起きたらチェンジ・ザ・ワールドしてた件   作:change

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――あ、やっぱりお前もそう思う?
――だよなぁ・・・どうしてもそっちの方が強くなるからなぁ・・・
――使いたいけど使う時があんまりないエースとは果たしてエースと言えるのだろうか?

蘇る懐かしい思い出。今はその問に答えてくれる者はいない。



※今回の話は遊戯王プレイヤーの方が気分を害する可能性があります。御注意下さい。


天下統一 オオモリ・サン

「成る程、それではここを――」

「ならここは――」

 

現在、深の目の前では信じられない光景が広がっていた。

子供の頃にやっていた遊戯王の運営会社CONAMIの社長と自分が就職する予定の会社の社長が話し合っているのだ。

当然、緊張が襲ってくる。自己紹介も噛み噛みで、足も生まれたての子鹿を通り越して海月のようにふにゃふにゃして力が入らない。ソファに座るのを許可されなければ今頃は床に座っていたことだろう。

 

「・・・・・・」

 

発言はしたい。だが、それが出来ない。

この会社に入りたいのだから、目の前で話している社長に自分出来ますアピールはなるべくしていきたいのだ。しかし、自分はカードゲームプレイヤー。それもデュエマ経験者として召喚されたのだ。デュエマの話やカードゲームに関する話を振られない限りは下手に発言してはいけないと思っているのだ。それに、絶賛話し合い中の両者に水を刺して悪いイメージを与えてしまう可能性もないとは限らない。

 

どこか焦っている自分を落ち着かせるために、机に置かれているお茶を一口飲む。淹れたてで熱かったお茶は、いつの間にか猫舌の自分には調度良い温度になっていた。

 

「・・・・・・やはり、我社のカードゲームにのみVR技術を使うのは一時的な脚光を浴びる程度なのが事実のようですね。ここまで漕ぎ着けたVR企画を無かったことになど今更出来るはずもない。深君、私はVR技術をやがては全カードゲームに浸透させたいんだ。この事について、君はどう思う?」

「・・・・・・全カードゲームに、ですか」

 

デカい。やっと空気だった自分が発言できる場が設けられたかと思えばあまりにもデカい話題であったことに持っていたお茶を落としそうになる。

 

全カードゲームにVR技術を。それは深が考えていたVR企画の利益を最大限にまで高める為に必要なプロセスでもあった。

少し夢の無い話にはなるが、今年まで遊戯王の売上は全カードゲーム上でかなり高い数値を記録してきた。ギネスにも乗る偉大なカードゲームだ。カードゲームをしていない人でも、遊戯王という名前は知っているという人はかなり多いのではないだろうか。

そんな世界的にも有名な遊戯王だが、近年、その勢いは徐々にだが落ちている。

度重なるルール変更、加速するインフレ、複雑なルール、と、人が入って来辛いのが現状だ。

つまり、VRという技術を導入した所で、長く遊んでくれる新たなユーザーを確保し辛い状態にあるのに変わりはないのだ。

これが何を意味するのかというと、VR技術に使った金額や時間が無駄遣いという結末に終わってしまいかねないということ。

このCONAMIさんの企画は、かなりの確率で自分の首を締め、下手をすれば企業を終わらせてしまいかねないということだ。

 

まぁ、勿論それは今のままでは、という話なのだが。

 

「良いんじゃ、ないでしょうか。その、自分の様な庶民にそのような盛大な話へ正しい意見が出来るかどうかについてはいささか疑問ではあるのですが、私はこのままの状態で、つまり遊戯王にのみこの企画を実行した場合、最悪、御社にかなりの不利益が被られると考えています」

「正しい意見である必要などないよ。意見はあればある程、後でこうしとけば良かったと後悔しないで済む。それに、君の意見は最もだ。きっと、君の考えている通りのことを、今、我社は実行すべきか考えている」

 

流石は大企業の社長だ。そこは既に考えていたということだろう。そうでなければ話し合いになど来ないはずだ。

 

「何故、それを迷っていられるのかお聞きしても宜しいでしょうか?」

「もし、このVR技術を他のカードゲームに導入したとして、信じられない程に反響が出るカードゲームというのが幾つか想像出来てしまっていてね。正直、何年かすれば、売上で追い抜かれ、ユーザー数も追い付かれてしまう気がしてならないんだよ」

「成る程、確かにデュエル・マスターズはルールが御社のカードゲームより分かり易いという声は確かにありますし、月の売上も最近では遊戯王を追い抜くこともありましたから、その迷いは仕方のないものかと・・・・・・」

 

カードゲームと言えば遊戯王。MTGだという人も中には居るが、そのイメージが崩された場合、遊戯王がもう一度その座に落ち着くことは厳しい筈だ。

 

「恥ずかしながら、名声で売れている部分がありますから。それが無くなれば、如何に遊戯王と言えど、カードのインフレを進めて行くしかないのでは、衰退からの消滅というものを免れることは出来ない」

「そうですよね・・・・・・。遊戯王を破滅させる要因があるとすればインフレ、そして、存続させるにはその危険分子を大きくさせ続けなければならない・・・・・・。もし仮にインフレを抑え、それまでのカードを大幅修正しようものなら、ユーザーからの批判とユーザーの減少は免れず、やがては遊戯王を終わらせるしかなくなる、と」

 

改めて考えてみると予想以上に切羽詰まった状態であることが分かる。これらの情報は全てCONAMIさんの用意した参考資料から読み取ることの出来た考察ではあるが、かなり的を得ている気がする。過去にルールの大幅な修正があったが、多くのユーザーが離れてしまっていることから、インフレの修正は困難だと伺えたのだ。

 

「すみません、インフレが原因で危機に陥っている現状であることはわかりましたが、そこで何故DAKARATOMYさんに協力を仰ぐのかそろそろお聞きになっても宜しいでしょうか?」

 

社長の発言で自分達が遊戯王の現状についての話にのめり込んでいたことに気付く。これはいけないと思い、ついさっきまで話していた大森さんを見ると、頭をポリポリと掻いて、しまった、という顔をしていた。余程焦っていたのだろう。少し話すの止めて社長と大森さんの話し合いに耳を傾ける。

 

「すみません、話し込んでしまいました。そのですね、DAKARATOMYさんにと言うより、全カードゲーム会社を一つに纏め、企業を立ち上げようと考えているんです」

「CONAMIにVANDAI、DAKARATOMYなどの会社のカードゲームを統一するというのは、それだけのメリットが無ければ通らないものではないでしょうか・・・・・・」

「そうですね。その為に今、私達CONAMIは全力でVR技術を遊戯王だけでなく、全カードゲームに対応出来るように改良を施しています」

 

つまりだ。つまり、CONAMIさんはVR技術を交渉材料に使う気なのだ。DAKARATOMYさんからその交渉を行うのには理由があるのだろう。例えば、金銭面での補助やカードゲームの運営の補助などの要請だろうか。

 

ただこの計画、一つだけ大きな問題がある。

 

「今、改良しているのですか?こう言っては失礼ですが、それは発売時期に間に合うのでしょうか?」

 

そうだ。そこが問題なのだ。どう考えても今から全カードゲームに対応させるには圧倒的に時間が足りない。

 

「その点は大丈夫です。最近、優秀な技術担当が大量に手に入りましてね。次世代を代表出来るんじゃないだろうか、と思うような奴らが多いんですよ。部下に恵まれて、嬉しい限りです」

「間に合うんですか・・・・・・驚いた、優秀な部下をお持ちなんですね」

「はい、私の自慢です」

 

会社の、ではなく、大森さん個人としての自慢なのだろうと思い、良い話だな。と感心していた所で、何の話をしていたのか思い出す。今の優秀な部下の話が本当なら、きっとそれも交渉材料の一つなのだろう。短期間で全カードゲームに対応させられる程の技術の提供というのはかなりの魅力があるのではないだろうか。

 

「因みに、その技術力も交渉材料に?」

「はい、もし協力して貰えるのならば、惜しみなく提供しようと考えています」

「そうですか・・・・・・」

 

社長は納得したような雰囲気を出しながら、少し疑問が残ったような顔をしている。こういうのは聞いていった方が高評価なのだろうか。少し聞いてみることにした。

 

「どうかしましたか?社長」

「ん、いやね、そこまで交渉材料が揃っていて、何故DAKARATOMYさんのカードゲームについて良く知りたいと仰られたのか不思議に思ってね」

「それは――」

 

それは、何故だ?

大森さんがDAKARATOMYさんについて知りたいのならまだ分かる。面接と同じで会社にある程度の理解があった方が良いだろう。何故、カードゲームについて知りたいのだろうか。技術の提供さえしていれば、交渉相手の会社からはその後も文句は無いと思えるが・・・・・・。

言葉が詰まる。

 

「カードゲームの統一をするのなら、デュエル・マスターズを深く知るのは礼儀だと思いまして。それに、その、恥ずかしながら、私の息子がデュエル・マスターズをしていましてね」

「「え」」

 

深く知るのが礼儀だとしたら世の中の交渉を行っている会社の何割かは礼儀知らずになるのでは?と思ったが、そこは個人の感覚によるだろう。

というか、息子さんが自社のカードゲームではなく他社のカードゲームをしているのは、どんな気持ちなのだろうか・・・・・・。

 

「えっと、つまりは?」

「いえ、もし交渉が上手くいった場合、長い時間を共にする相手ですから。相手のことは良く知っておかないと、と思っただけです。それに、竹宮君という1デュエマプレイヤーからの意見は私達CONAMI社員にはなかなか出せないものもあるかもと思ってね」

 

自分の社員から出ないで学生である俺から出せる意見など無いだろうに。

 

「何か提案があったりしないかな?DAKARATOMYさんに実現してもらいたいものとかが好ましいんだけど」

「・・・・・・まぁ、先程話していたVR技術でクリーチャー・・・あぁ、遊戯王で言う所のモンスターですね。それを立体映像でゲームを行うとか。ゲームする時の周囲の景色をVRで好きなものに変えられるとかですかね。アニメのデュエル・マスターズの再現と言えば良いでしょうか?」

 

辞めてしまった自分の意見が今のデュエマプレイヤーの望みと一致するかは分からないが、こんな自分の願ったことが叶う可能性を捨てる訳にはいかない。過去の自分が夢見たことを口に出す。

 

「後は・・・・・・クリーチャーをデュエマ以外でもVRによる立体映像化が出来たら尚良いですね。呪文とかは勿論。城とか、あ、クロスギアやドラグハート、遊戯王で言う装備魔法を自分にも装備出来るように、とか」

「成る程ね・・・・・・VRでのカードゲームというのはやはりどんなカードゲームでもプレイヤーは喜ぶと見て良さそうだな。これで自信を持って交渉しに行ける」

 

あとは、そうだな・・・・・・

 

「世界大会で、VR技術を搭載した戦いが見てみたいですね」

「あぁ!それは良いね!うん、すっかり失念していたが、それは確かに。世界大会という注目が集まる場でVR技術を使うということは、周囲の反応を確認出来る上に、VR技術を他社などに見せるチャンスにもなる!」

 

お、おお。どうやらお気に召してもらえたようだ。大森さんのリアクションに驚きながら、お茶を飲んで渇いた口の中を潤す。温かいお茶だったとは信じられないくらいに冷たくなっている。気付けば外も暗くなっており、社員はチラチラと此方を見ていた。かなり長い時間話していたのだろう。

 

「満足頂けたでしょうか・・・・・・。その、やはり自分のような者が大森さんのような大企業の社長さんに意見して良いものかと不安だったのですが」

「あぁ、ごめんね。不安にさせちゃってたか。その、どうしても知りたくてね。焦ってたんだ。私のこの判断は間違っていないか、正しいことか。それを色んな人に確認したかったんだよ」

 

不安、か。それが本当の目的だったのかもしれない。アイツもそうだったけど、不安があるだけで行動出来なくなり、慎重になり過ぎてしまう人っていうのはこの世界に何人も居る。大森さんはその不安を取り除きたかったのだろう。そしてそれは、俺というカードゲーマーへの質問という形で解消されていったのだ。何だかんだ言って、役に建てたような気がする。

 

「では、ここらで一旦」

「そうですね。この度は貴重な御時間を私の為に割いて頂き、ありがとうございました」

 

お開きの合図共に、社長と大森さんが握手し、お互いがお互いの今後を鼓舞する言葉を掛ける。やっと緊張から解放されると思うと、足に少しずつ力が戻ってくる。

 

「あぁ、竹宮君」

「?」

 

さて、立つか。と思った矢先、大森さんが此方へ手を伸ばしてきた。手を出せ、ということだろう。俺は手汗をスーツにこすりつけ、大森さんの手を握る。

 

「ありがとう。君のお陰で、きっとカードゲームは更なる進化を遂げる」

「そんな、大袈裟ですよ。元から大森さんはカードゲームを進化させることが出来た筈です。俺はただそれを質問に応えるという形で応援しただけですよ」

 

流石にこの程度で君のお陰など言われては困る。恥ずかしくて仕方がないというものだ。

 

「いいや、君のお陰で自信を持てた。そうだな・・・・・・デュエル・マスターズで例えるなら、君は私の計画を促進させる《フェアリー・ライフ》のような役割をしてくれたんだよ」

「《フェアリー・ライフ》、ですか・・・・・・」

 

《フェアリー・ライフ》。それが指す意味は過去にデュエマプレイヤーであった俺には直ぐに分かった。

 

「そうですか・・・・・・。それなら、私は役に建てたんですね」

「そうだとも。君はもっと自信を持つべきだ。・・・・・・なんて、私の言えたことでは無いだろうけどね」

 

大森さんはそう言い終えると、社員の皆さんに一礼し、会社から出て行った。それまで静かだった社内がガヤガヤと騒がしくなる。どうやら、緊張していたのは俺だけではなかったようだ。社長も疲れきってソファに横になっている。

 

「お疲れ様、竹宮君。今日はもう暗いし、送るよ」

 

先輩、もし途中で寝てたらちゃんと起こして下さい。そういって俺は先輩の後ろに付いていった。




デュエマ描写とは違った難しさがある竹宮さん側のストーリー。作者は上手く書けた自信が無いです。
さり気なく雪がデュエマでどういったプレイをするのか少しだけ情報が開示されました。臆病も言い換えれば慎重とも言えますが、デュエマでは勝てれば慎重で良かったと良く思え、負ければ臆病過ぎたと悪く思えてしまうんですよね。カードゲームをプレイする人が抱える難しい問題だと思っています。

さて、次は雪側のストーリーに戻ります。とうとう夏休みが明け、雪が学校へと入ってくるお話の予定。違うかもしれない。(来週からテストなので遅くなると予測しております)

誤字脱字や感想、いつでもお待ちしております。
お気に入りやしおりだけでも作者は滅茶苦茶喜びます。
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