太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見て下さい

 ここ数日、日が沈んだ後も天敵である太陽(・・)が眩しすぎる夜に辟易していた蟲の老人、間桐臓硯いや、マキリ・ゾォルケン。

 此度のサーヴァント、ライダーの主従は老人を構成する存在に対して致命的に相性が悪い。

 強すぎる日差しは、己を構成する蟲だけでなく、欠片を埋め込んだ桜の肉体にある本体さえ滅しかねない。

 桜の中にある蟲を見抜き、そしてそれを滅する意思を持たれてしまえば、長年の悲願を成就する前に滅びてしまう。

 あの舞台装置(象徴の姫)の寛容が執着に変わらぬ限りは安全であるとは言える。

 しかし、あの姫君は伝説に謡われる母のみならず、遠坂の娘に執着の欠片を見せた。

 もう一つの遠坂の片割れに、その執着が向かぬまま、他者への無関心(寛容)が続くまま、夜が続かなくてはならない。

 

 それだけではない。

 太陽の親娘に与する錬金術師のサーヴァントであるキャスターの宝具も、魔術で構成された命には致命的であり、更に言えば桜が召喚した得体の知れないアーチャーも宝具を複製する能力をもってすれば、『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を再現し得る。

 

 単純な破壊力だけの英霊達による戦争であれば、ここまで恐れることもなかった。

 蟲により英霊達の宴を監視していた老人は、今の身体には不要な行為であるため息をついていたが、良い拾いものが出来た。

 理由も無く、理論もなく、利害もなく、本能的に近しいと思える脚本家(ワラキアの夜)

 臓硯は、気が付けば手を差し出していた。

 

 独りになってしまった今では届かなくなった悲願も、あの時のように共に進む者が居るのなら叶うやも知れぬ。

 今度こそ、此度こそ、叶わなくなってしまった運命に挑もう。

 その為になら何だってしてきた。その為になら何だってしよう。

 そう願う老人は、その悲願が何だったのかということを思い出せないまま、冬の風に凍り付いた妄執に身を焦がす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 臓硯が家に帰るも、彼に関わりたくない孫達は最小限の対応を行い、臓硯は自室へと戻る。

 暫くの後、慎二が幾つかの本を買ってきた。そして、Tから始まるレンタルビデオショップで借りてきた幾つかのDVDもだ。

 

 『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムDX』

 『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムDX2』

 『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムDX3』

 『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムNewStage』

 『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムNewStage2』

 『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムNewStage3』

 

 己を知り敵を知れば百戦危うからず。

 敵を手っ取り早く調べるなら、TVシリーズより劇場版の方がわかりやすいとの判断である。

 慎二はこんな幼稚園~小学生の女児向けを借りる恥ずかしさを堪えて借りてきたが、金のかかった映像と、大人目線で見ると意外とえげつない設定でありながら、子供心にしこりを残さないハッピーエンドという絶妙なバランスで作られた映像にのめり込んだ。

 

 偶々居間のテレビで、例の王女が己の財力と人材を使い、己の主観で己の母を宣伝する為だけに作り上げたであろう劇場版アニメーションが流れているのを見た臓硯も慎二の横に座り、同じものを眺めることにした。

 慎二は最初横に妖怪老人が座ったことに驚いたが、「あくまでこれは敵の偵察だ」と何も聞かれていないのに良く解らない訂正をして視聴を続けた。

 

 尚、端から見ればいい歳をしたアニオタ達にしか見えない男達を、気持ち悪そうに桜が見ていたことは敢えて触れないことにする。

 『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムDX』~『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムNewStage2』までは途中からネフェルタリの夫を名乗るやたらハイスペックな噛ませ犬が出てくるものの、基本は劇場版のゲストキャラクターが出てくる程度で、キャラクターの関係性にそこまで慎二が思うところはなかった。

 

 しかし、一ヶ月前に作られた最新版の『劇場版 魔法王女☆メルタトゥムNewStage3』に出てきたゲストキャラクターが問題だった。

 悠久の眠りから目覚めた古代の姫メルタトゥムが仮の姿として通う学校。

 そこで出逢い、巻き込まれてしまう少女の容姿が、『黒髪』『ツインテール』『黒ニーソックス』『私服は赤』。

 まるで何処かの誰かのような、というか何処かの誰かじゃ無い方がおかしいくらいのキャラクターがいたのである。

 声が違うことが寧ろ違和感になるほどそっくりなビジュアルだった。

 いつの間にかアニオタにシフトした家族に軽蔑の視線を送る桜も、思わず視線を画面に止めてしまったほどである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▼▲

 

 一方、運命の偶然か別の場所で同じ時間に同じ番組を見ている者が居た。

 そう、古代のシュメールの王にして、全ての英雄の源流である黄金。英雄王その人である。

 というか、家ではそのアニメが流れている事が大半なので、『まほメル』を見ているものは大体ギルガメッシュと時を共有していると言い換えても過言ではない。

 あくまで不敬というだけである。

 

「言峰、NewStage3からの転換点はわかるか?」

 

 アニメを見終えた黄金の王は、視線を向けることなく綺礼に問う。

 

「…その質問は何度も受けた。ランサー、何回目だ?」

 

「さあ、10回以上は数えてねえな」

 

 不敬にも辟易している二人を無視して、黄金の王は聞かれていないのに何時もと同じ事を語る。

 

「それまでの重要キャラクターは何かしら古代に関係する人物だったが、NewStage3及びアニメ新シリーズ以降から登場予定の『十長(とおさ)カリン』は現在公開されている情報の中では生粋の現代人。

それまで過去にしか目を向けていなかった主人公が、初めて今に生きる相手に目を向けた。

まるで、神の世界に決別し、人の世を見据えた我と通ずるものがある。

やはり我が后よ」

 

 聞かれてもいない事を何度も長々と語り、アニメに現実を交えて話す様は、イケメンの王である故に許されることであって、フツメン以下の一般人がこれをすると、漏れなく空気が読めないオタクになるのは、王の名誉の為に誰も告げることは無い。

 

 どちらかというと言峰にとっては、アニメで可愛らしく動く少女や設定よりも、見覚えのありすぎる新キャラクターを採用した制作サイドの思惑が気になって仕方が無い。

 裏切った師の娘と一致するところがありすぎる。

 というか、名前が確信犯だ。

 

 遠坂凛と十長カリン。もはやアナグラムですらない。

 劇場版アニメに出てくるカリンは、一般人故に未知への対応力のないドジっ子だが、それを持ち前の精神力で律して平然と振る舞う似非クールな主人公メルの友人である。

 ひょんな事から古代の魔術が込められた杖に出遭って、変身した為に勘違いが呼ぶ勘違いの末に、移した虚構(理想)に人々を捕らえる呪われた鏡を巡る争いや、何処か妙に生々しいエピソードの、異国からメルタトゥムに求婚してくる傍迷惑な王族が巻き起こす騒ぎに巻き込まれてしまうカリン。

 現実での凛が絶対に嫌がるであろう猫耳と魔法少女然とした萌え萌えスタイルど真ん中な衣装。

 

「ふむ、あの衣装を送ってみるのも愉悦か」

 

 断られることはわかっており、渡したときに嫌がる顔を見るためだけに、この男は労力を割くことを決意した。

 言峰綺礼は凄く嫌な奴なのである。

 

 そんな嫌な奴言峰綺礼に、思い出したかのように前回の聖杯戦争の生き残りのサーヴァントは告げた。

 

 

「そう言えば、昼にライダーにあったぞ」

 

「…あの太陽王にあったのか」

 

 よく戦いにならなかったものだ。

 英雄王の人となりを知る綺礼とクー・フーリンはそう思った。

 

「我が妃の出したカフェでファジージュースを飲んでいた。

アレは中々に面白い男であった」

 

 英雄王がこうも褒めるとは。

 とはいえ、太陽王ともあろうものが、腰を低くする対応を取るとも思えない。

 果たして如何なる接触であったのか?

 その疑問は直ぐに解決した。

 

「我はこの世で最も尊い真の王には、最上の妃が相応しいと奴に言った。

奴も最上の女の夫に立つには、最上の男でなくては務まらんと言った。

奴は確かにそう言ったのだ。

――これは、我こそが娘を手にするに相応しいということだろう」

 

 

「……」

「……」

 

 ラムセス2世の妻を溺愛した逸話を知る綺礼と、何となく察したランサーは黙秘することにした。

 何故なら、めんどくさいからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▲

▲▼▲

 

 娘が世界に展開しているチェーン店カフェから帰ってきた太陽王は、小さな猫(スフィンクス)を抱きしめながらホテルで寛ぐ娘に告げた。

 

「中々に気の良い男にあった」

 

 父親がここまで手放しに称賛する男がいるとは、現代も捨てたものではない。

 まあ、相手が男であってよかった。

 父親の新たな恋の始まりなど聞きたくもない。

 母の恋人になるのは己しかいないと思っているが、母を愛さない父は父ではないし、父を愛さない母もまた想像できない。

 メルタトゥムはいつまでたってもそんな複雑なお年頃なのだ。

 

「アレは、ウルクの英雄王。アーチャーのサーヴァントだ」

 

 彼女の友人であれば、衝撃的な言葉にジュースを噴き出していただろうが、生まれ持ってのお姫様はそのようなことはしない。

 

「そうですか。お気に召したのはどの様な点ですか」

 

 余裕をもって優雅を努力なく地でいくのだ。 

 

 

「奴はこの世で最も尊い真の王には、最上の妃が相応しいと余に言った。

余も最上の女の夫に立つには、最上の男でなくては務まらんと言った。

奴は確かにそう言ったのだ。

――これは、まさしく最上の美女たる余の妻と、余への称賛に他ならない」

 

「ええ。母上は美しいですから」

 

 言峰の陣営と違うのは勘違いを理解したものの不在である。

 もし、事情を知り、察しがよく、そして何よりネフェルタリへ妄信していない者がいたならば、数千年に一人の美女とマスコミに謡われ、ネフェルタリと、そして僅かにオジマンディアスにも似た娘に対し、

 

 

 

「お前のことだよ」と突っ込んだであろう。

残念なことに、突っ込みができる錬金術師とそのサーヴァントは現在この部屋には居らず、仔猫が呆れたように鳴くだけであった。


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