起きたらチェンジ・ザ・ワールドしてた件   作:change

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知識と臆病と愚人の決断

夕暮れ時、秋蝉が鳴く中、夕日に照らされたコンクリートの上を歩き一人帰路に着く。

 

「思えば、もう約1ヶ月も滞在しているのか・・・・・・」

 

赤い夕日を眺めながら、歩調を崩すことなくその事実に気付く。

 

「1ヶ月、俺はそのくらいの時間を掛けて、やっとZ事件の真相に近付くことが出来た・・・・・・」

 

俺は、あの時恵那さんから夢原 翔真の本当のことを聞いた。

 

『夢原 翔真は嵌められたの』

 

誰に?

 

『新たに管理者となった奴に』

 

ソイツの名前は?

 

『残念だけど、分からない』

 

・・・・・・。

 

夢原 翔真がどのようなことをZ事件でしていたのかは分かった。今伝えられている惨劇よりも前の、まだまともだった頃のZプロジェクトの管理者が夢原 翔真であったことも。

 

――夢原 翔真は敵じゃない。だが、俺と・・・・・・黒枝 雪であろう彼は、あの事件で死にかけ、俺は記憶を失い、黒枝至っては、今も生存しているのか分からないままだ。

 

正直、夢原が憎いと思う気持ちが、無い訳ではない。

 

もし話に聞いた通り、夢原 翔真が管理者を失踪という形で辞めることにならなければ、新たな管理者は来なかったのかもしれない。あんなことには、ならなかったかもしれない。

 

そう思うと、余計に夢原への恨みが増してしまう。

 

――はぁ・・・・・・いけない。それは駄目だ。その恨み、憎しみは、きっと物事の真実を正しく受け止めるのを邪魔してしまう。

 

それは俺の望むことじゃない。俺はZ事件の、あの惨劇を引き起こした奴を知る為にこうして今、行動しているんだ。全ての恨みは、その管理者に向けるべきだ。

 

そう結論付け、住宅街に並ぶ家の外装を見て、自分の中の思いを一つ、口に出した。

 

「・・・・・・この街で出会った人達には、迷惑を掛けたくないな」

 

ふと、陽に照らされながら一人思ったのだ。親の代わりになってくれた舞さん、協力しようと接してくれた凪さん。どちらも心の底から優しい人達だ。

 

だからこそ、危険な目に合わせたくはない。例え一人で抱え込むことが間違いだとしても、それでも俺は、一人でやり遂げるべきだと思う。

 

乾いた風が、雪の体を優しく撫でる。これから戦場へと赴く者に、人が優しく接してくれるように。

 

「大切な人達だから?いや、違う。そうじゃないんだ、きっと」

 

もう一人の自分と会話をするように、自分の気持ちの正体を明かそうと頭を働かせる。

答えは、すぐに出た。

 

「そうだ。俺には、白菊 雪には、まだ大切な人を守ることが出来ないから、守り通せる自信が無いから。だから、危険な目に遭うような行動は、大切な人達にはして欲しくないんだ」

 

大切な人達だからが原因ではない。自分には守れないから、協力はさせられないのだ。

 

――協力してもらう身で協力してくれる人を守れないなんて、そんなのは駄目だ。いくら何でも、無責任が過ぎる。

 

だから、それまでは・・・・・・守れるような力が手に入るまでは、協力させられない。

 

いや、きっと、力を手に入れても協力させないのだろう。俺は凪さんとは違う。凪さんは守ると、ハッキリと俺に言ったことがある。その時、心の底から驚いていた自分が居た。

 

彼女は強い。それはデュエマがとか、そういった目に見える情報だけではない。目に見えないもの、心というものが、あまりにも強く、眩いのだ。

 

それが、俺には無い。誰かへ掛ける言葉の彼方此方に、何かしらが付いて断言出来ないところなど、正に自分の言葉に自信がないことから来ていることなのだろう。

 

そうだ。俺は、宿命を果たすことでやっとだ。それ以外のことにかまけていられる程、持っている能力は高くない。

 

「だから――」

 

バックのポケットから、脱色したかのように見える1枚の白黒となったカードを取り出す。

《龍装艦 チェンジザ》、脱色した3枚のうちの1枚を、俺は恵那さんから譲り受けた。

 

「・・・・・・」

「―――」

 

カードを右手に持ちながら神妙な顔付きで、目の前に立つ黒い男へと語り掛ける。

 

「・・・・・・良いよ。相手してやる」

 

そう言うと、俺は黒い闇の中へと飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い世界。此処に初めて来た時よりも、当たり前だが、落ち着いている自分が立っている。

 

「・・・・・・デッキはある。また、これか・・・・・・」

 

前と同じだ。この空間に入る前に持っていた《チェンジザ》のデッキ。実物を持っていないのにこれが出現するのには、何か理由があるのだろうか?

 

――まぁ、そんなものは今は関係ない。ただ、勝つことだけで十分だ。

 

デュエルが開始する。先行はまたしても黒い謎の人物から。あの空の人間(empty human)は、今回も5cなのだろうか。

 

【empty humanは、手札の《テック団の波壊Go!》をマナへ置いた(マナ1)】

【empty humanは、ターン終了した】

 

俺のターンが回ってくる。《波壊Go!》から推測されるデッキ数は正直多過ぎる。これだけでは、流石にどのデッキを使っているのか判断出来ない。

強いて言うなら、速攻等は考え辛い。大凡入るのは青か黒の入っているデッキだと考えられるからだ。

 

「ドロー」

 

引いたカードは《チェンジザ》。少し早いが、マナを加速出来さえすれば問題はない。マナに置いた所で《ドンジャングル》で出せば良い。

ここはマナ加速と相手のデッキ解析が終了するまで、一旦持ったままにしておいた方が良いだろう。

 

「《ν・龍覇メタルアベンジャー R》をマナへ、ターンエンド」(マナ1)

【empty humanのターン】

【empty humanは、カードをドローした】

【empty humanは、手札の《超次元リバイヴ・ホール》をマナへ置いた(マナ2)】

 

《リバイヴ》か・・・・・・。成る程、《波壊Go!》と同色で単色の上に、このターンで緑をマナに置かなかったということは、5cの線は消えたと考えて良いだろう。なら、普通に考えると青黒ハンデス、もしくはドロマーハンデス。ドロマーロージアダンテやドロマー天門といった所か・・・・・・。

 

【empty humanは、マナの2枚をタップした】

【empty humanは、《サイバー・K・ウォズレック/ウォズレックの審問》を唱えた】

 

「《ミクセル》以外に選択肢は無いな」

【empty humanは、相手の手札の《奇石 ミクセル/ジャミング・チャフ》を墓地へ捨てた】

 

赤紫の禍々しい手がカードから伸び、俺の手札からコスト3以下の《ミクセル》を墓地へと埋葬する。

俺の手札は《ソーナンデス》、《佐助》、《チェンジザ》、そして《ミクセル》2枚の計5枚。その内コスト3以下のカードは2枚ある《ミクセル》のみ。

 

2枚ある《ミクセル》の内1枚が消えたが、相手のデッキが分かったのだから十分だろう。これくらいどうという事は無い。

 

【empty humanは、ターン終了した】

「ドロー、《佐助》をマナへ、ターンエンド」(マナ2)

 

《フェアリー・ライフ》は引けなかったが、そこまで問題視することでもない。だが本当に心配なのは、相手がハンデスカードを長期間使い続けられるかどうかだ。

 

《ウォズレックの審問》として使われたあのツインパクトカードのクリーチャー面は《サイバー・K・ウォズレック》というコスト6のサイバー・コマンド。そして厄介なことに、そのcip効果は各プレイヤーの墓地から2枚までコスト3以下の呪文を唱えられるというもの。

つまり、自分自身の呪文面である《ウォズレックの審問》や、優秀なハンデス呪文である《ブレイン・タッチ》などが墓地から使えてしまう訳だ。

 

もし《ウォズレック》が出たら、手札があればまぁ間違いなくハンデス呪文を2回打って来るだろう。すると、そのターン中に少なくとも2枚のカードが手札から飛ばされる。

 

流石に後半において、その効果が及ぼす影響は大きい。チェンジザが出るのが先であれば優位に立てる可能性が無きにしもあらずだが、《デモンズ・ライト》や《学校男》、《ドゥポイズ》などで処理されるのがオチだろう。

 

この勝負において重要なのは、如何に早期に攻められるかだろう。ハンデスに対して長期戦を選ぶのは悪手。クリーチャーを出したら即座に殴った方が勝ち目が見えてくるだろう。

 

――先手を潰すのがハンデスの戦い方だ。その事を竹宮さんとの対戦で痛いほど思い知った。先手を潰すデッキには、如何に此方が相手を後手に回すことが出来るかが重要になってくる。

 

【empty humanのターン】

【empty humanは、カードをドローした】

【empty humanは、手札の《S級不死 デッドゾーン》をマナへ置いた(マナ3)】

 

これで3マナ。まぁ間違いなく《ブレイン・タッチ》が来るだろう。

 

【empty humanは、マナの3枚をタップした】

【empty humanは、《ブレイン・タッチ》を唱えた】

 

――予想通りだ。

 

【empty humanは、カードをドローした】

【empty humanは、相手の手札からランダムに《龍装艦 チェンジザ/六奇怪の四 ~土を割る逆瀧~》を墓地へ捨てた】

 

またもやempty humanのカードから手が伸び、俺の手札からカードを墓地へと埋葬する。《チェンジザ》が持って行かれたのは少し不安だが、それよりもマナブーストカードが落とされなかったことを喜ぶべきだろう。

 

【empty humanは、ターン終了した】

「ドロー、《サイゾウミスト》をマナへ、ターンエンド」(マナ3)

 

まだ、動けない。だがマナを見れば悪いことばかりではない。既に色は整っている上に、《ドンジャングル》で踏み倒すクリーチャーも準備されている。

 

最悪の動きではない。ならばまだ焦る必要はない。

 

【empty humanのターン】

【empty humanは、カードをドローした】

【empty humanは、手札の《ZEROの侵略 ブラックアウト》をマナへ置いた(マナ4)】

 

「っ」

 

少し目を見開き、驚きのあまり声が出掛ける。

《ブラックアウト》が入っているのは頭から離れていた。確かに竹宮さんも入れていたが、そう入れる人が多い訳ではない。これは正直、困ったことになった。

 

《リバイヴ》からの《ガンヴィート》出現で《ドンジャングル》が除去されるのは試合中でも1度くらいだ。だが、《ブラックアウト》となると問題がある。このデッキでは相性が悪い。それも頭を抱えてしまう程には。

 

《ドンジャングル》というクリーチャーは、『マッハファイター』と6000のパンプアップにより、相手のクリーチャーを登場と同時に殴り殺すことが仕事のクリーチャーだ。更に、マナからの7000以下1体踏み倒しと、攻撃誘導を持っている。

 

だが、ここで問題なのは、その攻撃誘導が可能であるならば(・・・・・・・・)という制約があることだ。

 

攻撃可能、つまり相手のクリーチャーが《ドンジャングル》を攻撃出来る状態でなくてはならない。恐らくだが、《ドンジャングル》の『マッハファイター』は、この攻撃誘導の為にタップした《ドンジャングル》が出来るように想定されて付けられた効果だ。俺自身、『マッハファイター』という能力との噛み合い具合からもそれが正解だと考えている。

 

しかし、ここで問題なのは(ドンジャングル)が“タップされている”という状況なのだ。先程も挙げた《ガンヴィート》だが、あれは“タップされているクリーチャー”を破壊する効果を持っている。当然、攻撃誘導の為にタップされている《ドンジャングル》は破壊されるだろう。

 

そう、青黒ハンデス相手では、タップされていることで破壊可能になることが多いのが《ドンジャングル》なのだ。《デモンズ・ライト》でのパワーダウンもあれば、適当な中型クリーチャーで殴り殺すことも出来なくも無いだろう。

そして、《ドンジャングル》はパワー8000。効果で呼び出せるクリーチャーのパワーは最高でも7000。ここで、《ブラックアウト》との相性の悪さが露見することになる。

 

《ブラックアウト》自体はパワー6000の、バトル中のドンジャングルの足元にも及ばないクリーチャーなのだが、持ち主の場にD2フィールドがある場合、攻撃時に相手のパワーが一番高いクリーチャーを破壊する《レッドゾーン》を彷彿とさせる効果を持っているのだ。

 

そう、《ドンジャングル》で呼び出せるクリーチャーのパワーラインが7000以下である以上、《ドンジャングル》を出した所で、パワーが8000より大きいクリーチャーが居なければ返しのターンですぐさま破壊されてしまうのだ。オマケに、《ブラックアウト》は《侵略ZERO》により、《ドンジャングル》の踏み倒しに反応して、そのターンの終わりにノーコストで登場可能だ。分が悪いにも程がある。

 

パッと思い付く対策としては、《ブラックアウト》の効果を使用可能にするD2フィールド除去、もしくはパワーが8000より大きいクリーチャーを準備することだろうか。だが、D2フィールドに関しては最早運に近い。青黒ハンデスというデッキの性質上、手札が途切れる事はそう無い筈。此方が《メメント》を張った所で、返しのターンに《ダイスベガス》などを張り替えられてしまえば意味は無い。かろうじて出来るとすれば、張り替えられる前に《メメント》の効果で《ブラックアウト》をタップすることくらいだろう。

 

だが、そうしてしまえば除去呪文によって《ドンジャングル》が退かされるだけだろう。手札に戻してハンデス。青黒ハンデスの常套手段だ。

 

――困ったな・・・・・・オマケに《デッドゾーン》入り。嫌になる程相性が悪いな。

 

《デッゾ》の効果は相手クリーチャー1体のパワーを-9000する効果。《ドンジャングル》は勿論のこと、《ドンジャングル》で呼び出したクリーチャーも破壊されるだろう。

 

恐らく、今考えているようなことが起きるのは最速でも後3~5ターン後。マナブーストを考慮すれば、手札から《ドンジャングル》が出てくるのはそれくらい。

 

最もそれは、自分の手札があればの話だが。

 

【empty humanは、マナの2枚をタップした】

【empty humanは、《特攻人形ジェニー》を召喚した】

 

――マズいな、《シャチホコ》のハンデスシステムが出来上がってしまう。

 

【empty humanは、《特攻人形ジェニー》の効果を解決】

【empty humanは、バトルゾーンの《特攻人形ジェニー》を墓地へ置いた】

 

墓地へと置かれた《特攻ジェニー》が、手に持ったカッターを俺の手札にあるカードへと振り下ろす。

 

【empty humanは、相手の手札からランダムに《フェアリー・シャワー》を墓地へ捨てた】

「・・・・・・」

 

これで俺の手札から手札の枚数を減らさずにマナをブースト出来るカードは消えた。今のハンデスはデカい。これは少々、マズくなって来たかもしれない。

 

【empty humanは、ターン終了した】

 

勝つ為の手段を模索しろ。どれだけ小さな事であろうと、イニシアティブを握ることが大切なのだ。

あらゆる可能性の先に、俺の目指す勝利があると、そう信じて。

 

「ドロー」

 

俺はただ、カードを引くのだ(運命を手繰り寄せるのだ)

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