室内でも肌寒く感じる朝の8時、俺は外出したくないなぁと思いながらも、寒さに負けない意志を固め、外出へ向けての準備を終了していた。
俺と凪さん、憐のお泊まり会から何事もなかったかのように丁度1週間が経った。お泊まり会後は凪さんとあまり会話をしていないような気がする。勝手かも知れないが、親しくなったとは思っている。ただ、特別話すようなことが殆どなかったのだ。
しかし何故、こんな話をわざわざ話の冒頭でしたのか。
簡単な話だ。話すことが出来てしまったのだ。
「凪~、雪君にちゃんと高校までの道教えながら行ってね~」
「もう、分かってるからっ!よし、準備出来たなら行こ?」
「え・・・・・・あぁ、はい」
玄関前で靴を履いていた凪に台所に居る舞から忠告を受ける。少し反抗的に応えてしまったが、舞は特に気にしてはいなかった。
現在、2018年9月3日月曜日。雪の頭の中のカレンダーには2018年8月34日月曜日、終わらないぼくのなつやすみとあるが、現実は残酷だ。8月は死に、魔王が待ち構える9月が襲来して来たのだ。
因みに、生徒会はその1日前に始業式で使うパイプ椅子準備の為に学校へ行っている為、その日あった久しぶりの凪と雪の会話が「羨ましいよ、ゆっきー・・・・・・私の夏休み、終わっちゃった」である。生徒会長でも働きたくないものは働きたくないのである。休日くらい働かせずに休ませろと愚痴ってもいた。雪はお疲れ様です、と合掌するしかなかった。
雪と凪は家を出て左に曲がり、そのまま真っ直ぐ歩く。
「ふぅ、ねぇ寒くない?寒すぎて室内に居たくなっちゃうんだけど」
「あぁ、確かに寒いですよね」
お腹も痛くなってきましたね。胃が痛いのはきっと寒さのせいなのだろう。
「自己紹介は考えた?どうせ雑にやっても問題無さそうだけど」
「あーーーーー」
嫌だ、雪、高校逝きたくない。お家帰る。
高校に行くことに凄まじく緊張する。高校で陽キャと陰キャ、どっちと連むか。どういったキャラで周知されるべきか。変に思われないか。虐められないか等々、色々な不安が頭の中を駆け巡る。
「・・・・・・大丈夫だと・・・・・・思う、多分」
「うん、全然説得力無いね」
名前とこれからよろしく、とでも言っておけば良いと思っていたのだが、凪さん曰わくそれだと誰も話し掛けて来ない可能性あるから何か他の紹介もしといた方が良いとのこと。他のことか・・・・・・
「デュエマやってます、とかどうですかね」
「うーん、うちの高校はカードゲームで有名だし、デュエマやってますはちょっと印象に残らないかも。それこそデュエマやってる人なら誰でも居る訳だし・・・・・・」
野球のプロを育成する学校で野球やってますと言うのと同じか。
「あ、ゆっきー5c使えるんだからそういうのを前面に出していくのもありかもね」
「あー、でもそこまで上手く使えてるとは思ってないし。前の超越オーケストラとか全然だったし」
言う程上手く使えていない。と主張するが、凪さんは信じてくれないようだ。「そんなことないよ、自分より扱うの上手いよ」の一点張りだ。
しばらく自己紹介について話していると、いつの間にか高校に着いていた。凪さんは舞さんに説明すると言ってはいたものの、自己紹介の話をしていてするのを忘れていた様だ。
「あ、ごめん。忘れてた・・・・・・」
「あぁ、大丈夫ですよ。帰りに確認しますから」
午前8時40分、ひんやりとした教室内は休み明けのテンションが抜けきっていない学生達により賑わっていた。
教室の教卓から一番遠い窓際の席に憐は座っていた。
「憐、何か良いことでもあったの?」
「え?何で?」
近くの席に座っていた友人からいつもの自分と少し違うと言われ、何故そう思ったのかを問う。
「何か凄いにやってしてる。雰囲気が」
「口角とかじゃなくて雰囲気がって、え、どゆこと?」
思わず口角が緩んでいたのかなと思っていたのだが、雰囲気はもうどうしようも無い。
まぁ――
「新入生がね、凄い奴なんだよ」
「え、新入生知ってんの?」
声をデカくして驚いた友人に、周囲の人間が興味から寄って来る。
どんな奴なのか、男子か女子か、カードゲームは何やってるのか、イケメンか、可愛いか、ガチ勢かカジュアル勢か、何故知ってるのか等々、色んな質問が浴びせられた。その全ての質問への答えを憐は一言で済ます。
「お楽しみに」
学校のチャイムが鳴り、始業式の為に体育館へと移動することになった憐のクラスメイト達は、転校生についての話が楽しみで仕方がないという様子だった。始業式終わったら自己紹介の場で質問しまくる、という者ばかりだ。
ただ、この時点で一つだけ、この教室に居る全員が勘違いしていたことがあった。
キンキンに冷えている体育館には、蟻の様に沢山の生徒達が群がり、それぞれがパイプ椅子に座っていた。始業式の始めから寝ている者や、起きているものなど様々だ。
「校長先生、ありがとうございました。えー、続いて、新入生の紹介です」
――!、ざわ・・・ざわ・・・
新入生発表の前が校長教師の話という生徒からしたらどう考えても時間のアドソンだったのか、早く終われよという雰囲気からの変わり様は驚く程に大きかった。
新入生が壇上に上がり、マイクを片手に前に出る。
「この度、東京都立国立絵札高等専門学校、2ーBに配属されることになりました、白菊 雪です。カードゲームはデュエル・マスターズをやっています。5cまでデッキは使用可能です。宜しくお願いします」
――おおおおおおおおおお!!
巻き起こる大歓声。壇上に立つ雪の足は既に限界を迎えようとしている。生まれたての小鹿どころかクラゲのようにふにゃふにゃとしていて力が入っていない。
因みに胃は既に死んでいる。どうせ教室で自己紹介だろ、と思っていたらまさかの全校生徒に壇上で自己紹介という公開処刑だったからだ。凪さんはその緊張で今にも死にそうな雪を見て、「生徒会長になったばかりの頃の私だ・・・・・・」と過去の自分を重ねて見ていたらしい。
学校が爆発しないかな、という小学生並みの妄想をしながら、雪は教師からの次の指示を待つ。
――デュエマ勢か
―― 5cってマジ?
――いや、使えるだけで上手く扱える訳じゃないんだろ
――そういえばあの強い1年の子、新入生に負けたって言ってなかった?
――はっ!?マジかよ嘘だろ?
「静かにして下さい!・・・・・・えー、では2ーBのクラス委員長、前に出て来て下さい」
静かに、と言われた会場がまた生徒の声で賑わう。クラス委員長と呼ばれた男子は小走りでデュエマのデッキを持って壇上の前に立つ。雪も事前に言われていた通りに壇上から降り、クラス委員長と反対の方向に静かに移動する。
「これより、VR機能を使った新入生歓迎試合を行います。生徒及び職員は不正の無いよう、御観戦の方をお願い致します」
――ワァァァァァァァァァァ!!!
普通なら怒られるだろう大きさの歓声だが、教師からの注意は無い。先程まで無表情でいた教師達も、今はニヤニヤしている。
――頑張れ新入生!
――委員長負けたら何か奢れよー!
声援が飛ぶ。これが始業式だということを忘れてしまいそうだ。
VRにリンクする台座を教師がセッティングし、雪と委員長はその間にお互いデッキを交換し、カット&シャッフルをする。台座がセッティングされたのはお互いにシャッフルした場所から3m先。プレイの際には6mもの差がある。
雪は台座に書かれている通りに準備をする。一応事前に話はされていたが、何しろ初めてのことである為確認する。
まず、デッキを右上に。
次にシールドを5枚山札の横に重ならないように置く。
そしてカードを5枚引く。
最後に相手の盤面を確認するモニターが映るかどうかを確認し、問題なければ台座の横にある準備完了のボタンを押す。
おっと、委員長は《禁断》を使うのか・・・・・・。
「両プレイヤーの準備が完了しました。これより、VRデュエルを開始します」
教師がそう言うと、自分達の居る体育館が緑生い茂る森へと姿を変える。後で分かったことだが、フィオナの森らしい。
「初めて下さい」
「「お願いします」」
超次元は自動的に開示されている為確認は不要。手札やシールドも映像化されており画面を見ずとも分かり易い。先攻後攻も機械が勝手に決めてくれるようで楽に感じる。
先行は、委員長だ。
「《リュウセイ・ジ・アース》をマナへ置いてターンエンド」(マナ1)
「ドロー、《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》をマナへ置いてターンエンド」(マナ1)
お互いに赤と緑のマナをチャージする。オマケにどちらもドラゴンでもある。委員長の置いたカードを見て、雪は相手のデッキに見当が付き、自分がこのデッキを選んだことが正解だったということに頬が緩む。
しかし、まだ1ターン目。序盤も序盤だ。こんな所で気を緩めては呆気なく負けてしまう可能性があるのだ。気を引き締めて、試合へ意識を向ける。
「ドロー、《無双竜鬼ミツルギブースト》をマナへ置いてターンエンド」(マナ2)
「ドロー、《威牙の幻ハンゾウ》をマナへ置いて2マナで《フェアリー・ライフ》。効果で1マナチャージしてターンエンド」(マナ3)
雪が《フェアリー・ライフ》を唱えると、森から《ジャスミン》を始めとしたスノーフェアリーが集まり、飛べるスノーフェアリーは空中で緑色に発光しながら元気に飛ぶ。
「《ハンゾウ》?また懐かしいっすね・・・・・・。《悠久》に《ハンゾウ》ってのは初めて見るっすけど・・・・・・」
《悠久》は主にデッキ回復に使用されるカードだ。悠久チェンジというデッキにおいては重要なカードとして扱われていた。しかし、悠久チェンジに《ハンゾウ》はほぼ入っていない事が多い。この段階では憐にも雪のデッキがどういった物なのか分からなかった。
「ドロー、《メガ・マグマ・ドラゴン》をマナへ置いてターンエンド」(マナ3)
「ドロー、《斬隠蒼頭龍バイケン》をマナへ置いて2マナで《フェアリー・ライフ》。1マナチャージしてターンエンド」(マナ5)
マナに落ちたカードを見て、この試合を見ていた何人かが、雪のデッキタイプに気付き始めた。そのカードを見ても、まさか、という疑心は捨て切れないが、もしそうならなかなかにトリッキーな試合が見れるだろうと、好奇心が止まらなくなっていた。
「ドロー、《ボルシャック・ドギラゴン》をマナへ置いて3マナで《スクランブル・チェンジ》。効果で5マナ軽減し、1マナで《メガ・マナロック・ドラゴン》を召喚」
――うわ、マナロック
――ヤメロー!トラウマを思い出させるなぁー!
――委員長死すべし、慈悲はない
「お前ら黙ってろー!」
委員長の反応に館内が笑い声で賑やかになる。だが、《マナロック》という脅威は既に登場している。雪のマナゾーンには5文明が揃っていた。それが指すのは《マナロック》の最大限の力が引き出せるということ。
雪は思わず顔をしかめる。
「効果で相手のマナゾーンの5色揃っている5マナを指定。次のターンそのマナはアンタップしません。バトルゾーンの《禁断~封印されしX~》の封印を1枚剥がし、《スクチェン》の効果でスピードアタッカーになった《メガ・マナロック・ドラゴン》で攻撃。その時――」
早い。流石は《剣》だ、と雪は予想通りの相手の動きを冷静に分析する。既にその対処方法は手札に握っている分、かなり冷静だった。
「革命チェンジ。《メガ・マナロック》を手札へ戻して《蒼き団長 ドギラゴン剣》をバトルゾーンに。バトルゾーンの《禁断~封印されしX~》の封印を1枚剥がします」
委員長の背後にあった石像の左右の腕から石の杭が解き放たれる。後4枚で禁断解放だが、このデッキからしたら寧ろ解放して欲しいクリーチャーだ。
「《剣》の効果で手札から《リュウセイ・ジ・アース》をバトルゾーンに。《リュウセイ・ジ・アース》の効果で山札の上から 1 枚を見て、そのカードをマナゾーンに。T・ブレイク」
《剣》の巨大な剣が、雪を斬ろうと襲い掛かる。が、3枚のシールドが雪を守ろうとその攻撃を阻む。
「受けます。S・チェック・・・S・トリガー、《フェアリー・シャワー》。効果で山札の上から 2 枚を見て1枚をマナに、1枚を手札に」(マナ6)
「《リュウセイ・ジ・アース》でW・ブレイク」
「受けます。S・チェック・・・トリガーなし」
「ターンエンド」(マナ5)
――いきなりシールド0ってのは危険なんじゃないか?
――確かに。マナロックでマナもアンタップ出来ない訳だし。終わったんじゃない?
――委員長がガチデッキ過ぎてまず何のデッキなのかもわからないしね
―― 5cだし負けても仕方ないんじゃない?そんな上手く扱えないって
館内の生徒は、期待はずれという認識を雪に抱き始める。5cが使える、と言っていたことからどんな人物かとワクワクしていたが、今の絶望的に見える状況では、何だその程度か。と思われても仕方がない。
誰がどう見ても詰みだった。使えるマナは次のターンには2マナ、それで何が出来ようか。
しかし、雪は笑顔でいる。それは呆れや諦めからの笑みではなく、挑戦的な、これからが勝負だと言いたげな笑みだった。
入学デュエルとなりました。本当は専門学校にする予定は無かったのですが、
・デュエマ描写がこれ以上少なくなる
・ぶっちゃけデュエマ描写は試合が終わるまで見るという人が多いということが分かるアクセス数
・というか、デュエマのクリーチャーが動く描写書きたい
という理由で専門学校になりました。まぁ、特に支障は無いんで、後の話の大まかな構造を弄くる必要は無いと考えています。
雪が使用しているデッキですが、友人に使うとかなり嫌われますね。逆に、あるアクションをしないデッキが相手だとかなり弱くなるのですが。
冬休みも近いので、執筆速度も多少安定するかな・・・・・・?ただ最近、生徒会のメンバーに騙されてボランティアに参加することになったのでどうなることやら・・・・・・ゆ゛る゛さ゛ん゛
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