数空間では同じようにはいかないが、現在地表に出現している彼らの場所は彼女なら何時でも位置を知ることが出来る。

 

 これによって、虚数空間に入っていても『ダイナミックお邪魔します』を敢行する準備ができ、地表にいる場合には『大天狗』の瞬間移動(神隠し)と『アルターエゴ』たちによる力技によって何時でも出迎えに行ける状態になった。

 

 

 

 やろうと思えば今すぐに乗り込める状況になったが、彼にはもう一つやらなければいけないことがあった。

 それは、会社や組織に所属している者にとっては当たり前のことで、常識的に考えてやらなければいけないことだ。

 だが、面倒だと言ってやらない人も大勢いるものでもある。

 『クリプター』と呼ばれている、一種の組織の中で彼がしなくてはいけないこと。

 

 そう、『報・連・相』だ。

 

 単純な話、彼がここでいきなりカルデアを迎えに行ったところで大した問題はないだろう。

 彼の異聞帯(ロストベルト)が潰れようとも、カルデアが潰れようとも他のクリプターにとっては良いこと尽くめだ。

 前者は異聞帯(ロストベルト)の生存競争において脱落者が出ることと同義だし、後者は厄介な邪魔者を勝手に潰してくれるのだから、下手に手出しをするよりも静観している方が得だ。

 

 だからと言って、無断でカルデアに手を出していい理由にはならないだろう。

 正確な『組織』と言っていいのかは怪しいところだが、不用意に輪を乱すような行動を好ましく取られることはまずない。

 他のクリプターに喧嘩を売るつもりなら問題ないが、彼はどちらかと言えば他のクリプターを守りたいと思っている方だ。

 

 『大令呪(シリウスライト)

 

 『異星の神』にとって、彼ら『クリプター』を縛る鎖となっているそれは、世界の書き換えすら可能にするある種の『魔法』みたいな『力』を持っている。

 その代償はクリプターの命そのものであり、これがある限り彼らは『異星の神』に魂を使いつぶされる運命にある。

 

 人間は脆い生き物だ。

 精神的にも、肉体的にも。

 そんな脆い存在だからか、自分の命一つで何とかなるなら使いつぶしてもかまわないと思う人がいる。

 

 それは、その輝きは、とても美しいものなのだろう。

 命を燃やす瞬間は光り輝いているのだろう。

 

 だが、燃えた後の灰にまで目を向けたことはあるだろうか?

 

 物語の世界なら、それでいいのだろう。

 だが、彼の生きている今は紛れもなく現実だ。

 人が燃えた後には、死骸が残る。死臭が残る。

 

 彼は、そんな現実にしたくはなかった。

 原作(FGO)では、第二部の二章で、あるクリプターが『大令呪(シリウスライト)』を使う。

 そして、彼女は満足そうに命を落とすのだが、彼は他のクリプターが死ぬところを観たくなかった。

 

 

 きっとそれは我儘なのだろう。

 彼女は原作において、死ぬことになったが救われた人間だ。

 それを、無理やり変えようとしているのだ。

 導かれても救われなかった彼女が英霊たちの活躍によって救われたというのに、その彼女の救いの道を自分の手で閉ざすのだ。

 これを我儘と言わずしてなんというべきか。

 

 

 だが、彼はそんな我儘を実現させるために彼女だけではなく、他のクリプター全てを騙してまで宣戦布告を決め込むつもりだった。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 水輝は遠隔通信によって、キリシュタリアと交渉した。

 目の前の人物に対して様々な負い目を感じながらも、彼は自分の意思を口にした。

 

『カルデアを始末する許可が欲しい』

 

 それは、以前までの彼は絶対に言わないであろう台詞だった。

 カルデアで過ごしていた時の彼は、魔術の腕が極端な方向に振り切っているが、魔術師には珍しい他の人に思いやりを持てる優しい人間だ。

 挨拶には挨拶で返し、細やかな気遣いもできる人間だった。

 彼の経歴からして、どこでその気遣いを培ったのかを疑問に思うほどに、彼は魔術師としては乖離した人物だった。

 

 だが、キリシュタリアの目に映る彼にその優しさはない。

 どこからか仕入れた、ロシアが…カドックが負けたという情報を手に入れたからか、彼はカルデアに対して憎悪にも似た感情をぶつけているようにも見えた。

 その彼の思いを汲み取りたいと思ったが、カルデアの面々のいる場所が彼の担当する異聞帯(ロストベルト)とは離れすぎていたため却下しようとした。

 

 しかし、キリシュタリアは水輝がその問題をクリアしているのだろうと察した。

 そうでなければわざわざ直談判しに来るようなことはないだろう。

 『怪物』などと呼ばれて恐れられていた彼だが、考えなしに『力』で解決するような男ではないことをキリシュタリアはよく知っていた。

 

「なぜ、そこまでする?」

 

『自分がしたいからやる。他に理由が必要かい?』

 

 彼の物言いは自分勝手そのものだが、言葉通りではないことは想像するに難くない。

 彼にとって『親友』とも言えるぐらい仲の良かった、カドックが倒されて黙っていられなくなったのかもしれないと推論を立てた。

 

「方法はどうやるつもりだ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。座標把握も準備はできていて、直接シャドウ・ボーダーに乗り込む予定さ。地表に居ても位置情報を把握できるようにしているから、まだ虚数空間に潜ってないんならそのままご招待してあげるよ』

 

 その言葉に思わず目を見開いた。

 用意周到さ、それを行う度胸もだが、それに付き従う者が彼にいることにキリシュタリアは素直に驚いた。

 虚数空間は一歩間違えれば帰ってこられなくなる可能性が高く、帰ってこられたとしても大幅な時差が生まれる場合もある。

 

 彼のサーヴァントだけでは、まず無理だ。サーヴァント一体で虚数空間に潜って乗り込むには距離が離れすぎている。

 彼の技量を考えても不可能だ。戦闘型とも言える彼が、虚数空間に飛び込んで無事に帰還できる可能性が天文学的なものになるだろう。

 

 ならば、彼にも自分異聞帯(ロストベルト)で得たものがあるのだろう。

 恐らく、それはキリシュタリア()が手に入れたものとは違うものだ。

 

「そうか…。そこまで言うなら、君に任せよう。ついでで悪いが、カドックが生きていたら匿ってほしい。

 『大令呪(シリウスライト)』を未だに持っていると聞いている以上、『異星の神』からの接触がある可能性が高い」

 

『言われなくてもそのつもりだよ。死んでても不思議じゃないけど、カルデアが彼を放置してなければ生きてるだろうしね。

 じゃあ、これから準備するから、また今度』

 

「良い報告を期待している」

 

 その言葉を聞き終えてから、彼は遠隔通信を切った。

 他のクリプターは知らないか、知っていて放置しているかの二択だったが、まさか彼が動くとは思わなかった。

 自分の異聞帯(ロストベルト)についての情報を開示してはいるものの、日本の知識に詳しくないとまるで分らない彼の異聞帯(ロストベルト)は、予想していたものよりも遥かに優秀なものだったのかもしれない。

 

 だからこそ、玉座に座る彼は、今送り出したクリプターが異聞帯(ロストベルト)の生き残りに欠片も興味を持っていないことに残念な気持ちを抱いていた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

 ロシアの異聞帯(ロストベルト)を超えた彼ら(カルデア一行)は、漂白された世界に驚き、困惑を覚えることになる。

 だが、彷徨海バルトアンデルスという新たな手掛かりを元に彼らは歩む足を止めることはなかった。

 彼らはバルトアンデルスに向かうために、スカンジナビア半島を横断することを決意する。

 そして、彼らがスカンジナビア半島を横断する準備を整え、捕虜にしているクリプターの一人、『カドック』の尋問に移ろうとしていた。

 

 ちょうど、その時、その瞬間、正しい歴史は終わりを告げることになる。

 

 シャドウ・ボーダーに響く緊急アラート。

 ここまでは『正史(原作)』通りだ。

 だが、その緊急アラートが鳴った理由が乖離していた。

 

 本来ならば、『言峰神父』の姿を取っているサーヴァントがカドックを連れ去るべくシャドウ・ボーダーを強襲する。

 それが正しいはずだ。

 ()()()()()

 

「ああ、アラートだとぅ!? 何事かね!?」

 

『!? そんな!』

 

「ダ・ヴィンチ! 一体どうなっている!?」

 

『既に()()()がシャドウ・ボーダーに潜入している! 何の前触れもなく! 突然現れてる! ハッチも開いていない!』

 

 その言葉に言葉を失う一同。

 虚数空間から身を守るための防壁は起動していなかったものの、魔術理論を組み合わせた複合装甲を無視して進入してきたことになる。

 魔術理論を組み合わせた複合装甲を、『転移』のような魔術で突き破ってきた…つまり、シャドウ・ボーダーの装甲がまるで意味をなしていないことになる。

 もっと言うと、キャスターによる高度な魔術ステルスも、光学迷彩などの隠密仕様も、全て看破されていることになる。

 それの意味を理解した彼らが固まってしまうのも無理はないだろう。

 

 刹那、シャドウ・ボーダー内に靴で床が蹴る音が木霊する。

 軽い木のような材質で、鋼鉄の床を蹴る音。

 

 侵入者を知らせるその音が、彼らに正常な思考を取り戻させた。

 

『! もうブリッジの前に来てる!』

 

 ダ・ヴィンチがそう言った瞬間に、彼らは入り口を睨む。

 ホームズが彼らを守るように前に出て、『藤丸立香』たちを後ろに下げた。

 

 彼らの前に現れたのは、青い着物を着ている男性。

 足には下駄を履いていて、その音が反響音を生んでいたことは明らかだった。

 目の前にいてわかるほどに禍々しい魔力を身に纏っている彼は、マシュとムニエルは何回も見たことのある顔だった。

 

「水輝さん…!」

 

「やあ、キリエライトさん。ご機嫌いかが…って聞くまでもないか。まあ、お察しの通り私はこっち側なんだ」

 

 彼はそう言って目の前の彼らに右手の甲を見せる形で令呪を見せる。

 以前の彼と幾度も会話をしているマシュは、悲しそうに顔を俯かせた。

 そんな彼女を無視して、彼らを守るように前に立っている男が侵入者に言葉を投げる。

 

「初めまして、ミスター清水。私は「知っているさ。かの有名なシャーロック・ホームズだろう?」…ふむ、知っているのなら話は早い。私も同じように君のことは情報的に知っている。こちらから質問をいくつかしていいだろうか?」

 

「んー……いいよ。その方が早そうだ」

 

 別にどっちでもいいかと言わんばかりに、視線をホームズの方へ固定する侵入者こと『清水水輝』。

 クリプターの一人と予想されていた彼の話題が出なかったはずがなく、軽い情報の共有程度でマシュとムニエルを除いた面々も彼のことを知っていた。

 

「ではまず、君は何をしにここに来た?」

 

「何をしに…って言われるとちょっと困るな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、最低限やらなくちゃいけないことはカドックの回収ぐらいかな?

 ほら、いつまでも捕虜にされて人質にされても面倒じゃん?

 君たちがそうするかどうかは置いておいてさ、されるかもしれないってだけで精神的負担がかかるもんだよ」

 

「では目的は既に達成されていると?」

 

「必要最低限はね。これ以上はネタ晴らしになるから言わない。『その方が面白いしね』」

 

 『ネタ晴らし』漂白された地球を見ている彼らは彼のその言葉に憤りを隠せない。

 事実、目の前の彼はそれまで来ていた情報が虚偽の者であったと錯覚させるようなものだった。

 まるで楽しむかのようにホームズと会話をする彼の姿は、とても人間味あふれるような人間とは思えない。

 

「面白いって…!」

 

 その言葉に一番憤ったのは藤丸立香だった。

 清水水輝との面識が一切なかった彼は、以前聞いていた人物像が仮初のものだったのだろうと予想した。

 だが、それを抜きにしても、ロシアでの戦いだけではなくパッシィ達『ヤガ』たちの思いを踏みにじるような彼の在り方を、彼自身が認めたくなかった。

 

「だってさあ、見ればわかるじゃん? 

 君たちを殺すことなんて、『キャンディーなめながらだって僕にはできる! 遊びさ。本気でやるわけないじゃん』」

 

「遊びって…! そんなことッ!」

 

 事実、彼がここにわざわざ立ち寄らずに、そのままステルス性を生かした奇襲を仕掛けていればここに居る人間たちは一人残らず死んでいただろう。

 それを理解しているからこそ、藤丸立香は憤りを隠せなかった。

 遊び半分で人類を滅ぼそうとする彼に、ロシアでの戦いを貶す彼に。

 

「なら、君たちはカドックが最初から君たちだけを見ていたと思うかい?

 自分の異聞帯(ロストベルト)の王を掌握することで精いっぱいだった彼が、最初から全力で君たちを殺しに来たって本気で思ってるのかい?

 『とんだロマンチストだな』」

 

「ッ!!」

 

 それを聞いて彼は反論することができなかった。

 確かに、言われてみればロシアの異聞帯(ロストベルト)は度重なる幸運の元で勝利を収めることができた。

 現地のサーヴァントの協力もあったり、『ヤガ』たちと協力したり、パッシィから思いを受け取った結果として、彼らは勝利を収めた。

 

 だが、もしもカドックが彼らを殺すことを最優先としていた場合どうなっていただろうか?

 拠点に閉じこもらずに、皇女を連れ添って片っ端から彼らの行方を捜しに行っていた場合どうなっていただろうか?

 

 それを想像してしまった藤丸立香は、彼を睨みつけることしかできなかった。

 そんな険悪な雰囲気を出している二人の間に、ホームズが割って入った。

 咳払いをして仕切り直しした彼は、次の質問を投げかける。

 未だ謎解きの材料は足りていないが故に。

 

「なら、次の質問に移ろう。君は私たちをどうするつもりだ?」

 

「どう…ねえ? 異聞帯(ロストベルト)を切除されると困るから、ここで死なない程度に痛めつけに来たってどう? ほら、なんかそれっぽいだろう?」

 

 言いながら、彼の纏っている魔力が色をもって彼の周囲に漂い始める。

 情報共有した中では出てくることがなかった、彼のどす黒い魔力に思わず一同は身構える。

 

 だが、そんな中でもホームズだけは冷静だった。

 

「…見たところサーヴァントはいないみたいだが、君一人で私たちを相手に取るのは些か無謀じゃないかね?」

 

「それはそれで楽しそうなんだけど、今回は付き添いがいるんでね。荒事はそっちもちなんだ。だから下手なことをしないでくれると助かるな」

 

「ふむ…まあ、そうだろうとは予想できていた。だが、さっきの言い分からするに戦いに来た(そういう)わけではないのだろう?」

 

 その言葉と同時に、彼の纏っているどす黒い魔力は霧散した。

 正解と言わんばかりに、満面の笑みを顔に張り付けながら拍手でもって成否を示す。

 

「うん。まあ、いきなり暴れ始めたりされたら私も君たちを殺さざるを得なくなるし、知り合いだったそこのキリエライトさんとムニエルを直接殺すのはちょっとーって感じだから言ってるだけ。

 必要なら殺すよ。やりたくはないけど、やらなくちゃいけないこともある。やりたいことだけやって生きていければ幸せなんだけどね。

 だから、そんな強張んないでもっと楽にしなよ。別に取って食おうってわけじゃないんだしさ」

 

 そうは言うものの、突然のことに緊張するなと言う方が無理だろう。

 それを代弁したのは、後ろで怯えていた新所長のゴルドルフ・ムジークだった。

 

「…アポイントもなしに押しかけて来た来訪者に委縮するのは当然のことだと思わないかね?」

 

 震える声音だが、しっかりと響くような声で言い切る。

 それを受けた彼は、少しの驚きを見せながらも笑いながら続ける。

 

「ジョークの一つも飛ばせるなら大丈夫みたいだね、ムジークさん。

 ……っと、あっちも終わったみたいだし、それじゃあ仕上げに入りますか」

 

『! 膨大な魔力反応を独房で感知! すごい勢いでそっちに向かってる!』

 

 その言葉と同時に、彼の後ろから凄まじい暴風が巻き起こる。

 それの余波に耐えるために、ホームズは彼らの盾になるかのように立ちはだかり、後ろにいた彼らは壁に押し付けられる形になった。

 

 そして、彼らが暴風を耐えしのいだ後に目にしたものは、彼の隣に参上した一人の男だった。

 いや、一『人』と言うには語弊があるかもしれない。

 背中に漆黒の翼を持つ彼が『人間』ではないことは誰の目から見ても明らかだった。

 

 高い鼻に黒い翼。

 

 その場で唯一の日本人である、藤丸立香はその男性が『天狗』であることを察した。

 あまりに有名すぎる、その出で立ち。

 白い袈裟を着て、下駄をはいていることからも確定だろう。

 

「水輝殿、貴殿の友人の確保は既に終わらせました。後は何なりと」

 

「ありがとう。じゃあ、予定通りによろしく」

 

「はっ!」

 

 彼がその思考を仲間に伝えるまでのわずかな間に、彼らは既に指示を交わしていた。

 瞬間、シャドウ・ボーダー全体が謎の浮遊感に襲われる。

 それは、中にいる人たちからすれば、まるでエレベーターに乗っているような感じだったと言うだろう。

 

 

 

 そうして、『正史(原作)』と乖離し始めていた世界は、シャドウ・ボーダーが()()()()()()という結果をもって完全に乖離した。

 

 それがどんな結果をもたらすのかは、誰にもわからない。

 

 

 




・神隠しについて
 天狗隠しとも言われる、人間が忽然と消え失せる現象のこと。本作ではそれを行うために天狗の全てが瞬間移動を用いることを可能としている。
 自分だけ移動するためには魔力を多く消耗するが、他の()()連れていく(攫う)と移動距離が大幅に伸び、魔力消耗が極端に少なくなるという設定。

・清水水輝について
 感想でも多く挙げられた、『女性じゃないのか』という意見については後々本編で触れていきます。『彼』で間違いはないです。

 次回からカルデア側に移って、異聞帯(ロストベルト)攻略に入っていきます。

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