太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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属性過多系主人公


マミーで大富豪な美少女JKはママが恋しい

 西暦1700年代のエジプト。

 世界経済やパワーバランスの変化にあぶれた者達により、不届きにも王家の墓が荒らされることとなった。

 自称探検家(盗掘者)達はエジプト国民の目を盗んで、文字通りの宝の山(未発掘のピラミッド)を探していた。

 

 彼らが探していたピラミッドはラムセス二世に最も愛されたとされる王妃ネフェルタリの墓。

 しかし、捜索は難航しており、情報を持っていそうなエジプト人も古代の王妃への敬意故か何をしても口を割らなかった。

 そう、何をしても(・・・・・)だ。

 

 素行の良くない探検家達は、エジプト人に睨まれながらの調査はそろそろ限界が来ていると感じていた。

 早く見付けなくては。

 彼らがそう焦っていたとき、夜の帳が降りたエジプトの砂塵が風もないのに巻き上がった。

 先程まで何も無かった更地に古代エジプトの建造物――――ピラミッドが現れた。

 そのピラミッドは、ラムセス二世の時代の建築方式に見える。

 即ち、ネフェルタリ王妃の遺品が眠っている可能性が非常に高いと言えた。

 

 男達は大きく口を開けているような入り口へと駆け込んだ。

 そして周囲からシャカシャカと謎の音はするが、何もいない蜘蛛の巣一つ無い、整然とした通路を通った。

 道中の落とし穴のような縦穴で一人が脱落したが、分け前が増えたと他の者達は気にしなかった。

 

 そして奥へと昇ると、そこからは急に下へと続く道があった。

 探検家達はその最奥で落とし穴に落ちた男の衣服と装飾品を発見した。

 血は周囲に飛び散っているが、肉は見当たらない。少なくとも松明が照らす明かりでは見つかりはしなかった。

 

 その部屋には棺とその横に小さな箱があった。

 探検家達は先ず比較的軽そうな小さな箱を空けた。

 そこには黄金の装飾品があった。メンバーの一人が古代エジプト言語に詳しいので装飾品にかかれた文字を読み取ると、『ネフェルタリ』の部分だけは解読できた。

 

「やった、王妃の墓を見付けたんだ」

「ああ、ジョーンの奴には悪いが、これで億万長者だ」

「この王妃の装飾品だけでも家が、それも豪邸が建てられるぜ」

 

 興奮が支配していたのはわかるが、それにしても余りに男達はわかっていなかった。

 それが本当に王妃の装飾品であるのか。

 落とし穴に落ちたジョーン・カッターの死体は何処へ行ったのか。

 何故、エジプトの民は既に死した王家に敬意を持つのか。

 ――此処に、生者が訪れて良かったのか。

 

 

「よし、それじゃあ隣の王妃様の棺もご開帳と行こうか」

「ああ、美人で有名だったらしいな」

「おいおい、ミイラに美人も何もないだろう。それより一緒に埋葬されてる服飾品(お宝)だ」

「「違いねえ」」

 

 男達は、下卑た笑い声を上げながら重たい石棺の蓋を動かした。

 その中にいたのは、瑞々しい肌を持った息を呑むようなうら若い絶世の美女であった。

 更に付け加えるとすれば血塗れという付加情報があったが。

 

 

 

 美女は急に目を開いて身を起こした。

 唖然とする男達を眺めていたが、その視線が男達が先に空けた箱から取り出した装飾品を捕らえると、美女は鋭く睨んで男達に厳しい口調で何かを告げた。

 古代の上流階級の言葉を当時の発音で淀みなく話されては、考古学を学んでいた男も理解は出来なかった。

 だが、一つわかることがあった。それは怒りだった。

 恐らく宝を返せと言っているのだろう事は、他の学が無い男達にさえわかった。

 

「…おいおい、ケチケチすんなよネフェルタリ王妃様。

気前よくお宝の一つや二つ、何だったらピラミッドの一つや二つくれたって良いじゃないか」

 

 余裕が出てきた男達のリーダーがそう語りかけるが、美女にはその言葉は理解できていないようだった。

 強烈なジェネレーションギャップの賜物である。

 

 リーダーに引き摺られて余裕を取り戻した男達はある考えに至った。

 それは、欲望だった。それは獣欲だった。それは性欲だった。

 目の前の存在が余りに理解不能であったとしても、それを差し置いて美しい存在であったためだ。

 王妃らしき美女の身体を包んでいた金であしらわれた布を掴んで引っ張ると、風化寸前であった衣服は細切れになり、その下の素肌が露わになった。

 

 その肉体は、まさに典型的なミイラと言って良かった。

 美女は衣服に包まれていない部分だけは瑞々しくあったが、衣服の中に隠された部分は乾いた皮と骨であった。

 後ずさろうとした男達は身体が動かなくなっているのを感じた。

 

 足下を見ればスカラベと呼ばれるフンコロガシの一種が足に纏わり付いて、肉を食いあさっていた。

 痛みも重さも感触も一切感じなかったにもかかわらず、男達は移動手段を喰われていた。

 

 理解できぬ恐怖(王家の呪い)理解できる恐怖(迫り来る死)に発狂した男達に美女は近づいていき、男達が先程暴いた装飾遺品を取り返すと、指で汚れを拭き取るように撫でた後、愛おしむようにそれに頬擦りをした。

 美女はその装飾品をペンダントのように首にかけると、男達に喰らいかかった。

 

 

 男達を食い終えた美女の裸体には、どこにもミイラであったときの名残はなかった。

 美女はどこからか砂を呼び寄せて、それを服へと変じさせるとその場から去った。

 

 

 

 

 翌日、墓荒らしの男達の衣服だけが砂漠の上で見つかった。

 発見した砂漠の民達は、裁きが下ったと口々に男達の末路を罵った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 19世紀、様々な戦争を利用して一代で大富豪となった女性がいたという。

 その姿は現代のクレオパトラと湛えられたが、しかしその女性は胸を張って己の方が美しいと述べたという。

 その女性は家族を持たず、最期はひっそりとした葬儀で人生を終えたと言われている。

 彼女の墓がどこにあるかは公表されていない。その為、かつてのピラミッド荒らしのように彼女の墓を探す者は後を絶たない。

 

 また、その美女が興したホテルグループ『ピラミッド』は今では世界中を席巻しており、最高級のホテルとして君臨している。

 そのピラミッドホテルがこの度冬木に建つことになった。

 大火災で荒廃した町への復興支援という名目で、大規模な土地を買い占めて建築された。

 

「メルタトゥム様、建築反対派への対策は終わりました」

 

「ご苦労。愚かな若造と思っていたが存外にやるではないか。

そなたにこのピラミッド・冬木の責任者を任せてやろう。死ぬ気で働くが良い。死した後も仕えさせてやろう。

励めよ……まあ、程々にな」

 

 

 礼をして部屋を去った愚かな若造と呼ばれた青年は未だ二十代半ばではあるが、偉そうに命じているのは少なくとも見た目はそれよりも若そうな女性である。

 輝くような(かんばせ)、シルクのような肌、ナイルの源流を生む雫のような瞳と形容するに相応しい女性こそ、ピラミッドホテルの更に親会社の総帥を務めるメルタトゥムである。

 

 

 エジプトに本社を置くピラミッドホテルグループの成功の秘訣は、未だ過労が問題になる以前から続く圧倒的ホワイト体質である。

 古代エジプトのピラミッドの建築に関わった奴隷達は、二日酔いなので休暇、暑い日なので時短、ネフェルタリの誕生日なのでボーナスが認められていたという。

 おまけにピラミッドは仕事を無くした者達に職を与えるための公共事業の側面もあり、ビックリするほどのホワイト経営である。

 工業が発達して、競争が激化していく中、従業員良し、客良し、会社良しの三良しのバランスをピラミッドのような比率で完成させた初代総帥の手際によるものは大きい。

 

 代々グループの総帥はメルタトゥムと名乗っている。

 エジプトの伝説的な大王ラムセス二世とネフェルタリ王妃の長女の名前から取っているとされている。

 

 

 この時代では余り良い評価を受けないであろうが、現総帥は自負していることがある。

 

「私は、マザコンである」

 

 私こそが法、私こそが真理、私こそが全て。

 だから何もはばかられることなど無い。寧ろ、はばかるものは死刑だ。

 彼女はそう認識している。

 

 彼女は常に母から譲り受けたという黄金のペンダントを身につけている。

 しかし、その黄金のペンダントの以前の持ち主である彼女の母親は一度たりとも表舞台にでたことが無く、知る者はいないという。

 

 メルタトゥムが冬木にピラミッド・ホテルを建築した理由。

 それは町の復興だけが目的ではない。勿論それも無いわけではないが、真の目的はこの地で行われるという『聖杯戦争』である。

 魔術師と英霊と呼ばれる使い魔が殺し合う血濡れた祭典だ。

 

 

 さて、メルタトゥムは17歳という設定なので、この日本では学園生活を送ることにしている。

 目的は日本で活動するに当たって、外国人美少女で超巨大グループの総帥に加えて、『JK(女子高生)』という付加価値を加えることで広報活動に優位になる事。

 後は本人の意向である。ぶっちゃけ興味本位である。というか、最初の理由こそが完全に株主向けの建前である。

 

 先程偉そうに青年に命じていたときの彼女の服装は学園の制服だった。

 制服美少女に偉そうに命令される会社。…一部の趣味の人には天国(パライソ)かもしれない。

 

 

 メルタトゥムは逆らう者に容赦をする気は全くないが、無辜の民に被害を及ぼす気はない。

 (土台)無くして(頂点)無し、(指針)無くして(労働)無し。

 ピラミッドホテルグループの理念である。

 

 戦いは戦う前に勝てる準備をして、勝つ前提で戦う。

 ニュースで最近冬木にフンコロガシが大量発生していると流れているが、それが仕込みである。

 敵対者(マスター)となった者を発見次第、フンコロガシ(スカラベ)を通じてマスターを即脱落させる。

 元より呼び出す英霊は決まっている。

 そしてその英霊に戦闘をさせるつもりはない。

 つまり、メルタトゥム自身が事を為す。

 正面切って英霊と戦うつもりはなく、メルタトゥム自身が直接マスターを倒す。

 英霊にはファジージュースでも飲んでくつろいで貰うつもりでいる。

 

 

 

 

 

 ――――そして、遂にその時が来た。

自身が大切にしてきた触媒(・・)を元に、魔術的な仕掛けを施し、己が本来使っていた古代言語で詠唱する。

 

「――――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

 

 

 暴力的な魔力の奔流と共に、それは来た。

 メルタトゥムは跪いて涙を流しながらそれを迎えた。

 そして、ゆっくりと顔を上げた彼女は見た。

 

「余の妻の遺品を暴く不届き者が死を………我が娘(メルタトゥム)、お前か」

 

「…………がっかりです。ハズレだなんて」

 

 メルタトゥムは心底がっかりした。

 それはそうだろう。使用したのは自身が母の形見として譲り受けたペンダント。

 これは呼び出されるのは最愛の母だろう。

 そうに決まっている。

 普通に考えればそうだ。そうで無くてはおかしい。

 あの優しくて可愛らしくて柔らかくてふわふわでスラッとしていて可憐で麗しくて怒ると恐いけど怒っても可愛い母上が来るはずだったのだ。

 何だろう、ネフェルタリの遺物で顕れるのがオジマンディアス(父上)だとか、この男はストーカーなのか?

 死んだ後も妻を隠密的にすら見える献身的な広報警備して、妻への呼び出しにちゃっかりボディーガード的に代わりにやってきたとでも言うのか。

 折角、今も記憶している母上に抱きついたときに測った身体の寸法に合わせた、現代のファッションや一流のマッサージ師も用意したというのに。

 この男(父上)は生きているときも私の恋敵として邪魔をして、死んで尚母上を独占するのか。

 メルタトゥムはこの邪知暴虐な王に激怒した。

 

 しかし、オジマンディアスも相手が娘とは言え、無礼にも程がある物言いに激怒した。

 

「ハズレとはなんだっ!! 無礼であろう」

 

「…母上の形見でおいでませるのは母上のハズなんです。

母上が当たりだから、父上はハズレに決まっているでは無いですか」

 

 

 黄金の太陽と謳われたラムセス二世ことオジマンディアスもこれには納得せざるを得ない。

 彼が唯一勝てないものは、最愛の妻である。

 千年単位で続く反抗期の娘に最愛の妻を引き合いに出されては流石に反論が出来ない。

 

 

「輝くような(かんばせ)、シルクのような肌、ナイルの源流のような瞳、太陽のようなまぶしさと、夜のような優しさ、天上の神々の愛を受けたような美と慈しみを内包する女神オブ女神な母上の方が、父上より素晴らしいのは当然ではないですか」

「完全に同意する」

 

 即答だった。

 同じ女性に恋をした二人だからこそ、同じ結論に至る。

 本来なら不敬とも取れる言い草だが、ネフェルタリ教徒、いや狂徒の二人であるから問題は無い。

 

「…で、今後の話だが、どうする?」

「…指針を示す者()なのですからご自分で考えてください。

母上でしたら、くつろいでいただく予定でしたが、父上なので馬車馬のように働いて母上の復活でも聖杯で叶えてください」

 

 

 オジマンディアスは反抗期が直らない娘に内心で苦笑する。

 母親(ネフェルタリ)にべったりで、母の死後は魔術に傾倒しながら衰弱して死んだ娘。

 本人が意識しているかどうかはわからないが、見た目はネフェルタリに似ている部分が多い。

 昔から不純物(父親)に似てしまったと本人は言っているが。

 

 妻と寝所に向かおうとするのを邪魔しようとして、妻に諭されて落ち込んだり、妻と一緒に買い物に行って喜んでいたときと変わっていない。

 口調こそ丁寧なものの、父親は敵で母親を争う敵とみているに違いない。

 しかし、親としてみればそれもそれで可愛らしい娘である。

 妻が死ぬまでは兄弟間の権力争いに興味も向けず、ただ母だけを見ていたという点も、ある意味非常に好ましいとも言える。

 

 

 

 

「よし、全力で叶えてやろう。―――――――――数千年分の誕生日プレゼントだ」

「…母上が悲しむので、精々無茶はしないで下さいね」

 

 ファラオの親子が、冬木の地で戦いの狼煙を上げた。


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