「親父、ご報告が。」
「おう、何だ?」
現在教師になって1週間目。何とか、仕事の方は両立できてはいるものの楽と千棘の監視をしつつ、というのは骨が織れる。しかし、弱音など吐いてはいられない。それもそのはず、愛にとって気がかりになる問題がつい先日耳に入ったのだ。
その報告をするべく、二人の関係を知ってしまった愛は親父の元へと馳せ参じ、膝を着きながら報告をしている。
「先日のデートの際、絡んできた輩はギャング共に連れていかれやした。その後も、坊ちゃんの学校生活、その上での二人の関係はそれなりに順調かと…ですが、問題が一つ。」
「問題?」
「へい…実は女子生徒一名に情報が露呈した可能性がありやす。」
「名前は?」
「小野寺、小咲。」
「小野寺……ふっ、愛そいつなら問題ねーさ」
「!ですが…!」
「安心しろ。おめぇさんの心配するような事は起きねーよ。」
「親父が…そういうのでしたら…」
「それより、おめーさんはどうなんだ?」
「自分、ですか…?……その……」
うまい具合に自分の不安材料を一蹴りにし、話題を変えられた愛。そう、親父に相談しなければいけないほどの重要な案件が一つ、愛にはあったのだ。
――――――――――――――――――
(今日は残業確定日…!坊ちゃんが早急に家に帰宅した上で竜さん達に頼めばいいものの…自分は…!)
そう、今日はツケが回り回って早速残業の日である。それも、苦手だという軟弱な理由で後回しにしていた…―――機械(パソコン)作業である。
「…せ!…せん…!せんせ!」
「!終わりの鐘か…今日はここまでです。」
今日休みの先生の代行で愛は数学の授業を担当していた。元々は英語が専門なのだか、古文以外のものなら大抵は担当出来るほどの頭の持ち主である。そんな男があるひとつの悩みで50分間の授業を棒に降っていた。
「では、宿題としてプリント3枚を配布するように言われています。明日必ず提出するように。以上。」
1時間にも満たない時間、授業を受けていただけだと言うのにやれ疲れただの、腹減ったーだのという声が聞こえる。しかし、それが6回、7回続けば無理もない。学生という物の辛さを知りながら教室をあとにしようとした時、追い打ちをかけるかのように事件は起きた。
「愛に…!……い、一条先生!」
「坊ちゃっ…!…どうしましたか?一条くん」
「その…今日、桐崎含め友達が何人か家に来るから」
「!…了解しやした…兄貴達には自分から…」
「あぁ、頼んだ」
「へい…」
(エラいことになったな…)
営業スマイルもほどほどに、愛は一気に真顔になった。楽との耳打ちにも似た会話をし終えると、なんとなんと我が家、『集英組』にご友人を招くらしい。それも複数人だ。舞子殿ならば幼き頃から知ってはいるが、その他複数人、それもビーハイブの千棘お嬢様までいるとなると、自分が組にいなくてはいけない。しかし!
(すいやせん、坊ちゃん!)
「えーそれでは、職員会議を始めます。」
(自分は今日…何もしてあげられやせん!)
「…!……。」
「…。………。」
「……!」
「報こ…ん゛っん!私からですが……―――」
会議開始から30分。ようやくそれは終わりを迎えつつあった。ついつい親父とのやり取りが頭から抜けず何度もやらかしてしまいそうになったもののなんとか難を逃れ残すは残業のみとなった愛。しかし、それが何よりも問題であった。
(大丈夫…パソコンの扱いなら一通り目を通した…いける!)
「!!!」
(Excel…だと?!)
愛はデートの監視をする片手間にある参考文書を読み漁っていた。それは、『初心者でも簡単!一日でパソコンマスター!』という本だった。そう、なにを隠そう愛は…
(PowerPointでも…wordでもない…よりによって…Excel?!)
愛の残念ポイント①
―――機械音痴
愛は集英組に入り、名を授かってからこの数年。テレビのリモコンぐらいしか操作をしたことがない。何なら、坊ちゃんに頼まれた予約録画さえ成功した事が7回中1回という奇跡の男だ。そんな奴が必死に週末貴重な時間を使いながらパソコンの勉強をしたのだ。しかし、そんな努力も報われず大きな壁が立ち塞がる。
(墓穴を掘ったか…!そろばんで事足りると思っていた自分が情けない…!まさか、こんな機能を使うことになるとは…!)
「………」
「―――」
(どうする…!?他の教師に聞くか?!いや、こんな事も出来ずに教師になったと知れれば悪評が付く…そんなこと…坊ちゃんの顔に泥を塗るのと同じ!ならどうする!)
「愛先生?」
「!?!?」
「良かったら…教えましょうか…?」
(……女神というのは…存在したのか?!)
「お願いしやす!」
ついつい、本職の言葉が出たが…今はどうでもいい!愛は一刻も早く、この仕事を終わらせることに頭を集中させていた。担任であり、自分の上司に当たるキョーコ先生に感謝しながら愛はすぐさまキーボードに向き直る。
「を、を、を…wo、だったな…」
(タイピングおせー!!)
キョーコ先生にそんなことを思われていたとは梅雨知らず、愛は必死に2時間ほどかけて仕事をクリアするのであった。
「ちぃ…時間をかけちまった。最短ルートは…屋根の上!」
我が家を目指し愛はスーツ姿で校門から全力疾走し、集英組を目指した。その姿をしっかりと目にしたものは1人としていないという。
――――――――――――――――――
「はぁ!はぁ…!もう、すぐ…!」
家の屋根の瓦を13ほど砕いた辺りでようやく集英組が見えてきた。そろそろ目について兄貴達にどやされない為にも一旦普通の道に降りて、そこから走り出そうと身だしなみを整えようとした時。
「わぁぁぁっ!」
「ん!?」
「ご、ごめんなさぁぁぁい!!」
「お、ぉぉぉぉ……!」
「小野寺小咲に宮本るり?…まさか!
―――坊ちゃぁぁぁんっ!!!」
着地し容姿を整えようとした時、目の前から可憐な少女とその華奢な腕に引きずられながらもう1人地味目の少女が引きずられてきて、すぐさまどこかに連れていかれた。その様子から焦りに焦って整えた容姿など気にせず愛は走り出した
「はぁ、はぁ!坊ちゃっ…!?」
「なんや、大幹部様は偉い暇なんかのう…」
「なに、貴様ら猿が悪慈恵を働かせていないか気が気でなくてな…」
「あぁん!お、愛ぃ!おめーもこい!この礼儀知らずのよそもんにヤクザの恐ろしさ、思い知らせたれや!」
「口だけは達者だな…極東の猿がぁ!」
「「わぁぁぁっ!ストップ、ストップ!!」」
こうして、愛の長くは疲労感満載の一日は幕を閉じた。
「桐崎のお嬢様…自分に…!パソコンを教えてくだせぇ!」
この後、なぜか火花を散らしているはずの敵方の心臓とも呼べる御方に弟子入りしたのは誰も知らない。
「誠士郎…準備はいいか?」
「はい、いつでも…」
この後、奇跡の再開があることを誰も知らない。
――――――――――――――――――
オマケ!
「ディバインスペンサー国善」
「アァっ!」
「1号」
「キイィィっ!」
「2号」
「アァァァっ!」
「3号」
「クロォポッポォ!」
「ロドリゲス四世」
「オォッ!」
「クラッシャー加藤」
「コケェッ!」
「よし、みな元気か」
『〇d5t✕#=~っ!!!』
「愛さんって…ライオンにもお手させそうね」
「…違いない…」