ニセコイを見守るもの   作:TL警備員

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ソウグウ

 

 

「わ、私…ずっと、一条くんのことっ…!」

 

「小野、寺…」

 

「「?!」」

 

 

プール事件から数日が経過した頃。

夕暮れ時の教室、そんなロマン溢れるシュチュエーションに男女が二人きり。当然ながら告白する、される、かもしれないと思うだろう。だが、そんな所に空気もよまず1球の野球ボールが窓ガラスを割り飛び込んでくる。

 

雰囲気は一気に崩れ落ち、すぐさま2人は現実へと引き戻された。野球部達の声が聞こえてくると同時にそれまでの一連を聞き耳立てていた人物が1人。

 

 

(親父はああ言っていたが…やはり、露呈してやがる…先の宮本るりの反応からするに…千棘お嬢様か洩らしたか?まぁ、坊ちゃんも舞子殿には伝えたと仰っていただけに、責めようもない…だが…)

 

「その伝えた相手が、まさか両片想いとはな…」

 

「あっぶねーな!気をつけろよ!!」

 

「!」

 

(報告は…必要ないか…それより、気がかりなのは…)

 

 

坊ちゃんが教室から出ようとした動きがあったためすぐさま身を隠し、愛は懐からある1枚の紙切れを取り出す。

 

そこにはある1人の少女の写真と個人情報が纏められていた。近々転校生が来るらしいのだが、色々と訳ありらしく男子の制服を着て、それも性別は女でありながら男のような名前。何よりも…

 

 

「鶫誠士郎…か」

 

(他人の空似、ならいいんだがな…)

 

 

愛の苦悩も虚しく、事件はもうすぐ勃発する。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

(……似てやがるな…)

 

「初めまして、鶫誠士郎と申します。どうぞよろしく」

 

『おぉぉぉぉっ!!!』

 

「イケメン!」

 

「顔ちっさぁー!」

 

「超美男子!」

 

「愛先生とは違うタイプ来たァァ!」

 

「男なのに何で興奮してんだろ…」

 

「男なのに何で鼻血出てんだろ…」

 

 

案の定教室はお祭り騒ぎ、変なコメントも多々ある上に約一名怪訝な顔で転校生を見ているメガネ男子がいるがそんな事も気にしない。転校生は言われるがままに空いている席へと移動していった。そんな矢先、より一層クラスを騒がせることが起こる。

 

 

「鶫ぃっ!?」

 

「お久しぶりです!お嬢!!」

 

『きゃぁぁぁ!!!』

 

「ば、バカ!何やってのよみんなの前で!」

 

(やっぱりか…)

 

「心が洗われる…」

 

「イケメンなのに、ちっとも憎くない…」

 

「一条とは大違いだ…」

 

(あの眼鏡の野郎…まさか、こんなにも大胆に送り込むたぁ…護衛、だけなわきゃねーな…間違いなく近辺での調査兼監視か…

あと最後の一言言った奴は…大山か、内申下げる。)

 

「愛先生〜職員室戻りますよ〜」

 

「へ、ん゛っん…はい。」

 

(…いくらギャングとは言え今は生徒…どうしようもねーな…)

 

 

ただただ悩むしかできない愛はキョーコ先生に言われるがまま教室を後にした。しかし、頭を悩めていても時間は過ぎ去る。それはいつの間にか巻き起こっていた。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「何者だ…」

 

「何者も何も…俺ぁ教師だ。」

 

「我々の会話を気配を完全に消して聞き耳立てられる教員がどこにいる?一条愛、と言ったな…運のいい男だ。貴様はクロード様から殺すなと仰せつかっている。」

 

「そいつはありがてー話だ…俺も女子供相手に手ぇ出す気はねーからな…」

 

「!」

 

「気の早いお嬢さんじゃねーか…」

 

「っ!ちぃ!」

 

 

屋上を出てすぐの階段。その中間地点で2人は会話をしていた。何でもこのお嬢さんは俺の素性は愚か、あの眼鏡との因縁まで聞かされているらしい。軽く煽っただけで、このザマだ。

 

鶫はすぐさま懐からピストルを抜き出し先程、坊ちゃんにやったように銃口を向けようとするが、愛とてギャングの端くれ。それを片手で押さえつけ、もう方用の手を逆に関節を決め返した。鶫は舌打ちとともに自力で脱出し距離をとる。

 

 

「クロード様の言った通り気に食わん奴だ…敵であるはずの私を見ながら…その悲しげな目は何だ?その辛そうな態度は何だ…!まるで…!」

 

「…まるで…なんだってんだ?」

 

「!口が過ぎたな…失礼する…」

 

(あぁ…やっぱりそうか…)

 

「おめーさんが…あの子何だな…」

 

 

気づいてしまった。あの少女こそが自分が置いてきてしまったあの子だと。そして、隠し通さねばならなくなった。知られる訳にはいかなくなった。愛の苦悩はここにまた1つ増えていく。

 

 

「愛さん!」

 

「千棘お嬢様。それに坊ちゃんまでどうしたんですかい?」

 

「あ、愛兄ぃ〜」

 

「聞いてよ愛さん!このアホもやしったら!」

 

「はぁ?!じゃあお前は組織ひとつ潰すような人間兵器相手に一般人が勝てると思ってんのかぁ!?!」

 

「なぁーにが一般人よ!もやしはもやしでもヤクザの2代目(笑)なんでしょ!」

 

「(笑)って何だよ!そんなのになったつもりも、なる予定もねーよ!」

 

「お二人共…ここは学校です。誰に聞かれているか分かりやせん。どうか慎んでくだせぇ…」

 

「「うっ…はーい…」」

 

 

それぞれ問題を抱えながら時間は過ぎ去っていく。あれから鐘が何度なっただろうか。その時は来るべくして訪れた。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「チャカの音…?」

 

(それも…全部アメリカ式の連射型…加えてこの煙の臭い…)

 

 

すぐさま職員室を抜け出し、その発生源であろう方向へと向かう。その途中外を見てみると何やら人だかりが出来ていた。そこに目をやるとホワイトボードにデカデカと張り出された盆(ばくち、賭け事)もどきの後。愛の頭は直ぐにフル回転し、匂いを嗅ぎ分け坊ちゃんを辿った。

 

 

「!」

 

「頭、冷やして貰うぜ」

 

「ぼ、坊ちゃぁぁぁぁん!?」

 

 

なんとあろう事か3階に到着した愛の目の前で坊ちゃんこと一条楽とそれを追いかけていたであろう鶫誠士郎が窓からプールへと一直線にダイブ。沸き上がる生徒達とは裏腹に愛の顔面は蒼白。

 

愛も飛び込もうとは思ったものの、ここで愛も飛び込めば教員人生に一気に傷がつく。冷静になりつつも体だけはかなり暑くなり、人目につかない裏庭へと3階の窓から飛び降り、最短ルートでプールへと走り出した。

 

 

(間に合…)

 

「何やってんのよ、このブタ虫がぁッ!!!」

 

「のぉぉぉぉっ?!?!」

 

「…坊ちゃん……」

 

 

天高く舞い上がる坊ちゃんの体。察するところ千棘お嬢様のアッパーが綺麗に決まり飛び上がっているに違いない。その光景に愛は膝をつき涙を流した。ここからは坊ちゃんの兄としてでは無く、教師としての仕事。乱れたスーツを整え、愛はその輪へと踏み入る。

 

 

「愛先生〜」

 

「一条先生じゃん」

 

「ん?どしたの?愛兄…むぐっ?!」

 

「舞子ど…舞子君。学校では先生と呼ぶように。それから全員解散。関係者だけ残ってね」

 

「ちぇ〜」

 

「舞子君悪いんだけど坊ち…一条君を起こしたら第二準備室に来るように言ってもらえるかい?」

 

「へーい」

 

 

一旦、素で話のできる人物だけ残すべく生徒達を解散させる。坊ちゃんは気絶中で、ジャージを着た鶫誠士郎とその主千棘お嬢様だけが残る。

 

 

「あ、あの愛、先生?実は…」

 

「痴話喧嘩も程々にして下さいね」

 

《事情は分かってやす…》

 

《そう?勝手なことしておいて何だけど、後は任せちゃってもいい?》

 

《えぇ、ご安心を》

 

「…行こ、鶫」

 

「お嬢、少しだけ時間を…」

 

「へ?」

 

「一条愛。私はあの男を認めていない。今回の戦いはあの男がお嬢を守れるだけの力を示せるかどうかだ…こんなものは無効だ。だが、及第点…今回は貴様諸共見逃してやる」

 

「そいつぁ…ありがてーことですね…」

 

「っ!行きましょう…お嬢…」

 

「うぇっ?!ちょっ、鶫〜!」

 

「…嫌われたもんだ…」

 

 

目線の会話を終え、千棘お嬢様が鶫誠士郎の手を取りその場から離脱しようとする。だが、あろう事か鶫誠士郎はそれを払い除け、一瞥した後に向き直り、こちらを見る。

 

何でも、勝負の趣旨はそういうことらしい。なんとか今回はこの子に届くものがあったらしく、終わりを迎えるようだ。だが、その帰り際またしても鶫誠士郎は不機嫌そうな顔をうかべる。どうやら彼女は愛の見せる表情が気に入らないようだ。

 

 

「愛兄ちゃーん!楽のやつ起きたぜ〜」

 

「お手数をお掛けしやした…」

 

「いいってことよ〜着替えたらすぐ行くって」

 

「へい。では、自分も今から…」

 

「愛兄ちゃん…内申は?」

 

「ヤクザ相手に商売するもんじゃありやせんよ」

 

「にっしし〜!」

 

「そのうち、掛け合っときやす」

 

 

愛もまた舞子集と別れ、坊ちゃんの待つ第二準備室に足を運んだ。荒事は一旦終わりを迎えた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「似ていた…」

 

 

鶫誠士郎はこちらに来た際に用意されていた部屋のベットの上に大の字になっていた。時刻は既に深夜を回っている。今日は様々なことがあり、疲労から直ぐにでも眠れると思っていたのだが、気がかりなことが一つだけあった。

 

 

「一条愛…」

 

(もし、あの人が生きていて、成長していたとすれば…あんなふうになっているのかもな…)

 

「バカバカしいな…そんなことあるはずがない…あぁ…本当に…」

 

(悪い夢だ)

 

 

少女はそのまま眠りについた。その日ある夢を見たのだと言う。自分を救った少年がギャングの敷居をまたいで自分を置き去りにした夢。額に傷が入っており、やせ細っていつも悲しそうな目で自分を見つめていた。そんな少年の夢を見たそうだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

「なぁ、愛兄〜」

 

「なんですかい?」

 

「さっきから何してんだ?」

 

「失礼ながら生徒に配るプリントの作成をしておりやす。」

 

「へぇ〜なぁ愛兄…」

 

「へい」

 

「俺、これで反省文の原稿2枚目終わったんだけど…まだ文章の打ち込み終わんないのか?」

 

「…へい……!」

 

「……手伝ってやろうか?」

 

「!……へい……」

 

 

 

こうして、波乱に満ちた長い長い一日は幕を閉じた。物語はまだ始まったばかり。

 

 

後日談

 

女子用の制服に着替えた鶫誠士郎の姿を見た男子生徒諸々は膝を着きながら涙を流し崇め、称えたらしい。

 

 

――――――――――――――――――

 

オマケ

 

 

プールの回《練習編》

 

 

「愛先生は泳がないんですか?」

 

「えぇ、私はあくまで、万が一の時のための保険ですから…それより小野寺さん。坊ち、一条君に泳ぎを教えて貰ってはいかがですか?」

 

「えぇぇぇっ?!」

 

「…何で、愛さん泳がないわけ?」

 

「あー、何でってそりゃ…」

 

「愛兄ちゃん、脱いだらすごいからな〜」

 

「あー彫り物ね…」

 

「あぁ、そういうこと。」

 

「俺は好きだけどな〜愛兄ちゃんの刺青〜なんだったら俺も…」

 

「やめとけやめとけ…愛兄の前でそれ言ったら軽く1時間は説教食らうからな…」

 

「冗談だよ楽〜くれぐれも愛兄ちゃんには告げ口しないでね」

 

「大変ね、アンタも…」

 

「まぁ、今更だろ…」

 

 

 

 

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