太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

2 / 54
神秘と笑顔と素直さと

 神秘とは何だろう?

 メルタトゥムはそれは母上の存在だと即答する。

 その神々しさたるや、存在そのものが奇跡。

 その御姿を思い返すだけでドキドキが止まらない。キュンキュンキュンのキュンである。

 

 ちょっとしたエクスタシーを感じながらも、メルタトゥムはやるべき仕事はしっかりする。

 思考の中は母親への劣情に濡れた妄想9割で、残り1割で常人以上の思考速度で聖杯戦争への準備を進める。並列思考は得意分野だ。

 既に冬木中に新種のスカラベが大発生して久しくなる。

 勿論、なるべく、…少なくとも一般人には怪しまれないようにピラミッドホテルグループが日本に進出するよりもずっと前からこの騒ぎは起こしていた。

 

 

 本来、肉食のスカラベは存在しない。

 古代エジプトの黒魔術にこそ話は出てくるが、本来はそんな生物は存在しないのだ。

 昆虫学上の大発見である。奇跡である。

 故に、学名はフユキ・ファンタジアと呼ばれることとなったとか、そんなどうでも良い裏話があった。

 

 魔術の流れを紐解かれて呪いを不発にするキャスターとか、暗殺が得意である故に対暗殺にも洞察があるアサシン、マスターを倒した後でも活動する『スキル:単独行動』持ち、その他だと虫に対する絶対性を持ったサーヴァントがいなければ何とかなる。

 メルタトゥムはそう考えていた。

 …結構、苦手そうな敵は少なくない。

 

 だが、マスターを殺すだけなら手段はいくらでもある。

 エジプトにもイスラム教が入ってきたとは言え、未だ古代エジプトへの敬意を忘れていない、信仰厚いエジプト人はそれ程少ないわけでは無い。

 特に上流階級には秘密結社のように、信奉者の会がある。

 メルタトゥムはそこに接触して協力を取り付けた。

 

 メルタトゥムにはエジプト軍の決定権を持つ人々の全面的なバックアップがある。

 そうで無くとも、メルタトゥムの経営する会社はエジプト本国では驚異的な影響力を持っている。

 エジプト本国のピラミッドホテルの内、最高グレードのホテルはガチのピラミッド型で建築されているのだから、その威光は凄まじいものがある。

 お持て成しさせていただくのでは無く、持て成して差し上げるスタンスな上から目線の丁寧な気配りで有名なピラミッドホテル系列だけでも、凄まじい外貨をエジプトに流入させているからだ。

 この為に、エジプト外から流入しようとした他宗教は本来より大幅に抑えられた。

 

 軍事衛星による敵対者の捜索。

 特殊部隊の借り受け。

 エジプト陸軍第二世代主力戦車T-54改Ⅱ、通称ラムセス二世と呼ばれる陸上戦力の密輸。…その戦車を選んだ理由は特に意味は無い。

 それなどまだ序の口とばかりに様々な有形無形の支援がエジプトから冬木に向けて送られてきている。

 

 聖杯戦争に近代兵器を使用するなんて、魔術師からすればナンセンスの極みだろう。

 より古きへ逆行することこそを良しとする魔術師には全く以てその通りだ。

 しかし、逆行するも何も自身が古代の神秘とも言える蘇生した死体であるメルタトゥムには、そうやって手段を自ら狭めていくことこそナンセンスに映った。

 

 エジプト軍だけで無く、アトラス院も契約書によりメルタトゥムの制御できる駒の一つである。

 次期院長候補生とも呼ばれる少女が支援をしに来てくれるとは中々わかっている。

 未来ばかりを見て足下が疎かな組織かと思い込んでいたが、次期院長を私に顔合わせさせたいなどと政治も出来るようでは無いかとメルタトゥムは思っていた。

 

 元々ネフェルタリを呼び出すつもりであったが故に、サーヴァント無しでも敵を殺し尽くす手段は用意していた。

 麗しき母上の手を汚す発想などメルタトゥムには無いが、それ以外の手段ならいくらでも用意していた。

 これは聖杯と枕詞が付くだけの戦争(・・)である。手段など選ぶ必要は無い。

 勝ってしまってからその様な事は考えれば良いのだから。

 

 そんな殺伐とした世界を知るメルタトゥムには、学校生活は一つの癒やしである。

 これで女子校ならもっと良かったのにとは、メルタトゥムの談である。

 基本的に男は余り好きでは無い。男は麗しい母に目を奪われる。その視線が汚らわしいというのが理由だ。

 だからといって男だからと差別的に扱うほどでも無い。

 勿論、女性が好きだという嗜好はあるが、愛するのは麗しのネフェルタリただ一人である。

 

「リン、今日も綺麗ね」

 

「ええ、メルトも今日も綺麗よ」

 

 爽やかな美少女同士の挨拶。リンとメルトと呼び合う冬木に建つ高級ホテルオーナーのメルタトゥムと冬木の地のセカンドオーナー遠坂凛。

 並ぶと絵になる美少女二人である。

 但しその内心は、

 

(マスターになる確率はほぼ100%。早めに処置(・・)しておきませんと)

(この時期に冬木に? 太陽運航神の化身(スカラベ)の大量発生? 古代エジプト王女の名前? …あからさますぎるほど怪しいわね)

 

 警戒は全く緩んでいない。

 冬木の利権的な意味でも、魔術師としても遠坂凛にとってメルタトゥムという少女は信用できないにも程があった。

 アメリカ、イタリア、イギリス、インドを除く多くの地域に影響力を持つ世界最大規模の財閥の総帥がこんな冬木に何の用があるのかわからない凛ではない。

 もしメルタトゥムが黒だとすれば、凛がマスターになることも知られているに違いない。

 

「どうかしら、此方の冬は寒くは無いかしら?」

 

「エジプトも、夜は冷え込みますから。それに、日本は何処へ行っても空調が効いていて素晴らしいわ」

 

 

「なら良かったわ。私の方は寝不足気味で、…最近虫が五月蠅いものだから」

 

 凛が仕掛けたのはブラフだった。

 凛は己の正体がバレていることを確信した上で賭に出た。

 メルタトゥムはそれを理解していたが、敢えてそれに乗ることにした。

 

「そうかしら、スカラベは鳴かないわ。…そう言う話が聞きたかったのでしょう?

凛、辞退なさい。…貴女なら死者として仕えさせてあげても良いけれど、嫌でしょう?」

 

 

 釣り竿を垂らしていたら、サメが釣り針を引っ張ってきた事に凛は驚愕した。

 自身は策を張り巡らせる故に、相手の策にも敬意を持って敢えて引っかかり踏み潰していくのがメルタトゥムのスタンスだった。

 …勿論相手にもよるが。

 

「――――ッ!! やっぱりそういう事だったのね」

 

「ええ。賢い貴女にはとうに見当が付いていたと思っていたけれど。見込み違いで無くて良かったわ」

 

 

「…もう、サーヴァントは用意したのかしら」

 

「ええ、貴女よりも少しだけ早めにね。先に言っておくと、貴女が呼び出した瞬間に貴女を殺す手筈は整っているわ。

だからお友達としてもう一度言うわ。辞退なさい」

 

 声は軽やかで春風のようなのに、乗せられた言葉は底冷えするような残酷さを持っていた。

 

 

「…随分と恐ろしい脅迫ね。

もし、今の会話を録音していて、編集をかけた後世界に公表したらどうなるかしら?

貴女は最早此処にはいられないんじゃ無い?」

 

 メルタトゥムはあからさまに迷うような素振りを見せた。それはからかいだった。

 

「私には聖杯にかけるべき願いがあるの。その為なら今の名誉も地位も必要無いわ。

私個人に不祥事があれど、私を切り離してグループが上手く動ける手筈は出来てあるの。従業員を路頭に迷わせることは無いわ。

――――それに、貴女はそう言うやり方好きじゃないでしょう?」

 

 メルタトゥムは母親譲りの美貌で花の咲くように笑う。その笑みはイエローオレアンダー(エジプトキョウチクトウ)と形容されるに相応しかった。

 尚、オレアンダーは強力な毒性を持っている。

 

「私にもかける願いがある。譲れないわ」

 

 しかし、凛は圧倒されたとしてもそれを表情に出すこと無く対抗するように笑う。

 家訓の『常に余裕を持って優雅たれ』を忘れるつもりは無かった。

 

「聖杯が手段でかける願いが目的。

典型的な魔術師の家系ならどうせ根源を目指すのでしょう?

では、その根源を目指すのは何の為かしら?」

 

「…自分の願いの方が崇高だとでも言うつもりかしら」

 

 凛はペースを握られないように、短く返してその間に次の一手を思考する。

 

「ええ。だからこそ戦争だなんて非効率的な手段に出るのでしょう。持たざる者が得るにはリスクを負わなければならないのは当然のことよ。

でも、聖杯にかける願いこそがそのまま目的であるというのはシンプルでとても良いわ。

私、貴女のそういう所が好きよ。…あら、もう学校に着いてしまったわね。では、ごきげんよう」

 

(落ち着きなさい凛。彼女(メルト)は敵よっ!!)

 ストレートに好きだとか笑顔で告げてくるのだから性質が悪いのよね、と凛は赤くなった顔を冷やすように首を振った。

 

 クラスが違う二人は別れて教室に入っていく。

 メルタトゥムは当初はその上から目線過ぎる態度に、平等意識の強い日本人には抵抗感を感じさせていた。

 が、周囲の者も慣れてくるにつれて、それが彼女らしい魅力的な姿だと納得されてきたようだ。

 今ではメルタトゥムを女王様と呼ぶものさえいる。

 

 北アフリカと言えば、近年イスラム系のイメージが強く女性は肌を露出させない印象があるが、メルタトゥムは基本薄着が好きである。

 制服に際どい改造を施してでも薄着を追求するスタンスは、年頃の男子生徒には目に毒であり、生真面目な生徒会長は何時も文句を言っている。

 しかし、見た目とは裏腹に大人びた対応で、

 

「許可は取ってあるというのに、生真面目ね。

そういうところ、可愛らしくて素敵よ。…貴方が男に生まれたのが残念で仕方ないわ」

 

 そう言って、からかうように生徒会長柳洞一成の顎を人差し指で撫で、顔を近づけて瞳を見つめてくるメルタトゥムは柳洞一成の天敵である。

 まだ遠坂凛の方が可愛げがあると一成少年は認識している。

 そして、彼はこの後他の男子生徒から嫉妬されることも理解して憂鬱になる。

 …だからこそ、今この時の役得を少しだけ喜んでみる気も無いわけではない。

 彼だってメルタトゥムが思っているよりはずっと男の子なのである。

 

 

 基本メルタトゥムの対人関係はストレートの剛速球で、素敵だとか可愛いとかハッキリ言う感性は恥ずかしがり屋の日本人には少々刺激が強すぎる。

 だが、それを彼女は理解していないし、理解する必要も感じていないし、理解したとしても行動を相手に合わせるつもりは無い。

 何故なら彼女は太陽王の娘だからである。







女同士なんて非生産的だという人の為に

一応、メルタトゥムさん××17歳は女性同士でも子供が作れる魔術を持っている設定です

両為らす陰陽(الكرز غضروف)
お互いに女性であっても子供を作ることが出来るようになる。(一時性)
尚、使われた事はない。

どうでも良いですが、
الكرزは桜
غضروفは軟骨
です。ええ、特に意味はありませんとも。だからツッコんじゃらめぇぇぇ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。