光の射さない暗闇、嘗て憐が経験した空間に雪達は居た。雪は倒れ伏していた状態から身を起こし、隣りで過呼吸を起こしながら倒れている恵那を仰向けに直す。
「此処は・・・・・・一体・・・・・・」
「―――」
目の前には黒いナニカが1人だけ。目を凝らしても、周囲から2人目の姿は確認出来ない。
「貴方は、何が目的なんですか・・・・・・?」
「―――」
問に対する答えは無い。反応すら見せないのは、些か不気味でもあった。
しかし、空間に変化はあった。何も無かった筈の場所に如何にも最初からあったかのようにVR台が出現している。デッキも設置されていることから、今からするべきことが、何となく雪には分かった。
――デュエマをしろだなんて、却って不気味だな。一体、どんな恐ろしい秘密があるのやら・・・・・・
闇のゲーム、真のデュエマ、そういった“架空のもの”が、この世界に無いとは言いきれない。だとすれば、今から始まろうとしているゲームも、似たものである可能性は否定出来ない。
寧ろ――
「逃がしては――」
「―――」
「――くれないよな・・・・・・」
淡い希望も叶うことなし。雪は大人しくVR台の上に乗ったデッキを手に取り、中身を確認する。
「・・・・・・」
初めて握るデッキだ。しかし、妙な違和感を感じる。何処かで見たことがあるような、使ったことがあるような、そんな感じだ。
――まだ雪ちゃんは何か覚えている、記録している筈なんだ
憐の言葉を信じるならば、自分がこの世界で目覚める前、いや、今の自分がこの世界を認識する前の自分が居たのでは無いだろうか?それが、この既視感の発生原、記憶を失う前の白菊 雪という人物の正体なのではないだろうか?
そう思うと、色々と納得がいく。自分が転生して来たのか、憑依してしまったのか曖昧な状態なのも、何故こうなってしまったのかという説明があったことすらも、忘れてしまったからかもしれない。
――証拠が足りない不完全な憶測は、今することじゃないな・・・・・・
少し、現実逃避してしまった。目の前に広がる光景を受け入れられないからだろうか。
やりたくないが、やらないといけない。やらなければ、先は無いのだろう。
「奇跡が起こることを願うよ、全く・・・・・・」
デッキのシャッフルを終え、VR台の前に立つ。超次元の確認もした。相手の盤面の様子は付属されているモニターからはっきり分かる。
VRのダイスが空中で振られ、出目を競う。5と4で先行は相手から。先行を奪われたことで心臓が一段と煩くなるが、気にしないように必死に冷製さを保つ。
「・・・・・・お願いします」
[emptyhumanのターン]
[emptyhumanは、手札の《ニコル・ボーラス》をマナへ置いた](マナ1)
[emptyhumanは、ターンを終了した]
挨拶は無し。だが、そんなことを気にしている場合ではない。負けることの出来ないデュエルで、相手の礼節を一々気にすることが出来る程、雪に余裕は無い。
――考えろ。《ボーラス》なら何だ?《ジャクポ》か?色が優秀だから5c龍もある。
候補はある。だが、相手が知っているカードだけで組んで来ているかどうかも怪しい。もしそうだとすればデッキタイプの先読みは困難だ。しかもそれが一撃必殺、先手必勝のようなカードだとすれば、カードを見てからの対策などは期待出来ない。
――俺のデッキは初手でどういった感じかは分かる。それだけでも幾らか安心出来るのは確かだ。
《バイケン》、《ドンジャングル》、《サイゾウミスト》、《フェアリー・ライフ》、《ソーナンデス》。この5枚でトリーヴァ辺りだろうと考えるが、何よりも《ソーナンデス》と《ドンジャングル》がセットであるのは心強い。これを軸にプレイすればあるいは・・・・・・。
「ドロー、《サイゾウミスト》をマナへ、ターンエンド」(マナ1)
[emptyhumanのターン]
[emptyhumanは、カードをドローした]
[emptyhumanは、手札の《怒流牙 サイゾウミスト》をマナへ置いた](マナ2)
――っ!5cか!となると、多色マナ武装の呪文、特に《獅子王の遺跡》、それと《フェアリー・ミラクル》によるブーストデッキと見て間違い無い。だったら序盤はブーストに専念する筈。
[emptyhumanは、ターンを終了した]
「ドロー、・・・・・・?」
え?何コイツ・・・・・・?これ入ってるのか?
「《ドンジャングル》をマナへ、2マナで《フェアリー・ライフ》を唱え、1マナチャージ。ターンエンド」(マナ3)
マナに置かれたカードは《ミクセル》。大凡呪文面である《ジャミング・チャフ》を唱えることを想定して入っているのだろうが、今引いたカードと《ドンジャングル》の存在も考えると、一枚のカードが思い浮かぶ。
だが、自信は無い。本当にあるのだろうか。
[emptyhumanのターン]
[emptyhumanは、カードをドローした]
[emptyhumanは、手札の『偽りの王 ヴィルヘルム』をマナへ置いた](マナ3)
[emptyhumanは、ターンを終了した]
――《フェアリー・ミラクル》を打たない、もしくは打てなかったか。なら《獅子王》が次のターン成功するかで変わってくるだろうが・・・・・・まぁ、成功するだろうな。
「ふぅ・・・・・・ドロー、」
深く息を吐きながら、カードをドローする。緊張は解れる所か凝り固まる一方。楽しむ余裕も無く、精神が悲鳴を上げる程に辛く、厳しいデュエルだ。
「《バイケン》をマナへ、4マナで《佐助の超人》を召喚。効果で1ドロー1捨て、墓地から《フェアリー・ライフ》をマナへ。ターンエンド」(マナ5)
[emptyhumanのターン]
[emptyhumanは、カードをドローした]
[emptyhumanは、手札の《“乱振”舞神 G・W・D》をマナへ置いた](マナ4)
[emptyhumanは、マナの4枚をタップした]
[emptyhumanは、《獅子王の遺跡》を唱えた]
「・・・・・・っ、遂にか・・・・・・」
強力なマナブーストにより、相手のデッキは遂に本領発揮するのに十分なマナが貯まる。
[emptyhumanは、山札の上の『偽りの王 ヴィルヘルム』をマナへ置いた](マナ5)
[emptyhumanは、山札の上の『ニコル・ボーラス』をマナへ置いた](マナ6)
[emptyhumanは、山札の上の『ニコル・ボーラス』をマナへ置いた](マナ7)
[emptyhumanは、ターン終了した]
――マナには多色のヤバい奴らがゴロゴロ居るな。蒼龍でも打たれれば一溜まりもない。出されて制圧される前に先手を打たないとマズいか。
「ドロー、」
・・・・・・成る程。これはマナだな。だからさっきのカードが入っているのか?
「《ν・龍覇 メタルアベンジャー R》をマナへ、4マナで《ドドスコ》を唱える」
雪は引いたカードをそのままマナゾーンに置く。せっかくのカードだが、マナに置くことでこのデッキはその強さを発揮すると判断した。
今はただ、自分のデッキを回転させ、キーとなるクリーチャーを探し出すことが先決だ。勝つ方法はそれ以外に無い。
雪は、山札の上から5枚を見る。その中から1枚のカードを選び、残りのカードを山札の下に置く。
「《黒豆だんしゃく》を手札に加え、自分の場の《佐助の超人》を手札に戻す。ターンエンド」
普段は竜巻を呼び起こす側であった《佐助の超人》は、人工的に発生された竜巻に吸い込まれて行く。シノビが手札に戻ったことで、相手に攻撃を躊躇させることが出来れば良いのだが。
――問題はここであのクリーチャーが出てくることだな・・・・・・
[emptyhumanのターン]
[emptyhumanは、カードをドローした]
[emptyhumanは、手札の『支配のオラクルジュエル』をマナへ置いた](マナ8)
[emptyhumanは、マナの5枚をタップした]
[emptyhumanは、『ボーイズ・トゥ・メン』を唱えた]
「ふぅー・・・・・・」
雪はまたも深く息を吐く。《ニコル・ボーラス》が飛んで来ていたら本当に危なかった。このターンは相手は仕掛けて来ない。そう確信した雪はすぐさま次の動きをどうするか思考する。
[emptyhumanは、カードをドローした]
[emptyhumanは、山札の上の『“乱振”舞神 G・W・D』をマナへ置いた](マナ9)
[emptyhumanは、バトルゾーンの『ボーイズ・トゥ・メン』を墓地へ置いた]
[emptyhumanは、ターンを終了した]
――次のターン、相手は単色を置いた場合コスト10のクリーチャーが出せるようになる。
このデッキが苦手とするあのデッキに入っているだろう恐ろしいカードは、呪文を禁止する《モアイ》、ターンを得る《鬼丸「覇」》、そして手札を壊滅させる《ボーラス》の3種類だろう。あくまでも予想である為、入っているかは分からない。だが、その3枚は特にキツい。
そして、いつ出て来るか分からない状況で、自分の知らない筈のデッキをプレイしなければならない。
だけど、不思議だ。初めて使うし、初めて見る筈なのに――
自分の感じた違和感が、勝てると言っている気がする。
無数にある未来の中には、この勝負で自分が敗北する未来も、あったのかもしれない。もしかしたら、勝ってもその後の結末は変えられないのかもしれない。
それでも、この勝負における勝ち負けの未来ぐらいは、自分の手で選び取ってみせたい。
いや、選び取ってみせる。望まぬ運命を変える。俺は、変えてみせる――
「ドロー」
『この宿命は、誰かが犠牲にならないと終わらない』
『君は俺の宿命を担うことになる。それでも――』
『それでも君は、俺の変わりになってくれるのか?』
『そう、か・・・・・・だったら託す。不甲斐ないけど、ここでバトンタッチだ』
『・・・・・・負けるなよ?俺は君のこと、尊敬してたんだからさ――』
記憶が湧き水のように雪の中を駆け巡る。カードを引いたその瞬間、雪の左目の奥底に、蒼い灯火が宿った。
それは、雪の中に眠っていたもの。運命を変える為に託された遺志。今この場に、自分が立つ理由。
「《佐助の超人》をマナへ、」(マナ7)
ずっと忘れていた。いや、今でも虫食いの記憶だ。全然、覚えていない。託された経緯も、託した者も。――託された宿命も。
でも、あの瞬間、“ただの雪”は殺されたんだ。俺が、自分の意志で殺したんだ。でも、どこか後悔していたんだと思う。本当は、気楽なままで居たかった。そんな未練を遺して死んだ“ただの雪”が、最後に楽しい学生生活を送れたのは、本当に、奇跡のようなものだったと思う。
・・・・・・もう、未練は無い。“ただの雪”は今この場で死ぬ。
遺志を背負った者として、何かを“託された者”として、負けられない。何より――
「6マナで――」
何より――ここで負けたら、もしここで自分が消えたら、自分は次にこの宿命を誰かに託さなければならない。そんな気がするから。
「《龍装艦 チェンジザ》を召喚」
――俺は、宿命と戦う為に、この勝負に勝つ。
蒼に目覚めた白を、黒はただ呆然と眺めていた。
モノクロームな彼の過去 蘇る蒼の遺志
【挿絵表示】
初のカード背景合成作品。
宿命が何であったかは分からない。でも、負けてこの世から消えてしまった場合、託された宿命を果たすことは出来ない。そういった考えの元、今の雪は動いています。今までの記憶を失っていた“ただの雪”は、この宿命を託されたという事実を思い出したことで死ぬ。そして新たに“託された者”として生きることになります。宿命という呪いを託された雪は、一体元の世界に帰ることと託された宿命を果たすことのどちらを優先事項として扱うのか、といった所にも注目していきたいですね。
雪のデッキは現環境にも居るチェンジザドンジャングル。その改造版ですね。対する相手は同じく環境に居座る5c蒼龍コン。片方は少し捻れてますが、環境同士の対決ではあります。
次の話が投稿された後、「最初から読むの怠い」という方向けに今までのまとめのような話でもUA3000記念に作りますかね。自分の小説、「暇なとき偶になら読んでやっても良いぞ」レベル、またはそれ以下でしょうし。何より自分が確認する為にも大切だし。
因みに、タイトルにカード名要素持ってないけど良いか、と思っていたのですが、偶然にもGRのメタリカ系統の名称の要素を持ってしまいました。