ってデュエマしてないやんけぇ!
レポートを仕上げてから10日が経った。悩んだ末に、俺は大森さんのプロジェクトに参加する事を決意した。
というのも、悩んでいる間にも先輩が一度電話を掛けて来て、「悩んでいるのなら、やって見ると良い」と俺のことを応援してくれたからである。
流石に此処まで言われては、俺としても断り辛いし、何よりやって見るか。という思いが強くなる。
「よし。財布と携帯もあるし、先輩や会社の人達への菓子折りもある。一応、身分証明書と高校までの成績表も持っている・・・・・・あ、テレビとエアコン消し忘れた」
慌てて玄関前からリビングに戻り、エアコンとテレビの電源を切る。テレビではまたも『連続誘拐事件』のニュースが報道されていた。どうやら誘拐された人間の一部は他国へと流されていたらしい。奴隷商売というものだろうか?何にせよ悲しい事件だ。
「さて、行って来るか・・・・・・」
扉を開け、一歩前に出る。俺にとっての新たな人生への最初の一歩を。
「おぉ、やってくれるのか!君!」
「あ、あぁまぁ、そうです」
「いやぁ!有り難い!そう言ってくれると助かるよ!」
何か、すんなり通りました。
いや、その、もう少し苦戦するというかこう、緊張感があると思ってたんだが・・・・・・。
あんまりこの人、そういうの無いな。
「えっとその、じゃあ僕は何に協力すれば・・・・・・」
「デュエマのルールとVRの演出でのアイデアを出してくれると助かる!基本優秀な部下ばかりだから、自分で物作りすることは無い。そこは安心して良いよ」
「え、じゃあ、それだけですか・・・・・・?他には?」
「あー、部下の息抜きでデュエマの対戦とかしてくれるかな?新しく入って来た子が居てね?その子もデュエマをしているって話だから」
要するに、社員との交友を深める為に頑張って欲しい。ということだろうか?まぁ、それは構わないのだが、正直それでも仕事という感覚がまるでしない。
――これはもしや、雪が言っていた趣味が仕事になって嫌いになるパターンを回避出来るのでは・・・・・・?
「じゃあこれ、この場所に今度――23日くらいに来てくれるかな?そこで今作ってるからさ」
「あぁ、はい。じゃあ、4日後ですね。承りました。デッキも持って行きます」
とまぁ、予想よりもかなり上手く行った。正直、今すぐにガッツポーズでも取って両親に自慢したいくらいだ。
――アイツにも自慢したかったなぁ・・・・・・
「それじゃあ、私は失礼するよ。最近は少し、物騒だからね」
「あぁ、あの連続誘拐事件ですか?まだ解決してないっていう」
「あぁいや、それもそうなんだけど、ちょっとね。・・・・・・秘密だよ?これ、本当はまだ言っちゃ駄目なんだけど」
そう言って大森さんは僕の耳元に周りに聞こえないように小さな声で秘密を明かした。
――・・・・・・
「・・・・・・連続癌死亡事件って・・・・・・それも社長ばかりが死んでるなんて、可笑しい話ですね」
「だろう?私も少々応えていてね・・・・・・折角友好な関係を築けたと思ったら、その相手が癌で死体になっていた。なんて報告もあったし」
腹立たしいことだよ。と、大森さんは少し怒気の混ざったように口にする。どうやら事件のことは秘密にしているようにとTCG関係社の間で話し合いがあったという。警察の方も調査が上手く行っていないらしい。最近、未解決事件として処理することが多くなってきたことで信用の無い警察は、今回の事件は未解決事件として残さないように、事件解決が見えてくるまでは情報を流さないという話のようだ。
――警察が調査に苦労するなんて、よっぽどだな・・・・・・
別れの挨拶を済まし、大森さんがオフィスから出て行くのを確認し、俺は分かりやすく、溜まっていたほんの僅かな緊張感を含んだ息を吐いた。
「お疲れ様、で?どうだったよ?」
「どうにかなりそうです・・・・・・大森さんがラフな人で良かったぁ・・・・・・」
「竹宮君だっけ?あの子これから胃薬必要になりそうだよね」
「分かる。あの年で薬の御世話になっちゃうかもって考えると少し可哀想」
「疲れているところで優しくしてあげれば、何かコロッと行っちまいそうだなアイツ」
「止めてさし上げろ。うちの社に何人の男性駆逐未履修のベテラン調査兵団が居ると思ってんだ。見ろ、竹宮君を見るアイツらの顔を。恐らく今年でアラフォーを迎えた人達だ。面構えが違う」
先輩と話をしている最中に酷い会話が聞こえて来たが、まぁ会社のオフィスの風景はこんなものもある、という一つの経験として記憶しておこう。最後の会話は忘れておきたいところだが。
「あー、そういえば先輩。上手く行ってるんですか?夢木 奈々さんとは」
「あー、まぁ、うん」
「あ、はい。大体分かりました」
絶対進歩無いままだなと確信し、それだけ聞いて俺はしばらく社内を見て回った。
働いている訳ではないが、何度か此処を訪れたことはあった。最近では大森さんとの会合やらでだが、それより前はアルバイトの配達仕事で度々。
俺の顔は知っている人、名前も知っている人、まるっきり知らない人、色々な人が居る。
「あれ?竹宮君?どうかしたの?」
「あ、夢木さん。こんばんは。会社、お邪魔してます。大森さんと話が終わって、ついでに社内を見て回ろうかな、と」
この人とは大森さんと会うまでは、そこまで面識は無かった気がする。実際に会うまでは、先輩の好きな人ってことで名前だけは覚えていた。
――こうして見ると、美人だな。先輩が好きになるのも頷ける。綺麗な黒髪黒目だけど、こう、銀髪に金の瞳とかも似合いそうだ。
「そうなんだ。あ、じゃあ案内しようか?」
「いやいや大丈夫ですよ。何度か此処に来たことはあるんで。それに、もうそろそろ帰ろうかと思っていた所なので・・・・・・」
そう言って帰ろうとしたところで、夢木さんは先輩と同じように、大森さんのところで働くことになった俺を応援してくれた。そろそろむず痒くなってくる。
そうして俺は、頭を掻きながら会社から出て行った。
それから4日後。指定された場所に何とか着いた俺は、そこで働く大森さんと従業員の人達を目にしていた。
汚れ一つ無い真っ白な清潔感もある広い場所で、PCを前に何人もの人達が座って作業をしている。
「やぁ竹宮君、待ってたよ」
「こんばんは・・・・・・あの、今は何をしているんですか?」
奥の方から現れた大森さんに挨拶をし、今行われている作業が何なのかを質問する。
きっとVRに関することだとは思うのだが。
「あぁ、今はVRスキャナーで出現するワールドデータを作成しているんだ」
「あー、つまりゲームのワールドマップみたいなものを作ってるってことですか」
そういうことだ、と大森さんは言い、その間も俺は彼方此方の様子を見ていた。
「もしかして、そのデータは『遊戯王』や『ポケモンカード』、『バトスピ』のような、フィールドになりそうなカードが存在するカードゲームがあるから作ったんですか?」
「それもあるが、何よりも私はその先の可能性も考えていてね」
着いて来て、と言われ、俺は大森さんの後ろに着いて行く。大きな背中だ。色んな意味で。
そんなことを考えている内に、先程の広い空間とは違って、小さな、そして色々な紙が散らかっている御世辞にも綺麗とは言えない汚部屋に着いた。
そこには一人のスーツの上に白衣を来た女の人が居た。
「紹介しよう。
「こんばんは、伊原 命です。ここではVRの研究をしています」
「こんばんは、竹宮 深です」
PCの前で現在進行形で仕事をしている茶髪に黒目の落ち着いた女性だった。見た目はとても若々しく、自分とほぼ同じか、それより少し上くらいの歳に見えた。
「暫くは此処で竹宮君には協力してもらうから、少し話でもして親睦を深めたら良い。それでは此処で私は失礼しよう」
「あ、はい」
「はーい、了解です・・・・・・」
大森さんが居なくなり、部屋には俺と命さんの二人だけになってしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言。命さんはPCを前に片手で作業、片手で健康に良い知的飲料というキャッチコピーで売られている『毒取るペッパー』をガブ飲みしている。此方と話そうという感じはまるでない。
――気まずい・・・・・・どうにか話さないと
「あの――」
「トイレは向こうのプリンターのある部屋を右に曲がった所」
「いやっ、そうじゃなくて・・・・・・何をしているのかなー、と」
「あぁ、今はVRによってどれだけ脳が誤認を起こすのかという論文を読んでいるところ」
VRによる脳の誤認・・・・・・そういえば、レポートの題材としてVRの医学への貢献を調べて書いていたんだった。その時にネット上に脳の錯覚についてのサイトも幾つかあったっけ?
「それは何に使う予定とかあるんですか?」
「今はまだ作成すら終わっていないけど、いつかは今作っているVRシステムを参考に、医学へ貢献出来るようなモノ作ろうと思っているかな」
「・・・・・・もしかして、脳の治療とか、鬱病とかに効くようなモノだったりしますか?」
そう言うと命さんは少し驚いたように、初めてPCの画面ではなく此方を見る。そんなに意外だったのだろうか?
「当たり、良く分かったね」
「まぁ、最近レポートの課題で調べてた時に目にしまして・・・・・・」
「へぇ・・・・・・大学生か・・・・・・今何歳?」
「21です」
「じゃあ3年生か。成る程、お酒も飲める歳か・・・・・・私の1つ下か」
命さんは22歳なのか。若いな・・・・・・正直、流石にそこまで若い歳で此処に務めているとは思わなかった。そんなことを言ったら、俺も協力とはいえ大学生、かなり若いか。
「よし、大体分かった。息抜きするけど、着いて来る?助手」
「え、あー、はい」
助手、と言われるのは慣れないが、もう少し親睦を深めたい。それに、暫くはここで何度も顔を合わせることになるのだろう。協力者である以上、助手と呼ばれても仕方がない。
「んじゃ、外出だ。ネカフェでも行くかー」
「此処らにネカフェがあるんですか?」
「まぁね、ダイダロスって所。カードゲームも取り扱ってるらしいから、助手の君はそこで遊んでいると良いんじゃない?」
初耳だ。此処にそんなネカフェがあるとは・・・・・・。あぁ、カードゲームを扱っているのは此処の影響か?まぁ良い。
「じゃあ、僕はそうさせて貰いますね。命さんはどうするんですか?まさか休憩もPCとか・・・・・・」
「PC?いやいや、ネカフェにそんなものは無いよ」
――?どういうことだ?
「ネカフェってネットカフェのことですよね?」
「あ、ごめん。猫カフェね。・・・・・・そうか、略したら混ざるか」
「猫カフェをネカフェって略すの、流石に面倒臭がり過ぎでは?」
おっと、思わず本音が出てしまった。何かこう、命さんは大森さんとはまた違った感じで親しみ易いかもしれない。女友達のような感じが既に少しする。
「良く言われる。面倒臭がりを極めし者、とか何とか」
「部屋も掃除してませんしね」
「大丈夫、どこに何があるか全部把握してるから」
昔の自分を思い出す。母親にカードを片付けろと言われたり、プリントを整理しろと言われていたが、全部把握してるから大丈夫、と言っていたことを。
歳上の人を見て過去の自分を思い出すなど、それで良いのだろうか。
などと思いながらも部屋を出る。外出の時くらい白衣を脱ぐかと思っていたのだが、どうやら脱がないらしい。御陰様で白衣にスーツを着ている変な人、という目でジロジロと周りの通行人から見られている。勿論、横を歩く俺もだ。
「あの、命さん。何で白衣着てるんですか」
「偶に白衣が必要になるから、常に着てるんだよ」
「外出の時くらい脱いで下さい。せめて流石の僕でもセンスを疑うその格好は勘弁して下さい」
まだ囚人服の方がマシだ。コスプレとして、そういうもの、として見られるならまだ良い。
「えぇー、君は私の保護者か何かじゃないでしょ?別に良いじゃんこれくらい・・・・・・」
「駄目です。流石に問題でしかないですし、白衣も偶には洗濯しないと臭いますよ?」
「あぁ!だから猫が寄って来ては去って行く訳だ」
「じゃあ洗濯して下さい。というかしなさい」
そうこうしている内に目的の場所に着いた。綺麗なプラスチックの看板には、しっかりとダイダロスと書かれている。2階建てのようだ。
小さな金のベルが着いた木製の扉を押し、店の中へと入る。猫だらけ、という訳では無いが、あらゆる場所に様々な毛並みの猫が居座るいる。
――流石は猫カフェ、猫も人慣れしてるな。
「1階がネカ――猫カフェ、2階にカードゲームが揃ってる。私は此処に居るから、1時間は上でゆっくりしてると良いよ」
「ありがとうございます。それじゃあ一旦ここで・・・・・・」
俺は久し振りのカードショップに、内心ワクワクしながら2階へのエレベーターに乗った。
用語解説集
・ダイダロス・・・こっちでは猫カフェでありカドショ。評判は良いが、ある面倒臭がりな客曰わく猫がすぐ去って行くのが少し残念。
絶対に次にデュエマをさせる為のカドショ配置。しかしmaterial worldの連日投稿は少しどうなのかと思う。
まぁ、本編進めるだろうな、うん。