「はあ・・・」
また無意識にため息をしてしまった。
ここのところそればかりだ。
「早く帰んなきゃ・・・」
私の名前は白愛鈴。名前の通り中国生まれ。飛頭蛮である。
ここのところは妖怪狩りが多発しているという。妖怪共存反対派による手当たり次第の封印だ。
妖怪の存在を知る人間が増えるのは私たちからすれば非常に厄介なのだ。
人喰い妖怪の飛頭蛮は特に潰すべき対象の一つらしく、私もよく追い回される。
平和に生きたいだけなのに。
「うわあああああ!!」
「あっ」
ぼーっと歩道を歩いていると、ゴムとアスファルトの擦れる爆音が耳をつんざいた。
次にグニっとかズルっという生々しい音。目の前で交通事故が起きたのだ。
「くそ」
小声で悪態をついた。どうせならもっと静かで誰も来ない場所で逢いたかった。そうすれば死体を持って帰れるっつうのに。
「お腹空いたわ・・・」
冷蔵庫には、1人分の死体。あと一週間も持たない。どうしよう。
とりあえず考えるのをやめにして私は家へ足を早めた。
「ただいま」
誰も居ないけど習慣として言ってしまう。その度に寂しさを噛みしめる。そんな習慣だ。
「はあ・・・来週どうしようかしら。備蓄はもうないし・・・はあ、ひもじいわ」
一人暮らしが長いと独り言も増えるものだ。側から見れば私は変人なのだろう。
「いただきます」
普通の飯はいくら食べても腹が膨れない。美味しいから食べるけど。
「こっちもいただきます・・・」
そしてラップに包まれた肉塊に手を伸ばす。人肉はいろいろ試したけど生肉が一番。その為に業務用冷蔵庫を買った。誰も家に呼べないのはこれが理由だ。
「ゴミ、出しとこ」
食事を終えた私は明日が水曜であることに気づいた。燃えるゴミだ。
「ふう」
Tシャツと半パンのラフ極まりない格好で私は外に出た。
「生活に不満があるのか?」
「・・・は?信仰宗教なら興味ないけど」
ゴミを置いてネットを被せた直後、後ろから女の声がかかる。言い方こそ疑問形だが、こもるのはおそらく「不満だろ」という断定。何言ってんだこの不審者は。私はそう思った。
「・・・願いはないか?叶えたい、願い」
一発ぶん殴って追い払おうとも思ったが、女の頭のツノを見て考えが変わった。
信仰宗教なんぞとは比べ物にならないキナ臭さになった。
「あんた、妖怪よね?」
「そうだとも。そして・・・妖怪と人間入り乱れるバトルロワイヤルをセッティングしている。勝てば願いが叶うんだぞ?魅力的だと思わないか?」
「信憑性の問題よ」
「現場を見れば信じるのか?」
「存在じゃなくて願い云々よ。ありえないわね」
私はそう吐き捨てた。余程のことがなければ誰だってそうするだろう。
そして私はその余程のことがない妖怪。細々と生きていれば十分だ。そう思ったが故の返答。
興味はない言う顔をしてみせて踵を返した。
「事実だと言うのに。なんでも叶うんだぞ?・・・例えば死ぬまで飯に困らない。例えば戦いに巻き込まれない。例えば、もっと抽象的に平和。他にもヒエラルキー逆転やら世界制覇やら巨万の富やら・・・好きにできる」
しかし女は相変わらずの態度。ここまで言い張られると真実なのではと思ってしまう。多分そう言う詐欺か何かなのだろう。
いい加減うっとおしくなった私は脅しに出ることにした。これでも中国にいた頃はブイブイ言わせていたものだ。
「いい加減にしないと痛い目を見るわよ」
その脅しと共に睨みつけた。しかし女は怯まない。私のことを知らない若輩もしくは情弱なのか、知った上でこれの実力者なのか。
ツノを見る限り、鬼やら天邪鬼やらだろう。後者の可能性を考え、私は手を出すのはやめにした。
「信じられる材料を明日までに持って来なさい。そうすれば考えたげる」
それが追っ払うのに一番都合のいい言い方であった。
「仕方ないな。ではまた会おう」
妖怪の女はスッと振り返り、闇に消えた。なんだったんだと思いつつも、明日はバイトが休みだと思い出した私はすぐに女のことなどどうでもよくなっていた。
「一段と暑いわね・・・」
ブッ刺すような陽光を浴びつつ私は自転車を漕いでいた。今日は休みをもらったのだ。そして新しいゲームの発売日だ。中国時代に稼ぎまくった金を一度宝石にして日本円にする生活故に、金には困らないのだ。合法に金で人肉が買える場所があったならと願望を抱くのはいつものこと。
「ゲームショップはっと・・・」
路地裏を通って公園を突き抜けるのが近道なのだ。ぐいっとハンドルを曲げ、道を逸らした、その時。
「ああっ!」
悲鳴とともに自転車に女性が叩きつけられた。その衝撃に私は叩き落とされ、自転車は歪んで居た。こんにゃろう。高かったんだぞ。
恨めしい顔を作って立ち上がるが、見ればその子は怪我をしていた。これに対してよくも壊してくれたとまくし立てるのも気が引けて、なんとなく黙ってしまった。
「大丈夫?怪我してるけどさ」
「問題ありません」
むしろ問題しかないぞ。私は無視もできず、手を貸して彼女を起こした。
すると彼女は素早く礼を言い、吹っ飛んで来た方へ走っていった。
「何よあれ・・・」
「あそこまで命をかけるものがいるということだ。どうだ?信憑性は出たか?」
昨日の女だ。こんなので信じられるかと思ったのだが、もしかしたら本当かもしれないとどこかで思った。
私を蝕んだ小さな疑惑は、その少女が敵だったであろう人間にとどめを刺したことで完全な信用へ変わってしまった。自分で何かを思うより先に、「信じてあげるわ。するわ、参加」と、そう口から飛び出てしまった。
「よかろう。これが契約用カードだ。これは捕獲用カード。で、これが参加証明。ダメージを与えた妖怪を捕獲用カードに封印できる。使い方はそのうち教えよう。人間と契約する時は契約用カードを交換しろ。そして契約したら私を呼べ、参加証明の裏に電話番号がある」
ゴソゴソと取り出したカードをカードケースに入れ、私へと渡した。カードケースには、飛頭蛮を意識したようなマークが。私が参加することも分かっていたとでもいうのか。思い通りになってやるのは癪な気もしたが、とりあえずそれを受けとり、私は女と別れた。
「久しぶりのごちそうだわ」
ついでに遺体も拾い、人目から隠れてコソコソと帰った。すでにゲームなどどうでもいいほど、内心では興奮していた。戦うのなんて何十年ぶりかしら。少しスキップも混ぜて帰路についた。
第1話は短めに。とりあえず書いただけなんで、あんまりすぐは更新できないかと。ペースもゆっくりめで。