それでは、今回も張り切っていってみましょー!
オロチが部屋を出ていき、部屋に取り残された幽奈。幽奈は面格子から上半身をすり抜けて外の様子を見ていた。
「(さっきの、コガラシさんの声……でしたよね。まさかわたしを助けに……!?)」
その時、幽奈の部屋の天井の一枚が開けられ、何者かが降り立った。幽奈は振り返ると、そこには予想もしなかった人物だった。
「無事だったか……幽奈!」
「助けに来たよ幽奈ちゃん!」
「狭霧さん!?こゆずさん!!」
全身黒タイツにクナイを持つ狭霧と、掌サイズになったこゆずだった。
「狭霧さん、その格好は一体……!?」
「聞くな……」
幽奈は狭霧の格好に疑問を持つが、当の本人は頬を染めて明後日の方向を向く。
「もう大丈夫だよ幽奈ちゃん!コガラシくんもいるよ!」
「え!?コガラシさんも……!?」
こゆずの言葉に、幽奈は唇を堅く閉じる。そして声を震えさせながら言った。
「どうして……」
「え……?」
「どうして、コガラシさんを止めてくれなかったんですか……!狭霧さんなら、ここの人達の恐ろしさを知ってるんじゃ……」
龍神が相手では、自分を救いに来た場合コガラシたちは無事ではすまない。そう考えた幽奈はコガラシたちに何も伝えず、黙って連れ拐われた。それなのに、狭霧とコガラシが助けに来てしまった。忍である狭霧ならともかく、人間であるコガラシを共に連れてきたことにやるせない気持ちでいた。
しかし、狭霧は何気ない様子で言い切った。
「……知っているとも。だがな、だからといって隣人の危機を看過できるほど、物分かりがいいほうではないらしい。私もこゆずも……冬空コガラシもな」
狭霧の言葉に、思わず泣きそうな顔になる幽奈。そして狭霧は、幽奈にこれからの事を話そうとした。
「無論、龍神と戦おうなどと無謀なことは考えていない。そのために……」
だが、その時だった。
──チャキッ。
「やれやれ……幽奈さまのところに感じたことのない者の体温を感じたかと思えば……やはり侵入者が他にもいたのか」
いつの間に部屋に入ったのか、戻ってきたオロチが狭霧の背後に立ち、狭霧の首筋に日本刀が当てていた。
「貴女……人間ですか?どこの手の者ですか?」
「この人……あの時の!」
「狭霧さん!」
「くっ!?(こ、コイツ……いつの間に私の背後に!?気配はおろか部屋に入ってくる音さえしなかったというのに!?)」
オロチの突然の登場に驚く三人。するとオロチは狭霧の背中越しに幽奈の掌に乗っているこゆずを見て納得したように言う。
「小狸ちゃん……そうか。やはりあのコガラシという男とこの女性は君の仲間というわけか。それでコガラシのあの行動は陽動で、貴女達が幽奈さまを──ッ!」
オロチは何かを察知し、刀を下げて上半身を後ろに仰け反らせる。すると少し前の位置にあったオロチの頭上から数本のクナイが床の畳に突き刺さる。
「……なるほど。貴女、誅魔忍軍の……どうりで、ただの人間にしてはここまで侵入されるわけですね」
「チ…………!」
床のクナイを見ながら狭霧の正体を分析する。仕留め損なったことを悟った狭霧はクナイをオロチめがけて横薙ぎに振るうが、後ろに飛び退かれてしまい着物の胸元辺りが斬れただけだった。
「幽奈!ここは私が引き受ける、逃げるんだ!!」
「そんな……!」
「狭霧ちゃん危険だよ!?」
オロチを睨みながら両手にクナイを構え、囮になることを告げる狭霧。そんな狭霧に二人は引き留めようとする。
「案ずるな。私ならなんとか脱出を──ッ!?」
──ズバッ!
安心させるように振り返らずに話す狭霧に、一瞬で距離を詰めて刀を振るうオロチ。反応できなかった狭霧は腹部を斬られ、タイツが破れる。
「きゃああ!?」
「狭霧ちゃん!?」
「……やはり誅魔忍といえど、ただの人間でしたか……。さて、あとは小狸ちゃんだけに……」
「勝手に……殺すなッ!」
「ッ!?」
──ドスドスドスドスドスドスッ!
狭霧を斬り伏せ、次はこゆずを捕まえようとしていたオロチに、狭霧は数本のクナイを喚び、オロチに放つ。腹部を斬られて死んだものと思っていたオロチは避けることは叶わず、クナイを全て喰らった。
「はぁ……はぁ……あ、危うかった……!」
「ぶ、無事だったのですね、狭霧さん!」
「よかったよ~!」
霊装結界のお陰で致命傷を免れた狭霧は肩で息をしながら倒れているオロチを一瞥し、幽奈とこゆずは狭霧の無事を喜んだ。
「あぁ、なんとかな……。さぁ、幽奈を連れて、早く冬空コガラシに伝えねば──」
「残念ですが、そういうわけにはいかないんですよ」
「「「ッ!?」」」
狭霧を先導に部屋を出ようとしたその時、倒れているはずの人物の声がして三人は驚愕の表情を浮かべる。急いでオロチの方を見ると目の前には龍の形をした水が狭霧を襲い、龍の口に閉じ込められてしまった。
「ぐぁぁあっ!?」
「狭霧さん(ちゃん)!?」
「いやはや……今のには驚きましたよ。たしかに腹を斬ったと思っていたんですが……その霊装結界がダメージを肩代わりした、というわけですか」
襲われた狭霧を見て悲痛に似た叫びをあげる二人の後ろからオロチの声が聞こえ、振り返るとオロチの体は狭霧の放ったクナイが突き刺さっている。しかし、オロチの体からは消滅の煙はなく、クナイは体の中に取り込まれていった。さらに、
「り、龍……?」
幽奈がオロチの頭上を見て呟く。オロチの頭上には狭霧を捕らえた水の龍が、合わせて八つの頭となっていた。
「あまり見せたくはなかったのですが、こうなっては仕方がありません。……力ずくでも、貴女方を捕らえます」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
狭霧達が城に潜入して十数分。龍雅城の城門で捕らえられた俺は後手に縛られ、裾をはだけて脚部を露出させ、十露盤板と呼ばれる三角形の木を並べた台の上に正座させられていた。
「ふ……いい格好ではないか」
「こ、これってまさか……拷問的なアレ……?」
「貴様がさっさと吐かんからよ。これも、貴様の罪状を明らかにするため……さぁ石を乗せよ!」
「ハッ!!」
龍神さまの命令に配下の魚人妖怪が膝に乗せる石を持ち上げる。
「ちょ……!?(しまった、調子に乗りすぎた!急いでくれ狭霧ー!)」
実はこの状態になるちょっと前。俺は狭霧の幽奈救出の時間稼ぎのために俺と幽奈の関係を気にしていた玄士朗の隙をついて引き延ばしていたら、こうなっていた。そして石が俺の膝に乗せられようとしたその時だった。
「玄士朗さま、朧さま。曲者を捕らえました」
「!」
聞いたことのない男の声が聞こえ、俺は振り返った。そして俺は目を見開いて驚いた。
「幽奈!狭霧……!」
「コガラシさん……!」
そこには、黒の長髪に右目に刀の鍔の眼帯をした、黒の主体とした和服を着た優男を先頭に、優男の一回り大きい体躯をした魚人妖怪に全身タイツが所々破れて捕らえられている狭霧、そして優男達が着ている着物をした幽奈の姿があった。
「オロチ、その者は?」
「はっ、そこのコガラシ同様幽奈さまを取り戻しに来た者にございます。あの温泉街に出会った小狸の仲間の一人でした」
朧と呼んだ中性的な顔立ちのやつは優男のことをオロチと呼び、オロチは淡々と報告する。
小狸……こゆずの事か!あっちを見る限り、こゆずの姿はないが……なんとか逃げ切れたのか!
「その小狸はどうした?」
「申し訳ありません。小狸は取り逃がしてしまいました。しかし、現在捜索中です。それと、玄士朗さまにご報告が」
「む……なんだ?」
「く……ッ!」
「らっ、乱暴にしないでください!」
狭霧が魚人妖怪の手から逃れようともがくが叶わず、いたずらに枷が手首を痛めるだけだった。それを見て幽奈は慌てる。
「この狭霧という娘、幽奈さまほどではありませんがかなりの霊力の持ち主。玄士朗さまの側室に迎えては、と……」
「おおう?」
オロチがそう言って龍神さまは狭霧をじっと見る。やがて鼻から血を出してサムズアップする。
「狭霧といったな?合ーー格!!」
「そう言ってくださると思っていました」
……おいまさか、幽奈だけじゃなく狭霧まで嫁にするつもりか?
「……おいオマエら、あんま勝手言ってんじゃねーよ」
「正座で凄まれてものう……」
「ああ!?」
悪かったなこんな格好でよ!ってか、こんな格好にしたのはテメェだろうが!
俺が龍神さまを睨んでいると狭霧が警告するように叫ぶ。
「……冬空コガラシ!ここは退け。そこの眼帯の従者一人すら、私ではまるで相手にならなかった。やはり人間が手を出していい相手ではなかったのだ……!」
そう悔しそうに狭霧は叫んだ。すると幽奈は意を決したように話す。
「あ……あの!わたしはあなた方に従いますから!狭霧さんは帰してあげてください!」
「幽奈!?」
幽奈……!?何を言ってやがんだ!?俺はそう幽奈に叫ぼうとすると、幽奈は目頭に涙をためて言葉を紡ぐ。
「コガラシさん!わっ、わたしは……龍雅の家に嫁ぎます……!大丈夫ですから、狭霧さん達とゆらぎ荘へお帰りください!」
幽奈の言葉に押し黙る俺。そこに龍神さまがご満悦に頷く。
「うむうむ!素直なのはよいことだぞ!」
……仕方ねぇ。作戦通り、とはいかねぇが……ここらでガツンと言わせねぇとな……。
「なぁ龍神さま!質問に答えようか?俺と幽奈は……一緒に風呂に入るくらいの仲だ」
「ッ!!?」
俺の言葉に龍神さまはめちゃくちゃ驚いている。
「こ……コガラシさん!?」
「突然何を……!?」
俺の後ろで突然の告白に幽奈と狭霧も龍神さま同様に驚く。
すると龍神さまは座っていた上座から立ち上がり、俺の前まで歩いてきた。龍神さまの表情は見えなかったが、体が小刻みに震えていることから怒り心頭になっているのが窺える。
「余の幽奈と……混浴、だと……!?」
「おう」
俺が龍神さまの質問に答えると、龍神さまは霊力を込めた蹴りを俺の腹にかました。蹴られた俺はそのまま飛ばされ、洞窟の天井にぶつかった。
「な……!?」
天井にぶつかった俺は天井に小さいクレーターを作ってそのまま重力にしたがって城の方へと落ちていった。その時、俺を拘束していた枷が真っ二つに割れた。
「コガラシさぁぁん!!」
「おおう!?殺めてしまったか!?おのれ……余はこの程度では飽き足らんぞ!?」
俺が城に落ちると、龍神さまは俺の落下したところまで走った。俺はゆっくりと立ち上がる。
「ッ!?生きておったか!」
「なぁ、龍神さま。今すぐ幽奈と狭霧をはなせ。でなけりゃ力ずくで連れ帰る」
俺の言葉に、龍神さまも従者二人も、配下の魚人妖怪たちも呆然とした。そして次の瞬間、一斉に見下す笑いが巻き起こった。
「力ずくだとぉぅ!?」
「何を言っとるんだコイツは!?」
「頭の打ち所が悪かったと見える!!」
二人の従者からは哀れみの視線が刺さる。
「哀れな……」
「…………」
そんな中、龍神さまは頬を染めて宣言していた。
「馬鹿を言うでないわ!幽奈と狭霧はこの後、余と婚姻の儀を迎え……そして余は、幽奈と狭霧としょっ……しょしょしょ……初夜を迎えるのだぁぁぁ!!」
瞬間、俺の霊力を込めた拳が龍神さまの腹に打ち込まれる。
「な……!?」
「させねぇよ」
俺はそのまま拳を振り抜き、龍神さまを洞窟の天井まで飛ばす。今まで笑っていたやつらも、龍神さまが殴り飛ばされて呆然としていた。
「……俺は以前、デタラメに強い霊能力者の霊に取り憑かれたことがあってな。ムリヤリ弟子入りさせられたが……そのおかげで、地獄の修行と試練の果てに師匠をも倒す力を手に入れた」
俺は拳に力を込めて断言する!
「悪霊だろうが、神だろうが関係ねー。俺がぶん殴れねぇのは、女だけだ」
龍神さまが殴られたことに周りの皆は口を開けて呆然としていた。
「………………」
ただ一人、俺を見ながら口を歪ませていることに、俺は気付かなかった。
毎度の事ながら、感想と高評価、お待ちしておりまーす!( ゚∀゚)ノシ