部活動の休憩時間が終わり、雪のリハビリデュエマの舞台となった生徒会室は雪以外に誰も居なくなってしまった。対戦が終わり、雪は凪とのちょっとしたこれからの問題に頭を抱えていたが、考えるのを止める、いや、諦めることで一時的に落ち着きを取り戻した。
「そうだ、考えてみろ。こんなこと、現実に起きることなんてそうそう無い。奇跡なんだから寧ろ喜ぶべきだ」
寧ろポジティブに考えてみれば綺麗な人と毎日同じ空間で生活し、身近に感じられるのだ。一生彼女が出来ない筈の身からしたら美味しい状況なのだ。ちょっと理性との戦いがちょくちょくあるかもしれないだろうが。
・・・・・・いや、やはり精神力がやられるのは問題なのではないだろうか?正直、もしジーっと見つめられたりしたら保たないだろう。絶対に、理性が、保たないだろう。
そうだ、よく考えてみろ、同じ屋根の下で同い年の高校生の異性が生活しているんだぞ?圧倒的犯罪臭しかしないじゃないか。それも同じ高校だ。必ずそんなことがバレたら噂される。主に中学生、高校生が好きそうなそういう方向性の噂が。
「恥ずかしい・・・恥ずかし過ぎる・・・・・・というかそんなことになったら凄い気まずいし柴崎さんに迷惑だろうし・・・・・・」
柴崎さんには伊原君という彼氏がいる筈なのだ、確証はないが、彼氏持ちの筈だ。綺麗な人で二人で写真を撮っていたのだから間違いない・・・多分。
そこにもし、自分が柴崎さんと同居しています。などと知れたら・・・別れてしまうかもしれない。それは悲し過ぎる。罪悪感と責任感で俺の心がボロボロになってしまいそうだ。それはなんとしてでも避けなければならない。
「考えれば考える程に問題が出て来るな・・・・・・もうこれは事前に柴崎さんに伊原君に良く説明して貰うしかないのでは・・・・・・?でもそれで伊原君から俺だけでなく柴崎さんまでも嫌われたら・・・・・・」
と、パニックに陥った思考をしていると生徒が誰も居ない生徒会室の扉がノックされる。今は部活の休憩時間が終わったばかりだが、誰だろうか?生徒会室でサボりなど大胆なことをする奴は流石に居ないだろうが・・・・・・
「ごめん、お待たせ~。あ、デュエマ出来た?」
「あ、舞さんでしたか・・・はい、一応は出来ましたけど・・・・・・」
「そっか、それは良かった。そうだ、これから校長の所に行くんだけど、もし暇なら図書室とかに行ってみたら?」
図書室?何故だろうか?
「此処の図書室は色んな物についての資料が沢山置いてあるから、記憶喪失なんでしょ?何か思い出せるかもしれないと思ってね」
「あぁ、それは良いですね。実は病院でもそこまで沢山のことを調べられることが無かったので・・・・・・」
病院で知ることが出来たのも最近の出来事くらいだ。大まかな世界の歴史やらについてはまだ殆ど知らない。
「そっか、じゃあ校長と話してるから何かあったら私の所に来て良いからね」
「分かりました。それではまた」
バイバーイ、と手を振りながら雪から離れて行く舞に雪は手を振りながら見送ると、すぐに図書室へと向かおうと生徒会室の近くに貼ってあった校内地図を確認し、生徒会室を後にする。
「・・・・・・びっくりしたぁ・・・、今の聞かれてなかったかな・・・?」
独り言が聞かれていなかったかを心配しながら階段を上り、2階の廊下を少し歩くと目的地である図書室が目に入った。扉を開け、周りを見回してみたが、生徒は居ないらしい。
「失礼しまーす・・・。えー、何から調べてみようか・・・・・・」
恐る恐る本棚を見に行き、何を調べるかを考える。今一番気になることは何だろうか・・・・・・?沢山あるが、どれもどこから調べて良いのか分からない。
「うーん、手当たり次第に読んでみるかな・・・・・・?」
あまりに面倒なのでしたくはなかったのだが、ここで考えていても仕方がない。時間を無駄にするだけだ。
取り敢えず雪は目の前に置いてあったカードゲームの歴史という辞書のように分厚い本を手に取った。
表紙を捲ると、目次の下に多くの項目のページ数が書かれている。雪はその中の【2.カードゲームのスポーツ化】という項目に惹かれ、そのページを開く。
「『カードゲームがスポーツとして認定されるに至った理由の中で、最も貢献したのがAR,VR技術。次に、カードゲームを運営する会社の統合であるとされている』か・・・・・・何か凄い世界だな」
纏めると、ARやVRといった技術が進歩し、それを使ったカードゲームの売上が、当時凄まじいものであったという。そして、カードゲームを運営する数々の会社が統合し、ARやVRの技術力はその頃のどの会社より優れていたという。そこで更に一部のカードゲームが売上ともっとも大きなTCGの試合という点においてギネス世界記録を更新した。これにより世界中でカードゲームが話題となり、一大ブームとなった。そこからはその絶大な人気とそれぞれのカードゲームが持つオリジナリティからテレビやニュースで様々なカードゲームの世界大会の様子などが報道され、カードゲームの扱いはARやVRを使う前とは大きく変わり、やがては世界中で新たにスポーツという枠組で登録されたという。
「でも良くスポーツに登録出来たな・・・・・・こう、今まで居た世界を知っているとこっちの世界の現実がどれだけの理由があっても信じられないな・・・・・・」
雪は次の項目へと移る為、次のページを捲る。タイトルは【3.カードゲームのスポーツ化による影響】。タイトルだけでも興味が湧いて来る。雪は少しワクワクしながらページに目を通した。
「『カードゲームがスポーツ化し、世界中の報道機関で大会についての報道がされた。中でも、『遊戯王』と『デュエル・マスターズ』は良くメディアに取り上げられていた。元から人気であったカードゲームでもあった為、このスポーツ化に伴い、カードゲームという全体を代表するカードゲームになっていた』・・・凄いなこの2タイトル。こっちでもこの2つが特に人気なのか」
静かな空間で、雪は次のページを捲る。最初は不思議な世界だと思っていたが、その認識は違ったのだと考えを改める。この世界はこの世界なりのちゃんとした歴史の元に成り立っているのだ、と。
「『しかし、カードゲームがスポーツ化したことによる問題も発生した。本書ではその内の3つを書する。1つは一部のカードの需要が高まることで、カードの急激な高騰化が相次いで発生した。これは過去に登場したカードであればある程に発生しやすくなっており、生産を終了されたパックにしか入っていなかったカード、特にスーパーレアやベリーレアは非常に高額であることが殆どである』あ、もしかして《マーキュリー》の値段が半端なく高かったのってそういうことなのか・・・・・・?生産終了されたんだっけあのパック?そこは知らないけど・・・・・・」
《マーキュリー》はこの世界で25万円とかなりの価格であったが、どうやらこの問題によるものらしい。後で知ったことだが、この問題については再録という形で対処しているらしいが、未だに全てのカードを再録出来ている訳ではないという。
「・・・・・・だとしたら俺が組んだ昔のカードでスーパーレアやベリーレアが入りまくったネタデッキはちょっと盗まれるの怖いし使えないな・・・。まぁ、仕方ないか・・・・・・」
他にもそんな昔の、生産終了されてそうなカード使ったデッキあったかな?と考えるが、割と再録されているものが多い。ビマナは特に問題無さそうでひとまず安心した。
雪は次の問題を確認する。
「『2つ目の問題は、スポーツ化に伴うエンターテイメント性の要求である。カードゲームとは卓上ですることを前提に考えられている為、他のスポーツと比べても動きが無く、近距離で試合をする為、大声を出しての対戦はしにくい。この対策として『バトルスピリッツ』を運営するVANDAIが画期的なVRを使った対戦を提案した。それは、盤面がお互いに見えない程離れた場所でのVRで立体化したカードのモンスターなどを使ったものである。この、プレイヤーが動けないのであればカードを動かせば良い。という考えは成功し、今も尚、カードゲームの対戦方法として愛用されている。尚、相手プレイヤーの盤面はカメラを使って確認することが出来るようになっている』か・・・・・・。成る程、エンターテイメント性も無ければならない訳か」
次の問題を読む為、ページを捲る。ワクワクしながら本を読む雪の姿は、端から見れば完全に好きな玩具を手に喜んでいる子供そのものだった。
「『3つ目、カードゲーム関連の犯罪。カードゲームがスポーツ化したことでカードを印刷し、実際の大会で使用するといった犯罪が多発した。これは未だに解決していない問題である。特に、Zプロジェクトのような大きな事件を引き起こした原因である。とカードゲームのスポーツ化を取り消そうとする運動もあった』・・・Zプロジェクトっていうのが何かは分からないけど、犯罪か・・・・・・。他のスポーツでも麻薬を使ったとかで捕まった選手とか居たから、ある程度は予測してたけど・・・・・・」
少し残念な話であるのに変わりはない。雪は少し溜め息をつく。自分には関係の無いことではあるが、馬鹿なことをする者が居るんだな。と呆れてしまう。
「でも確かに、ここまで大きくならなければカードゲームはもう少し平和だっただろうな・・・・・・」
雪もそこには思う所があった。ただただ喜べることばかりではない。何であろうと代償というものは存在するのだ。
「カードゲームが悪い印象を持たれれば、その影響はスポーツ化した政府にさえ及ぶ。そうしたらどんな対処をされるか分かったもんじゃない。下手すれば、我が国はカードゲーム禁止です。なんてこともあるかもしれないしなぁ・・・・・・勘弁して欲しいよ」
雪は本を棚に戻し、他に何か興味が湧くような本が無いか探す。
【ゼニス大戦】【フィオナの森の惨劇】【暗黒皇の多すぎる大罪】などなど、デュエマの背景ストーリーをモチーフにしたラノベや、【三邪神ちゃん生け贄ドロップ】【
「読んでみたいけど、今は調べるのを優先しないとな・・・あ、これなんかどうだろ」
そういって次に手に取った本のタイトルは【VR技術の可能性】。これも何かの役に立つかもしれない。雪はその本を読もうと表紙を開こうとした。が、それは聞き覚えのある声により妨害される。
「あ、雪君、そろそろ帰るんだけど、まだ本読む?」
「あ、舞さん。いえ、もう大丈夫です」
入り口で舞さんが声を掛け、それを聞いた雪は本を棚へ戻し、舞さんの元へ行こうと図書室を出る。また今度、学校に登校することになったら読むことにした。
「どうだった?何か手掛かりとかあった?」
「いえ・・・ですが、カードゲームの歴史をある程度学ぶことが出来、有意義な時間でした」
なら良かった。と舞さんは微笑むと、一つ質問しても良い?と聞いて来る。何だろうか?
「生徒会室で凪と憐君がどーだか言ってた気がするんだけど・・・・・・」
「!?あ、あー、それはアレですね。柴崎さんと伊原君、どっちがデュエマ強いんだろうなーって・・・あはは」
焦った。心臓止まるかと思った。
完全に油断していた雪は、舞に生徒会室での独り言を聞かれていたのでは?と思ったが、どうやら断片的であったらしい。助かった。
「あー、確かにね。凪は私の方が強いとか言ってたけど・・・でも、憐君も自分の方が強いとか言ってたような・・・・・・」
「気になりますよねー・・・・・・」
にしても、やはりそういう御関係なのか・・・・・・舞さんに聞いてみるべきなのか・・・・・・?うーん・・・・・・。
「だよねー!私も気になるんだけど、仕事とかで憐君とは会わないし~・・・・・・実際に戦ったら、どっちが強いんだろーね?」
「気になりますよねー・・・・・・」
いや、もしかしたら親には内緒にしているのかもしれない・・・・・・そうだった場合、俺がここで聞いてしまっては柴崎さんや伊原君が疑われ、苦労するだけだ・・・・・・やはり、舞さんに聞くのは止しておこう。
「あ、じゃあ今度凪に言って戦ってもらおうか!家に呼んでさ!あ、そういえば憐君って何のデッキ使うんだろ?」
「気になりますよねー・・・・・・え?」
・・・・・・ん?今、なんと・・・・・・?
「楽しみだなぁ~・・・・・・じゃあ、今度憐君来る時は夜一緒にバーベキューとか良いかも!」
「えっと、舞さん?あの、何を・・・・・・?」
「あ、お泊まり会とか良いかも!」
「はい!?」
いきなり、お泊まり会だと・・・・・・!?
待て待て落ち着け。そもそも俺は伊原君とはまだ面識が無いんだぞ?それなのにお泊まり会とか、
『あ、えっと、はじめまして・・・・・・』
『あー、はい、こちらこそ・・・あはは・・・』
なんて気まずい空気になるに決まっている。というか、柴崎さんと伊原君が二人きりならまだ良いかもしれないが、俺はどう考えても要らないだろ!?良い雰囲気にしてやってよ!?こんなの、ギャルゲーで好きな子と2人で遊ぶはずが、気付いたらモブが何人かついて着てるようなもんだろ!俺邪魔過ぎるだろぉぉぉぉ!
「あ、雪君の紹介もしないとね。憐君きっと喜ぶよ~!生徒会でも友人でも男子少ないって言ってたらしいから」
「」
嘘・・・・・・だろ。この陰キャの極みのような俺に彼女持ち(推定)で陽キャ(推定)でスクールカースト上位(推定)であろう伊原君にコミュニケーションを取れと・・・・・・?
「あー、楽しみだなぁー!」
「・・・・・・そうですね・・・はは」
舞さん、俺が、一体何をしたというんだ・・・・・・
用語解説
TCG:トレーディングカードゲームの略
VANDAI:この世界で『バトルスピリッツ』を運営している会社
Zプロジェクト:カードゲームのスポーツ化によって発生した大きな事件・・・・・・?
遅れてスイマセン。テスト期間はちょっと辛いですね。
さて、次辺りで憐との会合をしておこうと思います。まぁ今作のレギュラーですから早い段階で接触はしておきたいな、と。急展開なのは承知です。
誤字脱字や感想、いつでもお待ちしております。
お気に入りやしおりだけでも作者は滅茶苦茶喜びます。