寝取られものの主人公になりかけてるのでどうにかする   作:コーク厨

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お久しぶりです。
また欲求が高まったので書きました。
前回との繋がりは一切ありませんので、ご期待してくださった方は申し訳ございません。
前回の主人公と比べて何倍も脳筋です。
例によって細かいツッコミは放棄して、勢いで読んで頂けると幸いです。


別の人の話

 私の幼馴染みは変な奴だ。

 生まれた頃からずっと一緒で、ずっと変なやつだと思っていたけど、小学校に上がる頃からもっと変なやつになった。

 

 変な言動が多くて、みんなから少し距離を取られていたけど、私達はよく遊んでいた。

 

 まぁ、あいつが体を鍛えているのを一方的に見てたとも言えるけど……

 

 

 

 あいつがどんな奴で、何を考えてるのかはイマイチ分かりずらいけど、それでもあいつの優しさを知っていた私は、そんなあいつが大好きだった。

 

「ねぇ、(すぐる)……?」

 

 隣にいたあいつにそう声をかけると……

 

 

 

 

「俺をその名で呼ぶな……」

 

 

 

 

 

「俺の名は拳聖(けんせい)……! ありとあらゆる流派を超越した、史上最強の男……!」

 

「馬鹿な事言わないっ! 」

 

 そう言って目の前のお馬鹿の頭を小突く。

 

 そう、私の幼馴染みであり恋人でもある『朝英 傑(あさひで すぐる)』は重度の厨二病だ。

 もう高校二年生になるっていうのにこいつは……

 

 ていうか何!? 拳聖って? 

 アニメや漫画じゃ無いんだから……

 

「ふむ、(かなで)よ」

 

「何? 」

 

「やはり君はいい拳をしている。 俺の弟子になりさえすれば俺より強くはなれなくとも、この世界2位くらいにはなれるやもしれんぞ? 」

 

「はいはい、さいきょーさいきょー」

 

「む? 本気にしていないな? よかろう。 ならば奏に俺の究極奥義、裂破千激をお見せしよう……」

 

「はいはい、きゅうきょくきゅうきょく」

 

「ふむぅ…… 裏の世界においてこの男を手にした国がこの星を獲るとまで言わせたこの俺の究極奥義をこんな間近で見れて、なおかつ弟子にもなれるんだぞ? 」

 

「うんうん、うらのそしきうらのそしき」

 

「強くなりたいのならカラテあるのみだぞ?」

 

「はーい、空手空手……って、全ての流派を超越してるんじゃないの?」

 

「空手ではなくカラテだ。 それはそれとして、お得だぞ? バリューパックだぞ? 今なら俺特性拳聖Tシャツまで付けちゃうぞ? 」

 

「誰もいらないよ、そんなダサいTシャツ」

 

「なんと! 」

 

 と、やっぱり言動は変な奴なんだけど……

 

「……む? あそこに見えるのは……」

 

「どうしたの? 」

 

「いや、少しここで待っていてくれ」

 

「はいはい、また何時ものね」

 

「あぁ、迷惑をかけるな」

 

「ううん、私は傑のそんな所が大好きなんだから、いってらっしゃい」

 

 そう言うが早いか、

 

「ふっ!」

 

 という声と共に傑は消えてしまった。

 発生した強大な風に思わず顔を顰める。

 

 

 もう少し周りを考えてくれると尚更かっこいいんだけどなぁ? 

 なんて思いながら少し待っていると、

 

「すまない、待たせてしまったな」

 

 そんな事を言いながら、傑が音もなく私の隣に現れる。

 

「ううん、大丈夫」

「それより、今回は何だったの?」

 

「何、いつも通りチンピラがよからぬ事を企んでいたので少し懲らしめてやっただけだ」

 

「そう、お疲れ様」

 

「疲れるほどのことでも無い」

 

 こんな風に、さも当然って感じに人の為に行動できるこいつが、私はどうにも大好きなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、と 今日着ていく服はバッチリだし、電車の時間にも間に合うようにそろそろ出ようかな? 

 なんて考えていると、2階から傑が降りてきた。

 窓から入って来たのかな? 

 

「む? 奏よ、出かけるのか?」

 

「うん、今日は友達と買い物行くんだ」

 

「ふむぅ、そうか、気をつけて行けよ?」

 

「大丈夫に決まってるでしょ?」

 

 心配性だなぁ、傑は。

 そんな所も可愛くて大好きなんだけど。

 

「本当か? 知らない人について行ってはダメだぞ?」

 

「そんな子供じゃないんだから」

 

「お菓子をあげるって言われてもだぞ!?」

 

「子供じゃないんだから!? 全く、それに」

 

「うむ?」

 

「もしもの時は助けてくれるんでしょ? |拳聖さん?」

 

 そう言うと傑はニッコリと笑って。

 

「…………うむ! そうだな! もしもの時は天に向かって叫ぶがいい! 」

 

 なんて言ってきた。

 期待しちゃうんだからね。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

「うむ、いってらっしゃい」

 

 そう言って家を出た。

 

 あ! 忘れ物! 

 

「傑! 忘れ物しちゃった!」

 

「どうした?」

 

 まだ玄関前に立っていたのか、そうそう帰ってきた私に驚いている傑の口を奪う。

 

「えへへ、いってらっしゃいのちゅー だよ?」

 

「え…… あっ…… あ、あぁ……」

 

 もう、そんな気の抜けたリアクションされたらこっちまで恥ずかしくなるじゃん! 

 

「じゃ、じゃあ! 今度こそいってきます!」

 

「お、おう、いってらっしゃい」

 

 

 

 

 電車を乗り継ぎ1時間ほど、街の中心辺りで合流した私は、大親友の加奈(かな)とゆっくりとショッピングを始めた。

 

「あ! あれ有名なお菓子屋さん!」

 

「え!? お菓子!? 行こ行こ!」

 

 でもお菓子屋さんの方には沢山の人が並んでいた。

 

「でも凄い並んでるよ……」

「今回は諦めてまた今度にしない?」

 

「うん、そうだね」

 

 なんて会話をしていると、唐突に声をかけられた。

 

「ねぇねぇ? 君たちあそこのお菓子、気になるの? 」

 

 振り返るとそこには、優しげな風貌をした男性が立っていた。

 

「え? どちら様ですか?」

 

「あぁ! ごめんごめん、怪しいものじゃないんだよ」

「僕はこういうもので……」

 

 そう行って差し出してきた名刺には、すぐ近くにあった芸能会社の名前と、スカウト部の文字、そして男の名前だった。

 

「君たち、モデルに興味無い?」

 

「え? 私達ですか?」

 

「そうそう、二人とも可愛いし、スタイルいいからどうかな? って」

 

「でも……」

 

 そう私が渋ると、

 

「とりあえず少し話そうよ? ほら、あそこのケーキもあるし」

 

 男はさっきのお店のケーキが入った箱を見せてきた。

 

「別に話を聞いてやっぱりって言うのも全然いいし、とりあえずさ?」

 

「でもやっぱり……」

 

「奏ちゃん、奏ちゃん! こんなチャンス二度と無いよ? 少しだけお話聞いてみようよ!」

 

 そう加奈に言われ、私はそこまで言うなら……、と渋々その男について行くのだった。

 

 

 ビルの一室(男が言うには休憩室らしい)に案内された私達は、ケーキとお茶を出されしばらく待たされる事になった。

 

「わはぁ〜! このケーキ美味しいね! 奏ちゃん!」

 

「うん、流石に有名店なだけあるよね」

 

「一緒に出してくれたこの紅茶も取っても美味しいし、来てよかったね!」

 

「もう、加奈は単純なんだから……」

 

 そうやって少し話をしていると……

 

「でも……変だね……なんだかすこし……」

 

 佳奈の様子が変だ……! 

 ぽーっとしてるし、顔も赤い……! 

 

「加奈? どうしたの?」

 

「頭が…… ぽーって………………」

 

 そう言うと佳奈は黙り込んでしまった。

 

「加奈? 加奈!?」

 声をかけながら肩を揺らして起こそうとすると、

 

「はーい、余計なことしないでねー」

「あれ? 薬効いてないのかなー?」

 

 さっき声をかけてきた男がニヤニヤとこちらを見ていた。

 

「加奈に何をしたの!」

 

「大丈夫大丈夫、ちょっとぼーっとしてるだけだからねー」

「あ、とりあえず君はもう動けないから」

 

 は? と思い立ち上がろうとすると……

 

「動けない……!」

 

「うんうん、じゃあちょっと待っててねー? とりあえずこっちの子パコるから」

 

「勝手なこと言わないで!」

 

「じゃ、加奈ちゃん? お洋服ぬぎぬぎしようねー」

 

「……はい……」

 

「加奈……? 加奈! そんな奴の言いなりになっちゃダメ!」

 

「あぁ! 聞き忘れてたよ、君達処女だよね?」

 

 男の質問に背筋が氷り、嫌な汗がたらたらと落ちてきた。

 き、気持ち悪い……! 

 

「……はい、処女……です」

 

「良かった! で、奏ちゃんは?」

 

「近寄らないで! 気持ち悪い!」

 

「おやぁ? そんな態度とるんだ? で? 処女なの?」

 

「答えるわけないでしょ!」

 

「はぁ、そういう態度取るなら、直接確かめちゃおっかな〜」

 

「ひっ!」

 

 やだ! やだ! やだ! やだ! やだ! やだ! 

 

「やだ! やだ!」

 

「ほら、そんな目で睨んでも興奮させるだけだよ〜」

 

 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 

 

「気持ち悪い! 近寄らないで!」

 

 

 

「そんなに嫌なら辞めてあげてもいいよ?」

 

 

 

 ……え? 

 

「君がどうしても嫌なら君には一切手を出さないよ?」

 

 そんなの……! 

 

「でもぉ……」

 

「代わりに、加奈ちゃんにいっぱいお相手してもらうからねぇ!」

 

「そんな……!」

 

 加奈にそんな酷いことさせる訳には行かない……

 

「いいよいいよ〜! 全然いいよ! 加奈ちゃん可愛いし、壊しがいありそうだし!」

 

「……し……」

 

「君は無事で帰れるし、僕達は都合のいい便器が手に入る! お互い損しないね!」

 

「……します……」

 

「いやぁ〜! 加奈ちゃんどうなっちゃうかな!? クスリで廃人になっちゃう

「します! 相手しますから!」

 おやぁ?」

 

「私がやるから…… 加奈に酷いことしないで……」

 

「相手しますぅ? そんな上からの態度で要求しても聞かないよ?」

 

「『大好きな親友の代わりに私の処女を貰って、そのまま一生肉便器にしてください』って土下座しながら言ったら考えてあげるよ」

 

 そんな……! そんな最低のこと言わされながら土下座なんて……

 

「な……! そんなこと言えるわけ」

 

「言わないの? 加奈ちゃんに酷いことしちゃうよ?」

 

「ま、待って!」

 

 悔しい……

 こんな最低な奴らに身体を好き放題されるなんて嫌だ……

 

「……だ……」

 

「大好きな……」

 

 大好きなアイツの為にずっと綺麗にしてたのに……

 

「土下座!!」

 

「大好きな……親友の代わりに「そんな事を言う必要は無いぞ奏よ!!!!!!」

 

 ……へ? 

 

 瞬間、物凄い轟音が鳴り響いた。

 

「すまない、待たせてしまったな……」

 

 そう言って壁をバラバラにしながら入ってきたのは……

 

「だがもう、大丈夫だ……!!!」

 

 自分を最強と言って憚らない、大好きなあいつだった……! 

 

「奏よ、知らない人にはついて行ってはいけないと言ったはずだったがなぁ? 」

 

「ちが……! 私はやめようって言ったよ!」

 

「ふむ? そうだったか」

 

 こんな状況で言っても説得力無いと思うけど……

 

「誰だ! お前! どこから入ってきた!?」

 

 男が怒鳴りながらこちらを睨んでいる。

 さっきまであんなに恐ろしく、気持ち悪く感じたはずの男が全然怖くない。

 すぐ隣に傑がいるからだろうか? 安心感が凄い。

 

「どこから、って見れば分かるだろう……」

 

「壁を全て破壊して入ってきた!」

 

「はぁ!? コンクリート製だぞ!? 」

 

 確かに、すっかり忘れていたけどコンクリートの壁を叩き割っているんだった。

 とんでもない馬鹿力……

 

「ふむ、だからなんだというのだ?」

 

「しかも、他にも人が30人はいたはずだ!」

 

「あぁ、あのゴミクズどもか…… クシャクシャに纏めてゴミ箱に捨てておいたぞ」

 

 ゴミって……

 

「あ、有り得ねぇ!? お前……なんなんだよ!」

 

「俺か……? 良いだろう、答えてやる!!! 」

 

「俺の名は拳聖(けんせい)!!! ありとあらゆる流派を超越した、史上最強の男!!!!!!」

 

 はぁぁ……傑カッコイイなぁ…… 好き……

 は! 違う違う! こんな時にカッコつけないでよ! 

 

「んな!? 拳聖だと!? 裏世界の最大戦力がなんでこんな所にいやがんだ!」

 

 え? 何その反応? ほんとに拳聖って有名なの? 

 

「貴様らが手を出した奏はなぁ…… 我が生涯の伴侶なのだよ!!!」

 

「ふえ!?」

 

 突然出てきた言葉に思わず顔が真っ赤になってしまった。

 何言ってんの!? 恥ずかしい! 

 

「くそ! ふざけんな!」

 

 そう言って男が懐から拳銃を…… 拳銃!? 

 傑、危ない! 逃げて! 

 

「ふむ、銃か。 確かに強力な武器だが、俺には効かん、分かるか?

 俺の……この拳聖の肉体がァ! 音速より少し早い程度の鉛玉で貫けると思うなァ!!」

 

 はえ!? 

 拳銃が効かないって何!? でも実際に撃たれてもぴんぴんしてるし、もう何発も撃ち込まれてるのに当然のように高笑いしてる!? ほとんどマンガじゃん!? 

 私の中の常識が、音を立てて崩れていってる……! 

 

「っくそ! この化物が! 仕方ねぇ! 」

 

「テメェ動くな! もし動いたらこの女の頭をぶち抜く!」

 

 そう言ってもう一人の男が加奈の頭に銃を突きつけてこちらに叫んだ。

 

「加奈!」

 

 大変……! 加奈が……!

 

「安心しろ、奏」

 

「でも、加奈が」

 

「ふむ、奏よ、こうなった時の最適な手段はなんだと思う? 相手の要求を飲む? それもまた正解だろう。 だが俺はこう考える」

 

 傑がそう言った次の瞬間──

 

「ぐぎゃ!?」

 

「ひぎゃっ!?」

 

 傑の腕の中に加奈がいて、男達が倒れ伏していた。

 

「そもそも相手が認知出来ない速度で動けば関係なかろう?」

 

 ……………………え? 

 

「何が起きたかわからないって顔だな? 奏よ、ならば説明してやろう! 人の反射は限界で0.1秒と言われていて、つまりそれ以下の時間で行動を終わらせてしまえば相手が引き金を引くよりも速く人質を救出し奴らを叩きのめす事が出来るというわけだ! うむ! 実体験の伴った、完璧な理論だな!」

 

 …………え? つまり傑は、0.1秒以下で数m離れてる男を叩きのめして、加奈を助け出したの……?

 

 ……………………うーん………………………………うん? …………………………

 

 うん! さすが私の幼なじみ! なんかもうよくわかんないけど、どうでもいいや! 傑好き! ありがとう! 大好き! かっこいい! 好き! 

 

「さて、奏、帰ろうか」

 

「帰りに、ケーキを買って帰ろう、美味しそうな店を見つけたんだ」

 

 ケーキも好き! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件からしばらく経って、私と傑はデートを楽しんでいた。

 あの後すぐ、加奈も意識をハッキリとさせた。

 なんか紅茶に混ぜられてたクスリのせいでいうことをなんでも聴くようにされてたらしい……

 

 そのクスリにも強い依存性があったらしいんだけど、なんか傑が、「ハァッ!!!」って気合い入れて加奈に正拳突きをしたら無くなったらしい。

 なんでも、正拳突きの威力で時空を歪めて、クスリの影響を受けた部位の時間をどうたらとかなんとか…………

 

 何言ってるのかわかんないし、目の前で見てる時も何が起こったのかわからなかった。

 でも事実依存性が跡形もなく消えてるし、クスリの影響も、なんなら服薬した時に起こった反応の跡すら身体から消えてた。

 本当に意味がわからない。

 

 でも、これだけは言える。

 

 私の大好きな幼馴染は、世界最強で、どんな時にも助けてくれる、最高の彼氏なんだって。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 俺は、このNTRモノの世界に主人公として生まれ落ちた。

 

 しかし俺は、自分の生まれた意味すら解らず、ただ漠然と、精神修行と将来への対策を兼ねて体を鍛えていた。

 殆ど目的も無く、我武者羅に。

 

 この世界の父と母が心配をしだしたので、ある程度子供らしい演技をするようになった。

 やり方は、自然と覚えていた。

 

 そんな日々を送るうち、この世界のヒロインである六条 奏(ろくじょう かなで)と出会った。

 家が隣同士で、幾度となく一緒に遊ぶ事になった。

 やるつもりはあまりなかったが、母親が言うから仕方なかった。

 そうして遊んでいる時に、猫が木から降りられなくなっていたのを見つけた。

 

 俺には関係無い事だと、見て見ぬふりをしようとした時、

 

「大丈夫? 私がすぐ助けてあげるからね!」

 

 奏が木に登って、猫を助け出そうとしたのだ。

 

「ん〜! もう少し! もう……少し……!」

 

「よし! 捕まえ……きゃ!!」

 

 猫を捕まえた瞬間、気が緩んだのか木から落ちた。

 堪らず、俺は奏を受け止めた。

 

「んにゅ……? あ、受け止めてくれたの……? ありがとう! あ! 猫ちゃんも無事だよ!」

 

 そう言って屈託の無い笑みを浮かべる奏に、「なぜこんな危険な目に遭うと分かっていたのに猫を助けたのか?」と聞いてしまった。

 すると、奏は笑いながら、

 

「人の為に頑張れる人は、とってもつよくてかっこいいんだってお母さんが言ってたから!」

 

 と、はにかんだ。

 

 その顔があまりにも綺麗で、純粋で、とても眩しく感じて。

 

 そして、前世を含めて初めて、俺は心の底から恋をした。

 俯瞰してしか見られなかった人生が、急に色付いて、鮮やかになった。

 

 そして俺は、これから来る未来を確実に、完膚なきまでに粉々にすることを固く誓った。

 

 これから来る未来では、主人公が弱く、愚かであったが故に、彼女は身体を汚され、壊され、どん底へと堕ちていく。

 

 認められるか……? いいや、断じて認められることではない。

 心優しく、美しく、可愛らしく、俺にとってこの世の何よりも価値のある存在だと自信を持って言える彼女があんな目に会うことなど、許されることではない。

 

 そう考えた俺は更に体を鍛えた。

 死ぬほど鍛えた。

 死ぬほどという言葉が陳腐な位に鍛えた。

 

 奏は、人のために頑張れる人は、強くて凄いと言った。

 ならば、俺はその言葉に相応しい人間になろう。

 彼女の隣に堂々と立てるように。

 

 そこから暫くはひたすらに己を鍛えた。

 よく奏がそれを見に来ていたから、妥協なく心身を打ち込むことが出来た。

 どんなに辛くキツイ修行だろうと、奏の為と思えば全てを乗り越えられた。

 

 鍛える片手間に、街の悪人共も叩きのめした。

 

 きっかけは奏に相応しくなる為という下心ありきのものだったが、助けた人にありがとうと言われる度に嬉しく感じて、気づけば助けたいという純粋な思いから人助けをするようになっていた。

 

 

 そうして鍛えるうちに、こんな事を考え始めた。

 

「奏を守る為には何が1番必要だろうか?」

 

 俺は大いに悩んだ。 集団を作り、統率し、その全てを奏を守る為に捧げる。

 なるほどそれも良いだろう。 しかし、もし謀反が起こればどうする? スパイが潜り込んでいたら? 

 

 そして至ったのは、自身が極限まで強くなればいいという答えであった。

 

 ちまちまとした小細工だとか、数の暴力で押勝つだとか、そういった弱者を真正面から叩き潰しねじ伏せる、圧倒的な力を持つ強大な「個」としての存在こそが彼女を守るために最適なのであると考え至った。

 

 しかし、身体を鍛えるうちに成長が止まった。

 限界の壁にぶつかり始めたのだ。

 

 伸び悩んだ俺は奏を想って瞑想を始めた。

 瞑想をしていると、奏が隣に座ったり肩に寄り掛かってきたり、足の上に頭を乗せて眠ったりするものだから、理性の限界を試されている気分だった。

 

 瞑想を始め1年もすると、俺の身体の奥深くに何か暖かい物が感じられた。 まるで命そのものであるかのような暖かさ。

 

 その暖かい物を身体全体に行き渡らせるように動かすと身体中が力で満たされるのを実感出来た。

 そのまま拳を振るうと…………

 

ドゴン! という大きな音と共に拳の先にあった岩が粉々になった。

 

 まさかと思い、手刀を別の岩に放つと…………

 

 音も無く、岩が真っ二つになった。

 

「これは……! 」

 

 拳の連撃を放つと、拳が分身しているかの様だった。

 

 なぜだか分からないが、秒間で数百発は撃てた気がする……! そういう確信がある……! 

 

 そのうちなんだが楽しくなってきた俺は、この力の赴くままに振るった。

 

 しかし、突然人形の糸が切れたかのように倒れ込んでしまった。

 

 動かそうにも身体に全く力が入らない……

 

 俺はこの世界に生まれて初めて修行を休んだ。

 屈辱であった。

 

 

 そうして手に入れたこの謎の力を武器に、俺は裏の世界に殴り込みをかけた。

 奏に相応しい男になるには裏社会の闇程度軽く捻り潰せるようにならなければならないと思ったからだ。

 

 そうして裏社会の組織を叩き潰していくうちに、いつの間にやら拳聖と呼ばれる様になっていた。

 

 裏世界の死神と呼ばれた男を打ち倒し、世界を変えようと戦う若者を友とし、世に並ぶ物無しと呼ばれた堕ちた英雄を討ち取った。

 そしてこの世界を裏側から操っていた賢人達と呼ばれる存在を滅ぼした俺は、奏に相応しい男になったと自信を持ち、告白した。

 

 その返事は……

 

「もう、今更? 私はずっと大好きだったんだよ? 告白なんて……はい以外の返事なんてないじゃん!」

 

 あんまり嬉しくなった俺は、奏に今までの事を全て話した。

 

 しかし奏の反応はまるで重度の厨二病患者を扱うようなものだった。

 

 ふむ……何故だ? 

 

 まぁいい、これからも奏に相応しい男として、邁進するかな。

 

 

 

 

 

 




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