龍雅家の水神さん   作:リュオネイル

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ゆらぎ荘の幽奈さん、アニメになって早くももう7話ですか~……早いですね☆
はい、というわけでですね……皆様、お久し振りです!『ゆらぎ荘の幽奈さん ~神秘殺しと病弱狐と鬼達と~』の作者、リュオネイルです!
実は、神秘殺しの方は色々と行き詰まりそうで、新たにこちらを執筆することになりました!ヤバいですね☆
……あっ、でも神秘殺しの更新はいつかします。いつになるかはまだ未定ですが……気長に待っててくださいm(._.)m

さて、挨拶も長くなりますと本編読む前に飽きられるので、早速始めちゃいましょう!

それでは、少々長いかもしれませんが、お付き合いのほど、よろしくお願いしまーす!( ゚∀゚)ノシ


第1話

 ここは、長野県の龍雅湖と呼ばれる陽の光の届かない地底湖にある城、『龍雅城』。

 その龍雅城の一室に剣道場のような部屋があり、そこに江戸時代風の和装をした青年が正座していた。青年を中心にした周りには、幾つもの竹を入れた藁が並べられていた。

 

「…………はぁッ!」

 

 青年がカッと目を見開き、両腰に差してある日本刀の一振りの柄を握り、横一閃に一気に振り抜き目の前の竹藁が二、三本切り伏せ、すかさず空いている手でもう一振りの日本刀を抜き逆手に持ち替え、逆袈裟に切り伏せる。

 

「相変わらず、良い刀捌きだな」

 

 最後に切り伏せた竹藁が床に落ちるのを確認し、二振りの刀を鞘に納めるとほぼ同時に道場の出入り口から中性的の声が聞こえてきた。振り返るとそこには白色のショートカットに茶色の瞳が特徴で、左目に刀の鍔の眼帯をした人物だった。

 

「お褒めに預かり光栄です、朧様」

「うむ。これからも更なる精進を欠かさないことだ。……まぁそれはそうと、これから玄士郎さまと湯治に向かう。お主も供をせよ」

「はっ」

 

 朧と呼ばれた眼帯の人物は青年にそう告げると踵を返していった。

 一方の青年はというと、朧に頭を下げ、朧が去って少しすると頭をあげた。

 

「……湯治、ですか。何やら今度の湯治は、何かある気がするな……」

 

 青年は、胸の中に渦巻く予感にどことなく不安を覚えるのであった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 場所は変わり、ここはどこかの場所にある温泉街『湯煙温泉郷』。

 その温泉街の橋で、女性二人が二人の男性に声を掛ける。

 

「あの~、すみません」

「写真撮ってもらっていいですか?」

「ッ!」

「え? ……ぼ、僕達ですか?」

 

 一人は和服を着た黒の長髪に長身の男で、もう一人は先程の龍雅城で朧と話していた青年だった。

 長身の男は女性たちに声をかけられて体を小刻みに震わしていた。

 

「おおう……。これが噂に聞く、逆ナン……というものか……ッ!」

「はい?」

「あの……私達ただ写真を……」

 

 男のかなりズレた発言に戸惑う女性二人。しかし男は手を女性にかざして言葉を遮る。

 

「よいよい、皆まで言うな。おぬしらの気持ちしっかと受け取った!故にッ!」

 

男は女性二人の腰に手を回すと軽々と女性達の体を持ち上げて肩に担ぎ上げた。

 

「二人とも、余の側室に加えてやろうぞ!!」

「きゃあ!?」

「ちょっ、離して……ッ!」

「おやめください」

「お待ちくだされ、玄士郎さま」

 

 男に担ぎ込まれ、女性達が悲鳴をあげると男の脳天に二つの手刀が振り下ろされ、男の頭からはゴッ、と鈍い音が響いた。

 

「おおう……痛いではないか、朧!オロチ丸!」

「みっともない真似はおやめくださいませ、玄士郎さま」

「そうですよ。あなた様は我らが龍雅家の当主なのです。あまり軽率な行動は慎んでください」

 

 玄士郎と呼ばれた男が振り下ろされた脳天を両手で押さえながら少し目尻に涙を浮かべて振り向くと、そこには手刀を構えた朧と遠呂智丸と呼ばれた青年だった。

 

「それに、あの者達は見たところ極めて平凡……。玄士郎さまの妻には相応しくありません」

「むぅ……。そうは言っても、いくらもおるものではなかろう」

 

 朧と遠呂智丸の手刀の痛みで回していた手から逃れた女性達の後ろ姿を見ながら言いきる朧に、渋々としながら空を見上げながらぼやく玄士郎。

 

「霊力の強い美女など……!」

「しかし玄士郎さま。古来よりこのような温泉地には地脈から霊力が溢れ出る場所といいます。その溢れ出る霊力に引き寄せられた者も少なくはないはずです」

「オロチの言う通りです。このような温泉街にならば、霊力の強い方が必ずおられるはずです」

「むぅ……まぁ、良いわ。兎も角、まずは湯治を済ますぞ。別段、嫁探しはいつでも良かろう」

 

 二人の言葉に説き伏せられた玄士郎は釈然としないながらも温泉のある宿へと足を向ける。

 

「……オロチ、今のところ玄士郎さまに釣り合う奥方様がなかなか見つからぬな」

「そうですね……しかし、かといって平凡な人間の方が正妻になるというのも、我ら龍雅家の存続に関わるし……」

 

 歩いていく玄士郎の後ろ姿を見ながら朧とオロチは未来の龍雅家を憂うように呟く。

 

「まぁ、玄士郎様はまだお若い。嫁探しは時間をかけてゆっくりとしていきましょう」

「……そうだな。玄士郎様も霊力の強い奥方など、そうそういないと仰られた。ならば、事を急いていても仕方ないな」

 

 朧はそう納得すると、オロチと共に玄士郎の後を追うように歩み始めた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 あれからしばらくの時間が経ち、三人は湯煙温泉郷の温泉を堪能していた。

 

「う~む、いい湯であった!」

「湯煙温泉郷……なかなかの名湯が揃っていますね」

「そうですね~、これで霊力の強い奥方様がいれば文句のつけようはありませんけど……あ」

「む?どうかしたの……か……」

 

 オロチがふと横を向き、朧もそれにつられて向いてみると……。

 

「よーしわかった!余の側室になりたいのだな!?」

「いやー!!」

 

 いつの間に声をかけたのか、はたまた声をかけられたのか、またも玄士郎が女性を抱きかかえて求婚をしていた。そして案の定、玄士郎の脳天に手刀をかます朧とオロチ。

 

「ええい朧!オロチ!何度も何度も従者の分際で貴様ら……ッ!」

「お目付け役としての責務です」

「従者だからこそ、ですよ。無闇矢鱈に誘うのはおやめくださいませ!」

 

 自分が主なのに何度も何度も従者から叩かれる玄士郎は怒りに体を小刻みに震わすが、それもどこ吹く風な二人。

 

「いやいや、余ではなくあれは娘らが……」

 

 その二人に言い訳じみた説明をしようとしたその時、玄士郎の視界の隅に複数の人影が映った。

 一人は頭が玄士郎の腰辺りくらいの少女。もう一人は少女の側で()()()()()、痛みを押さえるように頭を押さえ込む少女に心配そうに見つめる美しい女性だ。

 

「…………。可憐だ……!」

「人間霊の娘……ですか?」

「ん?……あぁ、あの女性の方……見た感じかなりの霊力ですね」

 

 玄士郎が女性の方を見て呟き、朧はすぐさま玄士郎が見惚れた相手を察し、オロチは女性をみて彼女の霊力に顎を手で擦りながら呟く。すると玄士郎は二人の女性達の方に走っていって声をかけた。

 

「そこの娘!」

「「!」」

「余の名は龍雅玄士郎。オヌシ……名は何と申す?」

「ふぇ?えと……」

「こっ、こゆずさん!知らない人には……!」

「あ……そっか!逃げなきゃ!」

「余を不審者扱いとな!?オヌシに聞いておるのだ、人間霊の娘よ!」

 

 突然玄士郎に声をかけられ戸惑う少女──こゆずに宙に浮いている女性が警告するとこゆずは玄士郎に背を向け走り出そうとした。いきなりの不審者扱い(当たり前だが)に思わずショックを受けた玄士郎だが、走り出そうとする前に女性の方に声をかけたことを説明する。

 

「すっ、すみません。わたしでしたか!わたしは、ゆらぎ荘の地縛霊、湯ノ花幽奈と申します!……って、幽霊(わたし)が見えるんですか!?」

 

 自分に話しかけられていたとは思っていなかった女性──幽奈は自己紹介をし、そのあと幽霊である自分が見えていることに驚いた。

 しかし、玄士郎は幽奈の手首を掴み、顔を近づけた。

 

「ほう……幽奈と申すか。よい名だ……!」

「ひゃっ!?は……離してくださぁぁぁいっ!!」

 

 玄士郎のいきなりの行動に思わずビックリした幽奈は叫ぶと、まるで見えない力によって玄士郎の体が宙に飛ばされた。

 

「ッ!?」

「ポルターガイスト!」

「しかも、玄士郎さまの体を弾き飛ばせるほどの強力な霊力……!」

「おぉ……!」

 

 幽奈の霊力の強さを目の当たりにした三人はそれぞれの反応を示す。そして飛ばされた玄士郎は川のほうへと飛んでいき、そのまま川に叩きつけられた。

 

「ああっ!すみません!大丈……!」

「ふはははは!よい!よいぞ!なかなかの霊力だ!」

 

 当然の反応とはいえ、人の好い幽奈は川に叩きつけられた玄士郎に謝罪するが、川から起き上がった玄士郎はなんともないように……それどころか幽奈の霊力の強さに高笑いをあげながら喜んでいた。

 

「よかった……無事なようですー!」

「むしろ、喜んでる……!?」

 

 そんな玄士郎の反応に幽奈は安心して胸を撫で下ろし、こゆずは若干引いていた。

 その時、幽奈は見た。玄士郎の腕に、黒い鱗のようなものが……。

 すると玄士郎は浮かび上がり、ボフッと空気を爆発させたような音がしたと思ったら、川に落ちて濡れた着物が、一瞬にして乾いた。それを見て幽奈とこゆずは驚いた。

 

「どうだ、朧!?オロチ!?」

「悪くないですね」

「はい。美しい容姿に加え、あれほどの強力な霊力の持ち主……奥方には是非来てほしい方ですね」

「よぉし決まりだ!」

 

 二人の驚きを無視して玄士郎は二人の従者に確認をとると、二人は肯定的な意見を出す。それを聞いた玄士郎は嬉々として幽奈に手を差し伸べながらこう言った。

 

「湯ノ花幽奈!オヌシを、余の妻に娶ろう!」

「……。…………。つ……妻!?つ……妻って、そんな!わたし、地縛霊ですし……」

 

 いきなりの嫁になれ発言に驚き、断ろうとする幽奈だが、玄士郎は気にも留めずに幽奈の両肩を掴む。

 

「地縛霊大いに結構!現世へ留まり続けるなど、相応の霊力がある証拠だ!余ならば地縛先を余の城へ移すことも容易い!さぁ、早速城へ帰って祝言の準備だ!」

「きゃあ!?な……っ、や……いやですぅぅぅ!!」

「ッ!!」

 

 そして幽奈の背中と膝裏に腕を通し、彼女を抱き上げる──所謂、『お姫様だっこ』をする玄士郎。いきなりだっこされた幽奈は驚きや羞恥に感情が高ぶり、またポルターガイストを発動させるが、玄士郎の体は飛ばず、まるでそよ風が吹いたかのように髪や着物が舞うだけだった。

 

「(……ポルターガイストが、効かない……!?)」

「ふはは、いやよいやよも好きのうちというヤツだな!?愛いヤツめ!」

 

 ポルターガイストが効かないことに幽奈は驚き、対する玄士郎はそれに気づかずまたも少しズレた発言をしていた。そこに、幽奈が付き添っていたこゆずが異議を唱える。

 

「妻……?祝言……!?そ……そんなのだめだよ!幽奈ちゃんは……幽奈ちゃんはコガラシ君のお嫁さんなんだからー!!」

「こゆずさん!?ですから、わたしとコガラシさんはべつに……っ」

「コガラシ……?何者だ?」

 

 こゆずの発言に顔を真っ赤に染める幽奈。聞いたことのない人物の名前に聞き返す玄士郎。

 

「幽奈ちゃんと同じ部屋に住んでる、霊能力者の男の子だよ!」

「同じ部屋に住んでる!?」

 

 こゆずの説明に(というより説明の一部分に)驚きを隠せない玄士郎。だが、さらなる情報によって玄士郎はさらに戦慄する。

 

「そうだよ!もう毎晩えっちなことしてる仲なんだからねー!」

「ま……毎晩幽奈とえっちなことだとぉぉぉ!?」

「誤解とも言い切れませんけど言い方ー!!」

 

 こゆずの説明に玄士郎は脳裏に可憐な幽奈と、コガラシと顔の部分に書かれた謎の男が布団で絡み合っているところを想像してしまった。

 

「おおう……!やはり幽奈をここに留めおくわけにはいかん!急ぎ城へ連れ帰るぞ、朧!オロチ!」

「「ハッ!」」

 

 そう言って三人は踵を返し、こゆずとは反対方向に歩き始めようとした。こゆずはすかさず霊力を込めた葉札を玄士郎に(なげう)つが……。

 

「……オロチ」

「承知」

 

 朧がオロチに目線で命令すると、オロチは飛んでくる葉札の前に立ち、刀の柄を握る。そして少し刀の鯉口を切ったかと思えば葉札は真っ二つに斬られていた。

 

「不敬が過ぎるよ……小狸ちゃん」

「え……」

 

 葉札を斬られ、呆然とするこゆずに斬りかかろうと接近するオロチ。そして、オロチが刀を抜こうとしたその時、

 

「やめてください!!」

「ッ!!」

 

 玄士郎に抱きかかえられている幽奈が叫び、それを阻止した。

 

「こゆずさんに手を出さないでください!わたしは……おとなしくついていきますから!」

「幽奈ちゃん!?」

 

 幽奈の言葉に驚くこゆず。そのこゆずに幽奈は人さし指をたてながら子供に言い聞かせるように言う。

 

「こゆずさん……。おつかい……最後まで見守ってあげられなくてすみません。くれぐれもお気をつけて。おうちに帰るまでが、おつかいですから……!」

「幽奈ちゃん……」

 

 二人が会話をしていると、朧は手刀で空間を切り裂き、その裂け目が左右に開き“門”が開いた。

 

「では参りましょう」

「うむ」

「ま……待て……!へぷっ!」

 

 玄士郎達が幽奈を連れていこうとするのを阻止しようと走り出すこゆずだが、足元にあった小石に気付かずに躓き、顔面から転んでしまう。おつかいの荷物も、その際に地面に転げ落ちてしまった。

 

「こゆずさん!」

「ど……どこへ連れてったって無駄なんだから……!」

 

 派手に転んだこゆずを心配する幽奈。こゆずは転んだ拍子に鼻から血を出してはいるが、気にもせずに叫ぶ。

 

「コガラシくんが助けに行くから!コガラシくん、強いんだから!」

「ふ……その男が追ってくるならばそれもまたよし!」

 

 だが、玄士郎は振り返らずに言葉を返す。そしてゆっくりと振り返ると、その表情は憤怒の形相が浮かんでいた。

 

「余の幽奈を散々辱しめた礼をしてやらねばな……!」

「あの……わたしあなたの幽奈になるとは……」

 

 幽奈のなけなしのツッコミも意味はなく、そのまま玄士郎は幽奈を抱き抱えたまま、“門”へと進んでいく。

 そのあとに続く朧とオロチはこゆずに振り返って言った。

 

「小狸ちゃん、命を粗末にしないようにその男の人に伝えておいてね。その男の人がどれだけ強くても、我が主には人間が敵う相手じゃないから」

「オロチの言う通りだ。我が殿玄士郎さまは、信濃は龍雅湖を統べる神霊──黒龍神であらせられるのだから」

 

 朧の言葉に驚愕の表情を浮かべる幽奈。彼女は心のなかで願った。

 

「龍……神……!(──コガラシさん。絶対、助けに来たりしないでくださいね……!)」

 

 四人を通した“門”は、そのまま小さくなって消え、またいつもの何もない状態へとなったのだった。

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