それと、一度時間を間違えて投稿してしまい、削除しました。数秒の出来事だったので見てた方は居ないと思いますが、困惑されたのなら、申し訳御座いません。
豪雨の朝、それはいつか見た光景。
誰かの強い後悔の記憶。
『受験勉強、頑張れよ。俺も頑張るからさ』
『うん、絶対受かる。――もちゃんと強くなるんだよ~?』
『・・・・・・わかった、お前も弱くなるなよ』
『帰って来た時には余裕で――のこと越してるから安心して』
『そう、それは楽しみだ』
あの時、もしも彼を引き止めることができていれば。時折、そう思ってしまうことがある。
その度に、あの時の自分に一体何が出来たというのか、と、自分の無力さを自覚させられる。
だから、彼が帰って来た時は――いや、彼を迎えに行った時には、もう私の精神はボロボロだったんだと思う。
涙が出なかった。一粒の涙すら、嗚咽さえ無かった。
きっと、その時の私は、現実を受け入れられなかったのだ。今と変わらない弱い自分には、事態を受け入れる度量など全くもって存在しなかったのだ。
『じゃあな』
別れというものは、突然やってくる。本当の“別れ”など、もう二度としたくないと思う程に残酷なものだ。
もう、会うことは出来ない。私の知る彼は逝ってしまったから。
『帰って来たら、その時はまたデュエマしよう!』
『そうだな』
約束はもう、果たすことは出来ない。
自室の窓から黒い空を見上げ、雪はこの世界で起きた出来事や状況を整理していた。
何故そんなことをしているのか。
家の前で感じた凄まじき恐怖から、雪は早急に元の世界に帰らなければいけない、と、生命の危機を本能的に感じていたからだ。自分の本来居なかった世界で死ぬ、何者かに殺されるということを、雪は何よりも恐れていた。
いつからか、雪の目的は変わってしまっていた。
最初はどうにか帰る方法を考えようとしていた。だが、この世界で生きていくしかない、と、どこか諦めて、この世界を楽しむなどと、現実から逃げていたのだ。
だからこそ、もう一度この世界と向き合いたい。今はこの世界に纏わる情報を整理していくしかない。
まず、この世界にやって来た時。
確か、デュエマがスポーツに該当すると知ったのも、病院で目が覚めた時だった気がする。そして、俺は吾妻さんと共にリハビリをし、退院。その後は学校に顔を出して生徒会を訪れたな・・・・・・。
そして生徒会の子とデュエマをした後、図書室に寄って何か調べていたな・・・・・・確か・・・・・・カードゲームの歴史とVR技術について、だったかな?
「そういえば、医療に関する本、結局読んでなかったな・・・・・・」
雪が学校の図書室を訪れた時、VRを活用した医療の本があったのだが、結局読めず終いだった。あれも読んでおいた方が何か役に立つかもしれない。
「その後は・・・・・・お泊まり会か。憐と実際に会ったのはあれが初。・・・・・・あ、そういえば、凪さんは俺の幼なじみって病院で言ってたな・・・・・・」
顎に手を添えて考える。幼なじみということはこの世界での過去の俺を知っているということだ。病院でわざわざ挨拶に来てくれるような人なら、何か有用なことを知っているかもしれない。
「そうだな・・・・・・それと俺が高校に自動的に入れた理由も自然な感じで聞いておくか・・・・・・」
話したくないだろう凪さんには悪いが、これも重要なことなのだ。もしかしたら自分はこの世界に来たと錯覚しているだけで、本当に記憶を失ってしまっているだけなのかもしれないのだから。
「寧ろ、本当に記憶喪失だったなら、どんなに楽なことだか」
希望的観測なのは分かっている。もし記憶喪失なら、竹宮さんのことなど忘れているだろうし、何よりも部分的には覚えているとは何とも信じ難い。
きっと、記憶喪失になった過去の俺と今の俺は全くの別人だ。舞さんが前より感情が表情に出やすくなったとか言っていたのを思い出す。
過去居た世界とこの世界が違うように、今の俺とこの世界の過去の俺は明らかに違う部分がある。その違いの中に、きっと俺が元居た世界へ帰る方法がある筈だ。全ての謎には答えがある。その答えを、俺は導き出さなくてはならない。
「この世界はカードゲームがスポーツ化している。eスポーツではなく普通のスポーツとして・・・・・・何かそこに意味があるのか?」
人々の間で流行し、それが巨大な物となったことで、カードゲームはスポーツ化した。というのがこの世界の歴史だった。そしてスポーツ化に伴い、国の創った専門学校まで存在する。
「・・・・・・全国にメジャーな存在として普及しなければいけない理由があった・・・・・・とか?」
eスポーツは正直まだあまり世間一般に知られていないことが多すぎるのが今の現状だ。その状況を良く思わなかった国は普通のスポーツという枠組みにカードゲームを入れた、と考えることも出来る。
「そこまでしてカードゲームをスポーツにした理由が気になる。eスポーツも時間を掛ければ世間一般に知られていくことも十分に考えられた筈だ。寧ろ、そこまで人気のあったカードゲームなら、eスポーツに導入すればeスポーツ全体への世間の認識が変わるチャンスだと思うんだが・・・・・・」
まだ分からないことが多過ぎる。
雪は考え疲れ、床に寝そべる。冷たい床が、熱くなった頭から熱を奪って行く。
「はぁ・・・・・・でもまぁ、不自然な点は幾つか出て来たな。何故カードゲームはeスポーツではなくスポーツなのか。この世界での俺は何故、記憶喪失になったのか。この2つは特に謎が多い。必ず俺がこの世界に来たことと、帰る方法に繋がっている・・・・・・気がする」
この世界に来た方法があるのなら、帰る方法もまたある筈。そう信じる他に雪には無かった。
「まずは“白菊 雪”というこの世界の俺について、凪さんからもっと教えてもらうかしないとな・・・・・・そういえば、凪さん遅いな」
思考に更けていた雪は、ふと、まだ凪が家に帰って来ていないのを思い出す。外出禁止と言われていた為、凪さんが一度家に帰って来てそのまま遊びに行っているとは考え辛い。まだ学校に居るか帰る途中といった所だろうか。
「雨、降りそうな感じだけど大丈夫かな」
空を覆う黒い雲は、見る者の不安を煽るように感じられた。
「はぁ・・・・・・」
公園のベンチに座り、凪は教師から言われたことを思い出していた。
「ゆっきーに言った方が良いんだろうけど、多分それは駄目なんだよね」
雪にもし、狙われているかもしれない。と伝えれば、雪は普段よりも周囲に警戒することだろう。相手が犯罪者ならば尚更だ。だが、それでは囮としては機能しない可能性がある。此方は夢原を捕まえるのが目的だが、夢原は少なくともただ
そんな不利な状況下で雪が警戒心から普段よりも不審な行動を取るようになったとしよう。まず夢原は疑問を持つ筈だ。そうして夢原が何もせずに逃げに徹した場合、夢原が逃げ切ってしまう可能性があるのだ。だからこそ、雪にはこの情報を伝えることが出来ない。
雪に被害が出る可能性を知っていながら、伝えることが出来ない。
「何が良いことで、悪いことなのか。もう分からないな・・・・・・」
雪を今後2度と夢原の魔の手に脅えさせずに済むには、雪にこのまま伝えないことが一番なのだ。それは分かっている。
だが、それは今の雪を“裏切る行為”なのでは無いか、とも思ってしまうのだ。
哲学者であったニーチェの『善悪の彼岸』において、善悪に境界線は無い。客観的に正義と言われるものは定義することが出来ない、と書かれていたが、凪は今、その境界線を誰よりも欲していた。
「絵札専門高校の子かな?」
「え?あ、はい」
迷う凪の横から声が掛けられる。見たことのない20代の男の人だ、黒いスーツと黒い靴から、仕事帰りのサラリーマンだと伺える。
「こんな時間に学校行かなくて良いの?まだ時間的にやってると思うんだけど」
「いえ、今日は早帰りだったもので・・・・・・」
「へぇ・・・・・・それじゃあ僕と同じだね。隣、良い?疲れちゃって」
「あ、どうぞ」
ありがと、と言い、男は凪の隣に座る。少し間にスペースを開けて座った男の鞄には《時空工兵タイムチェンジャー》のキーホルダーが付いていた。
「あの、それって《タイムチェンジャー》ですよね?デュエマの」
「ん?あぁ、そうだけど・・・・・・デュエマやってるんだ」
「はい・・・・・・」
会話が途切れる。本来は話す必要など凪には無いのだが、気分を変えたい凪は、どうにか会話を続けようと話題を考える。
それを察してか、男は鞄からケースを取り出し、近くの市民体育館を指差す。
「外だと風で飛んじゃうかもしれないし、もし良かったら体育館でデュエマでもしない?」
「え、あ、はい」
スタスタと体育館へ足を進める男に置いていかれないように付いて行く凪。端から見れば不審者に付いていく年頃の女の子という構図だが、筋肉の全く無い体とふにゃっとした表情から、そういうことはしてこない人だと凪は感じていた。
「そこの机で良いかな」
「えっと、はい」
緊張する凪の姿に思わず苦笑いする男。自分の行動のせいでこうなっているのは明らかな為、どうにか緊張を解してやりたいと考えていた。
超次元と禁断を置いた男は、凪のデッキをシャッフルし終え、先攻後攻を決めるジャンケンをする。
「最初はグー」
「ジャンケン、」
ポン。グーの凪に対してパーの男。先行は男からとなり、準備されたデッキを動かす。
「《支配のオラクルジュエル》をマナに、ターンエンド」(マナ1)
「ドロー、《怒流牙 サイゾウミスト》をマナへ、ターンエンド」(マナ1)
「そういえば、さっき何か迷ってるように見えたんだけど、何か学校で嫌なことでもあった?」
「あ、いや、・・・・・・まぁ、少し」
対戦しながら、男は凪に何かあったのかを聞く。その間にもプレイの腕は一切止めない。
「何か相談とかあれば乗るよ。ドロー、《唸る鉄腕 ギリガザミ》をマナに、ターンエンド」(マナ2)
「ドロー・・・・・・実は、友人に大事なことを教えてあげるべきか迷ってて。《時の法皇 ミラダンテXⅡ》をマナへ、ターンエンド」(マナ2)
成る程な、と男は納得し、デッキからカードをドローする。他の人には詳しくは言えないような大切なことなのだろうことを察した上で、男は慎重に言葉を選んで質問を続ける。
「それは言ったら問題が発生するから迷っているのかな?《アポカリプス・デイ》をマナに、3マナで《サイバー・チューン》を唱え、効果で3ドロー2捨て。ターンエンド」(マナ3)
「そうですね。言えば長い間、言わなければ今とても、友人を危険に晒してしまう感じです。ドロー、《白騎士の無限龍ウルフェリオス》をマナへ、3マナで《黒豆だんしゃく/白米男しゃく》を唱え、1マナチャージ。ターンエンド」(マナ4)
「ドロー、それはかなり珍しい状況だね。言えば長い間危険か・・・・・・それはまぁ、言わない方が良いかもと思うね。《堕呪 ザフィヴォ》をマナに、4マナで《ザフィヴォ》を唱え、2ドローして《堕呪 バレッドゥ》を唱える。効果で2ドロー1捨て。ターンエンド」(マナ4)
「ですよねっ、やっぱり言わない方が良いですよね・・・・・・ドロー、《白騎士の光器ナターリア》をマナへ、5マナで《超次元ドラヴィタ・ホール》を唱え、効果で墓地から《黒豆だんしゃく/白米男しゃく》を回収、超次元ゾーンから《時空の雷龍チャクラ》をバトルゾーンに。ターンエンド」(マナ5)
他者の見解を聞き、自分の取るべき行動を決めようとする凪に、男はでも、と更なる意見を口にする。
「君は友人が危険に晒されるのを嫌っているみたいだけど、どうにも避けることが出来ないみたいだね。ならさ、考えるべき所は言うか言わないかじゃなくて、アフターケアをどうするべきか、じゃないかな?」
「アフターケア、ですか?」
まぁ、違うかもしれないけどね。と苦笑いしながら言う男。
凪は自分の考えには無かった考えに耳を傾ける。
「要するに、どう足掻いても危険な状況に陥るのなら、危険な状況下で自分には何が出来るか、どこまで出来るかを考えてから、言うか言わないか選択すれば良いんじゃないかな、って」
「自分には、何が出来るか・・・・・・」
それは、その答えは、既に出ている。
「私には、何も出来ませんね・・・・・・」
「ドロー、そんなことは無い筈だ。状況っていうのは変わり行くものだ。《天使と悪魔の墳墓》をマナへ、3マナで《サイバー・チューン》を唱え、3ドロー2捨て、更に1マナで《ラッキー・ダーツ》を唱え、効果で1枚シールドを選んで?」
「じゃあ、これで」
「シールドチェック・・・・・・呪文だから《超次元ロマノフ・ホール》を唱える。効果で《チャクラ》を破壊してもらって、超次元ゾーンから《時空の邪眼ロマノフZ》をバトルゾーンに。ターンエンド」(マナ5)
《チャクラ》という凪の強力なクリーチャーが除去され、代わりに男の《ロマノフZ》が出現し、凪の優勢という状況は覆される。
「君は少しネガティブに考え過ぎだ。それはまぁ、物事を過信せず真摯にリスクと向き合えるとも著せるけど、重要なのは、もしもは仮定の話だということだ。それに足を引っ張られて何も出来なかったと後で後悔するのは、滑稽だと言う他にないと思うよ」
「滑稽ってっ」
自分のことを滑稽だと言われた凪は、思わず少し声を荒げてしまう。
しかし、これは紛れもなく事実なのだから、凪は反論することが出来ない。否、反論する気すら無かった。
自分の直すべき点がネガティブだというのは、憐から励まされている自分を客観的に捉えた時に、理解していた。だが、認めることは出来ても、捨てることは出来なかった。
「もし自分がこうしたら、ああなるかもしれない。そういう思考が君は負の観点に振り切ってしまっているって感じかな。いわば0かマイナスしかない、プラスが存在しないんだ。そんな状態で、正常な予測は出来ないよ」
「ドロー、《斬隠蒼頭龍バイケン》をマナへ、4マナで《フェアリー・シャワー》を唱え、山札の上から1枚を手札、1枚をマナへ、ターンエンド。そうですね・・・・・・確かに、その通りだと思います。でも、心配で心配で仕方がないんです。絶望的観測が、どうしても頭から捨てられないんです」(マナ7)
自分の弱さから俯く凪。男はここに来てやっと、この“柴崎 凪”という人物の勘違いしているモノに気付いた。
「そうか、君はそれを勘違いしていたのか」
「えっ、」
「いやね、何でここまで暗く考えているのか、話してて疑問に思ってたんだけど――」
「君は、自分の持つネガティブさを捨てなければならない、と思っていた訳だ」
凪の頭は?で一杯だった。先程ネガティブ過ぎると非難したのは貴方自身ではないか、と。
「ターンの始めに、《ロマノフZ》の効果で山札の上から1枚を墓地に、そして墓地に呪文が10枚以上ある為、覚醒、《邪神の覚醒者ロマノフ・Z・ウィザード》に。ネガティブさを確かに僕は非難したよ。でも、捨てろとは全くもって言ってない。寧ろ、大切にするべきだ」
「へ?大切に?」
「そうそう、ネガティブ過ぎる自分を変えるには、ネガティブを捨てるのではなくて、それと同等のポジティブな自分を作る必要がある。均衡を丁度保てる程のね」
それは、考えたことも無かった。ネガティブな考え方を廃止すれば、自ずとポジティブになると、そう解釈していた自分が居た。
「ネガティブを捨てず、ポジティブな見方を覚えろ・・・・・・そういうことですね」
「そういうこと。そうすれば、幾分かマシな選択や行動が取れると思うよ。君は物分かりも良いみたいだし、利口だと見える。なら、正しい選択を取ることが出来る筈だ。ドロー、《スーパー・デーモン・ハンド》をマナに、《Z・ウィザード》で攻撃する時、Z・ウィザードの効果で山札の上から2枚を墓地に、その後、墓地から闇の呪文である《オールデリート》を唱える」(マナ6)
「禁断の攻撃で負けですね・・・・・・。ありがとうございました。その、相談に乗ってくれてありがとうございます」
「良いって良いって、こっちも暇だったし?誰かとデュエマをする暇も、あんまり無いからね」
大人になると、子供の頃のように遊ぶことは難しくなっちゃうからね、と言い残して、男は入って来た入り口から出て行こうとする。
凪はここまで真摯に話を聞いてくれた男の名前が気になり、慌てて呼び止めた。
「すみません、失礼ですが御名前を聞いても宜しいですか?」
「あぁ、僕の?聞いてどうするのさ?まさか・・・・・・通報か!?」
「しませんよっ!?」
冗談だ。と男は笑いながら名乗る。
「竹宮 深、しがないサラリーマンだよ」
正月とクリスマスに本編更新と大変な状況下で発見される冬の課題。地獄を愉しむ余裕なんて無いです。
今回は本編では第1話に出たきり出番の無かった竹宮が登場しました。凪の初めての敗北描写が竹宮ということになりましたが、そんな竹宮のデッキはまたもデリート。コイツマジでデリート至上主義なのでは?という考えが過りましたが、正直デリートは竹宮くらいしか使わない予定なので竹宮のイメージ像はオールデリートであってます。まだ凪はトリーヴァ白騎士です。さて、ガチデッキはいつ出て来るのか・・・・・・。