太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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焼かない娘から、妬く父親へ

 オジマンディアスは激怒していた。

 

 

 

「強すぎる太陽の愛から守るベールをあなたにも♪」

 

 テレビという古代エジプトには無かった文明の機器で、実の娘があられもない姿(クロスビキニ)で日焼け止めのCMに出演していた。

 これには太陽王もお怒りである。

 よりにもよって、よりにもよって、

 

 若い娘が柔肌を露出して、果ては公衆の面前に晒すなどとはっ!!

 

 日頃から露出度が高い服を平然と好むとは思っていたが、最早これはやりすぎだ。

 太陽王の娘が、日焼け止めのCMというのも、まあ許されないことだが。

 それはこの際どうでもいい。

 

 自分が露出狂一歩手前の姿でいることには一切の疑問を持たず、深夜を徘徊する娘に一言言ってやろうとオジマンディアスは娘の帰りを待っていた。

 (スフィンクス)を抱いて帰ってきた娘に、厳正な態度で父王は言った。

 

 

「話がある」

 

「なんですか」

 

 

「なんですかとはなんだぁっ!!

あんな姿を晒すなんてパパは許さんっ!!」

 

「……?」

 

 日頃から、そんな姿である娘は純粋に何が不興を買ったのかを理解はしなかった。

 若い、若い…。……若い?娘である自覚がないのか、平民にどう見られようと気にならないのかはわからない。

 もしかしなくても、単純に遺伝性の露出癖なだけという可能性もある。

 

 よく理解できていない娘に何と言ったらいいかと父親が考えていると、再びテレビで同じCMが流れ始めた。

 

 

 

「強すぎる太陽の愛から守るベールをあなたにも♪」

 

 

 画面の中では、薄小麦色に焼けた絶世の美女である太陽王の娘(メルタトゥム)が、眩しすぎる笑顔で日焼け止めを塗っている。

 そしてその肌をCGで作られた太陽光線が反射していくCMだった。

 肌に浸透することを前提に、無害な成分のみで作られていることを強調している。

 

 

「…これだ。なんだこれは。お父さんは悲しいぞ」

 

「…ああ、これですか」

 

 このCMは少し前に、自身の持つホテルピラミッドを、父親に勝手に自分のもの扱いされた時にイライラして承諾したCMだった。

 正直、こういうのは全く日を受けていない肌の方が映えるとは出演者本人も思ったが、売れ行きを見る限りそうでもないようだった。

 だが、太陽王の娘が、太陽光線を弾く日焼け止めのCMに出るほどの太陽王(父親)に対する嫌がらせなどそうそうない。

 故に、肌の露出を咎められているなどとは、本人は思いもしていなかった。

 娘は、基本的に脱いでばかりの父親を見て育ったため、そんなに肌の露出自体に抵抗がないのだ。

 

 

「(日焼け止めの)CMに出たのが良くなかったのですね」

 

「(下着と変わらぬ露出度の服で投げキッスする)こんなCMが良い訳がないであろう」

 

 

「正直、当て付けというのもあったので、今回のことは謝ります」

 

「…ああ。………?」

 

 『当て付け』という言葉が妙にオジマンディアスには引っかかった。

 当て付け。それは、特定の対象に対して見せつける行為。

 ふむ、長く親離れをしている間に、娘にもそのような相手ができたのだろうか?

 これは応援せねば…応援せ……応援…………

 

「応援などできるかっ!!」

 

「……??」

 

 

 娘は、父親が良くわからない何かに対して怒りだしたが、良くわからないならば良くわからなくても何とかなることだとスルーすることにした。

 多分、芸能活動を下賎の仕事だと思われている様な気もしたが、そう言った時代でもないし、それを確認するつもりも無かった。

 イライラを抑えるために、左腕で己の右肩を抑えるようにしてワナワナしだした太陽王を見て、娘は言った。

 

「不敬でなければ肩をほぐしましょうか?」

 

「――何ッ!?」

 

 サーヴァントに肩コリというものなどない。

 しかしこれは、悪かったと反省した娘が、珍しく肩をもんでくれるという親子のスキンシップではないか?

 不敬などあるものか、どんとこい。

 太陽王は、真夏の太陽のごとく満面の笑みで答えた。

 

 

「許す」

 

「では、そこでうつ伏せになって寝て頂けますか」

 

 

「よかろう」

 

 太陽光線のような満面の笑みで、地面に顔を向け寝転がった太陽王。

 暫くしてその肩をふにふにと押す感触があった。

 

 力加減が弱すぎる気もしないでもないが、肩たたきに慣れぬ王女という身分ゆえ仕方ないであろう。

 丁度、孫に肩を叩いて貰う老人の特集をテレビで見た後の太陽王は、そう判断した。

 

 ふにふにふにふに。

 力こそ弱いが、同時に4か所もマッサージができるとは、かなりセンスがある。

 

 

「そう言えば、アインツベルンのマスターに会いました」

 

「そうか」

 

 

「良い魔術師でした。この者の血が欲しい…とまでは思いませんでしたが」

 

「…そうか」

 

 この時、オジマンディアスは気が付いたことがある。

 娘の声は、思ったより遠くから聞こえる。

 それに、気が付けばマッサージは止まっており、背中に軽い重みと温かさが感じられる。

 

「…あら、眠ってしまったのね」

 

 背中から、その重みと温もりが離れていった。

 オジマンディアスがふとそちらを見ると、砂の絨毯に乗せられて運ばれる(スフィンクス)があった。

 

「ネコふみマッサージ事業を形にするのは、まだ先のようですね。

父上、短い時間しか働かせず申し訳ありませんでしたが、どうでしたか?」

 

 太陽王はそこでやっと気が付いた。

 娘が肩たたきをしていたのではなく、猫を乗せて足蹴にさせていただけなのだと。

 王女にとって、己がすることと、己の所有物にさせることは同義なのだ。

 それは太陽王もよく理解できた。

 でも、悪気はなさそうだし、気持ちよかったし、何より(スフィンクス)を撫でている娘が可愛いので許すことにした。

 太陽王は器が広い男なのである故に。

 

 だが、水着のCMと、露出度の高い魔術礼装は今後も許すつもりはない。

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