太陽王の娘   作:蕎麦饂飩

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わくわくざぶーんなら大丈夫

「けしからん。実にけしからん」

 

 けしからんと憤慨したようなことを言いながらも、テレビから目を離さない古代ウルクの黄金の王。

 彼の目の前の画面には、軽やかなき■らジャンプをきめる水着姿の古代エジプトの王女がいた。

 

 槍兵と神父は、けしからん想像をかき立てられている英雄王を眺めて、ため息をついた。

 

 

「我が后が雑種共にその柔肌を晒すなどとはっ!!」

 

 別に、お前の后では無いだろうとツッコもうならば、王の財宝(バビ)られるので、そんなことは二人ともしない。

 故に、別のツッコミを入れる。

 

「なら辞めさせれば良いだろう」

 

「あの姫に我が言って聞くと思うか?

人生経験の足りないヤツらだ」

 

 情けないことを偉そうにいう彼は、いったい何様か? ――王様である。

 

「…これでも、妻子がいたこともあったのだが」

 

「一応俺もな」

 

 

 衝撃…でも何でも無い事実。

 独身貴族ならぬ、独身王族っぽい人生を生き抜いたギルガメッシュ。

 対して、二人は家庭を持ったことがあったのだ。

 

 

「…そうか。

プロポーズの手段や、結婚生活のコツを別に話しても良いぞ。

特別に拝聴してやろう」

 

 顔を見合わせて話し出さない二人に、ギルガメッシュの機嫌が悪くなった。

 

「どうした? 早く話さぬか」

 

 

「――――クラウディアとは………思い出せない。

だが、彼女が生きていれば、今の私はいなかったかもしれぬ」

 

 そこには壮絶な過去があった。

 乗り越えるのでは無く、見なかったことにしたくなるほどの過去が。

 故に、記憶が留めることを拒否、したのかも知れない。

 しかし、傲慢な王にはその返答は不満であった。

 

「ふん、使えぬな。

狗、お前はどうだ。」

 

 

「あっ? それが人にものを聞く態度か――って宝具は無しだろ。

…仕方ねえな。

妻とは、その何というか、戦争で倒したら結婚してた」

 

「…今、何と言った?」

 

 

「…師匠の妹(戦争で倒した総大将)相手に、気が付いたら結婚していた。

他にもエメルの時も戦争で――――」

 

「ほう? まさに今の我に打って付けの応えでは無いか」

 

 

 言峰綺礼は、よりにもよってこの3人では人格が一番まともそうな青タイツから、相手にとっては現状で最悪の答えが出たことに呆れた。

 そして歓喜した。

 言峰綺礼は人の不幸が生まれいずる事をも祝福する人間。

 言い換えれば、凄く厭な奴なのである。

 

 

「言峰、輿が乗ったぞ。

この戦いに勝利し、我が后を迎え入れ、

水着になれる場所(レジャープール施設)を貸し切りにして、思う存分后の肢体を堪能してやるとしよう。

なに、黄金律に愛されし我ら夫妻には些細なことだ。

…それと言峰」

 

「…何だ」

 

 

「お前も水着の用意をしておくがいい」

 

 捕らぬ狸のなんとやらという言葉があるが、己の勝利を微塵も疑わないものにとっては、手元に狸の皮は既にあると同じなのである。

 

「ふっ、楽しみにしているとしよう」

 

 

 英雄王の傲慢に捕らえられる姫の苦難を嗤う彼もまた、英雄王以外の勝利など想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

→→←←

 

 

「どうして…俺の名を?」

 

 家の前が騒がしいと出てみれば、初対面の知らぬ相手に、名前を呼ばれた衛宮士郎。

 相手は雪の妖精のような、幻想的な少女だった。

 

「それはね――――わたしがシロウのお姉ちゃんだから」

 

 放置児などという可能性すら想定しない、心優しい少年は、一先ず不思議な少女を家に招き入れることにした。

 そこで、彼女が自分の関係者である事を、明確に知る言葉を聞いたのだ。

 

「シロウは優しいね。

キリツグがこっちに残った理由はそれなのかな」

 

 養父衛宮切嗣の名前が出た以上、無関係や偶然の可能性は無い。

 しかし――――

 

「じいさんは――――衛宮切嗣は、死んだよ」

 

「えっ、嘘……」

 

 イリヤスフィールは、最初はアインツベルンを捨てた切嗣への憎悪があった。

 そして、それを成せるバーサーカー()があった。

 無論、イリヤスフィールだけでも一般人であろう衛宮士郎なら、殺すのは容易い。

 

 だが、セラもリズも、バーサーカーも死んだ。そして切嗣も。

 だとすれば、ここで衛宮士郎を殺せば、イリヤには、すべてなくなってしまう。

 

 何時でも殺せるように、無邪気の裏で研いでいた殺意のナイフを落としてしまった。

 

 笑っているのに、滲む少女の視界が塞がれた。

 それを、抱きしめられたと気が付いたのは、それから少ししてだった。

 

「…ふふっ、シロウはレディの扱い方がなってないのね」

 

 少女は、まだ己の瞼の隅に残る湿り気に気が付かないフリをして、精一杯笑う。

 少年は、まだ少女の瞼の隅に残る湿り気に気が付かないフリをして、それに謝罪する。

 

「だからね、シロウにはお姉様が色々教えてあげる。

女性の扱い方も、ダンスも、魔術も。

…しっかり学ばないと、――死んじゃうかも知れないんだから」

 

 決して長くない己の寿命の後でも、残された家族(大切な弟)が生き延びられるように、(イリヤ)はその術を残そうと思った。


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